公開日: 2025/08/21 (掲載号:No.632)
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〈ポイント解説〉役員報酬の税務 【第74回】「暗号資産による役員報酬の支給」

筆者: 中尾 隼大

〈ポイント解説〉

役員報酬の税務

【第74回】

「暗号資産による役員報酬の支給」

 

税理士 中尾 隼大

 

【 質 問 】

役員報酬を日本円ではなく、ビットコイン等の暗号資産で支給することは可能でしょうか。


【 回 答 】

可能であると思われますが、以下の解説で触れる論点に注意する必要があるでしょう。

○●○● 解 説 ●○●○

(1) 暗号資産とは

暗号資産は、以前は仮想通貨と呼ばれており、代表的なものにビットコインやイーサリアム等がある。資金決済に関する法律(以下「資金決済法」という)が改正されて「暗号資産」と名称が改められ、現在では世間に浸透している状況にあると思われる。資金決済法2条14項においてその定義が詳細に定められているほか、日本銀行HPでは暗号資産の特徴を以下のように簡潔にまとめている(※1)。

① 不特定の者に対して、代金の支払い等に使用でき、かつ、法定通貨(日本円や米国ドル等)と相互に交換できる。

① 電子的に記録され、移転できる。

① 法定通貨または法定通貨建ての資産(プリペイドカード等)ではない。

(※1) 日本銀行ホームページ「暗号資産(仮想通貨)とは何ですか?」

暗号資産は、一般には平成29年頃から注目され始め、取引者数やその規模が年々増大してきている。暗号資産保有者は取引所や自身のウォレットで管理することで、暗号資産の使用や交換等が可能であり、実際に家電量販店や飲食店、そしてアプリ上でもビットコイン決済が可能と謳っているものが多く見られる。

このような世間の状況を税務面から見ると、世間への浸透拡大に合わせた対症療法的な対応が行われてきた。具体的な対応の例としては、大手取引業者で生じた暗号資産流出事件を受けて、国税庁がタックスアンサーNo.1525「暗号資産交換業者から暗号資産に代えて金銭の補償を受けた場合」を公表したこと、令和元年度税制改正にて暗号資産の課税関係に一定の整理がなされたことが挙げられる。

後者については、法人の譲渡原価の算出方法につき、総平均法又は移動平均法のいずれか選択した方法(選択しない場合、法人においては移動平均法)が採用されること(法法61①、法令118の6)、法人が暗号資産信用取引を行った場合において保有する暗号資産の未決済損益をみなし決済損益額で扱う(法法61⑦)等の内容となっている。現在においても、国税庁が「暗号資産等に関する税務上の取扱いについて(情報)」を都度改訂し続ける等の対応が行われている。

なお、今後の展望としては、個人が暗号資産を譲渡した場合において申告分離課税として扱うべきだとする税制改正要望が、従来にも増して強くなっているように感じられる(※2)。

(※2) この点、学説においても「譲渡所得の意義と範囲に関連して最も問題となるのは、資産とは何かである。まず、資産とは、譲渡性のある財産権をすべて含む概念で、・・・ビットコイン等の仮想通貨などが広くそれに含まれる」とし、暗号資産の譲渡が譲渡所得の対象になり得るというものがある。金子宏『租税法 第24版』(弘文堂、2021)265頁。

 

(2) 役員報酬を暗号資産で支給する場合に検討すべき論点

役員報酬を暗号資産で支給する際、労働者性が認められる使用人兼務役員に暗号資産で報酬を支給する場合は、賃金の通貨払い原則(労基法24条)に抵触する可能性を検討すべきである。役員であれば法人との間に雇用関係が存在せず、つまりは役員報酬が労働基準法11条の「賃金」に該当しないと整理されるが、従業員であれば賃金を通貨で支払うことが必要となるからである。この点、従業員を対象として現物で給与を支払う場合には、労働協約で定めること等が必要となるが現実的ではないと思われる。したがって、役員報酬としての部分を対象とすべきという整理となるだろう。

次に、税務上の役員給与における定期同額給与への該当性を検討すべきである。暗号資産は周知のとおりボラティリティ(価格変動の度合い)が激しいため、その時々の価値が一定ではないためである。この点、税法や通達には直接明らかにする定め等が存在しない。

しかし、法人税法施行令69条1項2号や法人税基本通達9-2-11による「その役員が受ける経済的な利益の額が毎月おおむね一定であるもの」であれば、経済的利益の供与が定期同額給与として認められること、そして同通達が認められる例示として示す(2)や(4)のかっこ書き内に「毎月著しく変動するものを除く」とされていることから、日本円換算後の金額として毎月一定額を暗号資産で支給していたとしても、役員報酬のそれぞれの支給時期における暗号資産の時価がおおむね一定額であれば、直ちに定期同額給与の該当性が問題となることはないと思われる。

ほかにも、役員報酬の全額を暗号資産として支給する場合、社会保険料や源泉所得税を通貨にて徴収すべきという問題をクリアする必要があるため、現実的には暗号資産として役員報酬の全額を支給することは考えにくいだろう。

 

