公開日: 2022/01/27 (掲載号:No.454)
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谷口教授と学ぶ「税法基本判例」 【第10回】「税法における類推解釈の許容性」-税法解釈原理としての「疑わしきは納税者の利益に」の妥当性-

筆者: 谷口 勢津夫

谷口教授と学ぶ

税法基本判例

【第10回】

「税法における類推解釈の許容性」

-税法解釈原理としての「疑わしきは納税者の利益に」の妥当性-

 

大阪大学大学院高等司法研究科教授
谷口 勢津夫

 

Ⅰ はじめに

税法の解釈については、租税法律主義の下で、厳格な解釈が要請され、原則として文理解釈によるべきであり、類推解釈は許されないことに異論はない(清永敬次『税法〔新装版〕』(ミネルヴァ書房・2013年)35頁、金子宏『租税法〔第24版〕』(弘文堂・2021年)123頁等参照)。

一般に、類推解釈という用語は、「類推を拡張解釈などと同様に、体系的解釈の一種とする見解」(田中成明『現代法理学』(有斐閣・2011年)469頁)に従った用語法によるものと解されるが、類推とは「ある事案を直接に規定した法規がない場合に、それと類似の性質・関係をもった事案について規定した法規を間接的に適用すること」(同468頁)をいうところ、「狭義の解釈が法規の文理的意味の範囲内で行われるのに対して、類推は、法の欠缺の存在を前提として、法規を間接推論によって適用する補充作業であるから、両者は法理論的には区別すべきである」(同469頁。下線筆者)とされている。つまり、類推は、法理論的には、狭義の解釈とは異なり、法の欠缺を補充するための法創造と性格づけられるのである。

ただ、類推に係る法規の間接推論においても「解釈的」方法が用いられる点に着目すれば、類推を「広義の解釈」として類推解釈と呼ぶこともできよう。上記の用語法はそのような意味での類推解釈に関するものであろう。以下では、そのような意味ないし用語法において類推解釈という語を用いることにする。

 

Ⅱ 納税者に有利な類推解釈の許容性

では、前述のとおり類推解釈が原則として許されないことから、税法判例には類推解釈を認めたものはないのであろうか。筆者の知る限り、「類推解釈」を明示的に認めた税法判例としては、最判昭和45年10月23日民集24巻11号1617頁がある(以下「昭和45年最判」という。ほかに、明示的にではないが類推解釈を認めたものと解される税法判例については、拙稿「租税法律主義と司法的救済保障原則-裁判官による文理解釈の『適正化』のための法創造根拠理由の研究-」税法学586号(日本税法学会創立70周年記念号・2021年)377頁、396頁参照)。

昭和45年最判は、所得税法33条1項括弧書に相当する規定がなかった当時において借地権の設定に伴い授受された高額な権利金の所得区分が争われた事案に関するものであり、次のとおり判示した(下線筆者)。

被上告人の昭和33年度の所得について適用された昭和34年法律第79号による改正前の所得税法(昭和22年法律第27号。以下、旧所得税法という。)においては、不動産所得とは、不動産、不動産の上に存する権利又は船舶の貸付(地上権又は永小作権の設定その他他人をして不動産、不動産の上に存する権利又は船舶を使用せしめる一切の場合を含む。)に因る所得から事業所得を除いたものをいい、譲渡所得とは、資産の譲渡に因る所得から山林所得および営利を目的とする継続的行為に因り生じた所得を除いたものをいうとされていた(同法9条)。不動産賃貸借の当事者間で授受されるいわゆる権利金には、原判決説示のように種々の性質のものが存するけれども、明らかに営業権譲渡の対価であるようなものは格別、通常、それは賃貸人が賃借人に対して一定の期間不動産を使用収益させる対価の一部として支払いを受ける一時の所得であるから、前記法条をその文言に従つて法律的、形式的に解釈するかぎり、通常、賃借権設定の際に賃貸人に支払われる権利金は、不動産所得に当たるものと解するほかはない。

