〈ポイント解説〉
役員報酬の税務
【第79回】
「定期同額給与と会計処理」
税理士 中尾 隼大
【 質 問 】
当社は、総会決議等が存在していません。また、役員報酬の支給やその給与額の計算自体も事実上は年度末に一括で処理をしています。
この前提で、毎月支給しているものとして税務上の定期同額給与に該当すると考えることは可能でしょうか。
【 回 答 】
役員報酬の額を定めた根拠がなく、毎月の給与計算を行わず、実際の支給も未払金計上も行っていないのであれば、役員報酬を支給すべき事実自体が認められないと考えられます。その状態で、定期同額給与に該当するとは考えられません。この場合において、仮に役員給与の額について年度末に一括して未払金として経理計上したとしても、1月以下の一定期間ごとに役員給与を支給すべき事実が認められないものとして、定期同額給与に該当しないとされる可能性もあります。
以下に、注目すべき事例があるため解説します。
○●○● 解 説 ●○●○
(1) 役員給与と会計処理等
会社法においては、役員報酬は「報酬、賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益」とされており(会社法361条)、その額は定款又は株主総会の決議によって定めるものとされている。このうち、毎月発生するものは、会計上において発生期間に応じて費用処理されていくこととなり、一般的にはこれが税務上の定期同額給与に該当する。
そして、本連載各所で触れてきたとおり、税務上の定期同額給与については、「その支給時期が1月以下の一定の期間ごと」に支給することが必要となる(法法34①一)。具体的には「あらかじめ定められた支給基準(慣習によるものを含む。)に基づいて、毎日、毎週、毎月のように月以下の期間を単位として規則的に反復又は継続して支給されるもの」が、定期同額給与に該当することとなる(法基通9-2-12)。
なお、ここでの「支給」は、債務確定主義に基づくことが通説的見解であるため、短期間かつ合理的な理由があれば未払金計上も認められており、必ずしも実際のキャッシュアウトが必要というわけではない。つまり、定期同額給与については、議事録等を整備し、対象者ごとに毎月給与計算を行った上で適切に経理処理をしていれば、不相当に高額とされない限り、実務上問題となることは通常ないと考えられる。
しかし、議事録等を備えず、毎月の給与計算を行わないばかりか、実際の支給や未払金計上も行わず、期末の試算表に役員報酬として一括記載、定期同額給与に該当すると納税者が主張したものの、その主張が退けられた事例がある。実務上参考となる事例として、以下にその概要を紹介する。
(2) 役員給与の額1年分を一括経理したところ定期同額給与に該当しないとされた事例
このように示された事例として、国税不服審判所平成29年8月4日裁決がある(※)。
(※) 裁決事例集等未登載、TAINS:F0-2-777。
【概要】
納税者(審査請求人)はソフトウェアの開発等を目的とする同族会社であり、納税者の代表者の父母が共に取締役(以下「本件各取締役」という。)である。納税者は、本件各取締役に対する役員給与額を損金の額に算入して確定申告を行ったところ、課税庁より定期同額給与に該当しないとして更正処分等を受けたため、これを不服として取消しを求めたのが本件である。なお、納税者は株主総会議事録等の備えをしておらず、事前確定届出給与に関する届出書を提出していない。加えて、総勘定元帳や仕訳帳を作成・保存しておらず、本件各取締役に対する役員給与の額を年額で計算していたという状況にある。争点は、本件各取締役に対する役員給与の額が定期同額給与に当たるかどうかである。
国税不服審判所は、納税者が作成した試算表において本件各取締役に対する支給額は年度末にまとめて計算されたものであること、当該試算表には資産及び負債に係る記載がないこと等を認定し、支払及び未払の事実を確認することができないとして納税者の主張を退けた。
これに対し、課税庁側は、株主総会等の開催事実が認められないこと、請求人の代表者や従業員は毎月給与計算を行っていたことを示す各書面があるにもかかわらず、本件各取締役に関する部分が存在しないこと、本件各取締役については年度末に一括して明細書が作成されているため毎月の支払いの事実が認められないこと等を主張している。
国税不服審判所は、課税庁の主張を認めた上で、「請求人は、・・・総勘定元帳あるいは仕訳帳などの帳簿を作成していない上、・・・本件各試算表には資産及び負債に係る記載もないことからすれば、本件各役員給与額の支払及び未払の事実を確認することができない」と示している。
(3) 本件裁決例の意義
本件裁決例は、管理や経理処理が著しく不十分な状況であれば定期同額給与該当性が否定され得ることを示した、他山の石とすべき事例であるといえる。なお、総勘定元帳や仕訳帳が未作成であるならば青色申告の有効性への疑義が生じるところでもあるが、本件では、役員給与における定期同額給与の該当性が争点となっている。
本件裁決例においては、納税者が本件各役員給与額の支給時期が1月以下の一定の期間であったことを主張する証拠がなかったと思われるため、上記(2)の通りの主張を行った。これに対し、国税不服審判所は、支払いの事実も未払いの事実も認められないとしている。
この点は、当該役員に対する報酬を1月以下の一定期間ごとに支払った、または支払うべき事実があったのかどうかということに留意して定期同額給与への該当性を判断すべきことを示唆するものであると思われる。付言すれば、単に会計上において毎月未払金として計上しておきさえすればそのすべてが定期同額給与に該当するというわけではなく、支払うべき事実があると認識した上でやむを得ず未払となっている等の事情は確認する必要があるだろう。
〔凡例〕
法法・・・法人税法
法令・・・法人税法施行令
法規・・・法人税法施行規則
法基通・・・法人税基本通達
措法・・・租税特別措置法
措令・・・租税特別措置法施行令
措規・・・租税特別措置法施行規則
措通・・・租税特別措置法関係通達
所法・・・所得税法
所令・・・所得税法施行令
所基通・・・所得税基本通達
消法・・・消費税法
消基通・・・消費税法基本通達
相法・・・相続税法
相基通・・・相続税法基本通達
財基通・・・財産評価基本通達
通法・・・国税通則法
通令・・・国税通則法施行令
地法・・・地方税法
地令・・・地方税法施行令
地規・・・地方税法施行規則
(例)法法34①一・・・法人税法34条1項1号
(了)
次回は4/16に公開予定です。





















