公開日: 2021/04/28 (掲載号:No.417)
文字サイズ

フロー・チャートを使って学ぶ会計実務 【第55回】「会計上の見積り開示」

筆者: 西田 友洋

【STEP3】注記

(1) 注記項目

会計上の見積りの注記は独立して、注記する(見積基準6)。そして、上記【STEP2】で識別した開示対象項目について、識別した会計上の見積りの内容を表す項目名を注記し(見積基準6)、各項目ごとに以下の事項を注記する(見積基準7、8、27、29、30)。

また、識別した項目が複数ある場合には、それらの項目名は単一の注記として記載する(見積基準6)。


【留意点】

上記及びの具体的な内容や記載方法は、【STEP1】の開示目的に照らして判断する(見積基準7)。したがって、上記の(ⅰ)から(ⅲ)はあくまでも例示であるため、開示目的に照らして注記内容を判断する必要がある。

➤上記及びについて、会計上の見積りの開示以外の注記に含めて注記している場合には、会計上の見積りに関する注記を記載するにあたり、当該他の注記項目を参照することにより当該事項の記載に代えることができる。

◎事例

IFRSや米国基準を適用している会社では、既に注記を行っている。「2021年3月期決算における会計処理の留意事項 【第2回】「Ⅴ 会計上の見積りの開示に関する会計基準」」に事例を掲載しているため、参照されたい。

(2) 連結財務諸表を作成している場合

連結財務諸表を作成している場合、個別財務諸表において注記を行う場合は、上記(1)の注記項目について連結財務諸表における記載を参照することができる(下記表の容認開示)。

なお、識別した項目ごとに、当年度の個別財務諸表に計上した金額の算出方法に関する記載をもって上記(1)の注記項目に代えることができる。この場合であっても、連結財務諸表における記載を参照することができる(見積基準9)(下記表の容認開示)。

(3) KAMとの関連

監査上の主要な検討事項(KAM)として、会計上の見積り項目が選ばれる可能性が高いと考えられる。そして、監査人からKAMの記載にあたって、注記内容の充実を求められる可能性がある。

そのため、あらかじめ、会計上の見積りに関する注記のドラフトを作成し、監査人と事前に協議することにより、決算の早期化に役立てることができると考えられる。

(4) 有価証券報告書の「経理の状況」よりも前の記載

有価証券報告書の「経理の状況」よりも前において、「事業等のリスク」及び「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」でも会計上の見積りに関連する事項を記載するが、当該記載について、会計上の見積りに関する注記と内容が整合しているか確認する必要がある。

(5) 計算書類における注記

会計監査人設置会社においては、計算書類においても注記が必要である(会社計算規則102の3の2)。

会計上の見積りに関する注記

(ⅰ) 会計上の見積りにより当該事業年度に係る計算書類又は連結計算書類にその額を計上した項目であって、翌事業年度に係る(連結)計算書類に重要な影響を及ぼす可能性(※1)があるもの

(ⅱ) 当該事業年度に係る(連結)計算書類の上記(ⅰ)に掲げる項目に計上した額

(ⅲ) 上記(ⅱ)に掲げるもののほか、上記(ⅰ)に掲げる項目に係る会計上の見積りの内容に関する理解に資する情報(※2)
(下記、【会計上の見積りの内容に関する理解に資する情報の留意点】参照)

(※1) 会社計算規則では「可能性」と記載されているが、見積基準の「リスク」と同義であると考えられる。

(※2) 個別注記表の注記が連結注記表の注記と同一であり、個別注記表にその旨を注記する場合は、上記(ⅲ)について個別での注記は不要である。

【会計上の見積りの内容に関する理解に資する情報の留意点】
計算書類においても注記を求められることによる実務上の負担等も考慮し、各社の実情に応じて必要な限度での開示を可能とするため、注記項目は、概括的に、「上記(ⅰ)に掲げる項目に係る会計上の見積りの内容に関する理解に資する情報」とされている。

