公開日: 2018/05/10 (掲載号:No.267)
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AIで士業は変わるか? 【第13回】「高度専門業務は外注される時代へ」

筆者: 佐藤 信祐

カテゴリ:

AI

士業変わるか?

【第13回】

「高度専門業務は外注される時代へ」

 

公認会計士 佐藤 信祐

 

1 AIがもたらす業務内容の変化

IT化、グローバル化によって、我々の業界は大きく変わったように思われる。具体的には、1つのクライアントに対して、1人の公認会計士又は税理士がすべての業務を行っていた時代から、分業というものが成立するようになったと考えられる。

例えば、税務申告書を作成する税理士と税務コンサルティングを行う税理士が別々であっても構わない。売上総額という意味では前者の方が高額であるが、1時間当たりの単価という意味では後者の方が高額である。今までは、1人の税理士がすべてを行っていたために非効率であったが、分業が成立すると効率的に仕事ができるようになる。

AIが進化していくと、いわゆる中付加価値の業務が減っていくと言われている。AIの進化により、入力などの低付加価値の業務が減っていくように思われるのかもしれないが、中付加価値の業務がマニュアル化されることにより、中付加価値だった業務内容が低付加価値の業務内容に変わっていくため、低付加価値の業務はむしろ増えていくと思われる。逆に、今まで中付加価値の業務の中に混在していた高付加価値の業務が純化されることにより、高付加価値の仕事が増えていくことも考えられる。

 

2 専門家をフルタイムで雇うことができない時代に

そのような時代に、専門家の仕事はどのようになるのだろうか。筆者の仕事は税務コンサルティングであるため、容易に推測しやすい税務コンサルティングをメインに考えていきたい。

まず、特殊業務を行う税務専門家をフルタイムで雇える会計事務所は、かなり減っていくと思われる。例えば、当事務所では、FAS業務を行う複数の会計事務所と提携している。これは、組織再編税制の専門家を1人抱えられるだけの売上を獲得するためには、FAS業務を行う公認会計士が300人くらい必要になるからである。

税務デューデリジェンス業務を想定される読者もいるのかもしれないが、独立系の会計事務所だと、財務デューデリジェンス業務を行う公認会計士が税務デューデリジェンスを同時に行い、難易度の高い部分だけを抽出して外注していることが多い。そうなると、組織再編税制の専門家1人を抱えるだけの売上を獲得するためには、かなりの件数を獲得する必要が出てくる。通常の申告業務を行っている会計事務所であれば、1,000人以上の職員がいて、ようやく組織再編税制の専門家を1人抱えるだけの売上を獲得できるようになる。

組織再編税制がかなり定着していることから、難易度の高い組織再編税制に限定すれば、この300人、1,000人という人数は、さらに増えていくであろう。この傾向は、組織再編税制だけでなく、事業承継、資産税、M&Aなどのあらゆる分野に浸透していくと思われる。

さらに一歩進んで考えてみよう。上場会社、上場準備会社で、CFOは常駐する必要があるのだろうか。多くのケースにおいて、CFOの役割は経理部長が担っていることから、CFOとしての業務を純化させれば、1人の人間がフルタイムで働かなければならないほどの作業量ではないため、CFOの業務を外注した方が合理的な場合も多いであろう。非上場会社であれば、経理部長の業務を外注するという選択肢も出てくるかもしれない。

このように考えてみると、専門性が強くなればなるほど、ひとつの会社のために働くには、工数が少なすぎるということになる。複数の上場会社のCFOを兼ねる人も出てくるであろうし、筆者のように、複数の会計事務所から依頼を受ける人も出てくるであろう。すなわち、AIの進化により、専門家を内製する時代ではなく、外注する時代に移っていく可能性が高いと思われる。

 

3 管理職すら外注される時代に

さらに進んで考えてみよう。そもそも管理職は常駐する必要があるのだろうか。IT化がもたらしたものとして業務のフラット化が挙げられる。AIにより、それがさらに進んでいけば、管理職が常駐するのではなく、複数の会社の管理職を兼ねる人も出てくるのかもしれない。

滑稽な未来だと思われるのかもしれないが、すでにある会計事務所では、そのような体制を確立している。具体的な申告作業を行うスタッフを正社員として雇っておきながら、クライアントとの税務相談やスタッフが行った申告書のレビューを外注するのである。

これは、大手ビッグ4と異なり、マネージャークラスの公認会計士、税理士を確保するのが難しいという事情もある。それなら、マネージャーの業務を純化させたうえで、独立した公認会計士、税理士に、それなりの値段で外注することにより、マネージャークラスを雇えないという問題を解決することができる。

