公開日: 2018/03/08 (掲載号:No.259)
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AIで士業は変わるか? 【第5回】「AIの時代の税理士業を予想する」

筆者: 関根 稔

カテゴリ:

AI

士業変わるか?

【第5回】

「AIの時代の税理士業を予想する」

 

税理士・公認会計士・弁護士 関根 稔

 

AIが意識を持つ時代

「コンピューターが人間と同じ思考をするようになる」「ロボットが意識を持つようになる」などの議論があるが、そんなことは全くあり得ない。

そもそも人間の意識とは何なのか、人間の思考とは何なのか、人間の脳の働き、記憶などについて、何一つ解明されていないところで、機械が、人間の役割を演じることなどあり得ない。

AIが人間に代わって思考し、働くようになり、専門職の人たちは仕事を失う。そのような意見があるが、それは全くの過剰反応だ。

コンピューターがディープラーニングによってプロの棋士に勝つまでに成長した。それはブルドーザーが相撲取りより重い物を持ち上げられるようになったのと同じように、単純な作業に特化した機械が登場しただけのことだ。

将棋の棋譜で人生が語れるわけではない。

 

ディープラーニングという知能

そもそもディープラーニングは「分類」と「区分」ができるだけだ。猫の画像をグルーピングして、犬の画像をセパレーションするが、それが猫だと認識しているわけではない。ただ「A」と分類しているだけだ。数字や言葉などデータとして表現できるモノしか扱えず、「これを分類しろ」という命令が実行できるだけのことだ。

ディープラーニングが騒がれるのは、先に定義することなく、機械自体が分類精度を自ら向上させていくことができるシステムということだ。しかし、どのような判断基準で分類したかを自らは語れないという意味で、郵便物の自動仕分け機と差異はない。

人間の脳を人工知能で模倣するというのはSFの世界で、人工知能で人間の仕事がなくなるというのは妄想の会話だろう。脳の機能自体が全く解明されていない段階で、脳を模倣する機械など作れないのは自明の理だ。私自身はディープラーニングの技術を知らないので次の書籍の受け売りだが、もっともな理解だと思う(田中潤・松本健太郎 著『誤解だらけの人工知能 ディープラーニングの限界と可能性』光文社、2018年)。

 

税理士が消えてしまう職業に

米国発の情報として、税理士業がAIによって消えてしまう職業にリストされたようだが、そもそも税理士という職業は米国に存在しない。消えてしまうと定義されたのは、おそらく企業の経理担当者や銀行の窓口業務の人たちだろう。

そのような職業は、ここで指摘されるまでもなく10年前に比較すれば半減、いや10分の1にまで減っている。現場で入力する数字が、即、経理情報として集計される時代だ。昭和の時代、大企業には大量の経理職員が存在したが、いま、経理職員は数えるほどしか存在しないと思う。さらに、経理業務がプロの仕事からコンピューター入力という単純作業になっていることも指摘できる。

 

税理士こそがAIの最先端を走る

中小零細企業で、最初にコンピューター化したのは税理士業だ。手書きの元帳からオフコン会計に乗り換え、パソコン会計、税務申告書ソフト、電子申告と事務作業の電算化をいち早く取り入れてきた。

AIの進化は、税理士業に役立ちこそすれ、税理士業の障害になるはずはない。それは、これからも同様であって、コンピューターと税理士業の関係はバラ色でしかない。上手にこれらの道具を利用すれば、時間や場所から開放され自由に仕事ができるし、依頼者との距離もゼロにした仕事ができる。

現に、私の顧問先は日本中に散らばっていて、会ったこともない顧問先とメールで情報交換している。目の前にパソコンがなければ5分と間が持たないが、しかし、目の前にパソコンがあれば場所は問わない。24時間、365日が仕事の時間になっている。

バラバラの時間をバラバラに利用できるようにしてくれたのがコンピューター、ネット、メールという道具だ。そんなことは10年前には不可能だったし、10年後には、さらに便利な社会になっていると思う。

 

Googleより優秀な税理士

ただ、AI、いや、それ以前にコンピューター、ネット、メールが知的専門職の仕事の仕方を変えてしまったのは事実だろう。いま、Googleより優秀な税理士は存在しないと思う。知識、情報、経験、ノウハウのオープン化が訪れる。いや、既に、そのような時代になっている。

