公開日: 2015/06/25 (掲載号:No.125)
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フロー・チャートを使って学ぶ会計実務 【第18回】「親会社による子会社の吸収合併~個別財務諸表のみ作成している会社の場合~」

筆者: 西田 友洋

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【STEP4】親会社による100%子会社の吸収合併

非支配株主がいない子会社を吸収合併する場合、言い換えると100%子会社を吸収合併する場合、親会社では以下の順に検討する。

(1) 子会社の資産及び負債の引き継ぎ

(2) 株主資本項目以外の純資産項目の引き継ぎ

(3) 株主資本項目の会計処理

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(1) 子会社の資産及び負債の引き継ぎ

【STEP1】で算定した子会社の資産及び負債を引き継ぐ(適用指針206(1))

 

(2) 株主資本項目以外の純資産項目の引き継ぎ

【STEP1】で算定した子会社の合併期日の前日の評価・換算差額等(親会社が作成する連結財務諸表において投資と資本の消去の対象とされたものを除く)及び新株予約権の適正な帳簿価額を引き継ぐ。評価・換算差額等を連結財務諸表の帳簿価額で引き継ぐ場合、子会社のその他有価証券評価差額金や土地再評価差額金の適正な帳簿価額のうち、支配獲得後に子会社が計上したものを引き継ぐ(適用指針206(2)②)。

 

(3) 株主資本項目の会計処理

上記(1)及び(2)の合計額と親会社が合併直前に保有していた子会社株式(抱合せ株式)の適正な帳簿価額との差額を、「抱合せ株式消滅差益」等の勘定科目で特別損益に計上する(適用指針206(2)①ア)。

「抱合せ株式消滅差益」

=上記(1)及び(2)の合計額 - 抱合せ株式(子会社株式)

この差額は、株主との資本取引ではなく、子会社を通して実現した事業投資の成果であるために、損益として計上する。

この後は、【STEP5】を検討する。

【合併による繰延税金資産の回収可能性の判断】(再掲)
繰延税金資産の回収可能性は、合併存続会社の収益力に基づく課税所得の十分性等により判断し、企業結合による影響は、企業結合年度から反映させる。
将来年度の課税所得の見積額による繰延税金資産の回収可能性を過去の業績等に基づいて判断する場合には、企業結合年度以後、合併消滅会社に係る過年度の業績等を合併存続会社に係るものと合算した上で課税所得を見積る(適用指針75)。

したがって、企業結合年度前に合併の方針が決まっていたとしても、合併による課税所得の増減の影響は、企業結合年度以後から反映させることになる。

《設例2》

【前提条件】

  • 親会社A社は子会社B社の100%の株式を保有している(支配獲得時から持分比率は変動していない)。
  • 親会社A社は連結財務諸表を作成していない。
  • 親会社A社の当期末の貸借対照表は以下のとおりである。

  • 子会社B社の当期末の貸借対照表は以下のとおりである。

  • 当期末に親会社A社は子会社B社を吸収合併する。
  • 連結財務諸表上の帳簿価額を合理的に算定することが困難と認められるため、合併にあたっては、子会社の適正な帳簿価額を引き継ぐ。

【会計処理】

(※1) 子会社の帳簿価額

(※2) A社保有株式の帳簿価額

(※3) 差額

合併後のA社の貸借対照表

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フロー・チャートを使って学ぶ会計実務

【第18回】

「親会社による子会社の吸収合併

~個別財務諸表のみ作成している会社の場合~」

 

仰星監査法人
公認会計士 西田 友洋

 

【はじめに】

今回は、親会社による子会社の吸収合併について解説する。吸収合併とは、会社が他の会社とする合併であって、合併により消滅する会社の権利義務の全部を合併後存続する会社に承継させるものをいう(会社法2条27項)。

そして、親会社による子会社の吸収合併は、「共通支配下の取引」に該当する。「共通支配下の取引」とは、結合当事企業(又は事業)のすべてが、企業結合の前後で同一の株主により最終的に支配され、かつ、その支配が一時的ではない場合の企業結合をいう(企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準(以下、「基準」という)」16)。

また、本解説では、親会社が子会社を吸収合併し、かつ、個別財務諸表「のみ」作成している場合を前提に解説する。なお、孫会社や中間子会社がある場合については、解説していない。

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連載目次

フロー・チャートを使って学ぶ会計実務

第1回~第30回

筆者紹介

西田 友洋

(にしだ・ともひろ)

公認会計士

2007年に、仰星監査法人に入所。
法定監査、上場準備会社向けの監査を中心に様々な業種の会計監査業務に従事する。
その他、日本公認会計士協会の中小事務所等施策調査会「監査専門部会」専門委員に就任している。
2019年7月退所。

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