その結果、1時間当たりの報酬額は高くなってしまうが、正社員として雇用するよりは報酬総額を抑えることができる。かつては、「安い値段で外注」することによるピンハネが可能だったのかもしれないが、現在では、「高い値段で外注」することにより、WinWin(ウィンウィン)の関係を作っている事案の方が多いように思われる。

 

4 正社員の存在意義は何か

そのような未来において、正社員の存在意義はあるのだろうか。会社からしてみれば、損益計算書において、給与手当となっていたものが、外注工賃に代わるだけであるから、正社員にこだわる必要はない。社風に染まらない外注先に仕事を任せられるのかと思われるのかもしれないが、一般事業会社を例に挙げると、ひとつの仕事をひとつの会社だけで完結している事案はそれほど多くはない。そして、税理士業務を例に挙げると、そもそも一般事業会社からの外注の仕事がほとんどである。

外注先に高い報酬を支払うわけがないと思われるのかもしれないが、高い報酬を支払わないのであれば、他の会社の仕事を引き受ければよいのである。そのようなことが可能なのは、外注先が専門化を進めることにより、仕事を効率的に行うことができるようになるからである。例えば、相続税に特化した会計事務所と普通の会計事務所だと、同じ相続税の申告書でも、約3倍のスピードの差がある。つまり、相続税に特化した会計事務所が、3分の1の値段で引き受けたとしても、十分な利益を獲得することができるのである。

そう考えてみると、正社員にやらせるよりは、外注先にやらせた方が安いという仕事はかなり増えていくであろう。もちろん、このような未来は、パソコンと携帯電話があれば、容易に独立できてしまう公認会計士、税理士業界特有なものであると片づけることができるのかもしれない。しかし、似たようなことが可能な業種が予想以上に多いのであれば、正社員という仕組みが、いずれは制度疲労を起こす可能性は否定できない。

 

5 むすび

本稿は、AIが進化した時代における公認会計士、税理士業界の将来を想定してみた。このような未来を想定した理由としては、多くの会計事務所において、高付加価値業務と低付加価値業務の両方を引き受けることにより業務が非効率になっており、いずれかに特化したいという声が多いからである。そして、働き方改革により、残業がかなり減らされる正社員と、高度プロフェッショナル制度により、高い報酬を獲得できる正社員に二極化していく未来が容易に想像できるからである。

このような動きは、ゆっくりとではあるが進みつつあるため、5年後、10年後には、現在とは大きく異なる業界になっている可能性はあると思われる。

(了)

この連載の公開日程は、下記の連載目次をご覧ください。

AI

士業変わるか?

【第13回】

「高度専門業務は外注される時代へ」

 

公認会計士 佐藤 信祐

 

1 AIがもたらす業務内容の変化

IT化、グローバル化によって、我々の業界は大きく変わったように思われる。具体的には、1つのクライアントに対して、1人の公認会計士又は税理士がすべての業務を行っていた時代から、分業というものが成立するようになったと考えられる。

例えば、税務申告書を作成する税理士と税務コンサルティングを行う税理士が別々であっても構わない。売上総額という意味では前者の方が高額であるが、1時間当たりの単価という意味では後者の方が高額である。今までは、1人の税理士がすべてを行っていたために非効率であったが、分業が成立すると効率的に仕事ができるようになる。

AIが進化していくと、いわゆる中付加価値の業務が減っていくと言われている。AIの進化により、入力などの低付加価値の業務が減っていくように思われるのかもしれないが、中付加価値の業務がマニュアル化されることにより、中付加価値だった業務内容が低付加価値の業務内容に変わっていくため、低付加価値の業務はむしろ増えていくと思われる。逆に、今まで中付加価値の業務の中に混在していた高付加価値の業務が純化されることにより、高付加価値の仕事が増えていくことも考えられる。

 

2 専門家をフルタイムで雇うことができない時代に

そのような時代に、専門家の仕事はどのようになるのだろうか。筆者の仕事は税務コンサルティングであるため、容易に推測しやすい税務コンサルティングをメインに考えていきたい。

まず、特殊業務を行う税務専門家をフルタイムで雇える会計事務所は、かなり減っていくと思われる。例えば、当事務所では、FAS業務を行う複数の会計事務所と提携している。これは、組織再編税制の専門家を1人抱えられるだけの売上を獲得するためには、FAS業務を行う公認会計士が300人くらい必要になるからである。

税務デューデリジェンス業務を想定される読者もいるのかもしれないが、独立系の会計事務所だと、財務デューデリジェンス業務を行う公認会計士が税務デューデリジェンスを同時に行い、難易度の高い部分だけを抽出して外注していることが多い。そうなると、組織再編税制の専門家1人を抱えるだけの売上を獲得するためには、かなりの件数を獲得する必要が出てくる。通常の申告業務を行っている会計事務所であれば、1,000人以上の職員がいて、ようやく組織再編税制の専門家を1人抱えるだけの売上を獲得できるようになる。

