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オープンイノベーション促進税制の制度解説 【第1回】

オープンイノベーション促進税制の制度解説 【第1回】   辻・本郷税理士法人 税理士 安積 健     1 制度の概要 青色申告書を提出する法人で一定のものが、指定期間内の日を含む各事業年度の指定期間内において特定株式を取得し、かつ、これをその取得の日を含む事業年度終了の日まで引き続き有している場合において、その特定株式の取得価額の25%に相当する金額以下の金額をその事業年度の確定した決算において特別勘定を設ける方法により経理したときは、その経理した金額に相当する金額は、その事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入される(措法66の13①)。   2 対象法人 対象法人は、青色申告書を提出する法人で新事業開拓事業者と共同して特定事業活動を行うもの(経営資源活用共同化推進事業者)である。 「経営資源活用共同化推進事業者」とは、次に掲げるものが該当する(措規22の13①、共同化省令2①)。①が国内事業会社であり、②から④が国内事業会社によるCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)である。CVCはいずれも事業会社が持分の過半数を有するファンドである。 また、「新事業開拓事業者」とは、新商品の開発又は生産、新たな役務の開発又は提供、商品の新たな生産又は販売の方式の導入、役務の新たな提供の方式の導入その他の新たな事業活動を行うことにより、新たな事業の開拓を行う事業者であって、その事業の将来における成長発展を図るために外部からの投資を受けることが特に必要なもので(産業競争力強化法2⑤)、下記のいずれかに該当するものをいう(経済産業省関係強化法規則2)。 新事業開拓事業者は、対象法人が投資する投資先であり、我が国において普及していない商品の開発又は生産など上記に掲げる事業であって、新たな価値を創出するものの市場における成立を図る事業者が該当する。 「特定事業活動」とは、自らの経営資源以外の経営資源を活用し、高い生産性が見込まれる事業を行うこと又は新たな事業の開拓を行うことを目指した事業活動をいう(産業競争力強化法2⑳)。 本制度の適用を受けるためには、単にベンチャー企業に投資をするだけでなく、ベンチャー企業と共同して一定の事業を行うことが必要となる。これは本制度が、わが国の法人は必ずしも付加価値を十分に上げられてはいないため、ベンチャー企業と共同してこれに投資する法人の付加価値を高めることを狙いとしたものと思われる。   3 指定期間 本制度は、令和2年4月1日から令和4年3月31日までの期間(指定期間)内の日を含む各事業年度(※1)の指定期間内に下記4に掲げる特定株式を取得することが必要である。 (※1) 解散の日を含む事業年度、清算中の各事業年度、被合併法人の合併(適格合併を除く)の日の前日を含む事業年度を除く。 《対象法人が3月決算の場合》 《対象法人が12月決算の場合》   4 投資対象 指定期間内に特定株式を取得し、その取得の日を含む事業年度終了の日まで引き続き保有することが必要である。「特定株式」とは、特別新事業開拓事業者の株式のうち、一定の要件を満たすものをいう。 「特別新事業開拓事業者」とは、上記2に記載した新事業開拓事業者のうち【2】又は【3】に定める者をいう(措規22の13②、共同化省令2②、経済産業省関係強化法規則2二・三)。 また、上記「一定の要件」とは、次に掲げるものをいう(措令39の24の2①)。   5 損金算入限度額 特定株式の取得価額(100億円を限度とする)の25%に相当する金額(※2)が損金算入限度額(損金算入額基準額)となる。ただし、損金算入額基準額の合計額が所得基準額を超える場合には、所得基準額が限度とされる(※3)。ここでの「所得基準額」とは、当該事業年度の所得の金額として一定の方法により計算した金額とされ、125億円が上限とされる。 所得基準額の算定上、留意すべきは下記の点である(措令39の24の2③)。 (※2) その事業年度においてその特定株式の帳簿価額を減額した場合には、その減額した金額のうち、下記の算式により算定した金額を控除した金額とされる(措令39の24の2②)。 その事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入された金額 × その減額に係る特定株式の取得価額(取得価額が100億円を超える場合には100億円)/ その特定株式の取得価額 (※3) 損金算入限度額:次の①と②のいずれか少ない金額。 ① 特定株式の取得価額(100億円が上限)×25%の合計額 ② 所得基準額(125億円が上限)  なお、上記①によれば25億円が上限となるが、これは1件当たりの上限であり、所得基準額125億円は、年間の控除上限である。 (了)

#No. 373(掲載号)
#安積 健
2020/06/11

事例でわかる[事業承継対策]解決へのヒント 【第18回】「持株会社化の手法(株式交換と株式譲渡)」

事例でわかる[事業承継対策] 解決へのヒント 【第18回】 「持株会社化の手法(株式交換と株式譲渡)」   太陽グラントソントン税理士法人 (事業承継対策研究会) マネジャー 公認会計士・税理士 岩丸 涼一   相談内容 私XはA社(製造販売業)とB社(卸売業)を創業し、現在も両社の株式の100%を所有しています。A社は他社との差別化により収益性が高いのですが、B社は薄利多売で収益性は業界平均を下回ります。ただし、B社には様々な取引先との取引実績があり営業力が強みです。 なお、私には20代の息子がいますが、将来の事業承継を見据えて、これまで別会社として経営してきたA社とB社の統合により、グループ価値の向上を目指していきたいと考えています(ただし、両社は業法の関係で合併はできません)。 また、私Xは引退後には個人での不動産投資を検討しており、投資資金をA社・B社から捻出する予定です。 具体的な検討はこれからですが、どのような手法が良いでしょうか。 A社とB社の現状は下記通りです。 ■ □ ■ □ 解 説 □ ■ □ ■ [1] 適格株式交換と株式譲渡の比較 株式交換とは、会社が発行済株式の全部を他の会社に取得させることをいい(会社法2)、税制の一定要件を満たす場合、「適格株式交換」とされます。 100%の「株式譲渡」と比較すると、次のようになります。   [2] 将来の事業承継の観点から 〈持株会社化前の各社の株式評価額〉 〈持株会社化の手法〉 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 このように相続税評価額の高いA社をB社の100%子会社とする持株会社化(株式交換・株式譲渡)を行うことが考えられます。 これにより、B社株式の純資産価額評価において、A社株式の将来の評価益(含み益)に対して37%(法人税額等相当額)を控除することができます。 また、持株会社化は、お互いの強みを強化し適正な人員配置をすることで、様々なシナジー効果を期待できます。例えばA社製品を営業力のあるB社で販売することによりB社売上高が30億円以上となった場合、B社は財産評価基本通達178における「大会社」(注)に該当し、その株式は類似業種比準価額により評価されることとなります。 結果的にB社株式の類似業種比準価額のみでB社グループの相続税評価額を算定することになり、将来の事業承継コスト(承継時の贈与税等)を現状より下げられる可能性が高くなります(A社株式の株式評価額切断効果)。 (注) 取引相場のない株式の評価上の区分(財産評価基本通達178:一部抜粋)  (※) 従業員数が70人未満の会社については、上表内の「従業員数を加味した総資産基準」と「取引高基準」により判定し、いずれか大きい方の会社規模により取引相場のない株式の評価を行います。   [3] 株式譲渡による株式の現金化 《株式譲渡収入》 《株式譲渡収入》の方法による持株会社化の場合は、株式を税効率良く現金化できます。 A社株式譲渡価額を純資産価額の10億円とした場合、B社はA社株式購入資金10億円を金融機関からの融資で賄います。借入金の返済資金には、その後のA社からB社への配当金(グループ法人税制適用により無税)等を充当します。 XがB社から10億円のA社株式譲渡対価を収受した場合は、譲渡所得税等が約2億円(税率:約20%)生じ、手元に残る金額は約8億円となります。 《株式交換後に給与収入》 対して、《株式交換後に給与収入》の手法で株式交換後にB社グループから10億円(株式譲渡対価と同額)の給与をXが収受する際には、給与所得税等が約5.5億円(所得税等の最高税率:約55%)生じ、手元に残る金額は約4.5億円となります。 このように、同じB社からXへの現金支払いであっても、株式譲渡の対価とするか、給与とするかにより、所得税等負担は大きく相違します。   [4] 結論 本件の場合、将来の事業承継を見据えたA社とB社の持株会社化(株式交換・株式譲渡)によるグループ価値向上を目指すことで、結果的に事業承継コストを抑えられることが期待できます。 なお、Xは不動産購入を検討しているとのことですので、持株会社化の手法としては株式交換よりも株式譲渡が、税効率良くXの手元現金を増加させることができます。 ただし、株式譲渡の場合は資金繰りや金利負担の関係もありますので、その点は留意する必要があります。 具体的な対策については、税理士等の専門家と相談の上、実行されることをお勧めします。   (了)