しかし、原判決(その引用する第一審判決を含む。)の確定するところによれば、第二次大戦以前においては、土地賃貸借にあたつて権利金が授受される例は少なく、また、その額も比較的低額で、これを地代の一部と解しても不合理ではないようなものであつたし、土地賃借権の売買もそれほど広く行なわれてはいなかつた、そして、昭和25年法律第71号による旧所得税法の改正によつて、再度、不動産所得という所得類型が定められた当時も、立法上特別の考慮を促すほどには権利金授受の慣行は一般化していなかつた、ところが、比較的近時において、土地賃貸借における権利金授受の慣行は広く一般化し、その額も次第に高額となり、借地法等による借地人の保護とあいまつて土地所有者の地位は相対的に弱体化し、多くの場合、借地権の譲渡の承認や期間の更新を事実上拒み得ず、土地賃借権の価格も著しく高額となつた、そして、借地権の設定にあたり借地権の価格に相当するものが権利金として授受されるという慣行が、東京近辺の都市において特に多く見られ、その額も、土地所有権の価格の半額を上廻る場合が少なくない、というのである。してみると、前記昭和25年の旧所得税法改正当時には、近時における高額の権利金のようなものは不動産所得の対象としては予想されていなかつたものであるとともに、本件で問題とされている権利金が授受された昭和33年当時には、借地権の設定にあたつて授受される権利金のうちには、経済的、実質的に見れば所有権の権能の一部を譲渡する対価としての性質をもつものが存したであろうことは否定できないところであり、右のような権利金については、これを一律に不動産所得に当たるものとして課税すべきではなく、場合によつてはその経済的実質に着目して譲渡所得に当たるものとして課税を行なうことも、公平な課税の実現のために必要であるといわなければならない。

このような見地からすれば、借地権設定に際して土地所有者に支払われるいわゆる権利金の中でも、右借地権設定契約が長期の存続期間を定めるものであり、かつ、借地権の譲渡性を承認するものである等、所有者が当該土地の使用収益権を半永久的に手離す結果となる場合に、その対価として更地価格のきわめて高い割合に当たる金額が支払われるというようなものは、経済的、実質的には、所有権の権能の一部を譲渡した対価としての性質をもつものと認めることができるのであり、このような権利金は、昭和34年法律第79号による改正前の旧所得税法の下においても、なお、譲渡所得に当たるものと類推解釈するのが相当である。

もつとも、右所得税法9条1項が、譲渡所得については8号の規定により計算した金額の2分の1に相当する金額を課税標準とする旨定めているのは、普通の所得に対して資産の譲渡による所得を特に優遇するものであるから、その適用範囲を解釈によつてみだりに拡大することは許されないところであり、右のような類推解釈は、明らかに資産の譲渡の対価としての経済的実質を有するものと認められる権利金についてのみ許されると解すべきであつて、必ずしもそのような経済的実質を有するとはいいきれない、性質のあいまいな権利金については、法律の用語の自然な解釈に従い、不動産所得として課税すべきものと解するのが相当である。

上の引用判示のうち2段落目で説示されているように、本件におけるような借地権の設定に伴う高額の権利金の授受は、昭和25年の旧所得税法改正当時においては立法者の想定外の事実であり、これに適用できる法規が欠缺していたため、昭和45年最判は、その欠缺を補充するために「類推解釈」の名の下で法創造を行ったものと解される。

しかも、本件直後の昭和34年の旧所得税法改正により現行所得税法33条1項括弧書の規定(一定の借地権設定への「譲渡」概念拡張規定)に相当する規定が定められ、上記の法の欠缺が立法によって補充され「今後同様の問題が生ずる余地のなくなった」(富沢達「判解」最判解民事篇(昭和45年度)1041頁、1048頁)後の判断であったことから、昭和45年最判においては、最高裁としては租税法律主義の下でも法創造に対する抵抗感がさほど強くなかったのかもしれない(ただし、前記引用判示の最後の段落からすると、その抵抗感が全くなかったわけではなかったと考えられる)。最高裁がその2年ほど前に示した下記の譲渡所得課税の趣旨(最判昭和43年10月31日訟月14巻12号1442頁)に照らせば、昭和45年最判が行ったのが法創造といっても、その趣旨の範囲内にある法創造(制定法内在的法創造)であることからすると、尚更である(富沢・前掲「判解」1047頁も参照)。

