谷口教授と学ぶ
税法基本判例
【第3回】
「課税要件法定主義と委任命令」
-ふるさと納税不指定事件・最判令和2年6月30日民集74巻4号800頁-
大阪大学大学院高等司法研究科教授
谷口 勢津夫
Ⅰ はじめに
今回は、租税法律主義(形式的租税法律主義。租税法律主義の意義と分類については、谷口教授と学ぶ「税法の基礎理論」【第1回】参照)の要請のうち課税要件法定主義に関して委任命令の委任範囲逸脱の問題を扱ったふるさと納税不指定事件・最判令和2年6月30日民集74巻4号800頁(以下「本判決」という。本判決には宮崎裕子裁判官の補足意見と林景一裁判官の補足意見が示されているが、以下では「宮崎補足意見」、「林補足意見」という)を取り上げる。本判決は、拙著『税法基本講義〔第6版〕』(弘文堂・2018年)では当然のことながら取り上げていないが、現在改訂作業中の同書第7版(今秋刊行予定)では欄外番号【30】で取り上げることにしている。
形式的租税法律主義すなわち法律によらない課税の禁止の原則からすれば、課税要件をはじめとして納税者の実体的・手続的権利義務にかかわる事項は、すべて法律で定めなければならない(前回Ⅱで取り上げた大嶋訴訟・最[大]判昭和60年3月27日民集39巻2号247頁等参照)。この要請は、租税法律主義の民主主義的再構成(谷口教授と学ぶ「税法の基礎理論」【第34回】Ⅱ、【第43回】Ⅳ、【第45回】Ⅲ参照)に基づき租税立法者の規律責務を明確にし租税法律の規律密度(ここでは特に規律事項の範囲)を高めるものであり、課税要件法定主義と呼ばれる。
課税要件法定主義の下では、命令(行政立法)への委任について①委任する租税法律(委任法律)の側で委任の仕方が、②委任を受けて定められる命令(委任命令)の側で委任範囲の逸脱が問題にされる。①については、個別的・具体的委任は許されるが、一般的・白紙的委任は課税要件法定主義に反し違憲であることに異論はない(ただし、一般的・白紙的委任を認めた裁判例としては神戸地判平成12年3月28日訟月48巻6号1519頁があるくらいで、これも控訴審・大阪高判平成12年10月24日訟月48巻6号1534頁で覆された)。また、②については、委任範囲を逸脱した委任命令を課税要件法定主義に反し違憲とするか、又は委任法律に反し違法とするかはともかく(本判決と同じく筆者も後者の立場である)、その委任命令が無効であることに異論はない。
今回検討する本判決は上記の②の問題について、従来の判例の立場を踏まえつつ、新たな判断を示したものとして注目される。以下では、拙稿「判批」民商法雑誌157巻2号(2021年)281頁をベースにしながら、本判決について検討することにする。その検討に入る前に、本件の事案の概要を以下に述べておこう。
ふるさと納税制度(地税37条の2第1項・第2項、314条の7第1項・第2項)は、平成20年度税制改正により導入された。創設当時は、地方団体が寄附金の受領に伴い当該寄附金の支出者に対して提供する物品、役務等のいわゆる返礼品について特に定める法令上の規制は存在しなかった。もっとも、その後、寄附金の額に対する返礼品の調達価格の割合(返礼割合)の高い返礼品を提供する地方団体が多くの寄附金を集める事態が生じたこと等から、Y(総務大臣-被告・被上告人)は、地方団体に対する技術的な助言(自治254条の4第1項)として、平成27年以後、状況の変化に応じて通知(本件各通知)により是正を求めたにもかかわらず、一部の地方団体が過度な返礼品を送付して多額の寄附金を得る状況はその後も継続していた。
そこで、総務省は、過度な返礼品を送付しふるさと納税制度の趣旨を歪めているような地方団体を特例控除の対象外にすることができるようにするとの基本的な考え方に基づいて、所定の基準(募集適正基準等)に適合する地方団体として総務大臣が指定するものに対する寄附金のみを特例控除対象寄附金とする制度(本件指定制度)を導入すること等を内容とする法律案(本件法律案)を作成した。本件法律案は内閣から国会に提出され、平成31年3月27日に成立し、そのうち本件指定制度の導入等を内容とする改正規定(本件改正規定)は令和元年6月1日から施行された。本件指定制度を定める地方税法37条の2第2項(本件授権規定)に基づき、総務大臣は、平成31年4月1日、募集適正基準等を定める告示(本件告示)を発し、令和元年6月1日から適用することとした。
