各ステップに移動する場合はこちらをクリック
【STEP3】注記
(1) 注記項目
会計上の見積りの注記は独立して、注記する(見積基準6)。そして、上記【STEP2】で識別した開示対象項目について、識別した会計上の見積りの内容を表す項目名を注記し(見積基準6)、各項目ごとに以下の事項を注記する(見積基準7、8、27、29、30)。
また、識別した項目が複数ある場合には、それらの項目名は単一の注記として記載する(見積基準6)。
【留意点】
➤上記①及び②の具体的な内容や記載方法は、【STEP1】の開示目的に照らして判断する(見積基準7)。したがって、上記②の(ⅰ)から(ⅲ)はあくまでも例示であるため、開示目的に照らして注記内容を判断する必要がある。
➤上記①及び②について、会計上の見積りの開示以外の注記に含めて注記している場合には、会計上の見積りに関する注記を記載するにあたり、当該他の注記項目を参照することにより当該事項の記載に代えることができる。
◎事例
IFRSや米国基準を適用している会社では、既に注記を行っている。「2021年3月期決算における会計処理の留意事項 【第2回】「Ⅴ 会計上の見積りの開示に関する会計基準」」に事例を掲載しているため、参照されたい。
(2) 連結財務諸表を作成している場合
連結財務諸表を作成している場合、個別財務諸表において注記を行う場合は、上記(1)の注記項目について連結財務諸表における記載を参照することができる(下記表の容認開示①)。
なお、識別した項目ごとに、当年度の個別財務諸表に計上した金額の算出方法に関する記載をもって上記(1)②の注記項目に代えることができる。この場合であっても、連結財務諸表における記載を参照することができる(見積基準9)(下記表の容認開示②)。
(3) KAMとの関連
監査上の主要な検討事項(KAM)として、会計上の見積り項目が選ばれる可能性が高いと考えられる。そして、監査人からKAMの記載にあたって、注記内容の充実を求められる可能性がある。
そのため、あらかじめ、会計上の見積りに関する注記のドラフトを作成し、監査人と事前に協議することにより、決算の早期化に役立てることができると考えられる。
(4) 有価証券報告書の「経理の状況」よりも前の記載
有価証券報告書の「経理の状況」よりも前において、「事業等のリスク」及び「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」でも会計上の見積りに関連する事項を記載するが、当該記載について、会計上の見積りに関する注記と内容が整合しているか確認する必要がある。
(5) 計算書類における注記
会計監査人設置会社においては、計算書類においても注記が必要である(会社計算規則102の3の2)。
◆会計上の見積りに関する注記
(ⅰ) 会計上の見積りにより当該事業年度に係る計算書類又は連結計算書類にその額を計上した項目であって、翌事業年度に係る(連結)計算書類に重要な影響を及ぼす可能性(※1)があるもの
(ⅱ) 当該事業年度に係る(連結)計算書類の上記(ⅰ)に掲げる項目に計上した額
(ⅲ) 上記(ⅱ)に掲げるもののほか、上記(ⅰ)に掲げる項目に係る会計上の見積りの内容に関する理解に資する情報(※2)
(下記、【会計上の見積りの内容に関する理解に資する情報の留意点】参照)
(※1) 会社計算規則では「可能性」と記載されているが、見積基準の「リスク」と同義であると考えられる。
(※2) 個別注記表の注記が連結注記表の注記と同一であり、個別注記表にその旨を注記する場合は、上記(ⅲ)について個別での注記は不要である。
【会計上の見積りの内容に関する理解に資する情報の留意点】
計算書類においても注記を求められることによる実務上の負担等も考慮し、各社の実情に応じて必要な限度での開示を可能とするため、注記項目は、概括的に、「上記(ⅰ)に掲げる項目に係る会計上の見積りの内容に関する理解に資する情報」とされている。
したがって、見積基準第8項(上記(1)②参照)において具体的に例示された事項であったとしても、各社の実情を踏まえ、計算書類においては当該事項の注記を要しないと合理的に判断される場合には、計算書類において当該事項について注記しないことも許容される(法務省「「会社計算規則の一部を改正する省令案」に関する意見募集の結果について」第3 意見の概要及び意見に対する当省の考え方7)。
なお、注記項目としては設けられていることから、全く注記をしないという対応は不適切である。そのため、各社、適切に判断した上で注記を行う必要がある。
* * *
以上、3つのステップをまとめたフロー・チャートを再掲する。
※画像をクリックすると、別ウィンドウでPDFが開きます。
【参考】
- 企業会計基準第31号「会計上の見積りの開示に関する会計基準」(ASBJ)
(了)
この連載の公開日程は、下記の連載目次をご覧ください。