公開日: 2021/09/30 (掲載号:No.438)
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谷口教授と学ぶ「税法基本判例」 【第6回】「租税法規の文理解釈と租税通達の文理解釈」-最判令和2年3月24日訟月66巻12号1925頁-

筆者: 谷口 勢津夫

谷口教授と学ぶ

税法基本判例

【第6回】

「租税法規の文理解釈と租税通達の文理解釈」

-最判令和2年3月24日訟月66巻12号1925頁-

 

大阪大学大学院高等司法研究科教授
谷口 勢津夫

 

Ⅰ はじめに

今回は、租税法律主義(形式的租税法律主義=法律によらない課税の禁止)の要請のうち税法の解釈適用、とりわけ税務行政による解釈適用に関する要請としての合法性の原則について、租税通達との関係を検討することにする。

合法性の原則は、「租税法は強行法であるから、課税要件が充足されている限り、租税行政庁に租税の減免の自由はなく、また租税を徴収しない自由もなく、法律で定められたとおりの税額を徴収しなければならない。」(金子宏『租税法〔第23版〕』(弘文堂・2019年)87頁)という要請として定式化されることがあるが、そのような定式化は、租税の減免等の納税者にとって有利な税務行政上の取扱いについてだけでなく不利な税務行政上の取扱いについても法律の根拠と効果裁量の否定を要求することを「当然の前提」とするものであると考えられる。

ただ、法律による行政の原理の伝統的な理解(侵害留保原理)によると、特に前者すなわち納税者にとって有利な取扱いについては法律の根拠と効果裁量の否定の要求が軽視されがちになるおそれがあることから、戦後における租税法律主義の民主主義的再構成及び債務関係説的再構成を受けて、そのようなおそれにいわば「警鐘」を鳴らすために前記のような定式化がされているものと解される。要するに、合法性の原則は、租税法律主義(法律によらない課税の禁止)が税務行政を名宛人とする場面におけるその「別称」ともいうべきものである(以上の理解については、拙稿「租税法律主義(憲法84条)」日税研論集77号(2020年)243頁、286頁以下のほか、谷口教授と学ぶ「税法の基礎理論」【第48回】参照)。

さて、今回取り上げる最判令和2年3月24日訟月66巻12号1925頁(以下「本判決」という)では、みなし譲渡課税(所税59条1項)における取引相場のない株式の時価(「当該株式の譲渡の時における価額」)が直接の争点であったが、その前提として、その評価方法を定める通達の「解釈」が問題となった。本判決には宇賀克也裁判官と宮崎裕子裁判官の補足意見(以下「宇賀補足意見」、「宮崎補足意見」という)が付されているが、これらの補足意見は通達の「解釈」の問題に関するものである。今回は、本判決を素材にして、租税通達の「解釈」の問題を検討することにする。

本件で問題となった通達の規定は所得税基本通達59-6であるが、本件当時のこの規定は、「その時における価額」(所税59条1項柱書)を「23~35共-9に準じて算定した価額による」とした上で、23~35共-9の(4)ニにおいて取引相場のない株式のうち売買実例のある株式等に該当しないものについて定められる、その株式の発行法人の1株当たりの純資産価額等を参酌して「通常取引されると認められる価額」を、59-6の(1)~(4)によることを条件に、財産評価基本通達(以下「評価通達」という)の178から189-7まで(取引相場のない株式の評価)の「例により算定した価額」とする旨を定めていた。ここで、59-6の(1)は、評価通達188の(1)に定める同族株主に該当するかどうかは、株式を譲渡又は贈与した個人の当該譲渡又は贈与直前の議決権の数により判定することとしていた。

このように、所得税基本通達59-6は、「その時における価額」すなわち時価の意義について、学説(金子・前掲書409頁、714頁、拙著『税法基本講義〔第7版〕』(弘文堂・2021年)【285】等参照)・判例(最判平成22年7月16日訟月57巻6号1910頁、最判平成25年7月12日民集67巻6号1255頁等)において分野を問わず一般に支持されている解釈に従い、「当該譲渡の時における客観的交換価値、すなわち、それぞれの資産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立する価額」(東京地判平成25年10月22日税資263号順号12315)というような解釈を採用した上で、これに該当する事実の認定に関して、評価通達の定める評価方法を包括的に採用したものと解される(財産評価が課税要件事実の認定であることについては前掲拙著【56】、「例による」の意義については角田禮次郎ほか編『法令用語辞典〔第10次改訂版〕』(学陽書房・2016年)785頁参照)。

 

Ⅱ 本判決と原判決との比較検討

本判決は、原審・東京高判平成30年7月19日訟月66巻12号1976頁(以下「原判決」という)の判断を破棄したが、その破棄された判断は次の判示(下線筆者)に基づくものである。

租税法規の解釈は原則として文理解釈によるべきであり、みだりに拡張解釈や類推解釈を行うことは許されないと解されるところ、所得税基本通達及び評価通達は租税法規そのものではないものの、課税庁による租税法規の解釈適用の統一に極めて重要な役割を果たしており、一般にも公開されて納税者が具体的な取引等について検討する際の指針となっていることからすれば、課税に関する納税者の信頼及び予見可能性を確保する見地から、上記各通達の意味内容についてもその文理に忠実に解釈するのが相当であり、通達の文言を殊更に読み替えて異なる内容のものとして適用することは許されないというべきである。本件においては、本件株式が評価通達188の(3)の株式に該当するかどうかが争われているところ、上記のとおり、所得税基本通達59-6の(1)が、評価通達188の(1)に定める「同族株主」に該当するかどうかについて株式を譲渡した個人の当該譲渡直前の議決権の数により判定する旨を定める一方で、同(2)から(4)までについて何ら触れていないことからすれば、同(3)の「同族株主のいない会社」に当たるかどうかの判定(会社区分の判定)については、それが同(1)の「同族株主のいる会社」の対概念として定められていることに照らし、所得税基本通達59-6の(1)により株式譲渡直前の議決権の数により行われるものと解されるとしても、「課税時期において株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数が、その会社の議決権総数の15%未満である場合におけるその株主の取得した株式」に該当するかどうかの判定(株主区分の判定)については、その文言どおり、株式の取得者の取得後の議決権割合により判定されるものと解するのが相当である。

