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【STEP1】連結財務諸表固有の一時差異の集計
個別財務諸表で集計したものだけが一時差異ではない。連結手続によっても一時差異は生じる。連結手続により生じる一時差異のことを連結財務諸表固有の一時差異という。
連結財務諸表固有の一時差異についても税効果会計を適用する必要があるため、まず、連結財務諸表固有の一時差異を連結会社(納税会社)ごとに集計する(会計制度委員会報告第6号連結財務諸表における税効果会計に関する実務指針(以下、「連結実務指針」という)10)。
また、連結財務諸表固有の一時差異も個別財務諸表における一時差異と同様に、将来減算一時差異と将来加算一時差異に分類することができる(連結実務指針5)。ただし、連結財務諸表固有の一時差異は、連結手続上で発生するだけで、実際の課税所得の計算には関係しないということに留意が必要である。
〈将来減算一時差異〉
連結手続の結果として連結貸借対照表上の資産(負債)が、連結会社の個別貸借対照表上の資産(負債)を下回(上回)っていて、将来、当該差異が解消されるときに、連結財務諸表上の利益が減少することによって、その減少後の利益と連結会社の個別財務諸表上の利益を一致させるものである(連結実務指針6)。
〈将来加算一時差異〉
連結手続の結果として連結貸借対照表上の資産(負債)が、連結会社の個別貸借対照表上の資産(負債)を上回(下回)っていて、将来、当該差異が解消されるときに、連結財務諸表上の利益が増加することによって、その増額後の利益と連結会社の個別財務諸表上の利益を一致させるものである(連結実務指針8)。
* * * *
連結財務諸表固有の一時差異は、大きく(1)連結上の会計方針の統一により生じる一時差異、(2)資本連結により生じる一時差異、(3)成果連結により生じる一時差異に分けることができる(連結実務指針3、4)。そのため、連結財務諸表固有の一時差異の集計の際には、一時差異が、(1)から(3)のどの内容により生じているかを検討し、集計することになる。
主な連結財務諸表固有の一時差異は以下のとおりである。
(1) 連結上の会計方針の統一により生じる一時差異
連結上の会計方針の統一を連結手続上で行った場合に、個別貸借対照表上の資産又は負債の金額と連結貸借対照表上の資産又は負債の金額が相違するときの当該差額(連結実務指針4(1))
(個別財務諸表の単純合算前に会計方針の統一を行うことも考えられるが、ここでは、単純合算後に会計方針の統一を行うことを前提としている。)
(2) 資本連結により生じる一時差異
① 子会社支配獲得時における子会社の資産及び負債の時価評価に伴う評価差額(連結実務指針21~26)
② 子会社株式評価損及び投資損失引当金の連結修正に伴う差異(連結実務指針28)
③ 子会社への投資の個別上の簿価と連結上の簿価の差異(連結実務指針29~38-3)
④ 投資の一部売却により子会社及び関連会社に該当しなくなった場合又は子会社の増資等を行った場合(法人税等調整額相当額の利益剰余金への計上)の差異(連結実務指針39~40)
(3) 成果連結により生じる一時差異
① 未実現損益の消去に係る差異(連結実務指針12~17-2)
② 債権債務の消去に伴い減額修正される貸倒引当金(連結実務指針18~20)
なお、連結手続上、計上される「のれん(負ののれん)」については、繰延税金負債(繰延税金資産)は計上しない(連結実務指針27)。
(1) 連結上の会計方針の統一により生じる一時差異
連結財務諸表作成にあたって親子会社の会計方針を統一する必要がある。この統一により子会社の貸借対照表に計上している資産又は負債と連結財務諸表に計上される資産又は負債に差額が生じる場合がある。この差額が一時差異に該当する。
(2) 資本連結により生じる一時差異
資本連結により生じる一時差異は、大きく以下の4つに分けることができる。
① 子会社支配獲得時における子会社の資産及び負債の時価評価に伴う評価差額
② 子会社株式評価損及び投資損失引当金の連結修正に伴う差異
③ 子会社への投資の個別上の簿価と連結上の簿価の差異
