公開日: 2024/05/30 (掲載号:No.571)
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谷口教授と学ぶ「税法基本判例」 【第38回】「質問検査に関する租税権力関係説的構成と租税債務関係説的構成」-荒川民商事件・最決昭和48年7月10日刑集27巻7号1205頁-

筆者: 谷口 勢津夫

谷口教授と学ぶ

税法基本判例

【第38回】

「質問検査に関する租税権力関係説的構成と租税債務関係説的構成」

-荒川民商事件・最決昭和48年7月10日刑集27巻7号1205頁-

 

大阪学院大学法学部教授
谷口 勢津夫

 

Ⅰ はじめに

前回までは、申告納税制度における各措置に関する判例として、納税者による第一次的確定権の行使及び第一次的確定義務の履行としての納税申告(谷口教授と学ぶ「国税通則法の構造と手続」第11回2参照)に関する判例やこれに関連して加算税及び更正の請求に関する判例を取り上げ検討してきたが、今回からは、税務官庁による第二次的確定権の行使及び第二次的確定義務の履行としての課税処分(同第15回1参照)に関する判例を取り上げ検討することにする(その検討において重視する考え方に関連して、申告納税制度の体系的把握については同第11回2、それによる納税義務の確定に係る相互チェック構造については同第15回2参照)。

今回は、国税通則法が課税処分の前提要件として定める税務官庁の「調査」(24条~26条)の要件・手続に関する判例の基本的立場を確立した荒川民商事件・最決昭和48年7月10日刑集27巻7号1205頁(以下「昭和48年最決」という)を取り上げ検討することにする。この判決は、「調査」の憲法(35条・38条等)適合性に関する川崎民商事件・最大判昭和47年11月22日刑集26巻9号554頁(以下「昭和47年最大判」という)と並んで「調査」に関する基本判例である。

 

Ⅱ 質問検査に関する租税権力関係説的構成と広範な調査裁量の許容

上記の両事件に関する最高裁判断の関係について、昭和48年最決に関する調査官解説(柴田孝夫「判解」最判解刑事篇(昭和48年度)99頁、102-103頁)は次のとおり述べ(下線筆者)、昭和48年最決を「これに応えたもの」(同103頁)とみる見解を示した。

先に大法廷は、昭和40年改正前の旧所得税法63条、70条10号、12号所定の質問検査権につき、それが憲法35条、38条に違反するものではない旨の判断を示した(昭和47年11月22日判決・刑集26巻9号554頁)が、そこでは、質問検査権規定についての一般的な(すくなくとも)解釈は示されなかったといえる。ところが、この問題をめぐる刑事紛争は、法律問題としては、まず質問検査権規定の解釈論をめぐるものであったから、いずれ最高裁による解釈が示されなければならないものであった。

ただ、質問検査に関する税務官庁と納税者との法律関係について、「一般的権限と一般的受忍義務という構造」(柴田・前掲「判解」103頁)に基づき「いわゆる租税権力関係説的な理解」(同頁)を示した点では、昭和48年最決は昭和47年最大判と同じ基本的立場に立つものと解されている(同頁参照)。ここでは、このような理解に基づく質問検査に関する法律関係の法的構成を「質問検査に関する租税権力関係説的構成」と呼ぶことにして、その内容を両判断に即してみておくことにすると、まず、昭和48年最決は次のとおり判示した(下線筆者)。

[所得税法の]前記規定に基づく質問検査に対しては相手方はこれを受忍すべき義務を一般的に負い、その履行を間接的心理的に強制されているものであつて、ただ、相手方においてあえて質問検査を受忍しない場合にはそれ以上直接的物理的に右義務の履行を強制しえないという関係を称して一般に「任意調査」と表現されているだけのことであり、この間なんら実質上の不合理性は存しない・・・・・・。

この判示は、昭和47年最大判の次の判示(下線筆者)を要約したものと解される。

たしかに、旧所得税法70条10号の規定する検査拒否に対する罰則は、同法63条所定の収税官吏による当該帳簿等の検査の受忍をその相手方に対して強制する作用を伴なうものであるが、同法63条所定の収税官吏の検査は、もつぱら、所得税の公平確実な賦課徴収のために必要な資料を収集することを目的とする手続であつて、その性質上、刑事責任の追及を目的とする手続ではない。

また、右検査の結果過少申告の事実が明らかとなり、ひいて所得税逋脱の事実の発覚にもつながるという可能性が考えられないわけではないが、そうであるからといつて、右検査が、実質上、刑事責任追及のための資料の取得収集に直接結びつく作用を一般的に有するものと認めるべきことにはならない。けだし、この場合の検査の範囲は、前記の目的のため必要な所得税に関する事項にかぎられており、また、その検査は、同条各号に列挙されているように、所得税の賦課徴収手続上一定の関係にある者につき、その者の事業に関する帳簿その他の物件のみを対象としているのであつて、所得税の逋脱その他の刑事責任の嫌疑を基準に右の範囲が定められているのではないからである。

