〈ポイント解説〉
役員報酬の税務
【第72回】
「非上場企業における業績連動型の役員退職給与」
税理士 中尾 隼大
【 質 問 】
非上場企業である当社は、これまで功績倍率法を用いて役員退職給与の適正額を算定し、損金の額に算入してきました。この度、役員から「功績倍率法は功績倍率の設定次第で金額が変動するため、経営指標に応じて退職給与の額を定めたほうが、より役員の貢献度を反映することができるのではないか」という旨の提案がありました。
この場合における留意点はありますか。
【 回 答 】
「役員に対する退職給与で業績連動給与に該当するもの」に関しては、法人税法34条1項本文の括弧書きにて役員給与に当たるとされるため、非上場企業である貴社は業績連動給与の損金算入要件を充足することはできず、当該金額は損金不算入となります。以下に考えられる留意点を含めて解説します。
○●○● 解 説 ●○●○
(1) 平成29年度税制改正前後の取扱い
現行の業績連動給与の制度は、平成29年度税制改正が施行される前までは旧・利益連動給与として整理されていた。改正前の法人税法34条1項本文をみると、「役員に対して支給する給与」から「退職給与」自体が除かれているため、退職給与であれば法人税法34条1項が定める3要件(定期同額給与・事前確定届出給与・利益連動給与)を判定する必要がなく、その他の損金不算入規定に該当しなければ損金算入が可能となっていた。この点、平成29年度税制改正の背景について、「退職給与・・・による給与は、利益に連動するものであっても厳格な要件を満たさずとも損金できること」が、役員給与等の実態と税制上の損金算入要件等と乖離していたためである旨の指摘がなされている(※)。
(※) 藤山智博他編『平成29年度版 改正税法のすべて』(大蔵財務協会、2017)301頁。
これに対し、平成29年度税制改正において旧・利益連動給与の制度が見直され、業績連動給与の制度に改められたのは記憶に新しい。その具体的な内容は【第35回】にて触れているとおり、役員給与のうち業績連動給与としての損金算入をしようとする場合、経営指標をベースとして客観的な算定方法を定め、それを有価証券報告書へ記載することが必要である。したがって、法人が非上場企業である場合にはこの要件を満たすことができず、業績連動給与としての損金算入をすることができない。加えて、改正後の法人税法34条1項本文では、「役員に対して支給する給与(退職給与で業績連動給与に該当しないもの・・・を除く。)」と示されたうえで3要件への該当性を判断することが示されている。これによれば、「役員に対する退職給与で業績連動給与に該当するもの」があれば、業績連動給与として損金算入の可否が判断されるため、業績連動給与に該当する以上、役員退職給与についても損金算入できないこととなる。
(2) 業績連動給与への該当性
それでは、役員退職給与のうち、どのようなものが業績連動給与となるのかについて確認したい。法人税法34条5項によると、「業績連動給与とは、利益の状況を示す指標、株式の市場価格の状況を示す指標その他の同項の内国法人又は当該内国法人との間に支配関係がある法人の業績を示す指標を基礎として算定される・・・給与・・・」と示されている。また、法人税基本通達9-2-17の2において、これらの指標が「利益若しくは株式の市場価格に関するもの又はこれらと同時に用いられる売上高に関するものに限られる」とされている。このうち、利益の状況を示す指標の具体例については【第35回】で触れているが、株式の市場価格の状況を示す指標についても経済産業省「『攻めの経営』を促す役員報酬-企業の持続的成長のためのインセンティブプラン導入の手引き―(2017年4月作成・公表、2023年3月最終更新)」Q62以下に解説されている。
これらに鑑みると、非上場企業が役員退職給与について業績連動の要素を導入しようとした場合、「株式の市場価格を示す指標」を採用することはそもそも不可能であるため、利益の状況を示す指標や利益と同時に売上高を用いる指標を基礎とすることとなる。つまり、各種利益やEBITDA等を用いて役員退職給与の額を算出するような役員退職金規程を設けた場合、退職給与で業績連動給与に該当するものに該当すると考えられる。
この場合には、業績連動給与の損金算入要件の判定対象となり、有価証券報告書に記載する形で開示していないために損金算入が認められないこととなる。
(3) 功績倍率法との関係と留意点
これに対し、不相当に高額とはならない役員退職給与の額の算定方法については、本連載各所で触れてきたように、法人税基本通達9-2-27の3(注)にて功績倍率法の定義が示されており、具体的には「役員の退職の直前に支給した給与の額を基礎として、役員の法人の業務に従事した期間及び役員の職責に応じた倍率を乗ずる方法により支給する金額が算定される方法」であるとされている。そして、同通達の本文には、「功績倍率法に基づいて支給する退職給与は、法第34条第5項《役員給与の損金不算入》に規定する業績連動給与に該当しない」と示されている。つまり、功績倍率法を用いる限り、業績連動給与の損金算入要件について判定する必要がないとされているのである。
これによれば、功績倍率法による限り、今回取り上げる懸念点は具現化しないとも思われる。しかし、役員のこれまでの貢献を評価する手法として、功績倍率法の倍率自体を利益指標によるとする旨の役員退職金規程を設定し、実際に運用している場合はどうだろうか。例えば、利益指標をベースとした功績倍率テーブルを設け、それに当てはめる形で功績倍率法に用いる功績倍率自体が定まるという場合が考えられる。この場合、私見ではあるが、功績倍率法の1要素である功績倍率自体に業績連動給与に関する要素が介入しているとされることで、その支給額が「役員退職給与で業績連動給与に該当するもの」と判断される可能性もあるだろう。したがって、非上場企業が役員退職金規程を設ける場合には、功績倍率法を用いることを前提に、業績連動の要素を排除する形にて運用するべきであるといえるだろう。
なお、功績倍率法については、実務上、代表取締役に対する功績倍率を3倍以下とすれば無難という認識が広く浸透している。本来の功績倍率は、同業類似法人の情報を基に算定すべき中でこのような認識となったのは、納税者が事前に同業類似法人の情報を把握することには限度があるという前提において、事例の蓄積と認識の収斂によるものではないかと思われる。また、いわゆる功労加算の要素も含めたところで功績倍率の適正性を判断すべきであること、外形的に代表取締役でさえあれば必ず3倍が認められるとは限らないという点等に留意したい(これらについては【第66回】等参照)。
〔凡例〕
法法・・・法人税法
法令・・・法人税法施行令
法規・・・法人税法施行規則
法基通・・・法人税基本通達
措法・・・租税特別措置法
措令・・・租税特別措置法施行令
措規・・・租税特別措置法施行規則
措通・・・租税特別措置法関係通達
所法・・・所得税法
所令・・・所得税法施行令
所基通・・・所得税基本通達
消法・・・消費税法
消基通・・・消費税法基本通達
相法・・・相続税法
相基通・・・相続税法基本通達
財基通・・・財産評価基本通達
通法・・・国税通則法
通令・・・国税通則法施行令
地法・・・地方税法
地令・・・地方税法施行令
地規・・・地方税法施行規則
(例)法法34①一・・・法人税法34条1項1号
(了)
次回は7/17に公開予定です。





