有料の出版情報として提供されていた通達集は全て無料の電子情報になり、タックスアンサー、質疑応答事例、法令解釈の情報、文書回答事例、裁決事例集も無料で公開されている。Googleで検索すれば信頼できる同業者の解説が容易に手に入る。

専門家が財産としていた情報の価値が失われる時代だ。専門家が知識を語っても、その信頼性はGoogleで直ちに検証されてしまう。

 

知識と共に人生を語る税理士

そのような時代に、税理士は、どのようなスタイルで仕事をすべきか。手書きの帳簿で、借方と貸方を合わせて、別表4と5を書いていたのでは生き残れないのは確かだ。

過去は分析できるが、未来を語るのは容易ではない。それでも、あえて未来を語れば、知識を語る時代ではなく、平穏、経験、人生を語るべき時代だと思う。

部品人間はサラリーマンに任せて、自己責任で生きてきた私たちは、人生の指針を語る存在にならなければならない。それが他人の財産と人生を管理する税理士の立ち位置だと思う。

(了)

この連載の公開日程は、下記の連載目次をご覧ください。

AI

士業変わるか?

【第5回】

「AIの時代の税理士業を予想する」

 

税理士・公認会計士・弁護士 関根 稔

 

AIが意識を持つ時代

「コンピューターが人間と同じ思考をするようになる」「ロボットが意識を持つようになる」などの議論があるが、そんなことは全くあり得ない。

そもそも人間の意識とは何なのか、人間の思考とは何なのか、人間の脳の働き、記憶などについて、何一つ解明されていないところで、機械が、人間の役割を演じることなどあり得ない。

AIが人間に代わって思考し、働くようになり、専門職の人たちは仕事を失う。そのような意見があるが、それは全くの過剰反応だ。

コンピューターがディープラーニングによってプロの棋士に勝つまでに成長した。それはブルドーザーが相撲取りより重い物を持ち上げられるようになったのと同じように、単純な作業に特化した機械が登場しただけのことだ。

将棋の棋譜で人生が語れるわけではない。

 

ディープラーニングという知能

そもそもディープラーニングは「分類」と「区分」ができるだけだ。猫の画像をグルーピングして、犬の画像をセパレーションするが、それが猫だと認識しているわけではない。ただ「A」と分類しているだけだ。数字や言葉などデータとして表現できるモノしか扱えず、「これを分類しろ」という命令が実行できるだけのことだ。

ディープラーニングが騒がれるのは、先に定義することなく、機械自体が分類精度を自ら向上させていくことができるシステムということだ。しかし、どのような判断基準で分類したかを自らは語れないという意味で、郵便物の自動仕分け機と差異はない。

人間の脳を人工知能で模倣するというのはSFの世界で、人工知能で人間の仕事がなくなるというのは妄想の会話だろう。脳の機能自体が全く解明されていない段階で、脳を模倣する機械など作れないのは自明の理だ。私自身はディープラーニングの技術を知らないので次の書籍の受け売りだが、もっともな理解だと思う(田中潤・松本健太郎 著『誤解だらけの人工知能 ディープラーニングの限界と可能性』光文社、2018年)。

 

税理士が消えてしまう職業に

米国発の情報として、税理士業がAIによって消えてしまう職業にリストされたようだが、そもそも税理士という職業は米国に存在しない。消えてしまうと定義されたのは、おそらく企業の経理担当者や銀行の窓口業務の人たちだろう。

そのような職業は、ここで指摘されるまでもなく10年前に比較すれば半減、いや10分の1にまで減っている。現場で入力する数字が、即、経理情報として集計される時代だ。昭和の時代、大企業には大量の経理職員が存在したが、いま、経理職員は数えるほどしか存在しないと思う。さらに、経理業務がプロの仕事からコンピューター入力という単純作業になっていることも指摘できる。

 

税理士こそがAIの最先端を走る

中小零細企業で、最初にコンピューター化したのは税理士業だ。手書きの元帳からオフコン会計に乗り換え、パソコン会計、税務申告書ソフト、電子申告と事務作業の電算化をいち早く取り入れてきた。

AIの進化は、税理士業に役立ちこそすれ、税理士業の障害になるはずはない。それは、これからも同様であって、コンピューターと税理士業の関係はバラ色でしかない。上手にこれらの道具を利用すれば、時間や場所から開放され自由に仕事ができるし、依頼者との距離もゼロにした仕事ができる。