さらに、この場合の強制の態様は、収税官吏の検査を正当な理由がなく拒む者に対し、同法70条所定の刑罰を加えることによつて、間接的心理的に右検査の受忍を強制しようとするものであり、かつ、右の刑罰が行政上の義務違反に対する制裁として必ずしも軽微なものとはいえないにしても、その作用する強制の度合いは、それが検査の相手方の自由な意思をいちじるしく拘束して、実質上、直接的物理的な強制と同視すべき程度にまで達しているものとは、いまだ認めがたいところである。国家財政の基本となる徴税権の適正な運用を確保し、所得税の公平確実な賦課徴収を図るという公益上の目的を実現するために収税官吏による実効性のある検査制度が欠くべからざるものであることは、何人も否定しがたいものであるところ、その目的、必要性にかんがみれば、右の程度の強制は、実効性確保の手段として、あながち不均衡、不合理なものとはいえないのである。

このように、昭和48年最決も昭和47年最大判と同じ基本的立場に立って、質問検査に関する法律関係につき「租税権力関係説的な理解」(柴田・前掲「判解」103頁)を示したものと解するのは妥当であると考えるところであるが、そこでいう「権力関係」は、勿論、実力行使を伴う直接的物理的強制を要素とする「ナマの権力関係」ではなく、税法が「国家財政の基本となる徴税権の適正な運用を確保し、所得税の公平確実な賦課徴収を図るという公益上の目的を実現する」(昭和47年最大判)という立法政策的考慮に基づき間接的心理的強制という法技術を用いて認めた「立法政策的・法技術的な権力関係」にとどまるものと解される。昭和48年最決に関する調査官解説も、「本決定においては、徴税方式自体はいずれかといえば一つの技術であるにとどまるとする見解が採られているということになろうか。」(柴田・前掲「判解」103頁)と述べているところである。

とはいえ、その立法政策的・法技術的な権力関係は、調査妨害犯としての処罰可能性による間接的心理的強制という形で現れているだけでなく、昭和48年最決が下記のとおり判示して(下線筆者)認めたところの、質問検査に関する税務職員の広範な裁量(以下「調査裁量」という)という形でも現れていると考えられる。税務職員が質問検査の相手方を調査妨害犯により告発することは実際にはほとんどなく、稀に起訴され有罪とされた場合でも罰金額は少額にとどまるのが通例であること(拙著『税法基本講義〔第7版〕』(弘文堂・2021年)【137】参照)を考えると、むしろ後者の調査裁量こそがそのような権力関係を具現するものといってよかろう。

所得税法234条1項の規定は、国税庁、国税局または税務署の調査権限を有する職員において、当該調査の目的、調査すべき事項、申請、申告の体裁内容、帳簿等の記入保存状況、相手方の事業の形態等諸般の具体的事情にかんがみ、客観的な必要性があると判断される場合には、前記職権調査の一方法として、同条1項各号規定の者に対し質問し、またはその事業に関する帳簿、書類その他当該調査事項に関連性を有する物件の検査を行なう権限を認めた趣旨であつて、この場合の質問検査の範囲、程度、時期、場所等実定法上特段の定めのない実施の細目については、右にいう質問検査の必要があり、かつ、これと相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまるかぎり、権限ある税務職員の合理的な選択に委ねられているものと解すべく、また、暦年終了前または確定申告期間経過前といえども質問検査が法律上許されないものではなく、実施の日時場所の事前通知、調査の理由および必要性の個別的、具体的な告知のごときも、質問検査を行なううえの法律上一律の要件とされているものではない。

以上のようにみてくると、質問検査に関する租税権力関係説的構成は、立法政策的・法技術的には、「質問検査の範囲、程度、時期、場所等実定法上特段の定めのない実施の細目」を税務職員の「合理的な選択」に係る調査裁量に委ねることにするものといえよう。ここで問題となるのは調査裁量の限界をどのように考えるかである。

この点について、昭和48年最決は前記引用判示中の「質問検査の必要があり、かつ、これと相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまるかぎり」という説示をもって調査裁量の限界を示しており、その限界を次のとおり法的に実効性のあるものとして評価する見解(金子宏「判批」行政判例百選Ⅱ・別冊ジュリスト62号(1979年)263頁、264頁。傍点原文)もみられた。

