暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務
【第7回】
千葉商科大学商経学部准教授
泉 絢也
エ 年末時点での1単位当たりの取得価額
(ア) 総平均法と移動平均法
当年末の暗号資産評価額は、「当年末時点の1単位当たりの取得価額 × 当年末時点の保有数量」で算出することができる。
このうち「当年末時点での1単位当たりの取得価額」は、総平均法又は移動平均法のうちいずれかにより計算した金額である(所法48の2、所令119の2~3、国税庁FAQ「2-4 暗号資産の譲渡原価」)。
【総平均法】
暗号資産をその種類の異なるごとに区別し、その種類の同じものについて、その年1月1日において有していた種類を同じくする暗号資産の取得価額の総額と、その年中に取得をした種類を同じくする暗号資産の取得価額の総額との合計額をこれらの暗号資産の総数量で除して計算した価額をその1単位当たりの取得価額とする方法
【移動平均法】
暗号資産をその種類の異なるごとに区別し、その種類の同じものについて、当初の1単位当たりの取得価額が、再び種類を同じくする暗号資産の取得をした場合にはその取得の時において有するその暗号資産と、その取得をした暗号資産との数量及び取得価額を基礎として算出した平均単価によって改定されたものとみなし、以後種類を同じくする暗号資産の取得をする都度、同様の方法により1単位当たりの取得価額が改定されたものとみなし、その年12月31日から最も近い日において改定されたものとみなされた1単位当たりの取得価額をその1単位当たりの取得価額とする方法
(※) 種類(名称)の異なる暗号資産を取得する都度、上記の計算式により平均単価の見直し(改定)を行う。その年12月31日から最も近い日において改定されたものとみなされた1単位当たりの取得価額が当年末時点の1単位当たりの取得価額となる。このように、移動平均法では、取引の都度、取得価額が改定されたものとみなされる。
【移動平均法の例】
前年から繰り越したBTCはないものとする。
各購入時点のBTC1単位当たりの(改定)取得価額 =
(※1) 取得価額 = 100万円 ÷ 2BTC = 50万円
(※2) 改定取得価額 =(50万円 + 200万円)÷(1BTC+1BTC)= 125万円
当年末時点のBTC1単位当たりの取得価額 = 125万円
当年末のBTC評価額:125万円 × 2BTC = 250万円
総平均法 と移動平均法の長所と短所については、次のように整理される(泉絢也=藤本剛平『事例でわかる!NFT・暗号資産の税務』118頁(中央経済社2022)参照)。
(イ) 評価方法の選定・変更等
◆評価方法の選定(所令119の3、所基通48の2-2)
評価方法の選定は、BTC(ビットコイン)やETH(イーサ)など暗号資産の種類ごとに、初めて暗号資産を取得した場合又は異なる種類の暗号資産を取得した場合には、その取得した年分の確定申告期限までに、所轄税務署長に対し、届出書を提出することにより行う。
すでに評価方法を届け出ている暗号資産と同一種類の暗号資産を翌年以降に取得した場合に、再度、評価方法の届出書を提出することは不要である。
◆暗号資産の種類と名称(所基通48の2-2)
実務上、暗号資産の評価の方法の選定に当たっては、BTC(ビットコイン)やETH(イーサ)など名称の異なる暗号資産は、それぞれ種類の異なる暗号資産として区分されている。
◆法定評価方法(所法48の2①、所令119の5①)
評価の方法を選定しなかった場合又は選定した評価の方法により評価しなかった場合には法定評価方法により評価する。法人税の法定評価方法は移動平均法であるが(法法61①二、法令118の6⑦)、所得税の法定評価方法は総平均法である。
移動平均法と総平均法を比較した場合に、移動平均法については、その適用のために継続的な帳簿記録が必要になる。
法人と異なり、個人の場合には、所得税法上そのような継続的な帳簿記録を作成することが必ずしも前提とされていない者もいるし、そのような記録の作成を要請することが現実的ではない場合もあることなどを考えると、個人と法人で上記のとおり法定評価方法が異なることも理解できる。
後述するが、法人税法と所得税法における暗号資産の譲渡原価の計算の仕方が若干異なることも関係しているかもしれない。暗号資産の譲渡原価に係る所得税法の規定は、「その年12月31日において有する暗号資産の価額」の評価を行うものであるのに対して(所法48の2①)、法人税法の規定は、その文面上、譲渡の都度、原価計算をするような規定になっており、移動平均法になじむという見方である(法法61①、法令118の6①)。
◆選定した評価方法で評価しなかった場合等(所令119の5②)
税務署長は、居住者が暗号資産につき選定した評価の方法(法定評価方法を含む)により評価しなかった場合において、次の①及び②のいずれにも該当するときは、①に掲げるその居住者が行った評価の方法により計算した各年分の事業所得の金額又は雑所得の金額を基礎として更正又は決定をすることができる。
① その居住者が行った評価の方法がその居住者の選定した評価の方法以外の方法(総平均法又は移動平均法)であること
② その行った評価の方法によっても、その居住者の各年分の事業所得の金額又は雑所得の金額の計算を適正に行うことができると認められること
◆評価方法の変更(所法48の2、所令101②~⑤、119の4、所基通47-16の2、48の2-3)
選定した評価方法(評価の方法を届け出なかった場合に総平均法を評価方法としていた場合を含む)を変更しようとする場合には、その変更しようとする年の3月15日までに、所轄税務署長に対し、変更承認申請書を提出して、その承認を受けなければならない。
その提出した年の12月31日までに承認又は却下の通知がない場合は、その日において承認があったものとみなされる。
変更前の評価方法を採用してから相当期間(棚卸資産や有価証券と同様、特別の理由がない場合には3年)を経過していないときや、変更しようとする評価方法によっては所得金額の計算が適正に行われ難いと認められるときは、その申請が却下される場合がある。
◆暗号資産の一時的「取得」の場合(所令119の2②、所基通48の2-1)
総平均法及び移動平均法を適用する場合における「取得」には、暗号資産を購入・売却し、又は種類の異なる暗号資産に交換しようとする際に、一時的に必要なこれらの暗号資産以外の暗号資産を取得する場合におけるその取得を含まない。
例えば、日本円や外国通貨と直接交換できない暗号資産Aが欲しい場合に、これとは種類の異なる暗号資産Bを一旦取得し、この暗号資産Bを介して暗号資産Aを取得するときなどは、上記の「取得」に含まれないということである。
この場合において、実務上、一時的に必要な暗号資産の譲渡原価の計算における取得価額は、個別法(その暗号資産について、その個々の取得価額をその取得価額とする方法)により算出することとされている。
ただし、上記のような一時的「取得」の場合に、暗号資産の譲渡損益を認識しないという文脈ではなく、あくまで、年末時点での1単位当たりの帳簿価額の算出方法に関する文脈で「取得」に含まれないとされているにすぎないことに注意が必要である。すなわち、暗号資産同士の交換により譲渡損益が発生することに変わりはない。
暗号資産の一時的「取得」の議論については、法人税法にも同様の規定があるため、そこで同規定や関連する通達の問題点を更に考察する予定である。
〔凡例〕
通貨・・・通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律
日銀法・・・日本銀行法
信託・・・信託法
所法・・・所得税法
所令・・・所得税法施行令
所基通・・・所得税基本通達
法法・・・法人税法
法令・・・法人税法施行令
消法・・・消費税法
国税庁FAQ・・・暗号資産に関する税務上の取扱いについて(情報)(令和4年12月22日改訂)
(例)所法9①九・・・所得税法9条1項9号
(了)
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