公開日: 2026/04/16 (掲載号:No.665)
文字サイズ

〈ポイント解説〉役員報酬の税務 【第80回】「渡切交際費と役員給与等」

筆者: 中尾 隼大

〈ポイント解説〉

役員報酬の税務

【第80回】

「渡切交際費と役員給与等」

 

税理士 中尾 隼大

 

【 質 問 】

当社は、役員に対していわゆる渡切交際費を支給しています。つまり、役員はその金銭の使途を明らかにしないことになりますが、税務上の損金算入の是非が分かりません。また、使途秘匿金や使途不明金との関係についても教えてください。


【 回 答 】

渡切交際費は使途秘匿金や使途不明金とは異なるものであり、役員に対する渡切交際費である限り、毎月支給することで税務上の定期同額給与として整理することが可能です。

なお、渡切交際費と使途秘匿金や使途不明金との関係については、以下解説にて整理します。

○●○● 解 説 ●○●○

(1) 役員給与と渡切交際費の関係

法人が、取引先との関係を円滑にするため等の目的で交際費を支出した場合、その際に受領した領収書をエビデンスに、税務上の交際費等として取り扱うのが通常である。これに対して、法人が役員や従業員に対して使途を明らかにすることを求めず、精算も行わないことを前提に、交際費見合いの金銭を前渡しの形で支給することがある。いわゆる「渡切交際費」と呼ばれるものである。このような渡切交際費は、中小企業の実態に鑑みれば特に役員に対して支給するケースが大多数であるだろう。

渡切交際費は、法人税基本通達9-2-9(9)にて「役員等に対して機密費、接待費、交際費、旅費等の名義で支給したもののうち、その法人の業務のために使用したことが明らかでないもの」とされているものであり、これは役員給与について定める法人税法34条4項にて、役員に対する経済的利益に当たるとされている。そして、同通達9-2-11(3)では、役員に対する渡切交際費を毎月定額で支給する場合には、「継続的に供与される経済的な利益のうち、その供与される利益の額が毎月おおむね一定であるもの」(法令69①二)に該当するとしている。つまり、毎月一定の額を渡切交際費として役員に支給している場合、定期同額給与としての損金算入の可否判断に移るものとして整理されることとなる。なお、このように整理される場合、所得税において給与課税を行う必要がある(所法36①)。さらに消費税において仕入税額控除の対象とならない(消基通11-2-23)。

このように、渡切交際費は使途を明らかにしないまま支出されるものであるが、役員に支給された役員給与であるために、その部分についての所得税等を負担した役員が個人的に交際費を費消したものとして整理されている。

 

(2) 渡切交際費と使途秘匿金の関係

上記(1)に対して、法人が金銭を費消し、その使途等に加え相手方が不明な場合に適用される「使途秘匿金」課税がある。使途秘匿金が認められた場合、損金算入が認められないばかりか、その額に対して40%に相当する法人税が課されるものであり(措法62①)、法人にとって負担は大きいといえる。

この使途秘匿金課税は、他者を通じた支出であっても実質的に使途秘匿金であると認められた場合にも適用されるため(措令38③)、上記のような役員に対する渡切交際費の形を取ることで使途秘匿金課税の適用があるのではないかとも思われる。また、法人税基本通達9-7-20では、「使途不明金」について「法人が交際費、機密費、接待費等の名義をもって支出した金銭でその費途が明らかでないものは、損金の額に算入しない」としており、こちらについても渡切交際費との関係について整理が必要となる。

これらの点については、詳細に整理した見解が存在している。具体的には、役員に対する渡切交際費を支出した場合には租税特別措置法施行令38条3項の適用はないとした上で、「明らかに『使途秘匿金』とすべきものを役員に支給したように仮装している場合は、・・・使途秘匿金の支出がある場合の特例が適用され」るとするものがある(※1)。役員への渡切交際費は、定期同額給与への該当性に留意することで損金算入が可能となるため、法人が使途を明らかにしたくない支出を渡切交際費として仮装することで、損金算入を図ることもでき得るのである。この場合において、同見解では、使途秘匿金課税と法人税基本通達9-7-20による費途不明の交際費等としての損金不算入、そして重加算税の適用があるという可能性について指摘されている。

(※1) 森田政夫・西尾宇一郎『令和7年6月改訂 問答式 交際費・寄附金等の税務と会計』(清文社、2025)429頁以降。なお、渡切交際費のため役員給与とすべきところ、仮払金として処理すると、その仮払金が使途秘匿金と認定される恐れがあるとも指摘されている(430頁)。

