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【STEP3】非支配株主が存在する場合の親会社による子会社の吸収合併
非支配株主が存在する子会社を吸収合併する場合、言い換えると100%子会社ではない子会社を吸収合併する場合、個別財務諸表における会計処理、連結財務諸表における会計処理の順に検討する。
(1) 個別財務諸表における会計処理
① 子会社の資産及び負債の引き継ぎ
② 株主資本項目以外の純資産項目の引き継ぎ
③ 時価の算定
④ 株主資本項目の会計処理
(2) 連結財務諸表における会計処理
① 開始仕訳及び開始仕訳の振り戻し
② 抱合せ株式消滅差益の相殺消去
(1) 個別財務諸表における会計処理
個別財務諸表における会計処理では、以下の①から④を検討する。
① 子会社の資産及び負債の引き継ぎ
【STEP1】で算定した子会社の資産及び負債を引き継ぐ(適用指針206(1))。
② 株主資本項目以外の純資産項目の引き継ぎ
【STEP1】で算定した子会社の合併期日の前日の評価・換算差額等(親会社が作成する連結財務諸表において投資と資本の消去の対象とされたものを除く)及び新株予約権の適正な帳簿価額を引き継ぐ。評価・換算差額等を連結財務諸表の帳簿価額で引き継ぐ場合、子会社のその他有価証券評価差額金や土地再評価差額金の適正な帳簿価額のうち、支配獲得後に子会社が計上したものを引き継ぐ(適用指針206(2)②)。
③ 時価の算定
親会社が100%の株式を保有していない子会社を吸収合併するということは、非支配株主から全ての株式を取得することと同じことである。したがって、非支配株主への対価は、時価で算定する(基準45)。
なお、市場価格のある親会社株式が取得の対価として、非支配株主に交付される場合には、取得の対価となる財の時価は、原則として、企業結合日における親会社株式の株価を基礎として算定する(基準(注11)、24)。
④ 株主資本項目の会計処理
親会社は、子会社から受け入れた資産と負債との差額のうち株主資本の額を合併期日直前の持分比率に基づき、親会社持分相当額と非支配株主持分相当額に按分し、それぞれ以下のように会計処理する。
(ⅰ) 親会社持分相当額の会計処理
上記①及び②の合計額のうち、親会社持分相当額と親会社が合併直前に保有していた子会社株式(抱合せ株式)の適正な帳簿価額との差額を、「抱合せ株式消滅差益」等の勘定科目で特別損益に計上する(適用指針206(2)①ア)。
「抱合せ株式消滅差益」
=上記①及び②の合計額のうち、親会社持分相当額-抱合せ株式(子会社株式)
この差額は、株主との資本取引ではなく、子会社を通して実現した事業投資の成果であるために、損益として計上する。
(ⅱ) 非支配株主持分相当額の会計処理
非支配株主へ親会社株式を発行した場合、増加する親会社の株主資本の額は、払込資本として処理する。増加する払込資本の内訳項目(資本金、資本準備金、その他資本剰余金)については会社計算規則35条1項により会社が任意に決定することができる。
その上で、上記①及び②の合計額のうち、非支配株主持分相当額と、取得の対価(非支配株主に交付した親会社株式の時価等)の差額を「その他資本剰余金」として計上する(適用指針206(2)①イ)。
「その他資本剰余金」
=上記①及び②の合計額のうち、非支配株主持分相当額-取得の対価(非支配株主に交付した親会社株式の時価等))
(2) 連結財務諸表における会計処理
連結財務諸表における会計処理では、以下の①及び②を検討する。ポイントとしては、他の子会社がないとすれば、吸収合併後の個別貸借対照表と吸収合併後の連結貸借対照表が同様になるように会計処理することである。
① 開始仕訳及び開始仕訳の振り戻し
連結財務諸表を作成するため、連結財務諸表上での前期までの会計処理を引き継ぐ(開始仕訳を行う)。しかし、子会社を吸収合併したため、吸収合併した子会社に係る前期までの会計処理はもう引き継ぐ必要はない。そのため、開始仕訳の振り戻しを行う(開始仕訳を消去する)。
② 抱合せ株式消滅差益の相殺消去
抱合せ株式消滅差益は、吸収合併前に子会社が利益を獲得していたことにより発生したものである。
当該利益は、吸収合併前に単純合算を通じて既に連結財務諸表に計上されているため、個別財務諸表上で計上した抱合せ株式消滅差益は、相殺消去する必要がある。
なお、抱合せ株式消滅差益が発生していない場合は、当該会計処理の検討は不要である。
この後は、【STEP5】を検討する。
《設例1》
【前提条件】
- 親会社A社は子会社B社を設立当社から80%の株式を保有している。
- 親会社A社の当期首の貸借対照表は以下のとおりである。
- 子会社B社の当期首の貸借対照表は以下のとおりである。
- 当期首に親会社A社は子会社B社を吸収合併する。
- B社は、個別財務諸表上の簿価=連結財務諸表上の簿価である。
- 合併にあたって、親会社A社は非支配株主に自社の株式を交付(時価3,000)する。
- 増加する払込資本は、その他資本剰余金とする。
- 税効果は考慮しない。
- 他にも子会社があるが、便宜的に他の子会社は考慮しない。
【会計処理】
1 親会社持分相当額
(※1) 16,000×80%=12,800
(※2) 3,000×80%=2,400
(※3) 8,000×80%=6,400
(※4) A社保有株式の帳簿価額
(※5) 取得後その他有価証券評価差額金500×80%=400
(※6) 差額
2 非支配株主持分相当額
(※1) 16,000×20%=3,200
(※2) 3,000×20%=600
(※3) 8,000×20%=1,600
(※4) 発行したA社株式の時価
(※5) 取得後その他有価証券評価差額金500×20%=100
(※6) 差額
3 合併後のA社の個別貸借対照表
4 開始仕訳
(※1) 子会社B社の資本金
(※2) 親会社A社が保有していた子会社B社株式
(※3) 子会社B社純資産×20%
(※4) 子会社B社 取得後利益剰余金5,500×20%=1,100
(※5) 子会社B社 取得後その他有価証券評価差額金500×20%=100
5 開始仕訳の振り戻し
(※1) 上記4の仕訳と反対の仕訳を行う。
6 抱合せ消滅差益の相殺消去
(※1) 上記1で計上した抱合せ消滅差益
7 合併後のA社の連結貸借対照表
3の個別貸借対照表と同じになる。