公開日: 2021/04/28 (掲載号:No.417)
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フロー・チャートを使って学ぶ会計実務 【第55回】「会計上の見積り開示」

筆者: 西田 友洋

【STEP2】開示対象項目の識別

会計上の見積りの注記を行うにあたり、全ての会計上の見積り項目について注記が求められているわけではなく、比較的少数の項目を注記することが想定されている(見積基準25)。そのため、どの会計上の見積り項目を注記対象とするかを識別する必要がある。

◎識別の判断基準

会計上の見積りの開示を行うにあたり、まず、当年度の財務諸表に計上した金額が会計上の見積りによるもののうち、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある項目(開示対象項目)を識別する

識別する項目は、通常、当年度の財務諸表に計上した資産及び負債である。ただし、当年度の財務諸表に計上した収益及び費用、並びに会計上の見積りの結果、当年度の財務諸表に計上しないこととした負債を識別することもできる。

また、翌年度の財務諸表に与える影響を検討するにあたっては、影響の金額的大きさ及びその発生可能性を総合的に勘案して判断する(見積基準5、23、24)。

〔開示対象項目〕

当年度の財務諸表に計上した金額が会計上の見積りによるもののうち、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある項目。

〔開示対象科目〕

通常、当年度の財務諸表に計上した資産及び負債。

ただし、当年度の財務諸表に計上した収益及び費用、並びに会計上の見積りの結果、当年度の財務諸表に計上しないこととした負債を識別することもできる。

〔判断基準〕

➤翌年度の財務諸表に与える影響の検討にあたっては、「影響の金額的大きさ」及びその「発生可能性」を総合的に勘案して判断する具体的な数値基準は見積基準では示されていない)。

➤翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクの判断にあたって、直近の市場価格により時価評価する資産及び負債の市場価格の変動は、会計上の見積りに起因するものではないため、考慮しない

〔判断にあたっての具体例〕

当年度の財務諸表に計上した金額に重要性があるものに着目して開示対象項目を識別するのではなく、当年度の財務諸表に計上した金額が会計上の見積りによるもののうち、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがあるものに着目して開示項目を識別する。

➤固定資産について減損損失の認識を行わない場合でも、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクを検討した上で、当該固定資産を開示対象項目として識別する可能性がある。

➤以下の項目について、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある場合には、開示対象項目として識別することもあり得る。

✓ 当年度の財務諸表に計上した収益及び費用(例えば、一定の期間にわたり充足される履行義務に係る収益の認識やストック・オプションの費用処理額の見積り等)

✓ 会計上の見積りの結果、当年度の財務諸表に計上しないこととした負債(偶発債務等)

✓ 注記において開示する金額を算出するにあたって見積りを行ったものについて、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある場合(金融商品に関する会計基準第40-2項(2)及び賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準第8項(3)に基づき会計上の見積りによる時価を開示する場合等)

フロー・チャートを使って学ぶ会計実務

【第55回】

「会計上の見積り開示」

 

RSM清和監査法人
公認会計士 西田 友洋

 

【はじめに】

ASBJより2020年3月31日に「見積りの不確実性の発生要因」に係る注記情報の充実を目的として、企業会計基準第31項「会計上の見積りの開示に関する会計基準(以下、「見積基準」という)」が公表された。

適用時期は、以下のとおりである(見積基準10)。

〔原則〕

2021年3月31日以後終了する事業年度の年度末に係る(連結)財務諸表から適用する。

〔容認〕

公表日以後終了する事業年度の年度末に係る(連結)財務諸表から適用できる。

また、適用初年度の取扱いは、以下のとおりである(見積基準11)。

➤適用初年度において、見積基準の適用は表示方法の変更として取り扱う。

➤ただし、企業会計基準第24号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」第14項の定め(表示方法の変更による組替え)にかかわらず、見積基準に定める注記事項について、適用初年度の連結財務諸表及び個別財務諸表に併せて表示される前連結会計年度における連結財務諸表に関する注記及び前事業年度における個別財務諸表に関する注記(比較情報)に記載しないことができる

上記のとおり、見積基準は、2021年3月期から適用される。また、有価証券報告書のみならず、計算書類においても注記が必要となるため、上場会社のみならず、非上場会社においても対応が必要となる。そのため、今回は、この見積基準について解説する。

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連載目次

フロー・チャートを使って学ぶ会計実務

第1回~第30回

筆者紹介

西田 友洋

(にしだ・ともひろ)

史彩監査法人 パートナー
公認会計士

2007年10月に準大手監査法人に入所。2019年8月にRSM清和監査法人に入所。2022年2月に史彩監査法人に入所。
主に法定監査、上場準備会社向けの監査を中心に様々な業種の会計監査業務に従事する。また、会社買収に当たっての財務デューデリジェンス、IPOを目指す会社への内部統制コンサル及び短期調査、収益認識コンサル実績もある。
他に、決算留意事項セミナーや収益認識セミナー等の講師実績もある。

【日本公認会計士協会委員】
監査・保証基準委員会 委員(現任)
監査・保証基準委員会 起草委員会 起草委員(現任)
中小事務所等施策調査会 「監査専門委員会」専門委員(現任)
品質管理基準委員会 起草委員会 起草委員
中小事務所等施策調査会 「SME・SMP対応専門委員会」専門委員
監査基準委員会「監査基準委員会作業部会」部会員

【書籍】
「図解と設例で学ぶ これならわかる連結会計」(共著/日本実業出版社)等

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