〈ポイント解説〉
役員報酬の税務
【第77回】
「法人が負担した取締役の損害賠償金と役員給与」
税理士 中尾 隼大
【 質 問 】
私は中小企業の役員です。このたび、取引先から、より関係性を強固にするために「当社の役員にも就任してほしい」といわれています。
ただし、取引先の経営に関しては口を出さないことを期待されているようで、名目上の役員にとどまるようでした。
この場合において、私は何か責任があるのでしょうか。
【 回 答 】
会社法429条1項によって、あなたに悪意又は重大な過失がある場合には、あなた自身に責任が追及される場合もあります。
このような場合において、役員が負担すべきとされた賠償金や諸費用を役員に代わって法人が負担したときの役員給与について争われた事例があるため、以下に紹介します。
○●○● 解 説 ●○●○
(1) 関連法規等の確認
役員が責任を負うことが想定される場面において、まず考えることはD&O保険であると思われる(※1)。D&O保険については、導入する中小企業も出てきているとはいえ、導入しない中小企業の方が大多数の状況にあるといえる。
(※1) D&O保険の概要については、【第15回】参照。
とりわけ、より強固な信頼関係を構築することを目的に、法人の役員が取引先の役員を兼任する場合には、当該役員の会社法上の責任について検討する必要性が増すだろう。この根拠として会社法429条1項があり、以下のように規定している。
【参考】会社法429条1項
役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。
【参考】法人税基本通達9-7-16
法人の役員又は使用人がした行為等によって他人に与えた損害につき法人がその損害賠償金を支出した場合には、次による。
(1) その損害賠償金の対象となった行為等が法人の業務の遂行に関連するものであり、かつ、故意又は重過失に基づかないものである場合には、その支出した損害賠償金の額は給与以外の損金の額に算入する。
(2) その損害賠償金の対象となった行為等が、法人の業務の遂行に関連するものであるが故意又は重過失に基づくものである場合又は法人の業務の遂行に関連しないものである場合には、その支出した損害賠償金に相当する金額は当該役員又は使用人に対する債権とする。
つまり、仮に当該役員に重過失等が認められ、会社法429条1項により役員個人で負担すべき賠償金等を法人が負担するということとなれば、法人税基本通達9-7-16(2)に該当するということとなろうかと思われる。
この論点が実際に争点となり、裁判所が見解を示した事例があるため、以下にその概要を紹介する。
(2) 法人が負担した役員個人の賠償金は、損金不算入となると示された事例
具体的にこのような点が争点となった事例として、横浜地裁令和6年1月17日判決がある(※2)。
(※2) 判例集等未登載、TAINS:Z888-2558。評釈として、渡辺充「取引先の取締役就任により生じた損害賠償債務の会社負担と役員給与」税理68巻8号99頁がある。
【概要】
納税者(原告)は、土木工事業等を営む特例有限会社である。納税者の取締役甲は、取引先であるB社の取締役にも就任していた。B社が株式上場を目指し増資を繰り返していた中で、甲がB社の株式の購入者から株式購入代金相当額の損害賠償を求める旨の訴えを提起された。その結果、地裁では会社法429条1項を根拠に甲が敗訴し、高裁にて甲は和解金として1,500万円を支払った(以下、「本件B社訴訟解決金相当額」という)他、納税者が弁護士費用を負担した。加えて甲は、未公開株商法の被害を被ったとする者へ解決金相当額250万円を支払った(以下、「本件訴外賠償請求解決金」という)他、納税者が弁護士費用を負担した。納税者が、本件B社訴訟解決金相当額及び本件訴外賠償請求解決金、そして弁護士費用を支払手数料や雑損失として損金の額に算入して確定申告をしたところ、本件各金員は損金不算入となる等として更正処分等を受けたため、納税者がこれを不服として取消しを求めたのが本件である。争点は、これら各金員の損金算入の是非である。
地裁は、本件各請求に係る各解決金は、甲の会社法429条1項の規定に基づく損害賠償債務であると認められるが、この損害賠償債務は、甲がB社の取締役としての任務を怠ったことにより生じたものであるから、原告の業務の遂行上必要なものとは認められない等と示し、納税者の主張を退けた。なお、本件は控訴されているが、その後の顛末は不明である。
