谷口教授と学ぶ
税法基本判例
【第25回】
「事実認定による否認論をめぐる判例の動向」
-「租税法上の一般原則としての平等原則」は事実認定による否認論を正当化することができるか-
大阪学院大学法学部教授
谷口 勢津夫
Ⅰ はじめに
前回は、租税回避の否認に関して租税法律主義の下で否認規定必要説が確立されてきたとの理解を述べたが、その際に、否認規定必要説の確立において重要な役割を果たしたものと解される土地相互売買[岩瀬]事件・東京高判平成11年6月21日訟月47巻1号184頁が、後に最高裁が私法上の法律構成による否認論を含め広く事実認定による否認論に対して慎重ないし否定的な態度をとることに道筋を示したとの理解も述べたところである(Ⅲ2参照)。
ただ、第15回においては、財産評価基本通達総則6項事件・最判令和4年4月19日民集76巻4号411頁(以下「令和4年最判」という)を目的論的事実認定の側から検討しその検討を通じて、同最判が財産評価に係る事実認定による否認を「租税法上の一般原則としての平等原則」によって正当化したものであるとの理解を述べた上で、最高裁において財産評価についても事実認定による否認論に関する従来の否定的な立場に軌道修正すべき旨を述べた(Ⅲ3参照)。とはいえ、それで令和4年最判という難解な判決について検討し尽くしたとは思われず、その後も検討を重ね、その一部を公表したが(第21回Ⅳ参照)、改めて本格的に検討し直しその成果を公表しようと考えてきたところである。
そこで、事実認定による否認論に関する判例の従来の否定的な立場については既に検討したところ(拙著『租税回避論』(清文社・2014年)210-215頁[初出・2011年]のほかに、谷口教授と学ぶ「税法の基礎理論」第9回、拙著『税法基本講義〔第7版〕』(弘文堂・2021年)【75】)を参照していただくとして、今回は、令和4年最判の判断過程及び判断内容をもう一度整理し直し、事実認定による否認論において措定・適用される「裁判規範としての租税回避否認規定」(上記拙著【74】参照)の側から第15回における検討を見直し再構成した上で、「租税法上の一般原則としての平等原則」によって事実認定による否認論を正当化することは租税法律主義の下では許容されないことを明らかにすることにする(Ⅲ)。その検討に入る前に、次のⅡで、財産評価が事実認定であること及びそのことの法的意味を確認しておくことにしよう。
この記事全文をご覧いただくには、プロフェッションネットワークの会員(プレミアム
会員又は一般会員)としてのログインが必要です。
通常、Profession Journalはプレミアム会員専用の閲覧サービスですので、プレミアム
会員のご登録をおすすめします。
プレミアム会員の方は下記ボタンからログインしてください。
プレミアム会員のご登録がお済みでない方は、下記ボタンから「プレミアム会員」を選択の上、お手続きください。