組織再編税制がかなり定着していることから、難易度の高い組織再編税制に限定すれば、この300人、1,000人という人数は、さらに増えていくであろう。この傾向は、組織再編税制だけでなく、事業承継、資産税、M&Aなどのあらゆる分野に浸透していくと思われる。

さらに一歩進んで考えてみよう。上場会社、上場準備会社で、CFOは常駐する必要があるのだろうか。多くのケースにおいて、CFOの役割は経理部長が担っていることから、CFOとしての業務を純化させれば、1人の人間がフルタイムで働かなければならないほどの作業量ではないため、CFOの業務を外注した方が合理的な場合も多いであろう。非上場会社であれば、経理部長の業務を外注するという選択肢も出てくるかもしれない。

このように考えてみると、専門性が強くなればなるほど、ひとつの会社のために働くには、工数が少なすぎるということになる。複数の上場会社のCFOを兼ねる人も出てくるであろうし、筆者のように、複数の会計事務所から依頼を受ける人も出てくるであろう。すなわち、AIの進化により、専門家を内製する時代ではなく、外注する時代に移っていく可能性が高いと思われる。

 

3 管理職すら外注される時代に

さらに進んで考えてみよう。そもそも管理職は常駐する必要があるのだろうか。IT化がもたらしたものとして業務のフラット化が挙げられる。AIにより、それがさらに進んでいけば、管理職が常駐するのではなく、複数の会社の管理職を兼ねる人も出てくるのかもしれない。

滑稽な未来だと思われるのかもしれないが、すでにある会計事務所では、そのような体制を確立している。具体的な申告作業を行うスタッフを正社員として雇っておきながら、クライアントとの税務相談やスタッフが行った申告書のレビューを外注するのである。

これは、大手ビッグ4と異なり、マネージャークラスの公認会計士、税理士を確保するのが難しいという事情もある。それなら、マネージャーの業務を純化させたうえで、独立した公認会計士、税理士に、それなりの値段で外注することにより、マネージャークラスを雇えないという問題を解決することができる。

その結果、1時間当たりの報酬額は高くなってしまうが、正社員として雇用するよりは報酬総額を抑えることができる。かつては、「安い値段で外注」することによるピンハネが可能だったのかもしれないが、現在では、「高い値段で外注」することにより、WinWin(ウィンウィン)の関係を作っている事案の方が多いように思われる。

 

4 正社員の存在意義は何か

そのような未来において、正社員の存在意義はあるのだろうか。会社からしてみれば、損益計算書において、給与手当となっていたものが、外注工賃に代わるだけであるから、正社員にこだわる必要はない。社風に染まらない外注先に仕事を任せられるのかと思われるのかもしれないが、一般事業会社を例に挙げると、ひとつの仕事をひとつの会社だけで完結している事案はそれほど多くはない。そして、税理士業務を例に挙げると、そもそも一般事業会社からの外注の仕事がほとんどである。

外注先に高い報酬を支払うわけがないと思われるのかもしれないが、高い報酬を支払わないのであれば、他の会社の仕事を引き受ければよいのである。そのようなことが可能なのは、外注先が専門化を進めることにより、仕事を効率的に行うことができるようになるからである。例えば、相続税に特化した会計事務所と普通の会計事務所だと、同じ相続税の申告書でも、約3倍のスピードの差がある。つまり、相続税に特化した会計事務所が、3分の1の値段で引き受けたとしても、十分な利益を獲得することができるのである。

そう考えてみると、正社員にやらせるよりは、外注先にやらせた方が安いという仕事はかなり増えていくであろう。もちろん、このような未来は、パソコンと携帯電話があれば、容易に独立できてしまう公認会計士、税理士業界特有なものであると片づけることができるのかもしれない。しかし、似たようなことが可能な業種が予想以上に多いのであれば、正社員という仕組みが、いずれは制度疲労を起こす可能性は否定できない。

 

5 むすび

本稿は、AIが進化した時代における公認会計士、税理士業界の将来を想定してみた。このような未来を想定した理由としては、多くの会計事務所において、高付加価値業務と低付加価値業務の両方を引き受けることにより業務が非効率になっており、いずれかに特化したいという声が多いからである。そして、働き方改革により、残業がかなり減らされる正社員と、高度プロフェッショナル制度により、高い報酬を獲得できる正社員に二極化していく未来が容易に想像できるからである。