 

(3) 使途不明金と役員賞与との関係

中小企業における税務調査においては、使途不明金と役員賞与の線引きについて議論となるケースがある(※2)。例えば、法人が、取引先をかばう意図で取引先に支払った内容を課税庁に説明したがらない等の意図的な場合や、法人の帳簿書類管理等がずさんで調査時に支払いの使途を明らかにできない等の無自覚な場合等が考えられる。つまり、法人が支出した金銭が、法人の必要経費であるのか、それとも代表者等の役員らが個人的に費消したものなのかが帳簿書類等から説明できないケースである。

(※2) 認定賞与については、【第21回】参照。この回は代表取締役自身が行った横領を取り扱っている。

この場合、上記法人税基本通達9-7-20の使途不明金として損金不算入となる。しかし、税務調査時において代表取締役らに対する認定賞与に該当する旨の指摘を受けたことで、それを回避するために役員貸付金として処理する交渉や調整が行われたりするケースがある。役員賞与とされ得る要件について裁判例や裁決例を確認すると、事例自体は相当数が存在しており、例えば以下のものがある。

国税不服審判所平成19年10月3日裁決では(※3)、「いわゆる同族会社で、代表者が当該法人の実権を唯一有する場合においては、代表者によって支出された現金等の使途が不明で、会社のために支出したと認められないときには、他の役員、株主等による抑制が困難であり、代表者はその取得・費消することが極めて容易な立場にあることから、他に特段の事情がない限り、当該法人の実権を唯一有するその代表者がその現金等を取得したものと推認するのが相当である」とされている。また、東京高裁昭和56年6月19日判決では(※4)、「代表者個人の認定賞与と認めるには、右払戻金を被控訴人代表者において取得した事実、少くとも同人において取得したと合理的に推認することができる事実について、課税当局である控訴人においてこれを主張、立証する必要がある」とされている。

(※3) 裁決事例集74巻111頁。

(※4) 税務訴訟資料117号675頁。

これらのことから、役員賞与と認定されるためには、少なくとも、代表取締役等の役員が法人の金銭を個人的に費消したものと認められる事情が必要となると思われる。もっとも、この件は事実認定の問題となるが、税務調査の現場においては、金銭消費貸借契約書を準備することにより、役員貸付金とすることで終結させるケースも一定数あるといえるだろう。要因となった使途不明金の発生について、役員が負う善管注意義務がその背景にあると考えられる。

〔凡例〕
法法・・・法人税法
法令・・・法人税法施行令
法規・・・法人税法施行規則
法基通・・・法人税基本通達
措法・・・租税特別措置法
措令・・・租税特別措置法施行令
措規・・・租税特別措置法施行規則
措通・・・租税特別措置法関係通達
所法・・・所得税法
所令・・・所得税法施行令
所基通・・・所得税基本通達
消法・・・消費税法
消基通・・・消費税法基本通達
相法・・・相続税法
相基通・・・相続税法基本通達
財基通・・・財産評価基本通達
通法・・・国税通則法
通令・・・国税通則法施行令
地法・・・地方税法
地令・・・地方税法施行令
地規・・・地方税法施行規則
(例)法法34①一・・・法人税法34条1項1号

(了)

次回は5/21に公開予定です。

〈ポイント解説〉

役員報酬の税務

【第80回】

「渡切交際費と役員給与等」

 

税理士 中尾 隼大

 

【 質 問 】

当社は、役員に対していわゆる渡切交際費を支給しています。つまり、役員はその金銭の使途を明らかにしないことになりますが、税務上の損金算入の是非が分かりません。また、使途秘匿金や使途不明金との関係についても教えてください。

【 回 答 】

渡切交際費は使途秘匿金や使途不明金とは異なるものであり、役員に対する渡切交際費である限り、毎月支給することで税務上の定期同額給与として整理することが可能です。

なお、渡切交際費と使途秘匿金や使途不明金との関係については、以下解説にて整理します。

○●○● 解 説 ●○●○

(1) 役員給与と渡切交際費の関係

法人が、取引先との関係を円滑にするため等の目的で交際費を支出した場合、その際に受領した領収書をエビデンスに、税務上の交際費等として取り扱うのが通常である。これに対して、法人が役員や従業員に対して使途を明らかにすることを求めず、精算も行わないことを前提に、交際費見合いの金銭を前渡しの形で支給することがある。いわゆる「渡切交際費」と呼ばれるものである。このような渡切交際費は、中小企業の実態に鑑みれば特に役員に対して支給するケースが大多数であるだろう。