これに対して、本判決は、譲渡所得課税の趣旨に関する確立した判例の立場(最判昭和43年10月31日集民92号797頁、最判昭和47年12月26日民集26巻10号2083頁等)を前提にして、次のとおり判示し(下線筆者)、評価通達188の(3)の文言ないし文理から「離れた」判断を示した。

所得税法59条1項所定の「その時における価額」につき、所得税基本通達59-6は、譲渡所得の基因となった資産が取引相場のない株式である場合には、同通達59-6の(1)~(4)によることを条件に評価通達の例により算定した価額とする旨を定める。評価通達は、相続税及び贈与税の課税における財産の評価に関するものであるところ、取引相場のない株式の評価方法について、原則的な評価方法を定める一方、事業経営への影響の少ない同族株主の一部や従業員株主等においては、会社への支配力が乏しく、単に配当を期待するにとどまるという実情があることから、評価手続の簡便性をも考慮して、このような少数株主が取得した株式については、例外的に配当還元方式によるものとする。そして、評価通達は、株式を取得した株主の議決権の割合により配当還元方式を用いるか否かを判定するものとするが、これは、相続税や贈与税は、相続等により財産を取得した者に対し、取得した財産の価額を課税価格として課されるものであることから、株式を取得した株主の会社への支配力に着目したものということができる。

これに対し、本件のような株式の譲渡に係る譲渡所得に対する課税においては、当該譲渡における譲受人の会社への支配力の程度は、譲渡人の下に生じている増加益の額に影響を及ぼすものではないのであって、前記の譲渡所得に対する課税の趣旨に照らせば、譲渡人の会社への支配力の程度に応じた評価方法を用いるべきものと解される。

そうすると、譲渡所得に対する課税の場面においては、相続税や贈与税の課税の場面を前提とする評価通達の前記の定めをそのまま用いることはできず、所得税法の趣旨に則し、その差異に応じた取扱いがされるべきである。所得税基本通達59-6は、取引相場のない株式の評価につき、少数株主に該当するか否かの判断の前提となる「同族株主」に該当するかどうかは株式を譲渡又は贈与した個人の当該譲渡又は贈与直前の議決権の数により判定すること等を条件に、評価通達の例により算定した価額とする旨を定めているところ、この定めは、上記のとおり、譲渡所得に対する課税と相続税等との性質の差異に応じた取扱いをすることとし、少数株主に該当するか否かについても当該株式を譲渡した株主について判断すべきことをいう趣旨のものということができる。

原判決と本判決とを対比すると、両判決は、みなし譲渡課税(所税59条1項)における取引相場のない株式の時価について、その意義の点では、同じく所得税基本通達59-6の解釈を採用しつつも、その(時価に該当する事実の認定のための)評価方法の点では、①「譲受人の会社への支配力」に着目するか(原判決)又は②「譲渡人の会社への支配力」に着目するか(本判決)で異なる判断を示している。

本判決は、所得税法59条1項に規定する「その時における価額」について所得税基本通達59-6と同じ解釈によって定立した規範に該当する事実を認定するに当たって、譲渡所得課税の趣旨に照らして事実認定方法(評価方法)について判断したものであるが、譲渡所得課税の趣旨が譲渡の時点で「譲渡人の下に生じている増加益」に対して課税することにある以上、前記の②に着目し「譲渡人の会社への支配力の程度に応じた評価方法」を用いるのが論理的かつ自然である。したがって、本判決は至極妥当な判断を示したものといえる。

これに対して、原判決は所得税基本通達59-6について「その文理に忠実に解釈する」として前記の判断を示しているが、しかし、「所得税基本通達59-6は、評価通達の『例により』算定するものと定めているので、相続税と譲渡所得に関する課税の性質の相違に応じた読替えをすることを想定しており、このような読替えをすることは、そもそも、所得税基本通達の文理にも反しているとはいえない」(宇賀補足意見)と考えるならば、原判決は必ずしもそのような文理解釈をしたものとはいえないように思われる。

原判決にはそのような問題もあるが、原判決の根本的な問題は、何よりもまず、租税法規と租税通達とで「文理解釈」の意味が異なることを正解していない点にある。この点については、項を改めて検討する。

 

Ⅲ 「他者拘束的」文理解釈と「自己拘束的」文理解釈

1 租税法規の文理解釈と租税通達の文理解釈との関係

税法の解釈について、租税法律主義の下では、次の見解(清永敬次『税法〔新装版〕』(ミネルヴァ書房・2013年)35頁)が説くように、厳格な解釈が要請され、それは文理解釈を意味することに異論はなかろう(金子・前掲書123頁、前掲拙著【44】等参照)。

税法の解釈は種々の場合において色々な形で問題となりうるから、税法の解釈についての基本的な原則を一般的に述べることはかなり困難であるが、税法の解釈、特に租税実体法の解釈においては一般的にいって法文からはなれた自由な解釈は許されないと考えるべきであろう。もし法文からはなれた自由な解釈が許されるとするならば、それは帰するところ法律によらない課税を容認することになって、租税については法律でこれを定めるとする租税法律主義の原則が税法の解釈を通じてくずれていくことになるからである。この意味において、税法の解釈、殊に租税実体法の解釈においては、基本的には厳格な解釈が要請されることになる。この場合、法規の法文や文言がまず重視されることになろう。税法においてはある法条においてどのような文言が用いられているかが重要なのである。法規の文言や法文を通常の用語例よりも拡張したりまた縮小したりする拡張解釈や縮小解釈、また類推解釈は、原則として許されないと考えられる。