判旨は、上告理由の「現在且つ明白な必要性」という考え方について直接にはなにも述べていないが、客観的に過少申告の疑いがあるようなばあいは必要性の要件がみたされる、と解しているものと推察される。なお、注目すべきことは、判旨が、質問・検査の範囲、程度、時期、場所等の選択について「相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な程度」にとどまらなければならない、という歯止めないししぼり、、、をかけていることである(・・・・・・)。これは、必要性の要件とは別の要件として述べられていると解すべきであろう。したがって、質問・検査権の行使の必要性が客観的に認められる場合であっても、その行使の態様が右の限度をこえる場合には、質問・検査は違法となる。本判決の判例としての意義の一つはここにあるといえよう。

しかし、昭和48年最決の示した調査裁量の限界はやはり抽象的であるが故に、質問検査の実施に係る「合理的な選択」は広範な裁量を伴うものといわざるを得ない。したがって、税務官庁による調査裁量の行使が恣意にわたることのないよう「調査裁量の法的統制」が必要とされる(曽和俊文『行政調査の法的統制』(弘文堂・2019年)325頁以下参照)。そのためには、税務官庁による裁量基準の定立のほか、立法による質問検査手続の整備が必要であるといえよう。この点については次のように説かれてきたところである(曽和俊文「税務調査判例の展開と行政調査論」論究ジュリスト3号(2012年)47頁、52頁)。

荒川民商事件での最高裁決定は、質問検査権の実施の細目について、税務職員の裁量を認めているが、「社会通念上相当な限度」とか「合理的な選択」の文言は抽象的であるので、今後はこれらの中身が問われることになる。また、事前通知や調査理由の開示などの調査手続について「法律上一律の要件とされているものではない」とする点について、「これから、逆に、諸事情によっては、事前通知、調査理由の開示等が法律上の要件となる場合がありうるということを最高裁が認めているということができよう」との評価もある。調査手続の適正についてはむしろ法律で整備すべき課題であるともいえる(・・・・・・)。

 

Ⅲ 質問検査に関する租税債務関係説的構成と調査裁量の法的統制

立法による質問検査手続の整備は平成23年度[11月]税制改正によって大きく進展した(日本弁護士会連合会日弁連税制委員会編『国税通則法コンメンタール 税務調査手続編』(日本法令・2023年)149頁参照)。ただ、昭和48年最決の当時から、「いわゆる申告納税方式が採られているということのうちに、実体的手続的な租税関係の全体を貫く基本原理を読みとる立場がある」(柴田・前掲「判解」103頁。下線筆者)ことは認識されており、その立場から調査裁量の法的統制が説かれていたところである。

例えば、事前調査について次のとおり説いてこれを原則として許容しない見解(清永敬次「税法上の質問検査権に関する若干の問題」税経通信26巻13号(1971年)20頁、21頁。下線筆者)がみられた。

申告期限前における質問検査権の行使は、税務官庁が法律で認められたなんらかの処分をするためにとくに必要である場合に限つて許されるものと解すべきであろう。申告納税制度の下においては納税義務の確定について納税義務者に第一次的責任が課されており、納税義務者がこの第一次的責任を果たさない場合にはじめて税務官庁が課税処分をもつて補充的に納税義務の確定をすることができるのである。納税義務者は、申告をした場合その申告内容が正しいことについて、また申告をしなかつた場合にその申告しなかつたことが正しいことについて、十分説明をすることができなければならない。法は納税者にそのような説明をすることができるしまたしなければならないと考える。従つて申告についてこれを事後的にチェックする任務を与えられた者(税務職員)に対して、求められれば、申告内容について納得のいくように説明をしなければならない。これが税務職員の質問検査権に対する納税者の質問検査受忍義務として規定されているところである。このように考えるならば、申告納税制度の下では正しい申告を担保するために質問検査権が税務官庁に与えられているのであり、その質問検査権の行使はおのずから事後的なものとならざるをえない。

また、調査の必要性について一般的必要性だけでなく個別的必要性をも要する旨を説く見解は、そのように解する根拠として次のものを挙げていた(北野弘久編『質問検査権の法理』(成文堂・1974年)19-20頁[北野弘久執筆]。下線筆者)。

(1)申告納税制度のもとでは、納税者は第一次的に納税義務確定権を有し、税務官庁の課税処分は第二次的・補完的であること。(2)質問検査権の行使は純粋に行政目的のものであるが、それはそれ自体としてすぐれて権力的作用であり、事実において被調査者にさまざまな影響を与えること。(3)質問検査権の行使は罰則によって担保されている。つまり、質問検査権の行使の要件は罪の成立要件でもある。それだけに調査の合理的必要性の要件は厳格に理解される必要があること。