渡切交際費は、法人税基本通達9-2-9(9)にて「役員等に対して機密費、接待費、交際費、旅費等の名義で支給したもののうち、その法人の業務のために使用したことが明らかでないもの」とされているものであり、これは役員給与について定める法人税法34条4項にて、役員に対する経済的利益に当たるとされている。そして、同通達9-2-11(3)では、役員に対する渡切交際費を毎月定額で支給する場合には、「継続的に供与される経済的な利益のうち、その供与される利益の額が毎月おおむね一定であるもの」(法令69①二)に該当するとしている。つまり、毎月一定の額を渡切交際費として役員に支給している場合、定期同額給与としての損金算入の可否判断に移るものとして整理されることとなる。なお、このように整理される場合、所得税において給与課税を行う必要がある(所法36①)。さらに消費税において仕入税額控除の対象とならない(消基通11-2-23)。

このように、渡切交際費は使途を明らかにしないまま支出されるものであるが、役員に支給された役員給与であるために、その部分についての所得税等を負担した役員が個人的に交際費を費消したものとして整理されている。

 

(2) 渡切交際費と使途秘匿金の関係

上記(1)に対して、法人が金銭を費消し、その使途等に加え相手方が不明な場合に適用される「使途秘匿金」課税がある。使途秘匿金が認められた場合、損金算入が認められないばかりか、その額に対して40%に相当する法人税が課されるものであり(措法62①)、法人にとって負担は大きいといえる。

この使途秘匿金課税は、他者を通じた支出であっても実質的に使途秘匿金であると認められた場合にも適用されるため(措令38③)、上記のような役員に対する渡切交際費の形を取ることで使途秘匿金課税の適用があるのではないかとも思われる。また、法人税基本通達9-7-20では、「使途不明金」について「法人が交際費、機密費、接待費等の名義をもって支出した金銭でその費途が明らかでないものは、損金の額に算入しない」としており、こちらについても渡切交際費との関係について整理が必要となる。

これらの点については、詳細に整理した見解が存在している。具体的には、役員に対する渡切交際費を支出した場合には租税特別措置法施行令38条3項の適用はないとした上で、「明らかに『使途秘匿金』とすべきものを役員に支給したように仮装している場合は、・・・使途秘匿金の支出がある場合の特例が適用され」るとするものがある(※1)。役員への渡切交際費は、定期同額給与への該当性に留意することで損金算入が可能となるため、法人が使途を明らかにしたくない支出を渡切交際費として仮装することで、損金算入を図ることもでき得るのである。この場合において、同見解では、使途秘匿金課税と法人税基本通達9-7-20による費途不明の交際費等としての損金不算入、そして重加算税の適用があるという可能性について指摘されている。

(※1) 森田政夫・西尾宇一郎『令和7年6月改訂 問答式 交際費・寄附金等の税務と会計』(清文社、2025)429頁以降。なお、渡切交際費のため役員給与とすべきところ、仮払金として処理すると、その仮払金が使途秘匿金と認定される恐れがあるとも指摘されている(430頁)。

 

(3) 使途不明金と役員賞与との関係

中小企業における税務調査においては、使途不明金と役員賞与の線引きについて議論となるケースがある(※2)。例えば、法人が、取引先をかばう意図で取引先に支払った内容を課税庁に説明したがらない等の意図的な場合や、法人の帳簿書類管理等がずさんで調査時に支払いの使途を明らかにできない等の無自覚な場合等が考えられる。つまり、法人が支出した金銭が、法人の必要経費であるのか、それとも代表者等の役員らが個人的に費消したものなのかが帳簿書類等から説明できないケースである。

(※2) 認定賞与については、【第21回】参照。この回は代表取締役自身が行った横領を取り扱っている。

この場合、上記法人税基本通達9-7-20の使途不明金として損金不算入となる。しかし、税務調査時において代表取締役らに対する認定賞与に該当する旨の指摘を受けたことで、それを回避するために役員貸付金として処理する交渉や調整が行われたりするケースがある。役員賞与とされ得る要件について裁判例や裁決例を確認すると、事例自体は相当数が存在しており、例えば以下のものがある。