税法の解釈について文理解釈が要請されるのは、上の見解が説くように、「法律によらない課税」を禁止し、もって租税法律主義(法律に基づく課税)を実現するためである。租税法律主義は課税権者による恣意的・不当な課税から国民の財産及び自由を保護することを目的とするが、その目的の実現のために税務行政に法律に基づく課税を命じるのである。換言すれば、税務行政は課税において、法律という他者(立法者)の制定したルールによって拘束されるのである。

この意味において、税法(租税法規)の文理解釈は、税務行政に対して「他者拘束」を厳格に要求する解釈方法である。このような「他者拘束的」文理解釈は、税務行政による恣意的・不当な課税を阻止するために重要な役割を果たすものであるが、その役割は「文理解釈の侵害防御権的機能・自由権保障機能」と呼ぶことができる(前掲拙著【44】参照)。

この機能は、租税法規の(「他者拘束的」)文理解釈においてこそ発揮されるものであり、税務行政が租税法規について自己の解釈を示した租税通達の文理解釈においては、直接的には発揮されない。租税通達の文理解釈において発揮されるのは、「通達の内容が法の正しい解釈に合致するものである」(最判昭和33年3月28日民集12巻4号624頁)場合に限られるのであり(この場合に税務行政を拘束するのは法的には租税法規であるが)、そうでない場合には、租税通達の文理解釈は、原判決が前記引用判示のその前段で説示する租税法規の文理解釈とは同列に論じることはできないのである。すなわち、「通達の文言をいかに文理解釈したとしても、その通達が法令の内容に合致しないとなれば、通達の文理解釈に従った取扱いであることを理由としてその取扱いを適法と認めることはできない。」(宮崎補足意見)

原判決はこのことを誤解している。「租税法規の解釈は原則として文理解釈によるべきであり、みだりに拡張解釈や類推解釈を行うことは許されないと解される」との原判決の判示は、「租税法規はみだりに規定の文言を離れて解釈すべきものではな[い]」(最判平成22年3月2日民集64巻2号420頁等)との確立した判例の立場に従ったものであり妥当な判示であるが、しかし、原判決には、このような租税法規の文理解釈と租税通達の文理解釈とを同列に論じたところに、根本的な誤解がある。

2 原判決の「真の誤解」

では、何が原判決をこのように「迷走」(藤谷武史「判批」ジュリスト1548号(2020年)10頁、11頁)させ根本的な誤解に陥らせたのであろうか。

原判決は、租税通達の文理解釈について判示するに当たって、「所得税基本通達及び評価通達は租税法規そのものではないものの、課税庁による租税法規の解釈適用の統一に極めて重要な役割を果たしており、一般にも公開されて納税者が具体的な取引等について検討する際の指針となっている」と説示しているが、この説示の内容ないし認識はそれぞれ妥当なものであり、「課税に関する納税者の信頼及び予見可能性を確保する」ことも重要である(宇賀補足意見参照)。問題は、原判決が「課税に関する納税者の信頼及び予見可能性を確保する見地」から租税通達の文理解釈の要請を導き出したところにあると考えられ、この問題こそが原判決を「迷走」させ根本的な誤解に陥らせたものと考えられる。

この点について、「本件通達に定めていない要件を、通達の改正をしないまま解釈により付加することは、租税法律主義の趣旨に抵触する。」と判示した東京高判平成23年8月4日税資261号順号11728(以下「平成23年東京高判」という)に着目し、「本件原審判決[=原判決]は、課税要件明確主義には言及していないが、通達に合理性がある限り、その通達の文言に忠実な解釈によることが納税者の予測可能性の確保のために必要である、という論理構造において、上記裁判例[=平成23年東京高判]の影響を見てとることができる。」と指摘する見解(藤谷・前掲「判批」11頁)がある。

確かに、原判決も平成23年東京高判も、「通達の文言を殊更に読み替えて異なる内容のものとして適用すること」(以下「文言の読み替え」という)と「本件通達に定めていない要件を、通達の改正をしないまま解釈により付加すること」(以下「要件の追加」という)という表現の違いはともかく、通達の文言から離れた解釈を問題にしこれを許さないものとする点では、共通しており、租税通達の解釈について文理解釈を要請するものと解される。その限りでは、前記の見解は正鵠を射たものといえよう。しかしながら、両判決において文理解釈の要請違反は、以下で述べるとおり、異なる意味をもつと考えられる。

原判決が許されないものとする「文言の読み替え」は、譲渡所得課税の趣旨には適合しており、逆に、読み換えをしないまま通達規定を文言どおり適用すると譲渡所得課税の趣旨に反する結果となるが故に、原判決(による租税通達の文理解釈)は租税法律主義(ここでは合法性の原則)「それ自体」に抵触する。つまり、原判決は「他者拘束的」文理解釈の要請に違反するものである。

これに対して、平成23年東京高判では、追加される要件の内容が組合課税の規定ないし趣旨に反するとはされておらず(そうでなければ、同判決を受けてされた平成24年改正後の所基通36・37共20柱書但書も組合課税の規定・趣旨に反することになろう)、「要件の追加」だけが租税法律主義の「趣旨」に抵触するとされているにとどまる。ここでいう租税法律主義の「趣旨」は、租税法律主義の予測可能性・法的安定性保障機能(前掲拙著【11】参照)を意味するものと解される。この機能は、原判決のいう「課税に関する納税者の信頼及び予見可能性を確保する見地」と言い換えてもよく、租税通達の解釈にも妥当すると考えられる。