④ 投資の一部売却により子会社及び関連会社に該当しなくなった場合又は子会社の増資等を行った場合(法人税等調整額相当額の利益剰余金への計上)の差異
(※) ④については、本解説では省略している。
① 子会社支配獲得時における子会社の資産及び負債の時価評価に伴う評価差額
連結手続上、子会社支配獲得時に子会社の資産及び負債を時価評価することにより評価差額が生じる。これにより、個別貸借対照表に計上している資産及び負債と連結貸借対照表に計上する資産及び負債に差額が生じる。この差額が一時差異に該当する。
この一時差異は、資産の売却、減価償却(償却資産の場合)等により解消される。
② 子会社株式評価損及び投資損失引当金の連結修正に伴う差異
個別貸借対照表上の子会社株式に対して、子会社株式評価損又は投資損失引当金(以下、「子会社株式評価損等」という)を計上している場合、連結上、これらは消去する。そのため、子会社株式評価損等が税金計算上、損金算入されていない場合、子会社投資に対する個別上の簿価と連結上の簿価に差額が生じる。当該差額が一時差異(将来加算一時差異)となる(連結実務指針28)。
そして、個別財務諸表上、子会社株式評価損等に係る繰延税金資産を計上している場合、当該将来加算一時差異に係る繰延税金負債と同額となり、連結貸借対照表上、相殺される(連結実務指針28(1)、詳細は【STEP5】(3)参照)。結果的に、この連結修正に関する繰延税金資産及び繰延税金負債は計上されない。
また、個別財務諸表上、子会社株式評価損等に係る回収可能性がなく繰延税金資産を計上していない場合は、特段の検討は不要である。同様に子会社株式評価損等が損金算入されている場合も特段の検討は不要である。
③ 子会社への投資の個別上の簿価と連結上の簿価の差異
子会社の支配獲得時には、子会社への投資に対する個別上の簿価と連結上の簿価は一致している。しかし、のれんの償却や連結子会社となった後に子会社で生じる利益・その他有価証券評価差額金・為替換算調整勘定等、段階取得(複数の取引による支配獲得)に係る損益により、個別上の簿価と連結上の簿価に差額が生じる。この差額が一時差異に該当する(実務指針29、29-2)。
一時差異の発生原因、解消、税効果の取扱いは以下のとおりである(実務指針30、32、34、35、37)。
(3) 成果連結により生じる一時差異
① 未実現損益の消去に係る差異
連結会社相互間の取引で生じた未実現損益は連結手続上、消去する。例えば、親会社が子会社へ棚卸資産を売却した場合、子会社の貸借対照表上は、親会社から取得した金額で計上されるが、連結貸借対照表上は親会社の個別貸借対照表で元々計上されていた金額(未実現損益を含まない金額)で計上されることになる。
したがって、子会社の個別貸借対照表と連結貸借対照表の計上額に差異が生じるため、一時差異に該当する。
当該一時差異は資産の売却、減価償却費(償却資産の場合)等により解消する。
② 債権債務の消去に伴い減額修正される貸倒引当金
連結グループ内の会社に対する債権債務は、連結手続上、相殺消去する。そのため、連結手続上、相殺した債権に個別貸借対照表上、貸倒引当金を計上していた場合、当該貸倒引当金を修正する。これにより、個別貸借対照表上と連結貸借対照表上の貸倒引当金の計上に差額が生じるため、一時差異に該当する。
なお、税務上、損金算入されているかどうかで、以下のように会計処理が異なる。
(ⅰ) 税務上、損金算入されている場合
この場合、個別貸借対照表と税務上の貸倒引当金は一致している。そのため、連結手続における貸倒引当金の修正により、「個別貸借対照表(税務)上の貸倒引当金 > 連結貸借対照表上の貸倒引当金」となる。したがって、将来加算一時差異に該当する。
(ⅱ)税務上、損金算入されていない場合
この場合、「税務上の貸倒引当金 < 個別貸借対照表上の貸倒引当金」となる。そのため、個別貸借対照表上では、将来減算一時差異が生じる。ここで、連結手続における貸倒引当金の修正により、「税務上の貸倒引当金 = 連結貸借対照表上の貸倒引当金 < 個別貸借対照表上の貸倒引当金」となる。これにより、個別貸借対照表の将来減算一時差異がなくなるため、個別貸借対照表で繰延税金資産を計上していた場合、これを取り崩す必要がある。