本件は、納税者が、取引先であるB社からの取締役就任の要請を受けたものであり、甲に対して、B社の経営に関与しないという業務命令(以下、「本件業務命令」という)を行った上で取締役に就任させた背景がある。そして、その後にB社から大口受注もできているという事実から、「B社の取締役としての任務懈怠があったとして、会社法429条1項の損害賠償責任を負ったが、甲の任務懈怠の具体的な内容は、『経営に関与しなかった』『何もしなかった』という不作為であり、・・・本件業務命令そのものないしこれに付随又は密接に関連する行為であ」るとして、納税者の職務行為であると主張したことが注目される。
これに対し裁判所は、法人税法22条3項により「所得の金額を計算するに当たり、損金の額に算入することができる支出額は、当該内国法人の業務の遂行上必要と認められるものでなければならない」と示した。その上で、法人税基本通達9-7-16について、「①損害賠償金の対象となった行為等が法人の業務の遂行に関連して生じたもので、行為者たる役員等に故意又は重過失がないものである場合には、法人の負担した損害賠償金は、当該役員等に対する給与としないで、給与以外の損金として取り扱うこととされる一方、②その行為等が法人の業務の遂行に関連なく生じたものである場合又は業務の遂行に関連があっても行為者たる役員の故意又は重過失によるものである場合には、第一次的には行為者たる役員等に対してこれを求償すべき性質のものであり、その損害賠償金を直ちに法人の損金の額に算入することは適当ではないので、まずは役員に対する求償権を資産に計上すべきものとされたものである」と示している。
これを本件について検討すると、本件業務命令について、B社の取締役として甲が法令上果たす義務についてまで禁止するものではないと認定した上で、「甲は、B社の取締役としての義務を負っているのであり、それをどのように行うかあるいは行わないかについては、B社との委任契約における受任者としての甲の判断によるものであったというべきである」とした。そして、甲が個人的に負担すべき費用を納税者が負担したものであり、法人税法34条4項所定の「その他の経済的な利益」に該当するとして納税者の主張を退けた。なお、法人税基本通達9-7-17については、甲の資力に照らし回収確実であるとした。
(3) 本件裁判例の意義
(1)の通り、法人の役員の職務上重大な過失等があった場合には、第三者に生じた損害を役員が賠償する責任を負うことが会社法429条1項にて定められている。これに対し、法人税基本通達9-7-16(2)が、故意又は重過失に基づくものを債権とするとしているのは、会社法429条1項との整合性を念頭に置いたものだと思われる。
本件裁判例は、このような場合の判断について、まずは役員個人への債権として処理すべきであり、その上で貸倒損失に係る損金算入の有無を検討すべきである旨を示した。つまり、本件のような場合に、法人税基本通達9-7-17及び同通達9-7-16、同通達9-2-9(10)によることが合理的であると示されたことにあるといえる。その上で、税務上の結論については疑義なく賛成できるものであると考える。
また、法人税基本通達9-7-16については、一般に、交通事故等の場合の損害賠償金の支出を例に解説されている(※3)。これに対して、本件裁判例のように関係性から取引先の法人の名目役員に就任しており、当該役員個人に対して責任が追及された場合において参考となる事例ともいえる。
(※3) 松尾公二編著『法人税基本通達逐条解説 十一訂版』(税務研究会出版局、2023)1143頁。
〔凡例〕
法法・・・法人税法
法令・・・法人税法施行令
法規・・・法人税法施行規則
法基通・・・法人税基本通達
措法・・・租税特別措置法
措令・・・租税特別措置法施行令
措規・・・租税特別措置法施行規則
措通・・・租税特別措置法関係通達
所法・・・所得税法
所令・・・所得税法施行令
所基通・・・所得税基本通達
消法・・・消費税法
消基通・・・消費税法基本通達
相法・・・相続税法
相基通・・・相続税法基本通達
財基通・・・財産評価基本通達
通法・・・国税通則法
通令・・・国税通則法施行令
地法・・・地方税法
地令・・・地方税法施行令
地規・・・地方税法施行規則
(例)法法34①一・・・法人税法34条1項1号
(了)
次回は1/22に公開予定です。





