#No. 373(掲載号)
#太陽グラントソントン税理士法人 事業承継対策研究会
2020/06/11

金融・投資商品の税務Q&A 【Q56】「上場株式の譲渡と同時に同一銘柄の株式を再取得する場合の課税関係」

金融・投資商品の税務Q&A 【Q56】 「上場株式の譲渡と同時に同一銘柄の株式を再取得する場合の課税関係」   PwC税理士法人 金融部 ディレクター 税理士 西川 真由美   ●○ 検 討 ○● 1 上場株式を譲渡した場合の譲渡損益の取扱い 上場株式を譲渡したことによる譲渡益は、「上場株式等に係る譲渡所得等」として、他の所得と区分し、20.315%(所得税及び復興特別所得税15.315%、住民税5%)の税率で課税されることとなります(申告分離課税)。 上場株式等に係る譲渡所得等の金額の計算方法は、下記のとおりです。 また、上場株式を譲渡したことにより損失が生じた場合には、当該譲渡をした日の属する年分の上場株式等に係る譲渡所得等の金額の計算上、その譲渡損失の金額を、他の上場株式等の譲渡から生じた譲渡益から控除します。さらに、控除しきれない場合には、金融商品取引業者への売委託など一定の譲渡をしたことにより生じたものであることを要件に、その控除しきれない部分の金額について、翌年以降3年間の繰越控除が認められています。   2 上場株式を売却するとともに直ちに再取得する場合 保有する有価証券を売却すると同時に、同一銘柄の有価証券を購入することを約定する取引については、「クロス取引」(※)と呼ばれています。 (※) 企業会計上、クロス取引については、実質的に売買がなかったものとして売買損益を認識しないことが明らかにされており(「金融商品会計に関する実務指針」42項)、法人税法上も同様に取り扱うこととされています(法人税基本通達2-1-23の4)。 このような取引に関する税務上の取扱いについて、日本証券業協会から国税当局に対して照会がなされ、一定の取引については上場株式等の譲渡として取り扱って差し支えない旨、回答されています(下記個別通達参照)。 この照会が行われた当時(平成12年)には、上場株式の譲渡益に対する課税方法として源泉分離課税制度の選択が認められていたため、同一銘柄の株式を直ちに再取得する取引であることを前提とした譲渡であっても、その選択が認められることを確認する内容となっていますが、そのような譲渡も上場株式の譲渡として取り扱うものであることを確認されたという点で参考になります。 なお、この照会における「一定の取引」とは、下記に掲げる取引とされています。   3 本件へのあてはめ A株式及びB株式は共に上場株式であり、取引市場で譲渡されることから、これらの株式の譲渡から生じる損益は、譲渡後直ちに再取得するB株式分も含めて、上場株式等の譲渡所得等として取り扱うものと考えられます。 したがって下記のとおり、A株式に係る譲渡益の金額からB株式に係る譲渡損の金額を控除するものと考えられます。 なお、再取得したB株式の取得価額は、500,000円となります。   (了)