そのような機能ないし「見地」からすると、税務行政は、自らが租税通達において示した租税法規の解釈を、当該通達の文言を離れて自由に(明示的な通達改正なしに)変更してはならないという拘束(自己拘束)を受けることになる(無論、明示的な通達改正の場合でも、信義則違反の問題は生じ得る)。平成23年東京高判では、租税通達についてこのような「自己拘束的」文理解釈の要請に反する解釈が許されないとされたと解される。

このように考えてくると、原判決は、「他者拘束的」文理解釈を検討すべきであった解釈問題について、「自己拘束的」文理解釈を検討した上で判断したところに、「真の誤解」があると考えるべきであろう。前記の見解が説くように原判決に平成23年東京高判の影響をみてとることができるとしても、「租税法律主義を根拠とした予測可能性の確保の要請から通達の『文理解釈』を導くという錯綜した論法」(藤谷・前掲「判批」11頁)は、平成23年東京高判それ自体が採用したものではなく、この判決の論理構造を誤解して原判決が採用したものとみるべきであろう。

なお、組合課税については、所得税法における個人単位主義や所得の帰属に関する定め(前掲拙著【202】【231】参照)の解釈によりパス・スルー課税が導き出されているが、組合損益の計算方法については通達で総額方式、中間方式及び純額方式の選択が認められ、その選択要件についても通達で定められるなど「法律の規律密度が極めて低く、通達が空隙を埋める役割を果たしている」(藤谷・前掲「判批」11頁)ことからすると、平成23年東京高判のように、租税通達について「自己拘束的」文理解釈を問題にする余地はあると考えられる(前掲拙著【39】参照)。この余地を排除するかどうかは立法の問題である。

これに関連して、もう1点付言しておくと、租税通達の「自己拘束的」文理解釈の要請が本領を発揮するのは、合法性の原則の枠外でその外在的例外として妥当する信義則(前掲拙著【83】参照)との関係においてであろう。「課税に関する納税者の信頼及び予見可能性を確保する見地から、上記各通達の意味内容についてもその文理に忠実に解釈するのが相当であり、通達の文言を殊更に読み替えて異なる内容のものとして適用することは許されないというべきである。」という原判決の考え方は、本件についてはともかく、一般論としては、信義則との関係で十分に成り立つものである。というのも、「通達の公表は、最高裁昭和60年(行ツ)第125号同62年10月30日第三小法廷判決・裁判集民事152号93頁にいう『公的見解』の表示に当たり、それに反する課税処分は、場合によっては、信義則違反の問題を生ぜしめる」(宇賀補足意見)からである。

 

Ⅳ おわりに

租税法規の文理解釈と租税通達の文理解釈との関係については、従来ほとんど意識的には論じられてこなかったように思われるが、「租税法の法令解釈において文理解釈が重要な解釈原則であるのと同じ意味で、文理解釈が通達の重要な解釈原則であるとはいえないのである。」(宮崎補足意見。下線筆者)ということを明らかにした点で、本判決は重要な意味をもつものである。「租税法令の解釈方法を巡る議論を整序する上で重要な意味を持つ判決と評価できよう。」(藤谷・前掲「判批」11頁)。

ただ、本判決の次の補足意見(①=宇賀補足意見、②=宮崎補足意見)が指摘した通達作成手法の問題は、租税法律主義の趣旨ないし予測可能性・法的安定性保障機能からすれば、改善すべき重要問題であるにもかかわらず、本判決後の通達改正(令和2年8月28日付課資4-2ほか1課共同「『所得税基本通達の制定について』の一部改正について(法令解釈通達)」。これに関する「趣旨説明(情報)」参照)でもその改善は末端的にしか実現しなかった。抜本的改善が望まれるところである。

【①】

租税法律主義は課税要件明確主義も内容とするものであり、所得税法に基づく課税処分について、相続税法に関する通達の読替えを行うという方法が、国民にとって分かりにくいことは否定できない。課税に関する予見可能性の点についての原審の判示及び被上告人らの主張には首肯できる面があり、より理解しやすい仕組みへの改善がされることが望ましいと思われる。

【②】

法廷意見で指摘しているとおり、所得税法に基づく譲渡所得に対する課税と相続税法に基づく相続税、贈与税の課税とでは、課税根拠となる法律を異にし、それぞれの法律に定められた課税を受けるべき主体、課税対象、課税標準の捉え方等の課税要件も異にするという差異がある。その点を踏まえると、所得税法適用のための通達の作成に当たり、相続税法適用のための通達を借用し、しかもその借用を具体的にどのように行うかを必ずしも個別に明記しないという所得税基本通達59-6で採られている通達作成手法には、通達の内容を分かりにくいものにしているという点において問題があるといわざるを得ない。本件は、そのような通達作成手法の問題点が顕在化した事案であったということができる。租税法の通達は課税庁の公的見解の表示として広く国民に受け入れられ、納税者の指針とされていることを踏まえるならば、そのような通達作成手法については、分かりやすさという観点から改善が望まれることはいうまでもない。

(了)

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税法基本判例

【第6回】

「租税法規の文理解釈と租税通達の文理解釈」

-最判令和2年3月24日訟月66巻12号1925頁-

 

大阪大学大学院高等司法研究科教授
谷口 勢津夫

 

Ⅰ はじめに

今回は、租税法律主義(形式的租税法律主義=法律によらない課税の禁止)の要請のうち税法の解釈適用、とりわけ税務行政による解釈適用に関する要請としての合法性の原則について、租税通達との関係を検討することにする。

合法性の原則は、「租税法は強行法であるから、課税要件が充足されている限り、租税行政庁に租税の減免の自由はなく、また租税を徴収しない自由もなく、法律で定められたとおりの税額を徴収しなければならない。」(金子宏『租税法〔第23版〕』(弘文堂・2019年)87頁)という要請として定式化されることがあるが、そのような定式化は、租税の減免等の納税者にとって有利な税務行政上の取扱いについてだけでなく不利な税務行政上の取扱いについても法律の根拠と効果裁量の否定を要求することを「当然の前提」とするものであると考えられる。