本件告示1条はふるさと納税制度の趣旨について「ふるさとやお世話になった地方団体に感謝し、若しくは応援する気持ちを伝え、又は税の使い途を自らの意思で決めることを可能にすること」と述べている。本件で本件授権規定による委任の範囲の逸脱が問題とされたのは本件告示2条3号であるが、これは、募集適正基準の1つとして、「平成30年11月1日から法第37条の2第3項・・・・・・に規定する申出書を提出する日までの間に、前条に規定する趣旨に反する方法により他の地方団体に多大な影響を及ぼすような第1号寄附金の募集を行い、当該趣旨に沿った方法による第1号寄附金の募集を行う他の地方団体に比して著しく多額の第1号寄附金を受領した地方団体でないこと」という指定基準を定めるものである。
以上のような経緯で導入された本件指定制度の下で平成31年4月5日付けで初年度に係る指定の申出(本件指定申出)をした泉佐野市に対してYが当該指定をしない旨の決定(本件不指定)をした。その理由は、本件指定申出に係る申出書等の内容上の問題(不指定理由①)、本件告示2条3号のうち過去の募集実績に係る基準(過去の募集実績基準)違反(不指定理由②)及び法定返礼品基準違反(不指定理由③)であったが、X(泉佐野市市長-原告・上告人)は、本件不指定を不服として、地方自治法250条の13第1項に基づき国地方係争処理委員会への審査の申出を経て、令和元年11月1日、本件不指定は違法な国の関与に当たると主張して、同法251条の5第1項2号に基づき、Yに対し本件不指定の取消しを求めた。
Ⅱ 本判決の判断基準とその適用
以下では、今回の主題に従い不指定理由②に関する本判決の判断内容を以下でみておこう。
まず、本判決は委任命令に係る委任の範囲逸脱の判断基準について次のとおり判示した。
本件告示2条3号は、上記のとおり地方団体が本件改正規定の施行前における返礼品の提供の態様を理由に指定の対象外とされる場合があることを定めるものであるから、実質的には、同大臣による技術的な助言に従わなかったことを理由とする不利益な取扱いを定める側面があることは否定し難い。そのような取扱いであっても、それが法律上の根拠に基づくものである場合、すなわち、同号が地方税法の委任の範囲内で定められたものである場合には、直ちに地方自治法247条3項に違反するとまではいえないものの、同項の趣旨も考慮すると、本件告示2条3号が地方税法37条の2第2項の委任の範囲を逸脱したものではないというためには、前記・・・・・・のような趣旨の[過去の募集実績]基準の策定を委任する授権の趣旨が、同法の規定等から明確に読み取れることを要するものというべきである。
次に、本判決は、「このような観点から,本件告示2条3号の効力について検討する」として、「法文の文理」、「委任の趣旨」及び「立法過程における議論」(「本件法律案の作成の経緯」及び「国会における本件法律案の審議の過程」)を検討しているが、これらのうち本判決が委任の範囲逸脱の判断において特に重視したものと解される「委任の趣旨」に関する判示(下線筆者)を次に引用しておく。
次に、委任の趣旨についてみると、地方税法37条の2第2項が総務大臣に対して指定の基準のうち募集適正基準等の内容を定めることを委ねたのは、寄附金の募集の態様や提供される返礼品等の内容を規律する具体的な基準の策定については、地方行政・地方財政・地方税制や地方団体の実情等に通じた同大臣の専門技術的な裁量に委ねるのが適当であることに加え、そのような具体的な基準は状況の変化に対応した柔軟性を確保する必要があり、法律で全て詳細に定めるのは適当ではないことによるものと解される。
他方、本件指定制度の導入に当たり、その導入前にふるさと納税制度の趣旨に反する方法により著しく多額の寄附金を受領していた地方団体について、他の地方団体との公平性を確保しその納得を得るという観点から、特例控除の対象としないものとする基準を設けるか否かは、立法者において主として政治的、政策的観点から判断すべき性質の事柄である。また、そのような基準は、上記地方団体について、本件指定制度の下では、新たに定められた基準に従って寄附金の募集を行うか否かにかかわらず、一律に指定を受けられないこととするものであって、指定を受けようとする地方団体の地位に継続的に重大な不利益を生じさせるものである。そのような基準は、総務大臣の専門技術的な裁量に委ねるのが適当な事柄とはいい難いし、状況の変化に対応した柔軟性の確保が問題となる事柄でもないから、その策定についてまで上記の委任の趣旨が妥当するとはいえず、地方税法が、総務大臣に対し、同大臣限りでそのような基準を定めることを委ねたものと当然に解することはできないというべきである。