#No. 373(掲載号)
#西川 真由美
2020/06/11

《相続専門税理士 木下勇人が教える》一歩先行く資産税周辺知識と税理士業務の活用法 【第9回】「“株式分散”という潜在的リスクの把握と対応」

《相続専門税理士 木下勇人が教える》 一歩先行く資産税周辺知識と税理士業務の活用法 【第9回】 「“株式分散”という潜在的リスクの把握と対応」   公認会計士・税理士 木下 勇人   一般に会計顧問の業務では、法人税申告書別表2の位置付けは「同族会社の判定」であり、実務上多くの中小法人が同族会社であることから、他の別表様式に比べその取扱いに注意を払われることは少ないと思われる。 一方、資産税コンサルの視点で見た場合、資料チェックのスタートがこの「別表2」であることが多く、その重要性は非常に高い。すなわち別表2は、その会社における株式分散問題を把握するための「少数株主の存在」を知ることができる位置づけとなる。   1 別表2におけるチェック項目 資産税コンサルとして別表2をチェックする手順は、以下のとおりである。   2 少数株主の存在による法的リスク 1で少数株主の存在を把握した場合、その法的リスクについて確認する必要がある。 一般的な少数株主権をまとめると、以下のとおりである。 上記の中で特に注意が必要なのは、会計帳簿の閲覧請求権(会社法433)といえる。閲覧可能な資料は「会計帳簿又はこれに関する資料」とされており、「会計帳簿」は総勘定元帳、現金出納帳、仕訳帳などが該当し、「これに関する資料」は契約書、領収書、伝票などが該当する。 会計帳簿の閲覧と謄写を請求することができるのは、総株主の議決権の100分の3以上又は発行済株式の100分の3以上を有する株主とされているが、これらの少数株主が会計帳簿を閲覧する目的として考えられるのは、株主代表訴訟(会社法847)の要否検討や、取締役の不正行為調査などである。このような場合、少数株主であっても会社経営に影響を及ぼすリスクが高まることになる。 また、M&Aで株式譲渡する場合を想定すると、少数株主が存在する会社は売却の可能性が低くなる。このためM&A実行前に少数株主から株式集約を図る必要が生じるのだが、株主に相続が発生し相続人の準共有状態が継続している場合や、株主自身が意思無能力者(重度の認知症など)の場合には、迅速な株式集約は難しくなり、結果としてM&Aの実現可能性も低くなる。 このように少数株主の存在を把握した場合、様々な潜在的リスクを認識する必要がある。   3 株主集約を目的とした少数株主との協議による株式買取手法 2で述べたような潜在的リスクをなくすため、まず検討すべきは以下のように、少数株主との協議によって株式を買い取る手法である。 ①②の手法に共通するのは、「買主側が買取りの資金を準備する必要がある」という点である。 このため、買取交渉前に買取資金の段取り(金融機関からの融資、関連法人からの資金融通など)を検討する必要がある。また、税務上の適正株価にこだわることなく、可能な限り低価格での買取りができるよう交渉を進めることも重要となる。   4 スクイーズアウトによる手法(協議による現金買取以外) 3で紹介した協議による株式買取の方が優先順位が高いため、二次的な対応として考えたいが、スクイーズアウトによる株式集約の手法として、以下のようなものがある。なお、いずれも最終的には買取りに係る財源が必要となる。   5 “健全な会社経営”という視点を持ち潜在的リスクへの対応を 今回のコロナショックが1つの契機となっているが、会社が潜在的に抱えるリスクは、あるタイミングで突然顕在化する。当然ながら、リスクが顕在化した後では十分な対応をとることができない。このため潜在化の段階でそのリスクに対応する必要があるのだが、そのシグナルを最初に感じ取るのは、普段から顧問企業の状況を把握し客観的な視点を持つ税理士だと考える。 同族会社にとっての少数株主の存在は、不動産オーナーが抱える「共有不動産」や「第三者の借地権」などと同様、平時においては解決の優先順位がさほど高くないといえるが、2で紹介したようなリスクや問題が生じた場合には、その解決の優先順位は一気に高くなる。 経営者の重い腰を動かせるのは税理士しかいない。そのため税理士としては、会社経営の健全化のため、様々なケースを想定し、採り得る対策に優先順位を付けて対応することが望まれる。 (了)

#No. 373(掲載号)
#木下 勇人
2020/06/11

さっと読める! 実務必須の[重要税務判例] 【第60回】「宅地並み課税事件」~最判平成13年3月28日(民集55巻2号611頁)~

さっと読める! 実務必須の [重要税務判例] 【第60回】 「宅地並み課税事件」 ~最判平成13年3月28日(民集55巻2号611頁)~   弁護士 菊田 雅裕   (了)

#No. 373(掲載号)
#菊田 雅裕
2020/06/11

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第101回】株式会社ALBERT「外部調査委員会調査報告書(2020年5月13日付)」