ただ、法律による行政の原理の伝統的な理解(侵害留保原理)によると、特に前者すなわち納税者にとって有利な取扱いについては法律の根拠と効果裁量の否定の要求が軽視されがちになるおそれがあることから、戦後における租税法律主義の民主主義的再構成及び債務関係説的再構成を受けて、そのようなおそれにいわば「警鐘」を鳴らすために前記のような定式化がされているものと解される。要するに、合法性の原則は、租税法律主義(法律によらない課税の禁止)が税務行政を名宛人とする場面におけるその「別称」ともいうべきものである(以上の理解については、拙稿「租税法律主義(憲法84条)」日税研論集77号(2020年)243頁、286頁以下のほか、谷口教授と学ぶ「税法の基礎理論」【第48回】参照)。

さて、今回取り上げる最判令和2年3月24日訟月66巻12号1925頁(以下「本判決」という)では、みなし譲渡課税(所税59条1項)における取引相場のない株式の時価(「当該株式の譲渡の時における価額」)が直接の争点であったが、その前提として、その評価方法を定める通達の「解釈」が問題となった。本判決には宇賀克也裁判官と宮崎裕子裁判官の補足意見(以下「宇賀補足意見」、「宮崎補足意見」という)が付されているが、これらの補足意見は通達の「解釈」の問題に関するものである。今回は、本判決を素材にして、租税通達の「解釈」の問題を検討することにする。

本件で問題となった通達の規定は所得税基本通達59-6であるが、本件当時のこの規定は、「その時における価額」(所税59条1項柱書)を「23~35共-9に準じて算定した価額による」とした上で、23~35共-9の(4)ニにおいて取引相場のない株式のうち売買実例のある株式等に該当しないものについて定められる、その株式の発行法人の1株当たりの純資産価額等を参酌して「通常取引されると認められる価額」を、59-6の(1)~(4)によることを条件に、財産評価基本通達(以下「評価通達」という)の178から189-7まで(取引相場のない株式の評価)の「例により算定した価額」とする旨を定めていた。ここで、59-6の(1)は、評価通達188の(1)に定める同族株主に該当するかどうかは、株式を譲渡又は贈与した個人の当該譲渡又は贈与直前の議決権の数により判定することとしていた。

このように、所得税基本通達59-6は、「その時における価額」すなわち時価の意義について、学説(金子・前掲書409頁、714頁、拙著『税法基本講義〔第7版〕』(弘文堂・2021年)【285】等参照)・判例(最判平成22年7月16日訟月57巻6号1910頁、最判平成25年7月12日民集67巻6号1255頁等)において分野を問わず一般に支持されている解釈に従い、「当該譲渡の時における客観的交換価値、すなわち、それぞれの資産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立する価額」(東京地判平成25年10月22日税資263号順号12315)というような解釈を採用した上で、これに該当する事実の認定に関して、評価通達の定める評価方法を包括的に採用したものと解される(財産評価が課税要件事実の認定であることについては前掲拙著【56】、「例による」の意義については角田禮次郎ほか編『法令用語辞典〔第10次改訂版〕』(学陽書房・2016年)785頁参照)。

 

Ⅱ 本判決と原判決との比較検討

本判決は、原審・東京高判平成30年7月19日訟月66巻12号1976頁(以下「原判決」という)の判断を破棄したが、その破棄された判断は次の判示(下線筆者)に基づくものである。

租税法規の解釈は原則として文理解釈によるべきであり、みだりに拡張解釈や類推解釈を行うことは許されないと解されるところ、所得税基本通達及び評価通達は租税法規そのものではないものの、課税庁による租税法規の解釈適用の統一に極めて重要な役割を果たしており、一般にも公開されて納税者が具体的な取引等について検討する際の指針となっていることからすれば、課税に関する納税者の信頼及び予見可能性を確保する見地から、上記各通達の意味内容についてもその文理に忠実に解釈するのが相当であり、通達の文言を殊更に読み替えて異なる内容のものとして適用することは許されないというべきである。本件においては、本件株式が評価通達188の(3)の株式に該当するかどうかが争われているところ、上記のとおり、所得税基本通達59-6の(1)が、評価通達188の(1)に定める「同族株主」に該当するかどうかについて株式を譲渡した個人の当該譲渡直前の議決権の数により判定する旨を定める一方で、同(2)から(4)までについて何ら触れていないことからすれば、同(3)の「同族株主のいない会社」に当たるかどうかの判定(会社区分の判定)については、それが同(1)の「同族株主のいる会社」の対概念として定められていることに照らし、所得税基本通達59-6の(1)により株式譲渡直前の議決権の数により行われるものと解されるとしても、「課税時期において株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数が、その会社の議決権総数の15%未満である場合におけるその株主の取得した株式」に該当するかどうかの判定(株主区分の判定)については、その文言どおり、株式の取得者の取得後の議決権割合により判定されるものと解するのが相当である。

これに対して、本判決は、譲渡所得課税の趣旨に関する確立した判例の立場(最判昭和43年10月31日集民92号797頁、最判昭和47年12月26日民集26巻10号2083頁等)を前提にして、次のとおり判示し(下線筆者)、評価通達188の(3)の文言ないし文理から「離れた」判断を示した。