譲渡所得に対する課税は、・・・・・・、資産の値上りによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得として、その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会に、これを清算して課税する趣旨のものと解すべきであ[る]。

とはいえ、昭和45年最判が「類推解釈」の名の下で法創造を行ったのは、何よりもまず、それが納税者に有利な類推解釈(法創造)であったからであると考えられる。所得税法上の不動産所得と譲渡所得との区分に関する前記の法の欠缺を立法者が機動的に補充していれば納税者が享受することができたであろう租税利益(二分の一控除の利益)を、その法の欠缺の故に納税者が享受できないという結果は、当該所得区分に関連する規定の解釈適用上は納税者にとって「不当・不合理な結果」というべきである。その結果が租税法律主義の下で厳格な解釈の要請に従って行われる当該関連規定の文理解釈によるものであっても、その結果の不当性・不合理性は変わることはない。

そもそも、文理解釈の結果が納税者にとって著しく不当・不合理なものである場合、納税者は、当然のことながら立法者とは異なり、自ら直接その結果を除去する権限をもたず、裁判を受ける権利(憲法32条)を行使して裁判所に対してその結果の除去を請求し得るにとどまる以上、裁判所としては、裁判を受ける権利を実質化し司法的救済を実現するために、文理から離れた(とはいえ制定法内在的法創造の枠を超えない)法創造によってその結果を除去し納税者の権利を救済しなければならない(拙著『税法基本講義〔第7版〕』(弘文堂・2021年)【44】、第7回Ⅲ参照)。

この意味で、昭和45年最判は、租税法律主義の内容を構成する司法的救済保障原則の見地から高く評価すべきものである(前掲拙著【27】参照)。

 

Ⅲ 「疑わしきは納税者の利益に」の意義と解釈原理としての妥当性

ところで、納税者に有利な類推解釈(法創造)は、同様の発想なり考え方を、古くから税法の解釈原理として主張されてきた「in dubio contra fiscum」という法命題の中に見出すことができる。これは直訳すれば「疑わしきは国庫の不利益に」となるが(中川一郎編『税法学体系〔全訂増補〕』(ぎょうせい・1977年)63頁[中川一郎執筆]参照)、しばしば「疑わしきは納税者の利益に」の意味で用いられる(清永・前掲書36頁参照)。この法命題を税法の解釈原理として承認する立場に立てば、それはまさしく納税者に有利な類推解釈(法創造)であると理解することができようが(前掲拙著【49】参照)、このような理解は、昭和45年最判の原審・東京高判昭和41年3月15日行集17巻3号277頁の採用するものである。この判決は次のとおり判示した(下線筆者)。

すでにしばしば説示したごとく、権利金の性質を一概に決定することはできないのであり、本件の権利金もその例に洩れないとすれば、このような性質の明らかでない権利金は、これを所得税法九条一項三号の不動産の貸付による所得すなわち不動産所得とみるべきか、同条一項八号の資産の譲渡による所得すなわち譲渡所得とみるべきかということに帰する。そもそも、所得税は、法律の定めるところによるとは云え、国家が国民に対し、国民の意思にかかわりなく賦課徴収するものであり、法律の解釈上疑わしい場合には、国民の利益に解するのが当然であるというべきであり、不動産所得とみるよりは、譲渡所得とみる方が納税者のために利益であるとするならば、性質のあいまいな、しかもその後の法律の改正により譲渡所得と擬制されることになつた要件を充たすような権利金については、法の改正前においても--本件権利金は改正直前の課税年度に授受されていることを想起すべきである--同様に譲渡所得と類推解釈するのが相当であるといわなければならない。