これらの見解をみると、確かに、その基礎(の少なくとも一部)には、申告納税制度の構造から前記の「実体的手続的な租税関係の全体を貫く基本原理」を読みとる立場があるように思われる。その構造は、基本的には、納税義務の確定に関する納税者の第一次的確定権と税務官庁の第二次的確定権によって構成されるものであるが、筆者はその構造を「申告納税制度における相互チェック構造」(拙著『税法創造論』(清文社・2022年)855頁[初出・1995年])と呼んできた。

申告納税制度における相互チェック構造は、納税義務の確定に関する租税債務関係説的構成に基づいて構想したものであるが、その構成は、課税要件法を、国民の納税義務を創設する権限を税務官庁に付与する授権法・手続法としてではなく、国と国民との間の租税債権債務関係を規律する実体法として性格づける租税債務関係説の考え方を、納税義務の確定に関する法的構成にまで、貫徹したものである(前掲拙著『税法創造論』845頁[初出・1995年]参照)。

租税債務関係説は、そもそも、納税義務を、課税要件の充足によって法律上当然に成立する一種の法定債務として構成する考え方(「1個の事実に対する、課税要件と納税義務との1対1対応の考え方」)であり、納税義務の成立に関する法すなわち課税要件法の領域から、税務官庁の形成的・裁量的判断の余地を法理論上完全に排除するものである(前掲拙著『税法創造論』18-20頁[初出・2020年]、同『税法基本講義』【12】参照)。

そうすると、納税義務の確定に関する租税債務関係説的構成は、納税義務の確定につき行政裁量統制を徹底させようとするものといえるが、納税義務の確定に関する税務官庁の第二次的確定権の行使による課税処分のための調査(質問検査)についても、同様の帰結をもたらすことになろう。つまり、質問検査に関する税務官庁と納税者との法律関係を租税債務関係説に基づき構成すること(質問検査に関する租税債務関係説的構成)は、調査裁量の法的統制に資することになると考えられるのである。

質問検査に関する租税債務関係説的構成は、質問検査に関する税務官庁と納税者との法律関係を、「一般的権限と一般的受忍義務という構造」(柴田・前掲「判解」103頁)に基づき「いわゆる租税権力関係説的な理解」(同頁)に従って構成するのではなく、「いわゆる申告納税方式が採られているということのうちに、実体的手続的な租税関係の全体を貫く基本原理を読みとる立場」(同頁)に立って申告納税制度における相互チェック構造に基づき個別的に具体化し構成することを可能にし、かつ、要請するものといえよう。

 

Ⅳ おわりに

以上、今回は、昭和47年最大判及び昭和48年最決の判断の基礎にあると考えられる、質問検査に関する租税権力関係説的構成が広範な調査裁量を認めるものであることを指摘した上で、質問検査に関する租税債務関係説的構成の観点から調査裁量の法的統制のあり方について検討し、質問検査の領域においても申告納税制度における相互チェック構造の個別的具体化の必要性を説いたところである。

申告納税制度における相互チェック構造は、税法における適正手続保障の原則すなわち手続的保障原則(前掲拙著『税法創造論』42-44頁[初出・2020年]、同『税法基本講義』【27】参照)を質問検査の手続を含む納税義務の確定手続についても具体化することを可能にするものである。

昭和48年最決が広範な調査裁量を許容する考え方を示した後、質問検査手続の立法による整備の必要性が多くの論者によって説かれてきたが、平成23年の国税通則法改正による質問検査に関する手続的整備(これについて詳しくは日本弁護士会連合会日弁連税制委員会編・前掲書参照)はこれに応えるものとして高く評価されるべきものであると同時に、質問検査に関する租税債務関係説的構成の観点から更なる改善を進めていくべきものでもあろう。

(了)

この連載の公開日程は、下記の連載目次をご覧ください。

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税法基本判例

【第38回】

「質問検査に関する租税権力関係説的構成と租税債務関係説的構成」

-荒川民商事件・最決昭和48年7月10日刑集27巻7号1205頁-

 

大阪学院大学法学部教授
谷口 勢津夫

 

Ⅰ はじめに

前回までは、申告納税制度における各措置に関する判例として、納税者による第一次的確定権の行使及び第一次的確定義務の履行としての納税申告(谷口教授と学ぶ「国税通則法の構造と手続」第11回2参照)に関する判例やこれに関連して加算税及び更正の請求に関する判例を取り上げ検討してきたが、今回からは、税務官庁による第二次的確定権の行使及び第二次的確定義務の履行としての課税処分(同第15回1参照)に関する判例を取り上げ検討することにする(その検討において重視する考え方に関連して、申告納税制度の体系的把握については同第11回2、それによる納税義務の確定に係る相互チェック構造については同第15回2参照)。