国税不服審判所平成19年10月3日裁決では(※3)、「いわゆる同族会社で、代表者が当該法人の実権を唯一有する場合においては、代表者によって支出された現金等の使途が不明で、会社のために支出したと認められないときには、他の役員、株主等による抑制が困難であり、代表者はその取得・費消することが極めて容易な立場にあることから、他に特段の事情がない限り、当該法人の実権を唯一有するその代表者がその現金等を取得したものと推認するのが相当である」とされている。また、東京高裁昭和56年6月19日判決では(※4)、「代表者個人の認定賞与と認めるには、右払戻金を被控訴人代表者において取得した事実、少くとも同人において取得したと合理的に推認することができる事実について、課税当局である控訴人においてこれを主張、立証する必要がある」とされている。

(※3) 裁決事例集74巻111頁。

(※4) 税務訴訟資料117号675頁。

これらのことから、役員賞与と認定されるためには、少なくとも、代表取締役等の役員が法人の金銭を個人的に費消したものと認められる事情が必要となると思われる。もっとも、この件は事実認定の問題となるが、税務調査の現場においては、金銭消費貸借契約書を準備することにより、役員貸付金とすることで終結させるケースも一定数あるといえるだろう。要因となった使途不明金の発生について、役員が負う善管注意義務がその背景にあると考えられる。

〔凡例〕
法法・・・法人税法
法令・・・法人税法施行令
法規・・・法人税法施行規則
法基通・・・法人税基本通達
措法・・・租税特別措置法
措令・・・租税特別措置法施行令
措規・・・租税特別措置法施行規則
措通・・・租税特別措置法関係通達
所法・・・所得税法
所令・・・所得税法施行令
所基通・・・所得税基本通達
消法・・・消費税法
消基通・・・消費税法基本通達
相法・・・相続税法
相基通・・・相続税法基本通達
財基通・・・財産評価基本通達
通法・・・国税通則法
通令・・・国税通則法施行令
地法・・・地方税法
地令・・・地方税法施行令
地規・・・地方税法施行規則
(例)法法34①一・・・法人税法34条1項1号

(了)

次回は5/21に公開予定です。

連載目次

〈ポイント解説〉

役員報酬の税務

連載を収録した単行本が好評発売中!!

第1回~第50回

第51回~

筆者紹介

中尾 隼大

(なかお・しゅんた)

税理士
税理士法人中尾総合事務所 所長
https://www.nakao-tax.com

中国税理士会税務研究所 研究員

平成22年 税理士法人プライスウォーターハウスクーパース(現:PwC税理士法人)入所
平成24年 税理士登録
平成25年 税理士法人中尾総合事務所設立 現在に至る

【著作・論文】
「一般社団法人を利用した租税回避スキームに関する試論」第40回 日税研究賞 税理士の部 入選
「これで万全!!2019年10月 消費増税・軽減税率対策 転嫁・インボイスはこう進める」共著(ぎょうせい・2019)
「個人版事業承継税制のポイントと有利判定シミュレーション」共著(日本法令・2019)
「ワークフロー式消費税[軽減税率]申告書作成の実務」共著(日本法令・2020)
「消費税 適用判断の原則と例外」共著(新日本法規・2021)
「精選Q&A 役員報酬の税務」(清文社・2024)

関連書籍

重点解説 法人税申告の実務

公認会計士・税理士 鈴木基史 著

演習法人税法

公益社団法人 全国経理教育協会 編

法人税事例選集

公認会計士・税理士 森田政夫 共著 公認会計士・税理士 西尾宇一郎 共著

問答式 交際費・寄附金等の税務と会計

公認会計士・税理士 森田政夫 著 公認会計士・税理士 西尾宇一郎 著

実務必須の重要税務判例100

弁護士 菊田雅裕 著

法人税〈微妙・複雑・難解〉事例の税務処理判断

税理士 安藤孝夫 著 税理士 野田扇三郎 著 税理士 山内利文 著

厳選110問 交際費等の税務

税理士 岸田光正 著

精選Q&A 役員報酬の税務

税理士 中尾隼大 著

法人税の損金経理

税理士 安部和彦 著

税法基本判例 Ⅰ

谷口勢津夫 著

社長!税務調査の事前対策してますか

公認会計士・税理士 清原裕平 著

企業戦略としての役員報酬

弁護士 中西和幸 著

新着情報

もっと見る

記事検索

#