ここで「疑わしい場合」とは、「税法の規定の意味内容が一義的でなく解釈上直ちに一つの答えを見出すことが困難である場合」(清永・前掲書36頁)をいうものと解されるが、「疑わしきは納税者の利益に」という法命題を税法の解釈原理として承認するかどうかについては、これを肯定する見解(中川編・前掲書66頁[中川執筆]、清永・前掲書37頁等参照)と否定する見解がある。後者の代表的な見解は次のとおり説いている(金子・前掲書125頁)。

意味内容が不分明で見解が分かれている規定がある場合に、その意味内容を明らかにすることこそ、法の解釈の作用であり、法を適用する者の任務であって、規定の意味内容が不分明で疑わしい場合であるという理由で解釈を中止するのは、その義務を放棄することにほかならない。その意味で、「疑わしきは納税者の利益に」という命題は、課税要件事実の認定については妥当するが、租税法の解釈原理としては成り立たない(同旨、最判平成24年1月13日民集66巻1号1頁における須藤正彦裁判官の補足意見)。「疑わしきは国庫の利益に」という解釈原理が成り立ちえないことも、いうまでもない。もし、租税法上許される解釈方法を用いてもなおその法的意味を把握できないような規定がある場合は、その規定は、前述の課税要件明確主義(84頁)に反し無効である(したがって、結局適用されないことになる)、と解すれば十分である。

確かに、そのような「疑わしき」規定は、憲法論においては、課税要件明確主義に反し無効であり適用できないと考えるべきであろう。しかし、わが国の違憲立法審査制(憲法81条)は抽象的違憲審査権を裁判所に認めるものでないと解されるが(最大判昭和27年10月8日民集6巻9号783頁参照)、そうである以上、具体的な訴訟において当該「疑わしき」規定について納税者が課税要件明確主義違反を主張せず、しかも複数の合理的な解釈可能性のうちに納税者の主張する自己に有利な解釈がある場合には、「疑わしきは納税者の利益に」という法命題は税法の解釈原理として成り立つと考えるべきであろう(前掲拙著【49】参照)。

このように考えることによって、方法論の違いはともかく、納税者に有利な類推解釈(法創造)を許容する場合と同様、司法的救済保障原則の実現に資する結果をもたらすことができよう。

 

Ⅳ おわりに

以上、今回は、税法における類推解釈の許容性を特に納税者に有利な類推解釈(法創造)に関して検討し、関連して「疑わしきは納税者の利益に」という法命題の、税法の解釈原理としての妥当性についても検討した。

租税法律主義の下では「租税法規はみだりに規定の文言を離れて解釈すべきものではな[い]」(最判平成22年3月2日民集64巻2号420頁)が、「みだりに」ではなく、裁判を受ける権利の実質化・実効的保障という正当かつ合理的な理由に基づく場合には、裁判所が「規定の文言を離れて」納税者に有利な類推解釈(法創造)を行い、あるいは「疑わしきは納税者の利益に」という法命題を税法の解釈原理として用いる余地を認めるべきであると考えるところである。無論、裁判所がそのような判断をする必要がないように、何よりもまず、立法者に「租税立法の質」を改善する立法力を機動的に発揮することが要請されることはいうまでもない(前掲拙稿400頁参照)。

(了)

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谷口教授と学ぶ

税法基本判例

【第10回】

「税法における類推解釈の許容性」

-税法解釈原理としての「疑わしきは納税者の利益に」の妥当性-

 

大阪大学大学院高等司法研究科教授
谷口 勢津夫

 

Ⅰ はじめに

税法の解釈については、租税法律主義の下で、厳格な解釈が要請され、原則として文理解釈によるべきであり、類推解釈は許されないことに異論はない(清永敬次『税法〔新装版〕』(ミネルヴァ書房・2013年)35頁、金子宏『租税法〔第24版〕』(弘文堂・2021年)123頁等参照)。