現に、私の顧問先は日本中に散らばっていて、会ったこともない顧問先とメールで情報交換している。目の前にパソコンがなければ5分と間が持たないが、しかし、目の前にパソコンがあれば場所は問わない。24時間、365日が仕事の時間になっている。

バラバラの時間をバラバラに利用できるようにしてくれたのがコンピューター、ネット、メールという道具だ。そんなことは10年前には不可能だったし、10年後には、さらに便利な社会になっていると思う。

 

Googleより優秀な税理士

ただ、AI、いや、それ以前にコンピューター、ネット、メールが知的専門職の仕事の仕方を変えてしまったのは事実だろう。いま、Googleより優秀な税理士は存在しないと思う。知識、情報、経験、ノウハウのオープン化が訪れる。いや、既に、そのような時代になっている。

有料の出版情報として提供されていた通達集は全て無料の電子情報になり、タックスアンサー、質疑応答事例、法令解釈の情報、文書回答事例、裁決事例集も無料で公開されている。Googleで検索すれば信頼できる同業者の解説が容易に手に入る。

専門家が財産としていた情報の価値が失われる時代だ。専門家が知識を語っても、その信頼性はGoogleで直ちに検証されてしまう。

 

知識と共に人生を語る税理士

そのような時代に、税理士は、どのようなスタイルで仕事をすべきか。手書きの帳簿で、借方と貸方を合わせて、別表4と5を書いていたのでは生き残れないのは確かだ。

過去は分析できるが、未来を語るのは容易ではない。それでも、あえて未来を語れば、知識を語る時代ではなく、平穏、経験、人生を語るべき時代だと思う。

部品人間はサラリーマンに任せて、自己責任で生きてきた私たちは、人生の指針を語る存在にならなければならない。それが他人の財産と人生を管理する税理士の立ち位置だと思う。

(了)

この連載の公開日程は、下記の連載目次をご覧ください。

連載目次

AIで士業は変わるか?
(全20回)

  • 【第7回】 デジタルで実現する未来の会計監査
    加藤信彦(新日本有限責任監査法人 アシュアランス・イノベーション・ラボ 統括責任者、公認会計士)
    小形康博(新日本有限責任監査法人 アシュアランス・イノベーション・ラボ、公認会計士)

筆者紹介

関根 稔

(せきね・みのる)

税理士・公認会計士・弁護士

昭和45年 公認会計士二次試験合格。税理士試験合格
昭和47年 東京経済大学卒業。司法試験合格
昭和49年 公認会計士三次試験合格
昭和50年 司法研修所を経て弁護士登録。関根稔法律事務所開設
平成2年 東京弁護士会税務特別委員会委員長
平成4年 日弁連弁護士税制委員会委員長
平成16~25年 青山学院大学大学院講師
平成19~21年 税務大学校講師

【主な著書】
・『組織再編税制をあらためて読み解く―立法趣旨と保護法益からの検討』(共著、中央経済社、2017年)
・『立法趣旨で読み解く 組織再編税制・グループ法人税制』(共著、中央経済社、2017年)
・『続 税理士のための百箇条』(財経詳報社、2014年)
・『一般社団法人 一般財団法人 信託の活用と課税関係』(共著、ぎょうせい、2013年)
・『税理士のための百箇条―実務と判断の指針』(財経詳報社、2013年)
ほか多数

関連書籍

生産性向上のための建設業バックオフィスDX

一般財団法人 建設産業経理研究機構 編

図解&条文解説 税理士法

日本税理士会連合会 監修 近畿税理士会制度部 編著

CSVの “超” 活用術

税理士・中小企業診断士 上野一也 著

わたしは税金

公認会計士・税理士 鈴木基史 著

税理士との対話で導く 会社業務の電子化と電子帳簿保存法

税理士 上西左大信 監修 公認会計士・税理士 田淵正信 編著 公認会計士 藤田立雄 共著 税理士 山野展弘 共著 公認会計士・税理士 大谷泰史 共著 公認会計士・税理士 圓尾紀憲 共著 公認会計士・税理士 久保 亮 共著

令和4年 税理士法改正 徹底解説

日本税理士会連合会 監修近畿税理士会制度部 編著

資産税コンサル、一生道半ば

税理士 株式会社タクトコンサルティング会長 本郷尚 著

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