所得税法59条1項所定の「その時における価額」につき、所得税基本通達59-6は、譲渡所得の基因となった資産が取引相場のない株式である場合には、同通達59-6の(1)~(4)によることを条件に評価通達の例により算定した価額とする旨を定める。評価通達は、相続税及び贈与税の課税における財産の評価に関するものであるところ、取引相場のない株式の評価方法について、原則的な評価方法を定める一方、事業経営への影響の少ない同族株主の一部や従業員株主等においては、会社への支配力が乏しく、単に配当を期待するにとどまるという実情があることから、評価手続の簡便性をも考慮して、このような少数株主が取得した株式については、例外的に配当還元方式によるものとする。そして、評価通達は、株式を取得した株主の議決権の割合により配当還元方式を用いるか否かを判定するものとするが、これは、相続税や贈与税は、相続等により財産を取得した者に対し、取得した財産の価額を課税価格として課されるものであることから、株式を取得した株主の会社への支配力に着目したものということができる。

これに対し、本件のような株式の譲渡に係る譲渡所得に対する課税においては、当該譲渡における譲受人の会社への支配力の程度は、譲渡人の下に生じている増加益の額に影響を及ぼすものではないのであって、前記の譲渡所得に対する課税の趣旨に照らせば、譲渡人の会社への支配力の程度に応じた評価方法を用いるべきものと解される。

そうすると、譲渡所得に対する課税の場面においては、相続税や贈与税の課税の場面を前提とする評価通達の前記の定めをそのまま用いることはできず、所得税法の趣旨に則し、その差異に応じた取扱いがされるべきである。所得税基本通達59-6は、取引相場のない株式の評価につき、少数株主に該当するか否かの判断の前提となる「同族株主」に該当するかどうかは株式を譲渡又は贈与した個人の当該譲渡又は贈与直前の議決権の数により判定すること等を条件に、評価通達の例により算定した価額とする旨を定めているところ、この定めは、上記のとおり、譲渡所得に対する課税と相続税等との性質の差異に応じた取扱いをすることとし、少数株主に該当するか否かについても当該株式を譲渡した株主について判断すべきことをいう趣旨のものということができる。

原判決と本判決とを対比すると、両判決は、みなし譲渡課税(所税59条1項)における取引相場のない株式の時価について、その意義の点では、同じく所得税基本通達59-6の解釈を採用しつつも、その(時価に該当する事実の認定のための)評価方法の点では、①「譲受人の会社への支配力」に着目するか(原判決)又は②「譲渡人の会社への支配力」に着目するか(本判決)で異なる判断を示している。

本判決は、所得税法59条1項に規定する「その時における価額」について所得税基本通達59-6と同じ解釈によって定立した規範に該当する事実を認定するに当たって、譲渡所得課税の趣旨に照らして事実認定方法(評価方法)について判断したものであるが、譲渡所得課税の趣旨が譲渡の時点で「譲渡人の下に生じている増加益」に対して課税することにある以上、前記の②に着目し「譲渡人の会社への支配力の程度に応じた評価方法」を用いるのが論理的かつ自然である。したがって、本判決は至極妥当な判断を示したものといえる。

これに対して、原判決は所得税基本通達59-6について「その文理に忠実に解釈する」として前記の判断を示しているが、しかし、「所得税基本通達59-6は、評価通達の『例により』算定するものと定めているので、相続税と譲渡所得に関する課税の性質の相違に応じた読替えをすることを想定しており、このような読替えをすることは、そもそも、所得税基本通達の文理にも反しているとはいえない」(宇賀補足意見)と考えるならば、原判決は必ずしもそのような文理解釈をしたものとはいえないように思われる。

原判決にはそのような問題もあるが、原判決の根本的な問題は、何よりもまず、租税法規と租税通達とで「文理解釈」の意味が異なることを正解していない点にある。この点については、項を改めて検討する。

 

Ⅲ 「他者拘束的」文理解釈と「自己拘束的」文理解釈

1 租税法規の文理解釈と租税通達の文理解釈との関係

税法の解釈について、租税法律主義の下では、次の見解(清永敬次『税法〔新装版〕』(ミネルヴァ書房・2013年)35頁)が説くように、厳格な解釈が要請され、それは文理解釈を意味することに異論はなかろう(金子・前掲書123頁、前掲拙著【44】等参照)。

税法の解釈は種々の場合において色々な形で問題となりうるから、税法の解釈についての基本的な原則を一般的に述べることはかなり困難であるが、税法の解釈、特に租税実体法の解釈においては一般的にいって法文からはなれた自由な解釈は許されないと考えるべきであろう。もし法文からはなれた自由な解釈が許されるとするならば、それは帰するところ法律によらない課税を容認することになって、租税については法律でこれを定めるとする租税法律主義の原則が税法の解釈を通じてくずれていくことになるからである。この意味において、税法の解釈、殊に租税実体法の解釈においては、基本的には厳格な解釈が要請されることになる。この場合、法規の法文や文言がまず重視されることになろう。税法においてはある法条においてどのような文言が用いられているかが重要なのである。法規の文言や法文を通常の用語例よりも拡張したりまた縮小したりする拡張解釈や縮小解釈、また類推解釈は、原則として許されないと考えられる。

税法の解釈について文理解釈が要請されるのは、上の見解が説くように、「法律によらない課税」を禁止し、もって租税法律主義(法律に基づく課税)を実現するためである。租税法律主義は課税権者による恣意的・不当な課税から国民の財産及び自由を保護することを目的とするが、その目的の実現のために税務行政に法律に基づく課税を命じるのである。換言すれば、税務行政は課税において、法律という他者(立法者)の制定したルールによって拘束されるのである。

この意味において、税法(租税法規)の文理解釈は、税務行政に対して「他者拘束」を厳格に要求する解釈方法である。このような「他者拘束的」文理解釈は、税務行政による恣意的・不当な課税を阻止するために重要な役割を果たすものであるが、その役割は「文理解釈の侵害防御権的機能・自由権保障機能」と呼ぶことができる(前掲拙著【44】参照)。