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第101回】 株式会社ALBERT 「外部調査委員会調査報告書(2020年5月13日付)」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   【外部調査委員会の概要】   【株式会社ALBERTの概要】 株式会社ALBERT(以下「ALBERT」と略称する)は、2005年7月に設立。AIを活用したデータソリューション事業を主たる事業とする。2015年2月、東京証券取引所マザーズ市場上場。売上高1,630百万円、経常利益199百万円、従業員数100人(いずれも訂正前の2018年12月期実績)。資本金1,360百万円。会計監査人は有限責任あずさ監査法人(以下「あずさ監査法人」と略称する)。   【調査報告書の概要】 2020年2月14日、ALBERTは、2019年12月期決算における監査手続きの過程で、会計監査人であるあずさ監査法人から、第4四半期の売上高計上の妥当性について実態把握をする必要があるという指摘を受け、社外監査役2名と外部の弁護士兼公認会計士による社内調査を進めるとともに、決算発表の延期を公表した。 次いで、同月27日には、より独立性を高めた調査が必要であるとの判断に至り、利害関係を有さない社外の専門家で構成される外部調査委員会の設置を取締役会で決議したことを公表した。その後、あずさ監査法人からは追加の調査を求められたため、ALBERTの2019年12月期決算発表は、調査報告書受領後の5月22日まで延期されることとなった。 外部調査委員会が調査した事案は、ALBERTの取引先単位で合計4事案であり、その結論は、いずれも2019年12月期に売上計上を行うのは妥当ではないというものであり、売上計上を否認された金額は合計で7,700万円を超えている。 1 当初、会計監査人から売上計上の妥当性検証を指摘された事案(本事案) (1) A社事案 ① 事案の概要 ALBERTは、人材派遣サービスを提供しているA社の研修員をデータサイエンティストとして研修・養成したうえで、派遣社員として受け入れる協業事業を行っていたところ、ALBERTが受託する高度な分析業務スキルを一部のA社派遣社員は期間内に取得することができない状況が続いていた。 ALBERTとA社は、2019年11月7日までに、A社派遣社員に対してOJTによる再研修を行うことで合意し、ALBERTは再研修のため、A社派遣社員をプロジェクトにアサインし、2019年11月及び12月で5,000万円の売上を計上している。一方、A社は再研修に係る検収書を提出するとともに、2019年12月及び2020年1月において、合計5,000万円をALBERTに支払っている。 ② 問題点 ALBERTが「再研修」に見合う役務の提供を行ったか否か。 ③ 外部調査委員会の判断 外部調査委員会は、現行の会計制度において採用されている実現主義の原則においては、①財貨又は役務の提供が行われ、②対価として現金又は現金等価物を受領したときに収益として認識することが必要であるとしたうえで、A社事案については、A社からの支払がなされていることから、②の要件は満たすものの、①の役務の提供については、ALBERTが行うべき役務の提供があったと認めることは困難であることから、本件の5,000万円については、売上として計上するのは妥当ではないという判断を示している。 (2) B社事案 ① 事案の概要 ALBERTは、2019年12月25日、B社との間で契約期間を同日から2020年5月31日までとし、業務委託報酬を1,700万円とする業務委託契約を締結し、データ分析業務の一環としてタグ付け作業を実施することを合意した。 ALBERTにおいては請負金額が1,000万円を超え、かつ期間が3ヶ月を超えるプロジェクトについては工事進行基準を適用していたため、タグ付け作業に係る稼働時間に基づいて工事進捗度を約41.4%と算定、2019年第4四半期に約700万円の売上を計上した。 ② 問題点 2019年第4四半期における工事進捗度の算定が適正かどうか。 ③ 外部調査委員会の判断 外部調査委員会は、調査の結果、以下の実態を指摘して、2019年第4四半期における売上計上の妥当性を否定した。 2 追加で指摘された事案(追加事案) (1) C社事案 ① 事案の概要 ALBERTは、C社に対してマーケティングデータ分析のプラットフォーム・サービスを提供し、運用・保守契約を締結している。C社との間では、新たな機能の追加や改良のうち、軽微な内容については運用・保守契約に基づくサービスで行い、一定以上の工数が必要となる作業については、個別のプロジェクトとして受注しているところ、2019年12月に4件のプロジェクトを受注し、同月中の業務完了を想定して、必要な人員確保、作業の実施を行ったものの、12月中に業務は完了しなかった。 一方、C社からは2019年12月27日付の検収書4通を交付されており、ALBERTは、検収書に基づき900万円の売上計上を行った。 ② 問題点 業務が完了していないものの、成果物である要件定義書等を提出することによって、検収を受けたとみなして売上計上をすることができるかどうか。 ③ 外部調査委員会の判断 外部調査委員会は、C社事案については、いずれも2019年12月末時点では業務が完了しておらず、同時点での成果物を契約の目的物に変更する旨の合意が成立した事実が認められないことから、2019年12月に売上を計上するのは妥当ではないと判断を示した。 (2) D社事案 ① 事案の概要 ALBERTは、2019年12月、D社との間で、大量の写真や画像に対するタグ付け、あるいは、タグ付け作業のレビューの業務を行うことを内容とする請負契約を締結した。D社事案について、ALBERTは、実際の作業を中国所在の会社に委託しており、中国においては年末ぎりぎりまで作業が行われることが見込まれたため、2019年12月中に業務が完了することを見越して、事前に、同月中に検収書を発行することが合意されていたが、実際には、タグ付け等の作業の前提となるデータの提供が遅れたために 2019年12月中に業務が完了しなかった。 しかし、D社は、合意に基づき、ALBERTに対して 2019年12月25日付の検収書を発行し、ALBERTは検収書に基づき、1,116万円の売上を計上した。 ② 問題点 ALBERT側において作業に必要な体制を整えていたにもかかわらず、相手方のデータの提供が遅れたことによって、業務が完了しなかったものであり、既に納品した成果物をもって、検収書を発行することにD社の了解が得られているため、売上計上をすることは問題ないとしていた。 ③ 外部調査委員会の判断 外部調査委員会は、D社事案についても、C社事案と同様に、当初予定していた全てのデータに係るタグ付け作業は2019年12月中には完了しておらず、同時点で契約の目的物を変更する旨の合意が成立した等の事情も認められないことから、2019年12月に売上を計上するのは妥当ではないと判断を示した。 3 原因分析(報告書11ページ以下) 外部調査委員会は、直接的な原因として、非定型的な取引について、売上計上のフローが明確ではないこと及び通常の取引フローと異なり最終成果物の納品に先立ち検収書が発行されたことに関し、内部統制が十分に機能しなかったことにあると断じている。 そして、外部調査委員会は、ALBERTでは非定型的な取引を行ううえで、売上計上のフローが明確でなかったにもかかわらず、以下の不備があったことを指摘している。 4 再発防止策(報告書15ページ以下) 外部調査委員会による再発防止策の項目は、以下のとおりである。   【調査報告書の特徴】 2018年12月期の有価証券報告書によれば、ALBERTの取締役は5名のうち、代表取締役CEOを除く4名が社外取締役であり、3名の監査役はいずれも社外監査役である。CEOのもと業務執行にあたる執行役員は5名であり、彼らの業務執行を管理監督することが期待されているはずの社外取締役・社外監査役が何をしていたのか、報告書には一切記述がない。 1 上場会社のCFOとしての責任 外部調査委員会は、「原因分析」の中で、CFOによるモニタリングについて、次のように述べている。 こうした問題意識が、再発防止策のトップに、「CFOの役割の明確化及び充実化」という項目を置き、非定型的な取引において、CFOの権限や責任、財務経理セクションによる内部統制の重要性を指摘しているものと考えられる。 筆者の推測ではあるが、調査報告書におけるd氏とは、適時開示における「問合せ先」の記載から執行役員で経営管理部長である新井普之氏のことを恐らく意味しているものと考えられるが、確かに、A社事案における売上計上の可否について安易に代表取締役に対して「問題ない旨」を答え、B社事案では勤怠データを改竄して工事進捗率を高く偽装するなど、新井氏の上場会社のCFOとして十分な職責を果たせていないことは間違いないところであるが、外部調査委員会の原因分析を読む限り、「なぜ、CFOとしての職責を果たせなかったのか」という視点からの分析はない。 新井氏の経歴がわからないため、CFOとしての経験や見識が不足しているのか、業績予想を達成することに対するプレッシャーがあって、2019年12月期末に無理をしてでも売上計上を推進せざるを得ない立場にあったのか。「原因分析」というよりは表層的な原因となった事実の羅列にとどまっている報告書からは、読み取ることができなかった。 2 会計監査人の異動 あずさ監査法人は、外部調査委員会による調査が進行中の3月19日付で、ALBERTの第15期事業年度(2019年12月期)に係る定時株主総会(その後に開催予定の継続会を含む)の終結時をもって退任する旨の通知を行った。 退任理由としては、調査対象となった事象により監査リスクが高まり、今後の監査契約を継続することが困難になったと判断したためであると通知している。 5月22日、ALBERTは、あずさ監査法人の後任として、一時会計監査人に和泉監査法人が就任することをリリースしている。 3 公表された2019年12月期決算短信 5月22日、ALBERTは、当初の公表予定から3ヶ月以上も遅れて、2019年12月期決算短信を公表した。売上高は2,324百万円で2019年2月15日付の業績予想から75百万円の減少、経常利益は193百万円で同じく166百万円の減少となった。同日に公表した「2019年12月期業績予想と実績の差異に関するお知らせ」では、外部調査委員会の調査の結果、売上計上が否定された事情には触れていない。 すでに述べたように、外部調査委員会が売上計上の妥当性を否認した金額は約77百万円であり、ALBERTの会計処理が認められていれば、経常利益の下方修正はともかく、売上高については業績予想を達成していたことになっていた。 一方、決算短信の中の「今後の見通し」の項目で、ALBERTは、2020年12月期において、外部調査委員会の調査費用など総額190百万円を見込んでいることを説明している。 4 ALBERTによる再発防止策 5月22日、ALBERTは「再発防止に向けた改善措置」を公表した。 具体的な施策としては、「取締役・取締役会の取り組み」として掲げられた2項目の取締役人事のみである。 会長に就任する松村淳氏及び代表取締役に就任する竹田浩氏はともに、株式会社ウィズ・パートナーズに籍を置いており、ALBERTは、2016年12月、同社が業務執行役員を務めるウィズ・アジア・エボリューション・ファンド投資事業有限責任組合を割当先として、無担保転換社債型新株予約権付社債の発行により、24億円あまりの資金調達を実施、2018年12月期末現在で同組合は発行済株式の20.0%を保有する大株主であることから、本取締役人事は、大株主による経営参加と考えるべきであろう。 単なる社外取締役では取締役会の職務を果たせなかったから、会長の肩書を付与して取締役会を主導させ、あるいは代表取締役に選任して業務の執行にも関与させるという方針だと思料するが、裏を返せば、社外取締役は「各会議体での牽制機能」を果たすことができていなかったという結論なのだろうか。 5 関係者に対する処分等 ALBERTは、再発防止に向けた改善措置と同時に「関係者に対する処分等」を公表し、代表取締役社長が月額報酬の10%を3ヶ月分自主返納するとともに、「本件に関わった執行役員等の従業員に対しての処分を実施」するとしている。 2018年12月期の有価証券報告書によると、当時の執行役員は5名で、営業推進部長 安達章浩氏、経営管理部長 新井普之氏、データソリューション本部長 鈴木弥一郎氏、マーケティング部長 平原昭次氏、社長室長 村上嘉浩氏の名前が挙げられている。 本稿執筆時点で、ALBERTの執行役員構成を確認すると、執行役員の員数は5名で前期の有価証券報告書から変化していないが、経営管理部長でCFOであった新井普之氏と社長室長の村上嘉浩氏の名前がなく、代わりに、青木健児氏と武井昭博氏が2020年1月に執行役員に就任しているとのことである。 また、ALBERTの適時開示を時系列で追っていくと、問合せ先が「執行役員CFOコーポレート本部長 新井普之」と記載されているのは、2月14日付の「2019年12月期決算発表の延期と社内調査の実施に関するお知らせ」が最後で、次の適時開示である2月27日付の「外部調査委員会設置に関するお知らせ」には、問合せ先として、「経営戦略部 大江 翔」と記載されており、その後、継続している。 執行役員の異動について、ALBERTのサイトを確認した限りではリリースは出されていないため、こうした人事異動が、処分の一環かどうかは不明であるが、時期的には、この2つの適時開示の間に、何らかの処分があったと考えられそうである。 (了)