今回は、国税通則法が課税処分の前提要件として定める税務官庁の「調査」(24条~26条)の要件・手続に関する判例の基本的立場を確立した荒川民商事件・最決昭和48年7月10日刑集27巻7号1205頁(以下「昭和48年最決」という)を取り上げ検討することにする。この判決は、「調査」の憲法(35条・38条等)適合性に関する川崎民商事件・最大判昭和47年11月22日刑集26巻9号554頁(以下「昭和47年最大判」という)と並んで「調査」に関する基本判例である。

 

Ⅱ 質問検査に関する租税権力関係説的構成と広範な調査裁量の許容

上記の両事件に関する最高裁判断の関係について、昭和48年最決に関する調査官解説(柴田孝夫「判解」最判解刑事篇(昭和48年度)99頁、102-103頁)は次のとおり述べ(下線筆者)、昭和48年最決を「これに応えたもの」(同103頁)とみる見解を示した。

先に大法廷は、昭和40年改正前の旧所得税法63条、70条10号、12号所定の質問検査権につき、それが憲法35条、38条に違反するものではない旨の判断を示した(昭和47年11月22日判決・刑集26巻9号554頁)が、そこでは、質問検査権規定についての一般的な(すくなくとも)解釈は示されなかったといえる。ところが、この問題をめぐる刑事紛争は、法律問題としては、まず質問検査権規定の解釈論をめぐるものであったから、いずれ最高裁による解釈が示されなければならないものであった。

ただ、質問検査に関する税務官庁と納税者との法律関係について、「一般的権限と一般的受忍義務という構造」(柴田・前掲「判解」103頁)に基づき「いわゆる租税権力関係説的な理解」(同頁)を示した点では、昭和48年最決は昭和47年最大判と同じ基本的立場に立つものと解されている(同頁参照)。ここでは、このような理解に基づく質問検査に関する法律関係の法的構成を「質問検査に関する租税権力関係説的構成」と呼ぶことにして、その内容を両判断に即してみておくことにすると、まず、昭和48年最決は次のとおり判示した(下線筆者)。

[所得税法の]前記規定に基づく質問検査に対しては相手方はこれを受忍すべき義務を一般的に負い、その履行を間接的心理的に強制されているものであつて、ただ、相手方においてあえて質問検査を受忍しない場合にはそれ以上直接的物理的に右義務の履行を強制しえないという関係を称して一般に「任意調査」と表現されているだけのことであり、この間なんら実質上の不合理性は存しない・・・・・・。

この判示は、昭和47年最大判の次の判示(下線筆者)を要約したものと解される。

たしかに、旧所得税法70条10号の規定する検査拒否に対する罰則は、同法63条所定の収税官吏による当該帳簿等の検査の受忍をその相手方に対して強制する作用を伴なうものであるが、同法63条所定の収税官吏の検査は、もつぱら、所得税の公平確実な賦課徴収のために必要な資料を収集することを目的とする手続であつて、その性質上、刑事責任の追及を目的とする手続ではない。

また、右検査の結果過少申告の事実が明らかとなり、ひいて所得税逋脱の事実の発覚にもつながるという可能性が考えられないわけではないが、そうであるからといつて、右検査が、実質上、刑事責任追及のための資料の取得収集に直接結びつく作用を一般的に有するものと認めるべきことにはならない。けだし、この場合の検査の範囲は、前記の目的のため必要な所得税に関する事項にかぎられており、また、その検査は、同条各号に列挙されているように、所得税の賦課徴収手続上一定の関係にある者につき、その者の事業に関する帳簿その他の物件のみを対象としているのであつて、所得税の逋脱その他の刑事責任の嫌疑を基準に右の範囲が定められているのではないからである。

さらに、この場合の強制の態様は、収税官吏の検査を正当な理由がなく拒む者に対し、同法70条所定の刑罰を加えることによつて、間接的心理的に右検査の受忍を強制しようとするものであり、かつ、右の刑罰が行政上の義務違反に対する制裁として必ずしも軽微なものとはいえないにしても、その作用する強制の度合いは、それが検査の相手方の自由な意思をいちじるしく拘束して、実質上、直接的物理的な強制と同視すべき程度にまで達しているものとは、いまだ認めがたいところである。国家財政の基本となる徴税権の適正な運用を確保し、所得税の公平確実な賦課徴収を図るという公益上の目的を実現するために収税官吏による実効性のある検査制度が欠くべからざるものであることは、何人も否定しがたいものであるところ、その目的、必要性にかんがみれば、右の程度の強制は、実効性確保の手段として、あながち不均衡、不合理なものとはいえないのである。