(3) 役員報酬をすべて暗号資産で支給することを公表した企業の出現

一般的に、役員報酬として法定通貨の円ではなく暗号資産を支給する場合、上記のような論点があると思われるが、令和7年7月8日、上場企業である株式会社リミックスポイントが、代表取締役社長の役員報酬全額を暗号資産であるビットコインにて支給するというプレスリリースが公表された。

当該IR情報によると、このような試みは上場企業では日本初とされ、株主総会における株主からの意見に応えるために検討された施策のようである。そして、当該IR情報の末尾には、注意書きの扱いで以下の案内がされている。

本件における報酬の支給は、会社法上および税務上の適切な整理を踏まえ、形式上は日本円により支給いたします。その上で、支給額の全額に相当する日本円をもって、同額相当のビットコイン(BTC)を市場価格にて取得し、代表取締役社長の指定する暗号資産ウォレットへ受渡しを行う予定です。

これにより、当社代表取締役社長は、実質的に役員報酬のすべてをビットコインで受け取る運用となります。

上記によれば、法人はあくまで日本円として役員報酬を支給した後、適正に源泉徴収等が行われた後の手取り額をビットコインに交換することを法人が代行し、その上で役員に支給するという運用であると予測される。当該方法であれば、上記(2)で触れた定期同額給与の問題や、源泉徴収等の問題がクリアできると思われる。

〔凡例〕
法法・・・法人税法
法令・・・法人税法施行令
法規・・・法人税法施行規則
法基通・・・法人税基本通達
措法・・・租税特別措置法
措令・・・租税特別措置法施行令
措規・・・租税特別措置法施行規則
措通・・・租税特別措置法関係通達
所法・・・所得税法
所令・・・所得税法施行令
所基通・・・所得税基本通達
消法・・・消費税法
消基通・・・消費税法基本通達
相法・・・相続税法
相基通・・・相続税法基本通達
財基通・・・財産評価基本通達
通法・・・国税通則法
通令・・・国税通則法施行令
地法・・・地方税法
地令・・・地方税法施行令
地規・・・地方税法施行規則
(例)法法34①一・・・法人税法34条1項1号

(了)

次回は9/18に公開予定です。

〈ポイント解説〉

役員報酬の税務

【第74回】

「暗号資産による役員報酬の支給」

 

税理士 中尾 隼大

 

【 質 問 】

役員報酬を日本円ではなく、ビットコイン等の暗号資産で支給することは可能でしょうか。

【 回 答 】

可能であると思われますが、以下の解説で触れる論点に注意する必要があるでしょう。

○●○● 解 説 ●○●○

(1) 暗号資産とは

暗号資産は、以前は仮想通貨と呼ばれており、代表的なものにビットコインやイーサリアム等がある。資金決済に関する法律(以下「資金決済法」という)が改正されて「暗号資産」と名称が改められ、現在では世間に浸透している状況にあると思われる。資金決済法2条14項においてその定義が詳細に定められているほか、日本銀行HPでは暗号資産の特徴を以下のように簡潔にまとめている(※1)。

① 不特定の者に対して、代金の支払い等に使用でき、かつ、法定通貨(日本円や米国ドル等)と相互に交換できる。

① 電子的に記録され、移転できる。

① 法定通貨または法定通貨建ての資産(プリペイドカード等)ではない。

(※1) 日本銀行ホームページ「暗号資産(仮想通貨)とは何ですか?」

暗号資産は、一般には平成29年頃から注目され始め、取引者数やその規模が年々増大してきている。暗号資産保有者は取引所や自身のウォレットで管理することで、暗号資産の使用や交換等が可能であり、実際に家電量販店や飲食店、そしてアプリ上でもビットコイン決済が可能と謳っているものが多く見られる。

このような世間の状況を税務面から見ると、世間への浸透拡大に合わせた対症療法的な対応が行われてきた。具体的な対応の例としては、大手取引業者で生じた暗号資産流出事件を受けて、国税庁がタックスアンサーNo.1525「暗号資産交換業者から暗号資産に代えて金銭の補償を受けた場合」を公表したこと、令和元年度税制改正にて暗号資産の課税関係に一定の整理がなされたことが挙げられる。

後者については、法人の譲渡原価の算出方法につき、総平均法又は移動平均法のいずれか選択した方法(選択しない場合、法人においては移動平均法)が採用されること(法法61①、法令118の6)、法人が暗号資産信用取引を行った場合において保有する暗号資産の未決済損益をみなし決済損益額で扱う(法法61⑦)等の内容となっている。現在においても、国税庁が「暗号資産等に関する税務上の取扱いについて(情報)」を都度改訂し続ける等の対応が行われている。

なお、今後の展望としては、個人が暗号資産を譲渡した場合において申告分離課税として扱うべきだとする税制改正要望が、従来にも増して強くなっているように感じられる(※2)。

(※2) この点、学説においても「譲渡所得の意義と範囲に関連して最も問題となるのは、資産とは何かである。まず、資産とは、譲渡性のある財産権をすべて含む概念で、・・・ビットコイン等の仮想通貨などが広くそれに含まれる」とし、暗号資産の譲渡が譲渡所得の対象になり得るというものがある。金子宏『租税法 第24版』(弘文堂、2021)265頁。