このような動きは、ゆっくりとではあるが進みつつあるため、5年後、10年後には、現在とは大きく異なる業界になっている可能性はあると思われる。

(了)

この連載の公開日程は、下記の連載目次をご覧ください。

連載目次

AIで士業は変わるか?
(全20回)

  • 【第7回】 デジタルで実現する未来の会計監査
    加藤信彦(新日本有限責任監査法人 アシュアランス・イノベーション・ラボ 統括責任者、公認会計士)
    小形康博(新日本有限責任監査法人 アシュアランス・イノベーション・ラボ、公認会計士)

筆者紹介

佐藤 信祐

(さとう・しんすけ)

公認会計士・税理士、法学博士
公認会計士・税理士 佐藤信祐事務所 所長

平成11年 朝日監査法人(現有限責任あずさ監査法人)入所
平成13年 公認会計士登録、勝島敏明税理士事務所(現 デロイトトーマツ税理士法人)入所
平成17年 税理士登録、公認会計士・税理士佐藤信祐事務所開業
平成29年 慶應義塾大学大学院法学研究科後期博士課程修了(法学博士)

【主な著書】
・『ケース別に分かる企業再生の税務』(共著、中央経済社)
・『企業買収・グループ内再編の税務─ストラクチャー選択の有利不利判定─』(共著、中央経済社)
・『組織再編税制 申告書・届出書作成と記載例』(共著、清文社)
・『制度別逐条解説 企業組織再編の税務』(共著、清文社)
・『組織再編における株主課税の実務Q&A』(共著、中央経済社)
・『組織再編における包括的租税回避防止規定の実務』(中央経済社)
・『債務超過会社における組織再編の会計・税務』(共著、中央経済社)
・『グループ法人税制における無対価取引の税務Q&A』(共著、中央経済社)
・『組織再編・グループ内取引における消費税の実務Q&A』(共著、中央経済社)
・『実務詳解 組織再編・資本等取引の税務Q&A』(共著、中央経済社)
・『これだけ!組織再編&事業承継税制』(共著、中央経済社)
・『無対価組織再編・資本等取引の税務』(中央経済社)
・『グループ法人税制・連結納税制度における組織再編成の税務詳解』(共著、清文社)
・『消費税 個別対応方式の実務 プラス 100Q&A』(共著、清文社)
・『組織再編による 事業承継対策』(共著、清文社)
・『組織再編の会計と税務の相違点と別表四・五(一)の申告調整』(共著、清文社)
・『中小企業のための組織再編・資本等取引の会計と税務』(共著、清文社)
・『条文と制度趣旨から理解する 合併・分割税制』(清文社)
・『事業承継M&Aの実務』(共著、清文社)
・『組織再編税制大全』(清文社)
・『新版 サクサクわかる! 超入門 中小企業再編の税務』(清文社)
・『サクサクわかる! 超入門 合併の税務』(清文社)
・『サクサクわかる!M&Aの税務』(清文社)
・『サクサクわかる!株主対策の税務』(清文社)
・『ドリル式 組織再編成の確定申告書 別表四・五(一)徹底攻略』(清文社)
・『不動産M&Aの税務』(日本法令)
・『みなし配当の税務』(日本法令)

その他M&A、グループ内再編、事業再生及び事業承継に関する書籍多数。

        

関連書籍

サクサクわかる! M&Aの税務

公認会計士・税理士 佐藤信祐 著

図解&条文解説 税理士法

日本税理士会連合会 監修 近畿税理士会制度部 編著

適時開示からみた監査法人の交代理由

公認会計士 鈴木広樹 著

〔目的別〕組織再編の最適スキーム

公認会計士・税理士 貝沼 彩 著 公認会計士・税理士 北山雅一 著 税理士 清水博崇 著 司法書士・社会保険労務士 齊藤修一 著

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中小企業のための 成功する 健康経営実践ガイド

特定社会保険労務士 稲田耕平 編著 社会保険労務士 阿藤通明 著 特定社会保険労務士 石原美由紀 著 産業医 今井鉄平 著 中小企業診断士 小川亮一 著 特定社会保険労務士 澤上貴子 著 特定社会保険労務士 鈴木光子 著 特定社会保険労務士 田中亮子 著 特定社会保険労務士 坂野祐輔 著 特定社会保険労務士 山岡洋秋 著 特定社会保険労務士 八巻裕香 著

令和4年 税理士法改正 徹底解説

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企業法務で知っておくべき税務上の問題点100

弁護士・税理士 米倉裕樹 著 弁護士・税理士 中村和洋 著 弁護士・税理士 平松亜矢子 著 弁護士 元氏成保 著 弁護士・税理士 下尾裕 著 弁護士・税理士 永井秀人 著

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