このように、昭和48年最決も昭和47年最大判と同じ基本的立場に立って、質問検査に関する法律関係につき「租税権力関係説的な理解」(柴田・前掲「判解」103頁)を示したものと解するのは妥当であると考えるところであるが、そこでいう「権力関係」は、勿論、実力行使を伴う直接的物理的強制を要素とする「ナマの権力関係」ではなく、税法が「国家財政の基本となる徴税権の適正な運用を確保し、所得税の公平確実な賦課徴収を図るという公益上の目的を実現する」(昭和47年最大判)という立法政策的考慮に基づき間接的心理的強制という法技術を用いて認めた「立法政策的・法技術的な権力関係」にとどまるものと解される。昭和48年最決に関する調査官解説も、「本決定においては、徴税方式自体はいずれかといえば一つの技術であるにとどまるとする見解が採られているということになろうか。」(柴田・前掲「判解」103頁)と述べているところである。

とはいえ、その立法政策的・法技術的な権力関係は、調査妨害犯としての処罰可能性による間接的心理的強制という形で現れているだけでなく、昭和48年最決が下記のとおり判示して(下線筆者)認めたところの、質問検査に関する税務職員の広範な裁量(以下「調査裁量」という)という形でも現れていると考えられる。税務職員が質問検査の相手方を調査妨害犯により告発することは実際にはほとんどなく、稀に起訴され有罪とされた場合でも罰金額は少額にとどまるのが通例であること(拙著『税法基本講義〔第7版〕』(弘文堂・2021年)【137】参照)を考えると、むしろ後者の調査裁量こそがそのような権力関係を具現するものといってよかろう。

所得税法234条1項の規定は、国税庁、国税局または税務署の調査権限を有する職員において、当該調査の目的、調査すべき事項、申請、申告の体裁内容、帳簿等の記入保存状況、相手方の事業の形態等諸般の具体的事情にかんがみ、客観的な必要性があると判断される場合には、前記職権調査の一方法として、同条1項各号規定の者に対し質問し、またはその事業に関する帳簿、書類その他当該調査事項に関連性を有する物件の検査を行なう権限を認めた趣旨であつて、この場合の質問検査の範囲、程度、時期、場所等実定法上特段の定めのない実施の細目については、右にいう質問検査の必要があり、かつ、これと相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまるかぎり、権限ある税務職員の合理的な選択に委ねられているものと解すべく、また、暦年終了前または確定申告期間経過前といえども質問検査が法律上許されないものではなく、実施の日時場所の事前通知、調査の理由および必要性の個別的、具体的な告知のごときも、質問検査を行なううえの法律上一律の要件とされているものではない。

以上のようにみてくると、質問検査に関する租税権力関係説的構成は、立法政策的・法技術的には、「質問検査の範囲、程度、時期、場所等実定法上特段の定めのない実施の細目」を税務職員の「合理的な選択」に係る調査裁量に委ねることにするものといえよう。ここで問題となるのは調査裁量の限界をどのように考えるかである。

この点について、昭和48年最決は前記引用判示中の「質問検査の必要があり、かつ、これと相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまるかぎり」という説示をもって調査裁量の限界を示しており、その限界を次のとおり法的に実効性のあるものとして評価する見解(金子宏「判批」行政判例百選Ⅱ・別冊ジュリスト62号(1979年)263頁、264頁。傍点原文)もみられた。

判旨は、上告理由の「現在且つ明白な必要性」という考え方について直接にはなにも述べていないが、客観的に過少申告の疑いがあるようなばあいは必要性の要件がみたされる、と解しているものと推察される。なお、注目すべきことは、判旨が、質問・検査の範囲、程度、時期、場所等の選択について「相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な程度」にとどまらなければならない、という歯止めないししぼり、、、をかけていることである(・・・・・・)。これは、必要性の要件とは別の要件として述べられていると解すべきであろう。したがって、質問・検査権の行使の必要性が客観的に認められる場合であっても、その行使の態様が右の限度をこえる場合には、質問・検査は違法となる。本判決の判例としての意義の一つはここにあるといえよう。

しかし、昭和48年最決の示した調査裁量の限界はやはり抽象的であるが故に、質問検査の実施に係る「合理的な選択」は広範な裁量を伴うものといわざるを得ない。したがって、税務官庁による調査裁量の行使が恣意にわたることのないよう「調査裁量の法的統制」が必要とされる(曽和俊文『行政調査の法的統制』(弘文堂・2019年)325頁以下参照)。そのためには、税務官庁による裁量基準の定立のほか、立法による質問検査手続の整備が必要であるといえよう。この点については次のように説かれてきたところである(曽和俊文「税務調査判例の展開と行政調査論」論究ジュリスト3号(2012年)47頁、52頁)。