最後に、本判決は次のとおり判示して本件告示2条3号の規定につき地方税法37条の2第2項(本件授権規定)の委任の範囲逸脱を認めた。
以上によれば、地方税法37条の2第2項につき、関係規定の文理や総務大臣に対する委任の趣旨等のほか、立法過程における議論をしんしゃくしても、前記・・・・・・のような趣旨の[過去の募集実績]基準の策定を委任する授権の趣旨が明確に読み取れるということはできない。そうすると、本件告示2条3号の規定のうち、本件改正規定の施行前における寄附金の募集及び受領について定める部分は、地方税法37条の2第2項・・・・・・の委任の範囲を逸脱した違法なものとして無効というべきである。
Ⅲ 委任の趣旨と「法律の専管事項」
1 従来の判例法理
本判決は、委任命令に係る委任の範囲逸脱の判断基準として、医薬品ネット販売事件・最判平成25年1月11日民集67巻1号1頁が次の判示で採用した「授権趣旨の明確性」(宮村教平「判批」阪大法学63巻5号(2014年)1627頁、1632頁、宇賀克也『行政法概説Ⅰ 行政法総論〔第7版〕』(有斐閣・2020年)309頁等)という基準を「下敷き」(中原茂樹「判批」法教480号(2020年)114頁)にして、「事例判断的な表現」(高木光「判批」民商149巻3号(2013年)269頁、277頁)も含めて、同じような判断基準を採用したものと解される(原田大樹『判例で学ぶ法学 行政法』(新世社・2020年)211頁参照)。
憲法22条1項による保障は、狭義における職業選択の自由のみならず職業活動の自由の保障をも包含しているものと解されるところ(・・・・・・)、旧薬事法の下では違法とされていなかった郵便等販売に対する新たな規制は、郵便等販売をその事業の柱としてきた者の職業活動の自由を相当程度制約するものであることが明らかである。これらの事情の下で、厚生労働大臣が制定した郵便等販売を規制する新施行規則の規定が、これを定める根拠となる新薬事法の趣旨に適合するもの(行政手続法38条1項)であり、その委任の範囲を逸脱したものではないというためには、立法過程における議論をもしんしゃくした上で、新薬事法36条の5及び36条の6を始めとする新薬事法中の諸規定を見て、そこから、郵便等販売を規制する内容の省令の制定を委任する授権の趣旨が、上記規制の範囲や程度等に応じて明確に読み取れることを要するものというべきである。
このような基準によって判断する際の考慮要素について、上記最判に関する調査官解説(岡田幸人「判解」最判解民事篇(平成25年度)1頁、20頁)は従来の判例の立場を次のように整理している。
委任命令が授権規定による委任の範囲内といえるか否かについての考慮要素としては、① 授権規定の文言、② 授権規定が下位法令に委任した趣旨、③ 授権法の趣旨、目的及び仕組みとの整合性、④ 委任命令によって制限される権利ないし利益の性質等が一応挙げられるのではないかと考えられる。
2 委任の趣旨に関する「法律の所管事項二分論」
本判決について従来の判例法理と比べて特徴的と思われるのは、「委任の趣旨」に関する前記の判示である。
本判決は、まず、本件授権規定が募集適正基準の策定を本件告示に委任した趣旨として、同基準の策定が❶「総務大臣の専門技術的な裁量に委ねるのが適当な事柄」及び「状況の変化に対応した柔軟性の確保が問題となる事柄」である旨を判示している。この判示は、委任の趣旨に関する一般論(岡田・前掲「判解」19頁、宇賀・前掲書301頁参照)を募集適正基準について述べたものであり、特に異論はなかろう。
本判決は、次に、法律の所管事項について❶と区分して、❷「立法者において主として政治的、政策的観点から判断すべき性質の事柄」を示し、過去の募集実績基準はこれに該当する旨を判示している(法律の所管事項二分論)。この点について、林補足意見は「Yにおいて、法的な問題として、そのような不当な状態を、将来のみならず過去の行為をも考慮に入れて解消することを目指すのであれば、制度改正に際し、その旨の明示的な規定を設けることを、法律レベルで追求すべきであったといえる。」と述べている。