この機能は、租税法規の(「他者拘束的」)文理解釈においてこそ発揮されるものであり、税務行政が租税法規について自己の解釈を示した租税通達の文理解釈においては、直接的には発揮されない。租税通達の文理解釈において発揮されるのは、「通達の内容が法の正しい解釈に合致するものである」(最判昭和33年3月28日民集12巻4号624頁)場合に限られるのであり(この場合に税務行政を拘束するのは法的には租税法規であるが)、そうでない場合には、租税通達の文理解釈は、原判決が前記引用判示のその前段で説示する租税法規の文理解釈とは同列に論じることはできないのである。すなわち、「通達の文言をいかに文理解釈したとしても、その通達が法令の内容に合致しないとなれば、通達の文理解釈に従った取扱いであることを理由としてその取扱いを適法と認めることはできない。」(宮崎補足意見)

原判決はこのことを誤解している。「租税法規の解釈は原則として文理解釈によるべきであり、みだりに拡張解釈や類推解釈を行うことは許されないと解される」との原判決の判示は、「租税法規はみだりに規定の文言を離れて解釈すべきものではな[い]」(最判平成22年3月2日民集64巻2号420頁等)との確立した判例の立場に従ったものであり妥当な判示であるが、しかし、原判決には、このような租税法規の文理解釈と租税通達の文理解釈とを同列に論じたところに、根本的な誤解がある。

2 原判決の「真の誤解」

では、何が原判決をこのように「迷走」(藤谷武史「判批」ジュリスト1548号(2020年)10頁、11頁)させ根本的な誤解に陥らせたのであろうか。

原判決は、租税通達の文理解釈について判示するに当たって、「所得税基本通達及び評価通達は租税法規そのものではないものの、課税庁による租税法規の解釈適用の統一に極めて重要な役割を果たしており、一般にも公開されて納税者が具体的な取引等について検討する際の指針となっている」と説示しているが、この説示の内容ないし認識はそれぞれ妥当なものであり、「課税に関する納税者の信頼及び予見可能性を確保する」ことも重要である(宇賀補足意見参照)。問題は、原判決が「課税に関する納税者の信頼及び予見可能性を確保する見地」から租税通達の文理解釈の要請を導き出したところにあると考えられ、この問題こそが原判決を「迷走」させ根本的な誤解に陥らせたものと考えられる。

この点について、「本件通達に定めていない要件を、通達の改正をしないまま解釈により付加することは、租税法律主義の趣旨に抵触する。」と判示した東京高判平成23年8月4日税資261号順号11728(以下「平成23年東京高判」という)に着目し、「本件原審判決[=原判決]は、課税要件明確主義には言及していないが、通達に合理性がある限り、その通達の文言に忠実な解釈によることが納税者の予測可能性の確保のために必要である、という論理構造において、上記裁判例[=平成23年東京高判]の影響を見てとることができる。」と指摘する見解(藤谷・前掲「判批」11頁)がある。

確かに、原判決も平成23年東京高判も、「通達の文言を殊更に読み替えて異なる内容のものとして適用すること」(以下「文言の読み替え」という)と「本件通達に定めていない要件を、通達の改正をしないまま解釈により付加すること」(以下「要件の追加」という)という表現の違いはともかく、通達の文言から離れた解釈を問題にしこれを許さないものとする点では、共通しており、租税通達の解釈について文理解釈を要請するものと解される。その限りでは、前記の見解は正鵠を射たものといえよう。しかしながら、両判決において文理解釈の要請違反は、以下で述べるとおり、異なる意味をもつと考えられる。

原判決が許されないものとする「文言の読み替え」は、譲渡所得課税の趣旨には適合しており、逆に、読み換えをしないまま通達規定を文言どおり適用すると譲渡所得課税の趣旨に反する結果となるが故に、原判決(による租税通達の文理解釈)は租税法律主義(ここでは合法性の原則)「それ自体」に抵触する。つまり、原判決は「他者拘束的」文理解釈の要請に違反するものである。

これに対して、平成23年東京高判では、追加される要件の内容が組合課税の規定ないし趣旨に反するとはされておらず(そうでなければ、同判決を受けてされた平成24年改正後の所基通36・37共20柱書但書も組合課税の規定・趣旨に反することになろう)、「要件の追加」だけが租税法律主義の「趣旨」に抵触するとされているにとどまる。ここでいう租税法律主義の「趣旨」は、租税法律主義の予測可能性・法的安定性保障機能(前掲拙著【11】参照)を意味するものと解される。この機能は、原判決のいう「課税に関する納税者の信頼及び予見可能性を確保する見地」と言い換えてもよく、租税通達の解釈にも妥当すると考えられる。

そのような機能ないし「見地」からすると、税務行政は、自らが租税通達において示した租税法規の解釈を、当該通達の文言を離れて自由に(明示的な通達改正なしに)変更してはならないという拘束(自己拘束)を受けることになる(無論、明示的な通達改正の場合でも、信義則違反の問題は生じ得る)。平成23年東京高判では、租税通達についてこのような「自己拘束的」文理解釈の要請に反する解釈が許されないとされたと解される。

このように考えてくると、原判決は、「他者拘束的」文理解釈を検討すべきであった解釈問題について、「自己拘束的」文理解釈を検討した上で判断したところに、「真の誤解」があると考えるべきであろう。前記の見解が説くように原判決に平成23年東京高判の影響をみてとることができるとしても、「租税法律主義を根拠とした予測可能性の確保の要請から通達の『文理解釈』を導くという錯綜した論法」(藤谷・前掲「判批」11頁)は、平成23年東京高判それ自体が採用したものではなく、この判決の論理構造を誤解して原判決が採用したものとみるべきであろう。