一般に、類推解釈という用語は、「類推を拡張解釈などと同様に、体系的解釈の一種とする見解」(田中成明『現代法理学』(有斐閣・2011年)469頁)に従った用語法によるものと解されるが、類推とは「ある事案を直接に規定した法規がない場合に、それと類似の性質・関係をもった事案について規定した法規を間接的に適用すること」(同468頁)をいうところ、「狭義の解釈が法規の文理的意味の範囲内で行われるのに対して、類推は、法の欠缺の存在を前提として、法規を間接推論によって適用する補充作業であるから、両者は法理論的には区別すべきである」(同469頁。下線筆者)とされている。つまり、類推は、法理論的には、狭義の解釈とは異なり、法の欠缺を補充するための法創造と性格づけられるのである。

ただ、類推に係る法規の間接推論においても「解釈的」方法が用いられる点に着目すれば、類推を「広義の解釈」として類推解釈と呼ぶこともできよう。上記の用語法はそのような意味での類推解釈に関するものであろう。以下では、そのような意味ないし用語法において類推解釈という語を用いることにする。

 

Ⅱ 納税者に有利な類推解釈の許容性

では、前述のとおり類推解釈が原則として許されないことから、税法判例には類推解釈を認めたものはないのであろうか。筆者の知る限り、「類推解釈」を明示的に認めた税法判例としては、最判昭和45年10月23日民集24巻11号1617頁がある(以下「昭和45年最判」という。ほかに、明示的にではないが類推解釈を認めたものと解される税法判例については、拙稿「租税法律主義と司法的救済保障原則-裁判官による文理解釈の『適正化』のための法創造根拠理由の研究-」税法学586号(日本税法学会創立70周年記念号・2021年)377頁、396頁参照)。

昭和45年最判は、所得税法33条1項括弧書に相当する規定がなかった当時において借地権の設定に伴い授受された高額な権利金の所得区分が争われた事案に関するものであり、次のとおり判示した(下線筆者)。

被上告人の昭和33年度の所得について適用された昭和34年法律第79号による改正前の所得税法(昭和22年法律第27号。以下、旧所得税法という。)においては、不動産所得とは、不動産、不動産の上に存する権利又は船舶の貸付(地上権又は永小作権の設定その他他人をして不動産、不動産の上に存する権利又は船舶を使用せしめる一切の場合を含む。)に因る所得から事業所得を除いたものをいい、譲渡所得とは、資産の譲渡に因る所得から山林所得および営利を目的とする継続的行為に因り生じた所得を除いたものをいうとされていた(同法9条)。不動産賃貸借の当事者間で授受されるいわゆる権利金には、原判決説示のように種々の性質のものが存するけれども、明らかに営業権譲渡の対価であるようなものは格別、通常、それは賃貸人が賃借人に対して一定の期間不動産を使用収益させる対価の一部として支払いを受ける一時の所得であるから、前記法条をその文言に従つて法律的、形式的に解釈するかぎり、通常、賃借権設定の際に賃貸人に支払われる権利金は、不動産所得に当たるものと解するほかはない。

しかし、原判決(その引用する第一審判決を含む。)の確定するところによれば、第二次大戦以前においては、土地賃貸借にあたつて権利金が授受される例は少なく、また、その額も比較的低額で、これを地代の一部と解しても不合理ではないようなものであつたし、土地賃借権の売買もそれほど広く行なわれてはいなかつた、そして、昭和25年法律第71号による旧所得税法の改正によつて、再度、不動産所得という所得類型が定められた当時も、立法上特別の考慮を促すほどには権利金授受の慣行は一般化していなかつた、ところが、比較的近時において、土地賃貸借における権利金授受の慣行は広く一般化し、その額も次第に高額となり、借地法等による借地人の保護とあいまつて土地所有者の地位は相対的に弱体化し、多くの場合、借地権の譲渡の承認や期間の更新を事実上拒み得ず、土地賃借権の価格も著しく高額となつた、そして、借地権の設定にあたり借地権の価格に相当するものが権利金として授受されるという慣行が、東京近辺の都市において特に多く見られ、その額も、土地所有権の価格の半額を上廻る場合が少なくない、というのである。してみると、前記昭和25年の旧所得税法改正当時には、近時における高額の権利金のようなものは不動産所得の対象としては予想されていなかつたものであるとともに、本件で問題とされている権利金が授受された昭和33年当時には、借地権の設定にあたつて授受される権利金のうちには、経済的、実質的に見れば所有権の権能の一部を譲渡する対価としての性質をもつものが存したであろうことは否定できないところであり、右のような権利金については、これを一律に不動産所得に当たるものとして課税すべきではなく、場合によつてはその経済的実質に着目して譲渡所得に当たるものとして課税を行なうことも、公平な課税の実現のために必要であるといわなければならない。