#No. 373(掲載号)
#米澤 勝
2020/06/11

税効果会計を学ぶ 【第6回】「繰延税金資産及び繰延税金負債」

税効果会計を学ぶ 【第6回】 「繰延税金資産及び繰延税金負債」   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 繰延税金資産又は繰延税金負債は、一時差異等に係る税金の額から将来の会計期間において回収又は支払が見込まれない税金の額を控除して計上しなければならないとされている(税効果会計基準 第二、二、1)。 今回は、繰延税金資産及び繰延税金負債の計上について解説する。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 繰延税金資産及び繰延税金負債の計上 個別財務諸表において、繰延税金資産及び繰延税金負債の計上は次のとおり行う(税効果適用指針8項(1)、(2))。 これらは、基本的に、個別税効果実務指針を踏襲するものである(税効果適用指針92項、93項)。   Ⅲ 繰延税金資産の回収可能性 税効果適用指針8項(1)に規定されているように、繰延税金資産の回収可能性は、「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」(企業会計基準適用指針第26号。以下「回収可能性適用指針」という)に従って判断することになる。 1 繰延税金資産 前述のとおり、繰延税金資産又は繰延税金負債は、一時差異等に係る税金の額から将来の会計期間において回収又は支払が見込まれない税金の額を控除して計上しなければならないとされている(税効果会計基準 第二、二、1)。 このため、繰延税金資産として計上すべき金額は、将来の会計期間における将来減算一時差異の解消又は税務上の繰越欠損金の一時差異等加減算前課税所得との相殺及び繰越外国税額控除の余裕額の発生等に係る減額税金の見積額である(回収可能性適用指針4項)。 2 繰延税金資産の回収可能性の判断 将来減算一時差異及び税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産の回収可能性は、次の(1)から(3)に基づいて、将来の税金負担額を軽減する効果を有するかどうかを判断する(回収可能性適用指針6項)。 当該規定は個別税効果実務指針を踏襲するものである(回収可能性適用指針59項)。 下記の「(1) 収益力に基づく一時差異等加減算前課税所得」を主たる判断基準として繰延税金資産の回収可能性を判断する場合には、会社のいわゆる基礎収益力等、すなわち本業においてどれだけ収益を獲得する能力等があるかが重要になると解される。 3 繰延税金資産の回収可能性の判断に関する手順 上記の回収可能性適用指針6項に従って繰延税金資産の回収可能性を判断する場合の具体的な手順は、次のとおりである(回収可能性適用指針11項)。 ① 期末における将来減算一時差異の解消見込年度のスケジューリングを行う。 ② 期末における将来加算一時差異の解消見込年度のスケジューリングを行う。 ③ 将来減算一時差異の解消見込額と将来加算一時差異の解消見込額とを、解消見込年度ごとに相殺する。 ④ ③で相殺し切れなかった将来減算一時差異の解消見込額については、解消見込年度を基準として繰戻・繰越期間の将来加算一時差異(③で相殺後)の解消見込額と相殺する。 ⑤ ①から④により相殺し切れなかった将来減算一時差異の解消見込額については、将来の一時差異等加減算前課税所得の見積額(タックス・プランニングに基づく一時差異等加減算前課税所得の見積額を含む)と解消見込年度ごとに相殺する。 ⑥ ⑤で相殺し切れなかった将来減算一時差異の解消見込額については、解消見込年度を基準として繰戻・繰越期間の一時差異等加減算前課税所得の見積額(⑤で相殺後)と相殺する。 ⑦ ①から⑥により相殺し切れなかった将来減算一時差異に係る繰延税金資産の回収可能性はないものとし、繰延税金資産から控除する。 期末に税務上の繰越欠損金を有する場合、その繰越期間にわたって、将来の課税所得の見積額(税務上の繰越欠損金控除前)に基づいて、税務上の繰越欠損金の控除見込年度及び控除見込額のスケジューリングを行い、回収が見込まれる金額を繰延税金資産として計上する(回収可能性適用指針11項)。 なお、将来加算一時差異が重要でない企業の場合、繰延税金資産の回収可能性を判断するにあたって、回収可能性適用指針11項(3)から(7)に従った方法によるほか、事業年度ごとに一時差異等加減算前課税所得の見積額及び将来加算一時差異の解消見込額を合計して、将来減算一時差異の事業年度ごとの解消見込額と比較し、判断することができる(回収可能性適用指針12項)。 4 繰延税金資産の計上 将来減算一時差異及び税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産は、回収可能性適用指針6項に従って回収可能性を判断した結果、当該将来減算一時差異(複数の将来減算一時差異が存在する場合は、それらを合計する)及び税務上の繰越欠損金が将来の一時差異等加減算前課税所得の見積額及び将来加算一時差異の解消見込額と相殺され、税金負担額を軽減することができると認められる範囲内で計上する(回収可能性適用指針7項)。 税金負担額を軽減することができると認められる範囲を超える額は控除しなければならない(税効果会計基準 注解(注5)、回収可能性適用指針7項)。 (了)