 

(2) 役員報酬を暗号資産で支給する場合に検討すべき論点

役員報酬を暗号資産で支給する際、労働者性が認められる使用人兼務役員に暗号資産で報酬を支給する場合は、賃金の通貨払い原則(労基法24条)に抵触する可能性を検討すべきである。役員であれば法人との間に雇用関係が存在せず、つまりは役員報酬が労働基準法11条の「賃金」に該当しないと整理されるが、従業員であれば賃金を通貨で支払うことが必要となるからである。この点、従業員を対象として現物で給与を支払う場合には、労働協約で定めること等が必要となるが現実的ではないと思われる。したがって、役員報酬としての部分を対象とすべきという整理となるだろう。

次に、税務上の役員給与における定期同額給与への該当性を検討すべきである。暗号資産は周知のとおりボラティリティ(価格変動の度合い)が激しいため、その時々の価値が一定ではないためである。この点、税法や通達には直接明らかにする定め等が存在しない。

しかし、法人税法施行令69条1項2号や法人税基本通達9-2-11による「その役員が受ける経済的な利益の額が毎月おおむね一定であるもの」であれば、経済的利益の供与が定期同額給与として認められること、そして同通達が認められる例示として示す(2)や(4)のかっこ書き内に「毎月著しく変動するものを除く」とされていることから、日本円換算後の金額として毎月一定額を暗号資産で支給していたとしても、役員報酬のそれぞれの支給時期における暗号資産の時価がおおむね一定額であれば、直ちに定期同額給与の該当性が問題となることはないと思われる。

ほかにも、役員報酬の全額を暗号資産として支給する場合、社会保険料や源泉所得税を通貨にて徴収すべきという問題をクリアする必要があるため、現実的には暗号資産として役員報酬の全額を支給することは考えにくいだろう。

 

(3) 役員報酬をすべて暗号資産で支給することを公表した企業の出現

一般的に、役員報酬として法定通貨の円ではなく暗号資産を支給する場合、上記のような論点があると思われるが、令和7年7月8日、上場企業である株式会社リミックスポイントが、代表取締役社長の役員報酬全額を暗号資産であるビットコインにて支給するというプレスリリースが公表された。

当該IR情報によると、このような試みは上場企業では日本初とされ、株主総会における株主からの意見に応えるために検討された施策のようである。そして、当該IR情報の末尾には、注意書きの扱いで以下の案内がされている。

本件における報酬の支給は、会社法上および税務上の適切な整理を踏まえ、形式上は日本円により支給いたします。その上で、支給額の全額に相当する日本円をもって、同額相当のビットコイン(BTC)を市場価格にて取得し、代表取締役社長の指定する暗号資産ウォレットへ受渡しを行う予定です。

これにより、当社代表取締役社長は、実質的に役員報酬のすべてをビットコインで受け取る運用となります。

上記によれば、法人はあくまで日本円として役員報酬を支給した後、適正に源泉徴収等が行われた後の手取り額をビットコインに交換することを法人が代行し、その上で役員に支給するという運用であると予測される。当該方法であれば、上記(2)で触れた定期同額給与の問題や、源泉徴収等の問題がクリアできると思われる。

〔凡例〕
法法・・・法人税法
法令・・・法人税法施行令
法規・・・法人税法施行規則
法基通・・・法人税基本通達
措法・・・租税特別措置法
措令・・・租税特別措置法施行令
措規・・・租税特別措置法施行規則
措通・・・租税特別措置法関係通達
所法・・・所得税法
所令・・・所得税法施行令
所基通・・・所得税基本通達
消法・・・消費税法
消基通・・・消費税法基本通達
相法・・・相続税法
相基通・・・相続税法基本通達
財基通・・・財産評価基本通達
通法・・・国税通則法
通令・・・国税通則法施行令
地法・・・地方税法
地令・・・地方税法施行令
地規・・・地方税法施行規則
(例)法法34①一・・・法人税法34条1項1号

(了)

次回は9/18に公開予定です。

連載目次

〈ポイント解説〉

役員報酬の税務

連載を収録した単行本が好評発売中!!

第1回~第50回

第51回~

筆者紹介

中尾 隼大

(なかお・しゅんた)

税理士
税理士法人中尾総合事務所 所長
https://www.nakao-tax.com

中国税理士会税務研究所 研究員

平成22年 税理士法人プライスウォーターハウスクーパース(現:PwC税理士法人)入所
平成24年 税理士登録
平成25年 税理士法人中尾総合事務所設立 現在に至る

【著作・論文】
「一般社団法人を利用した租税回避スキームに関する試論」第40回 日税研究賞 税理士の部 入選
「これで万全!!2019年10月 消費増税・軽減税率対策 転嫁・インボイスはこう進める」共著(ぎょうせい・2019)
「個人版事業承継税制のポイントと有利判定シミュレーション」共著(日本法令・2019)
「ワークフロー式消費税[軽減税率]申告書作成の実務」共著(日本法令・2020)
「消費税 適用判断の原則と例外」共著(新日本法規・2021)
「精選Q&A 役員報酬の税務」(清文社・2024)

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