「委任の趣旨」に関する本判決の以上の判断からすると、❷の事項はいわば「法律の専管事項」である以上、これに該当する過去の募集実績基準の策定は本件授権規定によって委任されていないこと(いわば「委任の不存在」)になるから、「[過去の募集実績]基準の策定を委任する授権の趣旨が明確に読み取れるということはできない。」と結論づけられたものと解される。つまり、この結論にとって決定的な意味をもつのは、「委任の趣旨」に関する前記の判断のうち、過去の募集実績基準が❷「立法者において主として政治的、政策的観点から判断すべき性質の事柄」という「法律の専管事項」に該当するという判断であると考えられる。
3 過去の募集実績基準の「法律の専管事項」該当性の理由
では、その判断はどのような理由に基づくものであろうか。「委任の趣旨」に関する前記の判示によれば、過去の募集実績基準は、「[本件指定制度]の導入前にふるさと納税制度の趣旨に反する方法により著しく多額の寄附金を受領していた地方団体について、他の地方団体との公平性を確保しその納得を得るという観点」から、設けられたものとされているが、この「観点」には、ⓐ過去すなわち本件指定制度の導入前の募集実績の考慮とⓑ他の地方団体との公平の確保という2つの要素が含まれている。
まず、ⓐについて、本判決は、遡及課税立法に関する判例(最判平成23年9月22日民集65巻6号2756頁等)の趣旨に照らして、ⓐを法律で定めることを要求したものと解される。判例では、遡及課税を法律で定めたとしても、「[当該法律の]適用によって納税者の租税法規上の地位が変更され,課税関係における法的安定に影響が及び得る場合」には当該法律の憲法84条適合性が問題となり得るとされているが、そうすると、過去の募集実績基準が「委任の趣旨」に関する前記判示にいう「指定を受けようとする地方団体の地位に継続的に重大な不利益を生じさせるもの」である以上、ⓐは❷「立法者において主として政治的、政策的観点から判断すべき性質の事柄」に該当するとされたものと解される。
次に、ⓑ他の地方団体との公平の確保は、地方自治の保障(憲92条・94条)からの要請であると解される。地方自治の基本的要素としての団体自治は、国からの独立性に加えて地方公共団体相互の公平性をも要素とすると考えられる。後者は法律の枠内で保障されるものとされている以上、ⓑも前記❷の事項に該当するとされたものと解される。
Ⅳ おわりに
以上において、委任命令に係る委任の範囲逸脱の判断基準に関する判例法理に対して本判決が新たに付け加えた、「委任の趣旨」に関する法律の所管事項二分論ともいうべき考え方を明らかにし過去の募集実績基準に関して検討した。
最後に、本件の背景にある、より本質的と思われる立法のあり方の問題についても若干の検討を加えておきたい。
宮崎補足意見は、「本件の背景にあるいくつかの問題を俯瞰しつつ」法廷意見の理由を補足しているが、その問題の1つとして、本件告示1条で示されたふるさと納税制度の趣旨(Ⅰ参照)に照らして、「寄附金と税という異質なものが制度の前提にあ」り「調整の仕組みを欠いた状態」で「本件改正規定の施行前に地方団体が行なった寄附金の募集態様や返礼品の提供という行為を,制度の趣旨に反するか否か,あるいは制度の趣旨をゆがめるような行為であるか否かという観点から評価することには無理がある。」と述べている。
思うに、そのような不明確な「趣旨」では、一方で、「本件改正規定の施行前に地方団体が行なった寄附金の募集態様や返礼品の提供という行為」を「制度の濫用」(外国税額控除余裕枠利用事件・最判平成17年12月19日民集59巻10号2964頁。この判決については「谷口教授と学ぶ『税法の基礎理論』【第7回】等参照)と認めることまではできないし、他方で、立法者が制度設計に当たりその要件を定める場合における要件化の基準として制度の規律密度を高めることに資する「立法基準性」を満たし得ず、したがって、規律密度の低さに帰結すると考えられる。規律密度の低い制度は、その回避や濫用を容易に許してしまういわゆる「脇の甘い」制度であるが、ふるさと納税制度は、本件指定制度の導入までは、そのような制度の1つであったといえよう。