荒川民商事件での最高裁決定は、質問検査権の実施の細目について、税務職員の裁量を認めているが、「社会通念上相当な限度」とか「合理的な選択」の文言は抽象的であるので、今後はこれらの中身が問われることになる。また、事前通知や調査理由の開示などの調査手続について「法律上一律の要件とされているものではない」とする点について、「これから、逆に、諸事情によっては、事前通知、調査理由の開示等が法律上の要件となる場合がありうるということを最高裁が認めているということができよう」との評価もある。調査手続の適正についてはむしろ法律で整備すべき課題であるともいえる(・・・・・・)。

 

Ⅲ 質問検査に関する租税債務関係説的構成と調査裁量の法的統制

立法による質問検査手続の整備は平成23年度[11月]税制改正によって大きく進展した(日本弁護士会連合会日弁連税制委員会編『国税通則法コンメンタール 税務調査手続編』(日本法令・2023年)149頁参照)。ただ、昭和48年最決の当時から、「いわゆる申告納税方式が採られているということのうちに、実体的手続的な租税関係の全体を貫く基本原理を読みとる立場がある」(柴田・前掲「判解」103頁。下線筆者)ことは認識されており、その立場から調査裁量の法的統制が説かれていたところである。

例えば、事前調査について次のとおり説いてこれを原則として許容しない見解(清永敬次「税法上の質問検査権に関する若干の問題」税経通信26巻13号(1971年)20頁、21頁。下線筆者)がみられた。

申告期限前における質問検査権の行使は、税務官庁が法律で認められたなんらかの処分をするためにとくに必要である場合に限つて許されるものと解すべきであろう。申告納税制度の下においては納税義務の確定について納税義務者に第一次的責任が課されており、納税義務者がこの第一次的責任を果たさない場合にはじめて税務官庁が課税処分をもつて補充的に納税義務の確定をすることができるのである。納税義務者は、申告をした場合その申告内容が正しいことについて、また申告をしなかつた場合にその申告しなかつたことが正しいことについて、十分説明をすることができなければならない。法は納税者にそのような説明をすることができるしまたしなければならないと考える。従つて申告についてこれを事後的にチェックする任務を与えられた者(税務職員)に対して、求められれば、申告内容について納得のいくように説明をしなければならない。これが税務職員の質問検査権に対する納税者の質問検査受忍義務として規定されているところである。このように考えるならば、申告納税制度の下では正しい申告を担保するために質問検査権が税務官庁に与えられているのであり、その質問検査権の行使はおのずから事後的なものとならざるをえない。

また、調査の必要性について一般的必要性だけでなく個別的必要性をも要する旨を説く見解は、そのように解する根拠として次のものを挙げていた(北野弘久編『質問検査権の法理』(成文堂・1974年)19-20頁[北野弘久執筆]。下線筆者)。

(1)申告納税制度のもとでは、納税者は第一次的に納税義務確定権を有し、税務官庁の課税処分は第二次的・補完的であること。(2)質問検査権の行使は純粋に行政目的のものであるが、それはそれ自体としてすぐれて権力的作用であり、事実において被調査者にさまざまな影響を与えること。(3)質問検査権の行使は罰則によって担保されている。つまり、質問検査権の行使の要件は罪の成立要件でもある。それだけに調査の合理的必要性の要件は厳格に理解される必要があること。

これらの見解をみると、確かに、その基礎(の少なくとも一部)には、申告納税制度の構造から前記の「実体的手続的な租税関係の全体を貫く基本原理」を読みとる立場があるように思われる。その構造は、基本的には、納税義務の確定に関する納税者の第一次的確定権と税務官庁の第二次的確定権によって構成されるものであるが、筆者はその構造を「申告納税制度における相互チェック構造」(拙著『税法創造論』(清文社・2022年)855頁[初出・1995年])と呼んできた。

申告納税制度における相互チェック構造は、納税義務の確定に関する租税債務関係説的構成に基づいて構想したものであるが、その構成は、課税要件法を、国民の納税義務を創設する権限を税務官庁に付与する授権法・手続法としてではなく、国と国民との間の租税債権債務関係を規律する実体法として性格づける租税債務関係説の考え方を、納税義務の確定に関する法的構成にまで、貫徹したものである(前掲拙著『税法創造論』845頁[初出・1995年]参照)。