このような見地からすれば、借地権設定に際して土地所有者に支払われるいわゆる権利金の中でも、右借地権設定契約が長期の存続期間を定めるものであり、かつ、借地権の譲渡性を承認するものである等、所有者が当該土地の使用収益権を半永久的に手離す結果となる場合に、その対価として更地価格のきわめて高い割合に当たる金額が支払われるというようなものは、経済的、実質的には、所有権の権能の一部を譲渡した対価としての性質をもつものと認めることができるのであり、このような権利金は、昭和34年法律第79号による改正前の旧所得税法の下においても、なお、譲渡所得に当たるものと類推解釈するのが相当である。

もつとも、右所得税法9条1項が、譲渡所得については8号の規定により計算した金額の2分の1に相当する金額を課税標準とする旨定めているのは、普通の所得に対して資産の譲渡による所得を特に優遇するものであるから、その適用範囲を解釈によつてみだりに拡大することは許されないところであり、右のような類推解釈は、明らかに資産の譲渡の対価としての経済的実質を有するものと認められる権利金についてのみ許されると解すべきであつて、必ずしもそのような経済的実質を有するとはいいきれない、性質のあいまいな権利金については、法律の用語の自然な解釈に従い、不動産所得として課税すべきものと解するのが相当である。

上の引用判示のうち2段落目で説示されているように、本件におけるような借地権の設定に伴う高額の権利金の授受は、昭和25年の旧所得税法改正当時においては立法者の想定外の事実であり、これに適用できる法規が欠缺していたため、昭和45年最判は、その欠缺を補充するために「類推解釈」の名の下で法創造を行ったものと解される。

しかも、本件直後の昭和34年の旧所得税法改正により現行所得税法33条1項括弧書の規定(一定の借地権設定への「譲渡」概念拡張規定)に相当する規定が定められ、上記の法の欠缺が立法によって補充され「今後同様の問題が生ずる余地のなくなった」(富沢達「判解」最判解民事篇(昭和45年度)1041頁、1048頁)後の判断であったことから、昭和45年最判においては、最高裁としては租税法律主義の下でも法創造に対する抵抗感がさほど強くなかったのかもしれない(ただし、前記引用判示の最後の段落からすると、その抵抗感が全くなかったわけではなかったと考えられる)。最高裁がその2年ほど前に示した下記の譲渡所得課税の趣旨(最判昭和43年10月31日訟月14巻12号1442頁)に照らせば、昭和45年最判が行ったのが法創造といっても、その趣旨の範囲内にある法創造(制定法内在的法創造)であることからすると、尚更である(富沢・前掲「判解」1047頁も参照)。

譲渡所得に対する課税は、・・・・・・、資産の値上りによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得として、その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会に、これを清算して課税する趣旨のものと解すべきであ[る]。

とはいえ、昭和45年最判が「類推解釈」の名の下で法創造を行ったのは、何よりもまず、それが納税者に有利な類推解釈(法創造)であったからであると考えられる。所得税法上の不動産所得と譲渡所得との区分に関する前記の法の欠缺を立法者が機動的に補充していれば納税者が享受することができたであろう租税利益(二分の一控除の利益)を、その法の欠缺の故に納税者が享受できないという結果は、当該所得区分に関連する規定の解釈適用上は納税者にとって「不当・不合理な結果」というべきである。その結果が租税法律主義の下で厳格な解釈の要請に従って行われる当該関連規定の文理解釈によるものであっても、その結果の不当性・不合理性は変わることはない。