ふるさと納税制度の「脇の甘さ」は、本件指定制度の趣旨や本件におけるYの主張の中で述べられている「他の地方団体との不公平」に帰結した。すなわち、ふるさと納税制度の創設時には地方団体に「良識ある行動」が強く期待されていたが(「ふるさとのうぜい研究会報告書」(平成19年10月)23頁参照)、「良識ない行動」が同制度上禁止されておらず、しかも「良識ある行動」をする場合に比べて「良識ない行動」をすることによって同制度を通じて多額の寄附金を受け取ることができるというのであれば、「良識ない行動」をする地方団体が現れることは想定できるし(実際に想定されていた)、実際に現れたのである。
ふるさと納税制度のこのような問題(弊害)は、構造の点では、租税回避の類型の1つである税法上の課税減免規定の濫用による租税回避(前掲拙著【66】参照)の問題と類似する。この租税回避の問題は、納税者が税法上の課税減免規定をその趣旨・目的に反して(その要件を文言上のみ充足して)利用することによって課税減免の利益を享受し、当該課税減免規定を利用しない納税者との間で租税負担の不公平をもたらすという問題であり、当該課税減免規定の趣旨・目的に反する利用に対する適用除外規定の欠缺(隠れた欠缺)による規律密度の低さに基因するものである。そのような欠缺を補充し租税負担の公平を実現するのは、第一次的には、立法者の責任である(前掲拙著【69】参照)。この意味で、次の見解(宮崎裕子「一般的租税回避否認規定-実務家の視点から(国際的租税回避への法的対応における選択肢を納税者の目線から考える)」ジュリスト1496号(2016年)37頁、43頁)は正鵠を射たものである。
国(立法府)には法律制定権限があるが、納税者には法律制定権限はないという本質的な違いがある以上、立法の不備や遅れのつけを国(課税庁)が負うべきではないという考え方をとることはできないし、明確ではない課税要件や立法の遅れのつけをひとり納税者が負担するべき理由はない。
この見解を裁判官の立場から述べるとすれば、次のようになろう(Albert Hensel, Zur Dogmatik des Begriffs "Steuerumgehung", in Bonner Festgabe für Zitelmann, 1923, 217, 230.)。
立法を任務とする政治的組織体は、自らに不利益を蒙らせた立法の過誤を、常に、法律改正によって補正することができる。したがって、租税請求の棄却によって立法者に法律の欠陥を指摘することの方が、租税請求の認容によって法的不安定性を強め法律の欠陥を公認することに比べて、多くの場合、裁判官にとってより価値の高いことのように思われるであろう。
これらの見解は、ふるさと納税制度の弊害である「他の地方団体との不公平」の是正についても、基本的に妥当すると考えられる。そもそも、他の地方団体との公平の確保は、Ⅲ3で述べたように、憲法上の地方自治の保障から要請されることに加え、ふるさと納税制度のそのような弊害は制度検討段階から想定されていた以上、現実に生じてきた弊害への対応を本件各通知に委ね法律改正の遅延により本件のような事態を招いた責任は、第一次的には、国(総務大臣及び国会)にあると考えるべきである。
このように考えると、ふるさと納税制度については、無条件に、「Yにおいて、法的な問題として、そのような不当な状態を、将来のみならず過去の行為をも考慮に入れて解消することを目指すのであれば、制度改正に際し、その旨の明示的な規定を設けることを、法律レベルで追求すべきであった」(林補足意見)ということにはならないように思われる。過去の募集実績基準のような行政による「事後立法」を必要としない、機動的な「質の高い立法力」(宮崎・前掲論文43頁)こそが、立法者に強く求められると考えるところである。
「質の高い立法力」は行政立法についても不可欠であり、委任命令が委任法律による委任の範囲を逸脱することがないよう、行政は「委任の趣旨」を的確かつ適切に具体化する委任命令を制定しなければならない。最判令和3年3月11日裁時1763号4頁・裁判所ウェブサイト(本件第一審判決及び控訴審判決については「谷口教授と学ぶ『税法の基礎理論』【第18回】【第19回】参照)をみても、そのことを痛感する次第である。
(了)
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