#No. 373(掲載号)
#阿部 光成
2020/06/11

ハラスメント発覚から紛争解決までの企業対応 【第3回】「コロナハラスメントとその対応策」

ハラスメント発覚から紛争解決までの 企 業 対 応 【第3回】 「コロナハラスメントとその対応策」   弁護士 柳田 忍   1 はじめに ここ数ヶ月の間、新型コロナウイルスの感染拡大に伴って、いわゆる「コロナハラスメント」が頻発しているとの報道等を目にする機会が多い。 例えば、当時感染が拡大していた大阪市から奈良市の製造会社に通勤している女性の上司が当該女性の同僚複数人に対し、当該女性と一緒に食事をとらないよう指示したことから、当該女性は職場での昼食をやめざるを得なくなったといったケースや、患者と職員の院内感染が発生した病院に勤務する看護師の夫が、勤務先の会社から「奥さんが看護師を続ける限り、あなたは出勤できない。会社を辞めるか、奥さんが辞めるか」と迫られたとのケースなどが一部報道されている(※)。 (※) SankeiBiz「コロナハラスメントが深刻化 職場でばい菌扱い、客から悪質な苦情も」(2020年4月29日付)、神戸新聞NEXT「「会社辞めるか、奥さんが辞めるか」看護師と家族に誹謗中傷 神戸・中央市民病院」(2020年5月9日付)等参考。 東京や大阪などを除く39都道府県については5月14日、同月21日には3府県、残りの5都道県についても同月26日に緊急事態宣言が解除され、段階的にではあるが通常どおりの勤務体制に戻す企業も増えている。 しかし、第2波のおそれの懸念もあると言われており、新型コロナウイルスの恐怖から完全に解放されたわけではないと感じている人も多い中、新型コロナウイルスに起因した嫌がらせ等が行われる可能性は増加しているとも言える。 そこで、本稿では、新型コロナウイルスに起因したハラスメントを「コロナハラスメント」と称したうえで、コロナハラスメントの概要、コロナハラスメントの事前防止策及びコロナハラスメントが発生した場合の対応策について述べることとする。   2 コロナハラスメントとは何か コロナハラスメントの概念は未だ成熟していないが、上記のとおり、本稿においては新型コロナウイルスに起因するハラスメント(嫌がらせ)を総称して「コロナハラスメント」と呼ぶことにする。 いかなる場合にコロナハラスメントが違法となるかについて確立した基準はないが、コロナハラスメントが職場における「いじめ・嫌がらせ」であることから、同じく職場での「いじめ・嫌がらせ」であるパワーハラスメントの基準が参考になるのではないかと思われる(拙稿第1回「代表的なハラスメントの定義とその特徴」参照)。 例えば、上記報道の前者の例は、6類型のうちの「③ 隔離・仲間外し・無視(人間関係からの切り離し)」に該当しうる行為である。また、6類型に該当しなくても違法なコロナハラスメントに該当しうることはパワーハラスメントと同様であるから、新型コロナウイルスに起因する不当な退職勧奨や配転命令、仕事外し等も違法なコロナハラスメントに該当する可能性があり、上記報道の後者の例は、このタイプのコロナハラスメントに該当する可能性がある。   3 コロナハラスメントの事前防止策 コロナハラスメントもハラスメントの一種であることから、典型的なハラスメント(パワハラ、セクハラ、マタハラ)について法や指針により義務づけられている対策が、コロナハラスメントにおいても有用である(パワハラにつき令和2年1月15日厚労省告示第5号、セクハラにつき平成18年厚労省告示第615号、マタハラにつき平成28年厚労省告示第312号及び平成21年厚労省告示第509号参照)。 すなわち、コロナハラスメントを職場からなくすべきであるとの会社の方針を明確化し、コロナハラスメントの行為者については厳正に対処する旨の方針及び対処の内容を就業規則等に規定化し、研修等の実施によりこれを周知・啓発する等がコロナハラスメントの事前防止策としても有効であると考えられる。 具体的には、例えば、就業規則上に服務規律としてハラスメント全般を禁止する定めや、他人に不快な思いをさせて会社の秩序を乱す言動を禁止する定めなどがあり、懲戒事由として服務規律違反が挙げられている場合は、就業規則を改訂することなく、これらに基づきコロナハラスメントの行為者を懲戒処分の対象とすることができると考えられる。 もっとも、これによる抑止効果を期待するためには、コロナハラスメントが禁止されていること、これに違反したら処分の対象になることを従業員に認識させる必要があることから、コロナハラスメントを許さない旨の方針を社内で周知すべきである(会社トップのメッセージとして周知するとより効果的である)。上記のとおり、配置転換、仕事外しなどの人事権の行使もコロナハラスメントの一環と評価されうることから、これらがコロナハラスメントに該当しうるということも併せて周知するべきである。 また、相談窓口を設置し、これを周知することにより、初期の段階でハラスメントに対処することが可能となる。相談窓口の設置・周知については、コロナハラスメントが他のハラスメントと複合的に行われることが想定されることに照らし、パワハラ・セクハラ・マタハラ被害の相談を受けるために設置してある相談窓口において併せて対応する旨を周知するのが良いと思われる。 更に、コロナハラスメントが新型コロナウイルスへの感染の恐怖から、感染者らしく見える人を職場から排除しようとして生じるという一面を有すると思われることから、厚生労働省のガイドライン等に従い、職場における感染防止策を講じることがコロナハラスメント防止の第一歩となるであろうし、社員の新型コロナウイルスに対する恐怖を軽減するべく、以下の点についての啓発が重要になると思われる。 まず、従業員が過度に新型コロナウイルスへの感染に怯えているような場合、厚生労働省が発表しているデータや医師の見解等に基づき、正確な知識を伝えることも重要である。 過去、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)に対する誤った理解により、職場においてHIV感染者に対して不適切な対応がなされたケースがあったが、感染経路が限られていること、HIVの感染力が弱いことなどが知られるようになった後は、そのような不適切な対応が見られる機会が減少したことに照らすと、新型コロナウイルス感染症への正確な理解が、コロナハラスメントの減少に繋がるものと考えられる。 また、「新型コロナウイルスに感染したら解雇されたり査定に響いたりするのではないか」との懸念が聞かれるところからすると、「新型コロナウイルスに感染した場合に会社から人事上の不利益な取扱いを受けるのではないか」という恐怖もまた、従業員がコロナハラスメントに及んでしまう理由の1つなのではないかと考えられる。 そこで、会社としては、従業員が新型コロナウイルスに感染したとしても、そのことのみをもって従業員に不利益な処分を科さないことを周知するとともに、上記のとおり、そのような人事権の行使はコロナハラスメントに該当する可能性があり、行為者は懲戒処分等の対象になることを知らしめることも重要であると思われる。   4 コロナハラスメントが発生した場合の対応 コロナハラスメントが発生した場合にも、他のハラスメントに対して義務づけられているのと同様に、事実調査を行い、必要に応じて行為者の処分を行ったり、配置転換を行ったりする等の必要がある。 また、コロナハラスメントの行為者の処分を行ったことを社内で公表することも、コロナハラスメントが禁じられていることの周知及び再発防止策として有効である(もちろん、行為者や被害者の氏名を伏せるなど、プライバシーに十分に配慮する必要がある)。 (了)