なお、組合課税については、所得税法における個人単位主義や所得の帰属に関する定め(前掲拙著【202】【231】参照)の解釈によりパス・スルー課税が導き出されているが、組合損益の計算方法については通達で総額方式、中間方式及び純額方式の選択が認められ、その選択要件についても通達で定められるなど「法律の規律密度が極めて低く、通達が空隙を埋める役割を果たしている」(藤谷・前掲「判批」11頁)ことからすると、平成23年東京高判のように、租税通達について「自己拘束的」文理解釈を問題にする余地はあると考えられる(前掲拙著【39】参照)。この余地を排除するかどうかは立法の問題である。

これに関連して、もう1点付言しておくと、租税通達の「自己拘束的」文理解釈の要請が本領を発揮するのは、合法性の原則の枠外でその外在的例外として妥当する信義則(前掲拙著【83】参照)との関係においてであろう。「課税に関する納税者の信頼及び予見可能性を確保する見地から、上記各通達の意味内容についてもその文理に忠実に解釈するのが相当であり、通達の文言を殊更に読み替えて異なる内容のものとして適用することは許されないというべきである。」という原判決の考え方は、本件についてはともかく、一般論としては、信義則との関係で十分に成り立つものである。というのも、「通達の公表は、最高裁昭和60年(行ツ)第125号同62年10月30日第三小法廷判決・裁判集民事152号93頁にいう『公的見解』の表示に当たり、それに反する課税処分は、場合によっては、信義則違反の問題を生ぜしめる」(宇賀補足意見)からである。

 

Ⅳ おわりに

租税法規の文理解釈と租税通達の文理解釈との関係については、従来ほとんど意識的には論じられてこなかったように思われるが、「租税法の法令解釈において文理解釈が重要な解釈原則であるのと同じ意味で、文理解釈が通達の重要な解釈原則であるとはいえないのである。」(宮崎補足意見。下線筆者)ということを明らかにした点で、本判決は重要な意味をもつものである。「租税法令の解釈方法を巡る議論を整序する上で重要な意味を持つ判決と評価できよう。」(藤谷・前掲「判批」11頁)。

ただ、本判決の次の補足意見(①=宇賀補足意見、②=宮崎補足意見)が指摘した通達作成手法の問題は、租税法律主義の趣旨ないし予測可能性・法的安定性保障機能からすれば、改善すべき重要問題であるにもかかわらず、本判決後の通達改正(令和2年8月28日付課資4-2ほか1課共同「『所得税基本通達の制定について』の一部改正について(法令解釈通達)」。これに関する「趣旨説明(情報)」参照)でもその改善は末端的にしか実現しなかった。抜本的改善が望まれるところである。

【①】

租税法律主義は課税要件明確主義も内容とするものであり、所得税法に基づく課税処分について、相続税法に関する通達の読替えを行うという方法が、国民にとって分かりにくいことは否定できない。課税に関する予見可能性の点についての原審の判示及び被上告人らの主張には首肯できる面があり、より理解しやすい仕組みへの改善がされることが望ましいと思われる。

【②】

法廷意見で指摘しているとおり、所得税法に基づく譲渡所得に対する課税と相続税法に基づく相続税、贈与税の課税とでは、課税根拠となる法律を異にし、それぞれの法律に定められた課税を受けるべき主体、課税対象、課税標準の捉え方等の課税要件も異にするという差異がある。その点を踏まえると、所得税法適用のための通達の作成に当たり、相続税法適用のための通達を借用し、しかもその借用を具体的にどのように行うかを必ずしも個別に明記しないという所得税基本通達59-6で採られている通達作成手法には、通達の内容を分かりにくいものにしているという点において問題があるといわざるを得ない。本件は、そのような通達作成手法の問題点が顕在化した事案であったということができる。租税法の通達は課税庁の公的見解の表示として広く国民に受け入れられ、納税者の指針とされていることを踏まえるならば、そのような通達作成手法については、分かりやすさという観点から改善が望まれることはいうまでもない。

(了)

この連載の公開日程は、下記の連載目次をご覧ください。

連載目次

谷口教授と学ぶ「税法基本判例」

第1回~第20回

第21回~

筆者紹介

谷口 勢津夫

(たにぐち・せつお)

大阪学院大学法学部教授

1956年高知県生まれ。京都大学法学部卒業、同大学大学院法学研究科博士後期課程単位修得退学。甲南大学法学部教授、大阪大学大学院高等司法研究科教授を経て2022年4月より現職。大阪大学名誉教授。ほかに大阪大学大学院高等司法研究科長・大阪大学法務室長、アレクサンダー・フォン・フンボルト財団奨励研究員(Forschungsstipendiat der Alexander von Humboldt-Stiftung)・ミュンヘン大学客員研究員、日本税法学会理事長、租税法学会理事、IFA(International Fiscal Association)日本支部理事、資産評価政策学会理事、司法試験考査委員、公認会計士試験試験委員、独立行政法人造幣局契約監視委員会委員・委員長、大阪府収用委員会委員・会長、大阪府行政不服審査会委員・会長、公益財団法人日本税務研究センター評議員・同センター理事・同センター「日税研究賞」選考委員・同センター編集委員会委員、公益財団法人納税協会連合会「税に関する論文」選考委員、公益社団法人商事法務研究会「商事法務研究会賞」審査委員、近畿税理士会・近畿税務研究センター顧問など(一部現職。ほか歴任)。

主要著書は『租税条約論』(清文社・1999年)、『租税回避論』(清文社・2014年)、『租税回避研究の展開と課題〔清永敬次先生謝恩論文集〕』(共著・ミネルヴァ書房・2015年)、『税法の基礎理論』(清文社・2021年)、『税法創造論』(清文社・2022年)、『税法基本判例Ⅰ』(清文社・2023年)、『基礎から学べる租税法〔第4版〕』(共著・弘文堂・2025年)、『税法基本講義〔第8版〕』(弘文堂・2025年)、『税法基本判例Ⅱ』(清文社・2025年)など。
 
   

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