したがって、見積基準第8項(上記(1)参照)において具体的に例示された事項であったとしても、各社の実情を踏まえ、計算書類においては当該事項の注記を要しないと合理的に判断される場合には、計算書類において当該事項について注記しないことも許容される(法務省「「会社計算規則の一部を改正する省令案」に関する意見募集の結果について」第3 意見の概要及び意見に対する当省の考え方7)。

なお、注記項目としては設けられていることから、全く注記をしないという対応は不適切である。そのため、各社、適切に判断した上で注記を行う必要がある。

*  *  *

以上、3つのステップをまとめたフロー・チャートを再掲する。
※画像をクリックすると、別ウィンドウでPDFが開きます。

【参考】

(了)

この連載の公開日程は、下記の連載目次をご覧ください。

フロー・チャートを使って学ぶ会計実務

【第55回】

「会計上の見積り開示」

 

RSM清和監査法人
公認会計士 西田 友洋

 

【はじめに】

ASBJより2020年3月31日に「見積りの不確実性の発生要因」に係る注記情報の充実を目的として、企業会計基準第31項「会計上の見積りの開示に関する会計基準(以下、「見積基準」という)」が公表された。

適用時期は、以下のとおりである(見積基準10)。

〔原則〕

2021年3月31日以後終了する事業年度の年度末に係る(連結)財務諸表から適用する。

〔容認〕

公表日以後終了する事業年度の年度末に係る(連結)財務諸表から適用できる。

また、適用初年度の取扱いは、以下のとおりである(見積基準11)。

➤適用初年度において、見積基準の適用は表示方法の変更として取り扱う。

➤ただし、企業会計基準第24号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」第14項の定め(表示方法の変更による組替え)にかかわらず、見積基準に定める注記事項について、適用初年度の連結財務諸表及び個別財務諸表に併せて表示される前連結会計年度における連結財務諸表に関する注記及び前事業年度における個別財務諸表に関する注記(比較情報)に記載しないことができる

上記のとおり、見積基準は、2021年3月期から適用される。また、有価証券報告書のみならず、計算書類においても注記が必要となるため、上場会社のみならず、非上場会社においても対応が必要となる。そのため、今回は、この見積基準について解説する。

この記事全文をご覧いただくには、プロフェッションネットワークの会員(プレミアム
会員又は一般会員)としてのログインが必要です。
通常、Profession Journalはプレミアム会員専用の閲覧サービスですので、プレミアム
会員のご登録をおすすめします。
プレミアム会員の方は下記ボタンからログインしてください。

プレミアム会員のご登録がお済みでない方は、下記ボタンから「プレミアム会員」を選択の上、お手続きください。

連載目次

フロー・チャートを使って学ぶ会計実務

第1回~第30回

筆者紹介

西田 友洋

(にしだ・ともひろ)

史彩監査法人 パートナー
公認会計士

2007年10月に準大手監査法人に入所。2019年8月にRSM清和監査法人に入所。2022年2月に史彩監査法人に入所。
主に法定監査、上場準備会社向けの監査を中心に様々な業種の会計監査業務に従事する。また、会社買収に当たっての財務デューデリジェンス、IPOを目指す会社への内部統制コンサル及び短期調査、収益認識コンサル実績もある。
他に、決算留意事項セミナーや収益認識セミナー等の講師実績もある。

【日本公認会計士協会委員】
監査・保証基準委員会 委員(現任)
監査・保証基準委員会 起草委員会 起草委員(現任)
中小事務所等施策調査会 「監査専門委員会」専門委員(現任)
品質管理基準委員会 起草委員会 起草委員
中小事務所等施策調査会 「SME・SMP対応専門委員会」専門委員
監査基準委員会「監査基準委員会作業部会」部会員

【書籍】
「図解と設例で学ぶ これならわかる連結会計」(共著/日本実業出版社)等

#