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【STEP1】工事完成基準と工事進行基準の選択
工事契約の収益認識基準としては工事完成基準と工事進行基準がある(企業会計基準第15号「工事契約に関する会計基準」(以下、「基準」という)6(3)(4))。
【工事完成基準】
工事契約に関して、工事が完成し、目的物の引渡しを行った時点で、工事収益及び工事原価を認識する方法
【工事進行基準】
工事契約に関して、工事収益総額、工事原価総額及び決算日における工事進捗度を合理的に見積り、これに応じて当期の工事収益及び工事原価を認識する方法
工事契約に関して、工事の進行途上において、工事の進捗部分の成果の確実性が認められる場合には工事進行基準を適用する。成果の確実性が認められない場合には工事完成基準を適用する(基準9)。
そのため、工事完成基準と工事進行基準を選択するために成果の確実性が認められるかどうかを検討する必要がある。
具体的には、成果の確実性が認められるには① 工事収益総額、② 工事原価総額、③ 決算日における工事進捗度の3つについて信頼性をもって見積ることができなければならない(基準9)。したがって、この3つについて信頼性をもって見積ることができるかどうかを検討する必要がある。また、当初の成果の確実性と翌期以降の成果の確実性に分けて検討する必要がある。
なお、工期の長さは工事進行基準と工事完成基準の適用の選択には関係しない(基準52)。つまり、工期が1年以下の工事であっても、進捗部分の成果の確実性が認められ、年度の会計期間又は四半期会計期間をまたぐ場合には、工事進行基準を適用する。ただし、工期がごく短い工事は、通常、金額的な重要性が乏しく、工事契約としての性格にも乏しい場合が多いと想定される。そのため、このような工事は、通常、工事完成基準を適用する(基準53)。
(1) 当初の成果の確実性
① 工事収益総額
② 工事原価総額
③ 決算日における工事進捗度
(2) 翌期以降の成果の確実性
(1) 当初の成果の確実性
① 工事収益総額、② 工事原価総額、③ 決算日における工事進捗度について検討する。
① 工事収益総額
工事収益総額について信頼性をもって見積るためには以下の2つの条件を満たす必要がある。
(ⅰ) 工事の完成見込みが確実であること
(ⅱ) 対価の定めがあること
(ⅰ) 工事の完成見込みが確実であること
信頼性をもって工事収益総額を見積るための前提条件として、工事の完成見込みが確実であることが必要である。具体的には、施工者に当該工事を完成させるに足りる十分な能力があり、かつ、完成を妨げる環境要因が存在しないことが必要である(基準10)。
工事の完成見込みが確実であれば、下記(ⅱ)を検討する。確実でなければ、工事完成基準を適用するため【STEP2】を検討する。
(ⅱ) 対価の定めがあること
工事収益総額について信頼性をもって見積るためには、工事契約において当該工事についての「対価の定め」があることが必要である。「対価の定め」とは、当事者間で実質的に合意された対価の額に関する定め、対価の決済条件、決済方法に関する定めをいう。
対価の額に関する定めには、対価の額が固定額で定められている場合のほか、その一部又は全部が将来の不確実な事象に関連付けて定められている場合がある(基準11)。
② 工事原価総額
工事原価総額(材料費、外注費、労務費、経費)について信頼性をもって見積ることができるかどうかを検討する。工事原価総額について信頼性をもって見積るためには、工事契約に関する実行予算等や工事原価等に関する管理体制の整備が不可欠である(基準50)。
工事原価総額について信頼性をもって見積ることができれば、下記③を検討する。信頼性をもって見積ることができなければ、工事完成基準を適用するため【STEP2】を検討する。
③ 決算日における工事進捗度
決算日における工事進捗度を見積る方法を決定し、信頼性をもって見積ることができるかどうか検討する。決算日における工事進捗度とは、工事契約に係る認識の単位に含まれている施工者の履行義務全体のうち、決算日までに遂行した部分の割合である(基準35)。また、決算日における工事進捗度は原価比例法等の、工事契約における施工者の履行義務全体との対比において、決算日における当該義務の遂行の割合を合理的に反映する方法を用いて見積る(基準15)。
決算日における工事進捗度としては、原価比例法(決算日における工事進捗度を見積る方法のうち、決算日までに実施した工事に関して発生した工事原価が工事原価総額に占める割合をもって決算日における工事進捗度とする方法)を採用することが多いが、原価比例法以外にも、より合理的に工事進捗度を把握することが可能な見積方法があり得る(基準6(7)、15)。
決算日における工事進捗度を見積る方法として原価比例法(【STEP3】参照)を採用している場合と原価比例法以外の方法を採用している場合で検討過程が異なる。
(ⅰ) 原価比例法を採用している場合
決算日における工事進捗度を見積る方法として原価比例法を採用する場合、上記②の要件が満たされていれば、通常、決算日における工事進捗度も信頼性をもって見積ることができる(基準13)。
成果の確実性が認められるため、工事進行基準を適用する。次は【STEP3】を検討する。
(ⅱ) 原価比例法以外の方法を採用している場合
原価比例法以外の方法を採用する場合は、決算日における工事進捗度が信頼性をもって見積ることができるかどうかを検討する必要がある。
例えば、工事の進捗が工事原価総額よりも直接作業時間とより関係が深い場合には、直接作業時間比率を採用することになる。そして、この場合、当期の直接作業時間の正確な集計及び総直接作業時間等について信頼性をもって見積ることができるかどうかを検討する必要がある。
決算日における工事進捗度について信頼性をもって見積ることができれば、成果の確実性が認められるため、工事進行基準を適用する。この場合、【STEP3】を検討する。
信頼性をもって見積ることができなければ、工事完成基準を適用するため【STEP2】を検討する。
(2) 翌期以降の成果の確実性
当初は成果の確実性が認められなかったが、翌期以降に成果の確実性が認められる場合がある。また、当初は成果の確実性が認められていたが、翌期以降に成果の確実性が認められなくなる場合がある。このような場合には、以下のような検討が必要となる。
① 当初は成果の確実性が認められなかったが、翌期以降に成果の確実性が認められる場合
当初は成果の確実性が認められなかったため工事完成基準を適用している工事契約について、その後に工事が進捗し、工事の完成が近づいたことによって成果の確実性が増した場合でも、そのことのみを理由として、工事完成基準から工事進行基準に変更することはできない(企業会計基準適用指針第18号「工事契約に関する会計基準の適用指針」(以下、「適用指針」という)3前段)。
ただし、工事収益総額等、工事契約の基本的な内容が定まらないこと等の事象の存在により、成果の確実性が認められないと判断されていた場合で、その後に当該事象の変化により、成果の確実性が認められることとなったときには、その時点より工事進行基準を適用する(適用指針3後段)。
② 当初は成果の確実性が認められていたが、翌期以降に成果の確実性が認められなくなった場合
事後的な事情の変化により成果の確実性が失われた場合には、その後の会計処理については工事完成基準を適用する。この場合、原則として過去に遡って修正する必要はない(適用指針4)。