#No. 373(掲載号)
#柳田 忍
2020/06/11

〔一問一答〕税理士業務に必要な契約の知識 【第6回】「新型コロナウイルスの労務関係への影響」

〔一問一答〕 税理士業務に必要な契約の知識 【第6回】 「新型コロナウイルスの労務関係への影響」   虎ノ門第一法律事務所 弁護士 川上 邦久   〔質 問〕 当事務所の顧客が、新型コロナウイルスの影響で経営上大きな打撃を受けています。 労務上の観点からできることはありますか。 〔回 答〕 使用者の判断でできる対応としては、新規採用の停止、非正社員の雇い止め、昇給停止や賞与の減額・不支給、残業禁止、配転・出向、休業といった対応がありますが、賃金減額と正社員の人員削減については、労働者の同意を得ない限り、ハードルが高いことから、それ以外の対応をできる限り行ったうえ、労働者と丁寧に協議するなどして、慎重に進める必要があります。 ◆◆◆◆ 解 説 ◆◆◆◆ 1 前提となる事業計画の立て直し 新型コロナウイルスの世界的な大流行、緊急事態宣言の発令、外出自粛要請に伴う消費の冷え込みという一連の事態を受けて、宿泊業・飲食業から製造業・小売業まで様々な業種の事業者が、経営上大きな打撃を被っている。 一般論として、危機的状況にあっては、事業継続のために必要なヒト・モノ・カネの維持を第一に、流行期間中の事業計画を立て直したうえ、その実現に向けて必要な施策をできる順にやる、可能であれば収束後の事業計画も考慮し施策に優先順位をつけるということになるが、各事業者の事業構造により、経営上とるべき施策は様々であり、先の見通しがなお不透明な状況で、各事業者は困難な経営判断を迫られることになる。 本稿は、想定される経営上の施策のうち、労務に関連するものを対象とするが、後述するとおり、賃金減額や正社員の人員削減といった、労働者への影響の大きい(それだけに経営上効果のある)施策を行うためには、その前提として、①広告費・交通費・交際費等の冗費削減、②役員報酬の削減、③賃料の猶予・減額、④業務委託契約の解除、⑤公租公課の猶予・減免、⑥補助金・助成金の受給、⑦リスケ・新規借入れ等の施策をできる限り行っている必要がある。   2 労働契約の基本知識 さて、労務に関連する経営上の施策を理解するにあたっては、労働契約の基本知識について、一通り理解しておくことが必要である。 労働契約には、「継続性」「集団性」という特徴があるため、労働契約が継続している間に生じた状況の変化(今回でいえば、新型コロナウイルスの流行)に応じて、労働契約の内容を集団的に変更する手段が必要になる。 この点、日本の法制では、解雇権濫用法理により、正社員の解雇が困難になっていることに特徴がある。そのため、正社員の解雇以外の手段、すなわち、①非正社員の雇い止め、②賞与の調整による賃金額の調整、③残業時間の調整による労働時間の調整、④配転・出向による労働編成上の調整、⑤企業レベルの労使交渉及び就業規則変更による職場ルールの変更により対応することが求められている。 上記⑤の点に関し、労働契約については、法律と個別契約以外にも重要なルールがあることに留意する必要がある。すなわち、労働契約の内容は、(ア)法律(強行規定)、(イ)労働協約(労働組合と使用者の書面による合意)、(ウ)就業規則(使用者が定める職場ルール)、(エ)個別契約により定まるとされており、基本的にはこの順で効力が優先すると考えてよい(もう少し厳密に言えば、労働協約については、「誰に適用されるか」という問題があり、就業規則については、これよりも労働者にとって有利な内容を個別契約で定めた場合は、個別契約が優先するという片面的な関係になっている)。 以下では、大まかなイメージをつかめるよう、「使用者の判断でできること」と、「使用者の一方的な判断で行うにはハードルが高いこと」に大別して、労務に関する経営上の施策の概要を説明する。   3 使用者の判断でできること (1) 新規採用の停止 新規採用の停止については、労働契約が未成立であれば、使用者の一方的な判断で行うことができる。ただし、いわゆる内定以前の段階であっても、労働契約が既に成立しているとされる場合には、一方的に契約を終了させることはできない。 (2) 非正社員の雇い止め 非正社員の期間満了時の雇い止めは、使用者の一方的な判断で行うことができる。ただし、契約期間が通算5年を超える労働者から請求があった場合、雇い止めをすることはできないし(労働契約法18条1項)、無期契約と実質的に異ならない場合、労働者が更新を期待することが合理的だと認められる場合は、解雇と同様に扱われる(労働契約法19条)。また、契約期間中の解雇は、やむを得ない事由がある場合でなければできない(労働契約法17条1項)。 (3) 昇給停止や賞与の減額・不支給 昇給停止や賞与の減額・不支給については、具体的な昇給幅や賞与の額が、契約内容として定められていなければ、使用者の一方的な判断でこれを行うことができる。ただし、就業規則や雇用契約の定めを確認する必要がある。 (4) 残業禁止 契約内容とされているのは、あくまでも所定時間の労働なので、使用者が一方的に所定時間外の労働である残業を禁止し、残業代が発生しないようにすることは可能である。ただし、実際に業務量を調整し、サービス残業が生じないようにする必要がある。 (5) 配転・出向 配転・出向については、就業規則に一般的な定めがあることが多く、それに基づいて使用者が一方的に命じることができる。これにより労働力を融通し、無駄な人件費の発生を抑制することができる。ただし、権利濫用にならないように注意する必要がある。 (6) 休業 以上のような対応をしても労働力が過剰になる場合、本来の労働日、あるいはその日の所定労働時間の一部について、使用者の判断で休業させること自体は、使用者の判断で可能である(労働者に就労請求権はない)。 ただし、労働者を休業させた場合、休業分に対応する支払いを常に免れることができるわけではなく、賃金全額、あるいは休業手当の支払いを要することがある。 すなわち、第1に、民法536条では、「債権者(使用者)の責めに帰すべき事由」により、労働者が労務を提供することができなくなった場合、使用者は、賃金全額の支払いをしなければならないとされている。 この点については、新型コロナウイルスについて緊急事態宣言が発令されたことによる休業の場合や、休業させることがやむを得ない経営状況にある場合は、これに当たらないと考えるが、少数組合に対して十分な説明をしなかった場合や、非正社員と正社員とで違う扱いをした場合に、「債権者(使用者)の責めに帰すべき事由」を認めた裁判例もあるところから、交渉手続の公正さにも留意する必要がある。 第2に、労働基準法26条では、「使用者の責に帰すべき事由」により休業した場合には、使用者は、平均賃金(労働基準法12条。原則として直前3ヶ月間の賞与等を除いた賃金総額をその期間の総日数で割った金額)の6割以上の休業手当を支払わなければいけないとされている。 これは、労働者の生活保障のため、使用者の帰責事由をより広い範囲で認めたものであり、不可抗力の場合(①その原因が事業の外部より発生した事故であること、②事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故であることの2つの要件を満たす場合)を除き、使用者側の領域で生じた経営上の障害を幅広く含むものと解釈されている。 この点については、新型コロナウイルスについて緊急事態宣言が発令されたことによる休業の場合、争いがあるものの、配転やテレワークにより就労させることが困難であれば、休業手当も発生しないと考えるべきであろう。 その場合も、可能な限り、労使間の合意により任意の休業手当の支払いを行うことが望ましいことは当然であるが、その額は平均賃金の6割を下回ってもよい。ただし、雇用調整助成金(特例措置がとられており、上限の増額と要件の緩和が行われている)を利用する場合は、平均賃金の6割以上の休業手当を支給することが要件とされているため、利用を検討している場合は、支給額に注意する必要がある。 なお、1日の所定労働時間の一部の休業(時短)の場合、行政解釈では、就労時間に対応した賃金が平均賃金の6割を超えていれば、不就労時間に対する休業手当の支払いは要しないとされている(昭和27年8月7日基収3445号)。   4 使用者の一方的な判断で行うにはハードルが高いこと (1) 変形労働時間制の導入 今般の新型コロナウイルス感染症に関連して、人手不足のために労働時間が長くなる場合や、事業活動を縮小したために労働時間が短くなる場合については、1年単位の変形労働時間制を導入することで、1年間を通して労働時間の帳尻を合わせ、人件費の総額を維持することが考えられる。導入のためには、労使協定(過半数労働組合又は過半数代表者との書面による協定)を締結する必要がある。 (2) 賃金減額 賃金減額を使用者の一方的な判断により行おうとする場合、就業規則の不利益変更が問題となる。これについては、就業規則を労働者に周知するという前提で、就業規則の変更が、①労働者の受ける不利益の程度、②労働条件の変更の必要性、③変更後の就業規則の内容の相当性、④労働組合等との交渉の状況等の事情に照らして合理的なものであるときに限って認められる(労働契約法10条)。 賃金は、労働契約の根幹となる重要な条件であるから、この変更により①労働者の受ける不利益の程度は極めて大きいといえ、一般的にはそのハードルは高い。 しかしながら、新型コロナウイルスにより事業者が被っている打撃の大きさに照らせば、②労働条件の変更の必要性が極めて高い(労働条件を変更できなければ正社員の人員削減を行わざるを得ない、または倒産する)という場合も多くあるものと思われるところであり、その場合には、③変更後の就業規則の内容の相当性(賃金減額による不利益を労働者に公平に負担させる)、④労働組合等との交渉の状況(賃金減額の必要性が極めて高いことについて労働者に情報提供したうえで交渉する)にも配慮したうえであれば、就業規則の不利益変更による賃金減額も認められると考えるべきである。 労働者に対する情報提供及び交渉は、就業規則の不利益変更を有効に行うためにも必須である。最終的に同意が得られない労働者との関係では、就業規則の不利益変更で対応せざるを得ないとしても、できる限り多くの労働者に納得してもらい、賃金減額について個別の同意を得ることが望ましい。 (3) 正社員の人員削減 正社員の人員削減を使用者の一方的な判断により行う、いわゆる整理解雇については、解雇一般と同様に、解雇権濫用法理(労働契約法16条)の適用を受ける。しかし、労働者に落ち度がないことから、解雇一般に比べて、より具体的で厳しい制約を受けることとされ、裁判例上、①人員削減の必要性、②解雇回避措置の相当性、③人選の合理性、④手続の相当性の4要素を総合的に考慮して判断することとされている。 これらの要素の中では、②解雇回避措置の相当性が特に重要であり、「解雇回避措置」として、これまで述べてきたような施策や、労働者との合意による人員削減を目的とした施策(希望退職募集や退職勧奨)のうち、使用者の状況に照らして可能な限りの措置をとることが求められる。 ここでいう「使用者の状況」には、①人員削減の必要性がどれほど切羽詰まったものであるかということも含まれ、使用者の体力と時間的余裕によっては、可能な「解雇回避措置」が限られることもあり得る。その意味で、①人員削減の必要性と、②解雇回避措置の相当性とは、相関関係にある。 これまでの裁判例には、希望退職募集の不実施は、相当な理由がないと、解雇回避努力義務違反に当たるとするものもあったが、新型コロナウイルスの影響により倒産の危機に瀕しているという場合には、そこまでの措置は求められない可能性が高い。 とはいえ、整理解雇が認められるためのハードルは高く、その結果を予想することも困難であるうえ、訴訟を抱えること自体が、金銭・時間の両面で大きな負担であるから、労働者に人件費削減を必要とする状況を説明したうえ、退職に応じてもらう(あるいは賃金減額に応じてもらう)ことが望ましい。 なお、退職に応じてもらう際に、再雇用の約束をした場合、現行制度の下では、再就職活動の意思が否定され、失業保険を受給できない可能性があることに留意する必要がある。この点については、東日本大震災のときなどと同様に、「みなし失業制度」を導入し、休業者であっても失業保険を受給できるようにすること、あるいは、雇用保険未加入者をも対象にした新たな給付制度を導入することが検討されている。 (了)

#No. 373(掲載号)
#川上 邦久
2020/06/11
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