そもそも、文理解釈の結果が納税者にとって著しく不当・不合理なものである場合、納税者は、当然のことながら立法者とは異なり、自ら直接その結果を除去する権限をもたず、裁判を受ける権利(憲法32条)を行使して裁判所に対してその結果の除去を請求し得るにとどまる以上、裁判所としては、裁判を受ける権利を実質化し司法的救済を実現するために、文理から離れた(とはいえ制定法内在的法創造の枠を超えない)法創造によってその結果を除去し納税者の権利を救済しなければならない(拙著『税法基本講義〔第7版〕』(弘文堂・2021年)【44】、第7回Ⅲ参照)。

この意味で、昭和45年最判は、租税法律主義の内容を構成する司法的救済保障原則の見地から高く評価すべきものである(前掲拙著【27】参照)。

 

Ⅲ 「疑わしきは納税者の利益に」の意義と解釈原理としての妥当性

ところで、納税者に有利な類推解釈(法創造)は、同様の発想なり考え方を、古くから税法の解釈原理として主張されてきた「in dubio contra fiscum」という法命題の中に見出すことができる。これは直訳すれば「疑わしきは国庫の不利益に」となるが(中川一郎編『税法学体系〔全訂増補〕』(ぎょうせい・1977年)63頁[中川一郎執筆]参照)、しばしば「疑わしきは納税者の利益に」の意味で用いられる(清永・前掲書36頁参照)。この法命題を税法の解釈原理として承認する立場に立てば、それはまさしく納税者に有利な類推解釈(法創造)であると理解することができようが(前掲拙著【49】参照)、このような理解は、昭和45年最判の原審・東京高判昭和41年3月15日行集17巻3号277頁の採用するものである。この判決は次のとおり判示した(下線筆者)。

すでにしばしば説示したごとく、権利金の性質を一概に決定することはできないのであり、本件の権利金もその例に洩れないとすれば、このような性質の明らかでない権利金は、これを所得税法九条一項三号の不動産の貸付による所得すなわち不動産所得とみるべきか、同条一項八号の資産の譲渡による所得すなわち譲渡所得とみるべきかということに帰する。そもそも、所得税は、法律の定めるところによるとは云え、国家が国民に対し、国民の意思にかかわりなく賦課徴収するものであり、法律の解釈上疑わしい場合には、国民の利益に解するのが当然であるというべきであり、不動産所得とみるよりは、譲渡所得とみる方が納税者のために利益であるとするならば、性質のあいまいな、しかもその後の法律の改正により譲渡所得と擬制されることになつた要件を充たすような権利金については、法の改正前においても--本件権利金は改正直前の課税年度に授受されていることを想起すべきである--同様に譲渡所得と類推解釈するのが相当であるといわなければならない。

ここで「疑わしい場合」とは、「税法の規定の意味内容が一義的でなく解釈上直ちに一つの答えを見出すことが困難である場合」(清永・前掲書36頁)をいうものと解されるが、「疑わしきは納税者の利益に」という法命題を税法の解釈原理として承認するかどうかについては、これを肯定する見解(中川編・前掲書66頁[中川執筆]、清永・前掲書37頁等参照)と否定する見解がある。後者の代表的な見解は次のとおり説いている(金子・前掲書125頁)。

意味内容が不分明で見解が分かれている規定がある場合に、その意味内容を明らかにすることこそ、法の解釈の作用であり、法を適用する者の任務であって、規定の意味内容が不分明で疑わしい場合であるという理由で解釈を中止するのは、その義務を放棄することにほかならない。その意味で、「疑わしきは納税者の利益に」という命題は、課税要件事実の認定については妥当するが、租税法の解釈原理としては成り立たない(同旨、最判平成24年1月13日民集66巻1号1頁における須藤正彦裁判官の補足意見)。「疑わしきは国庫の利益に」という解釈原理が成り立ちえないことも、いうまでもない。もし、租税法上許される解釈方法を用いてもなおその法的意味を把握できないような規定がある場合は、その規定は、前述の課税要件明確主義(84頁)に反し無効である(したがって、結局適用されないことになる)、と解すれば十分である。