租税債務関係説は、そもそも、納税義務を、課税要件の充足によって法律上当然に成立する一種の法定債務として構成する考え方(「1個の事実に対する、課税要件と納税義務との1対1対応の考え方」)であり、納税義務の成立に関する法すなわち課税要件法の領域から、税務官庁の形成的・裁量的判断の余地を法理論上完全に排除するものである(前掲拙著『税法創造論』18-20頁[初出・2020年]、同『税法基本講義』【12】参照)。

そうすると、納税義務の確定に関する租税債務関係説的構成は、納税義務の確定につき行政裁量統制を徹底させようとするものといえるが、納税義務の確定に関する税務官庁の第二次的確定権の行使による課税処分のための調査(質問検査)についても、同様の帰結をもたらすことになろう。つまり、質問検査に関する税務官庁と納税者との法律関係を租税債務関係説に基づき構成すること(質問検査に関する租税債務関係説的構成)は、調査裁量の法的統制に資することになると考えられるのである。

質問検査に関する租税債務関係説的構成は、質問検査に関する税務官庁と納税者との法律関係を、「一般的権限と一般的受忍義務という構造」(柴田・前掲「判解」103頁)に基づき「いわゆる租税権力関係説的な理解」(同頁)に従って構成するのではなく、「いわゆる申告納税方式が採られているということのうちに、実体的手続的な租税関係の全体を貫く基本原理を読みとる立場」(同頁)に立って申告納税制度における相互チェック構造に基づき個別的に具体化し構成することを可能にし、かつ、要請するものといえよう。

 

Ⅳ おわりに

以上、今回は、昭和47年最大判及び昭和48年最決の判断の基礎にあると考えられる、質問検査に関する租税権力関係説的構成が広範な調査裁量を認めるものであることを指摘した上で、質問検査に関する租税債務関係説的構成の観点から調査裁量の法的統制のあり方について検討し、質問検査の領域においても申告納税制度における相互チェック構造の個別的具体化の必要性を説いたところである。

申告納税制度における相互チェック構造は、税法における適正手続保障の原則すなわち手続的保障原則(前掲拙著『税法創造論』42-44頁[初出・2020年]、同『税法基本講義』【27】参照)を質問検査の手続を含む納税義務の確定手続についても具体化することを可能にするものである。

昭和48年最決が広範な調査裁量を許容する考え方を示した後、質問検査手続の立法による整備の必要性が多くの論者によって説かれてきたが、平成23年の国税通則法改正による質問検査に関する手続的整備(これについて詳しくは日本弁護士会連合会日弁連税制委員会編・前掲書参照)はこれに応えるものとして高く評価されるべきものであると同時に、質問検査に関する租税債務関係説的構成の観点から更なる改善を進めていくべきものでもあろう。

(了)

この連載の公開日程は、下記の連載目次をご覧ください。

連載目次

谷口教授と学ぶ「税法基本判例」

第1回~第20回

第21回~

筆者紹介

谷口 勢津夫

(たにぐち・せつお)

大阪学院大学法学部教授

1956年高知県生まれ。京都大学法学部卒業、同大学大学院法学研究科博士後期課程単位修得退学。甲南大学法学部教授、大阪大学大学院高等司法研究科教授を経て2022年4月より現職。大阪大学名誉教授。ほかに大阪大学大学院高等司法研究科長・大阪大学法務室長、アレクサンダー・フォン・フンボルト財団奨励研究員(Forschungsstipendiat der Alexander von Humboldt-Stiftung)・ミュンヘン大学客員研究員、日本税法学会理事長、租税法学会理事、IFA(International Fiscal Association)日本支部理事、資産評価政策学会理事、司法試験考査委員、公認会計士試験試験委員、独立行政法人造幣局契約監視委員会委員・委員長、大阪府収用委員会委員・会長、大阪府行政不服審査会委員・会長、公益財団法人日本税務研究センター評議員・同センター理事・同センター「日税研究賞」選考委員・同センター編集委員会委員、公益財団法人納税協会連合会「税に関する論文」選考委員、公益社団法人商事法務研究会「商事法務研究会賞」審査委員、近畿税理士会・近畿税務研究センター顧問など(一部現職。ほか歴任)。

主要著書は『租税条約論』(清文社・1999年)、『租税回避論』(清文社・2014年)、『租税回避研究の展開と課題〔清永敬次先生謝恩論文集〕』(共著・ミネルヴァ書房・2015年)、『税法の基礎理論』(清文社・2021年)、『税法創造論』(清文社・2022年)、『税法基本判例Ⅰ』(清文社・2023年)、『基礎から学べる租税法〔第4版〕』(共著・弘文堂・2025年)、『税法基本講義〔第8版〕』(弘文堂・2025年)、『税法基本判例Ⅱ』(清文社・2025年)など。
 
   

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