確かに、そのような「疑わしき」規定は、憲法論においては、課税要件明確主義に反し無効であり適用できないと考えるべきであろう。しかし、わが国の違憲立法審査制(憲法81条)は抽象的違憲審査権を裁判所に認めるものでないと解されるが(最大判昭和27年10月8日民集6巻9号783頁参照)、そうである以上、具体的な訴訟において当該「疑わしき」規定について納税者が課税要件明確主義違反を主張せず、しかも複数の合理的な解釈可能性のうちに納税者の主張する自己に有利な解釈がある場合には、「疑わしきは納税者の利益に」という法命題は税法の解釈原理として成り立つと考えるべきであろう(前掲拙著【49】参照)。

このように考えることによって、方法論の違いはともかく、納税者に有利な類推解釈(法創造)を許容する場合と同様、司法的救済保障原則の実現に資する結果をもたらすことができよう。

 

Ⅳ おわりに

以上、今回は、税法における類推解釈の許容性を特に納税者に有利な類推解釈(法創造)に関して検討し、関連して「疑わしきは納税者の利益に」という法命題の、税法の解釈原理としての妥当性についても検討した。

租税法律主義の下では「租税法規はみだりに規定の文言を離れて解釈すべきものではな[い]」(最判平成22年3月2日民集64巻2号420頁)が、「みだりに」ではなく、裁判を受ける権利の実質化・実効的保障という正当かつ合理的な理由に基づく場合には、裁判所が「規定の文言を離れて」納税者に有利な類推解釈(法創造)を行い、あるいは「疑わしきは納税者の利益に」という法命題を税法の解釈原理として用いる余地を認めるべきであると考えるところである。無論、裁判所がそのような判断をする必要がないように、何よりもまず、立法者に「租税立法の質」を改善する立法力を機動的に発揮することが要請されることはいうまでもない(前掲拙稿400頁参照)。

(了)

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連載目次

谷口教授と学ぶ「税法基本判例」

第1回~第20回

第21回~

筆者紹介

谷口 勢津夫

(たにぐち・せつお)

大阪学院大学法学部教授

1956年高知県生まれ。京都大学法学部卒業、同大学大学院法学研究科博士後期課程単位修得退学。甲南大学法学部教授、大阪大学大学院高等司法研究科教授を経て2022年4月より現職。大阪大学名誉教授。ほかに大阪大学大学院高等司法研究科長・大阪大学法務室長、アレクサンダー・フォン・フンボルト財団奨励研究員(Forschungsstipendiat der Alexander von Humboldt-Stiftung)・ミュンヘン大学客員研究員、日本税法学会理事長、租税法学会理事、IFA(International Fiscal Association)日本支部理事、資産評価政策学会理事、司法試験考査委員、公認会計士試験試験委員、独立行政法人造幣局契約監視委員会委員・委員長、大阪府収用委員会委員・会長、大阪府行政不服審査会委員・会長、公益財団法人日本税務研究センター評議員・同センター理事・同センター「日税研究賞」選考委員・同センター編集委員会委員、公益財団法人納税協会連合会「税に関する論文」選考委員、公益社団法人商事法務研究会「商事法務研究会賞」審査委員、近畿税理士会・近畿税務研究センター顧問など(一部現職。ほか歴任)。

主要著書は『租税条約論』(清文社・1999年)、『租税回避論』(清文社・2014年)、『租税回避研究の展開と課題〔清永敬次先生謝恩論文集〕』(共著・ミネルヴァ書房・2015年)、『税法の基礎理論』(清文社・2021年)、『税法創造論』(清文社・2022年)、『税法基本判例Ⅰ』(清文社・2023年)、『基礎から学べる租税法〔第4版〕』(共著・弘文堂・2025年)、『税法基本講義〔第8版〕』(弘文堂・2025年)、『税法基本判例Ⅱ』(清文社・2025年)など。
 
   

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