公開日: 2022/02/24 (掲載号:No.458)
文字サイズ

谷口教授と学ぶ「税法基本判例」 【第11回】「納税者に有利な「実質的」遡及課税とその問題性」-国税不服審判所平成31年3月25日裁決による法令解釈と閣議決定によるその変更-

筆者: 谷口 勢津夫

谷口教授と学ぶ

税法基本判例

【第11回】

「納税者に有利な「実質的」遡及課税とその問題性」

-国税不服審判所平成31年3月25日裁決による法令解釈と閣議決定によるその変更-

 

大阪大学大学院高等司法研究科教授
谷口 勢津夫

 

Ⅰ はじめに

第5回では、遡及課税は租税法律主義の下では原則として禁止されることを確認してきたが、このことは、遡及課税が納税者に不利な結果をもたらす場合についていえることである。つまり、逆にいえば、納税者に有利な遡及課税は許容されるのである。

この点に関して注目すべき動きが先月あった。それは、令和4年1月7日付けで国税庁ホームページ(ホーム/お知らせ/その他のお知らせ)に「クロスボーダーで行うデリバティブ取引の決済により生ずる所得の取扱いについて」という国税庁の見解(以下「国税庁デリバティブ所得見解」という)が公表されたことであるが、その見解は次のとおり述べている(下線筆者)。

令和4年1月

国 税 庁

クロスボーダーで行うデリバティブ取引の決済により生ずる所得の取扱いについて

1 従来の取扱い

クロスボーダーで行う金融商品取引法の市場デリバティブ取引及び店頭デリバティブ取引の決済により生ずる所得(以下「デリバティブ所得」といいます。)については、恒久的施設等に帰属するデリバティブ所得を除き、

・ 非居住者又は外国法人に係るデリバティブ所得は、国内源泉所得である「国内資産の運用・保有所得」に該当する

・ 居住者又は内国法人に係るデリバティブ所得は、国外源泉所得である「国外資産の運用・保有所得」に該当する

と取り扱っていました。

2 今後の取扱い

令和3年12月24日に閣議決定された「令和4年度税制改正の大綱」においては、恒久的施設等に帰属するデリバティブ所得を除き、

・ 非居住者又は外国法人に係るデリバティブ所得は、国内源泉所得である「国内資産の運用・保有所得」に該当しない

・ 居住者又は内国法人に係るデリバティブ所得は、国外源泉所得である「国外資産の運用・保有所得」に該当しない

ことを法令上明確化することとされました。

今回の閣議決定を受け、従来の取扱いを変更することとします。

(参考)令和4年度税制改正の大綱(令和3年12月24日閣議決定)

● 金融商品取引法に規定する市場デリバティブ取引又は店頭デリバティブ取引の決済により生ずる所得は、所得税法及び法人税法に規定する国内源泉所得である「国内資産の運用・保有所得」に含まれないことを法令上明確化する。

(注)外国税額控除における国外源泉所得である「国外資産の運用・保有所得」についても同様とする。

3 非居住者又は外国法人の方へ

上記2の取扱いの変更は、過去に遡って適用されます。今回の取扱いの変更により、税金が納め過ぎとなる方については、更正の請求を行い、納めすぎた税金の還付を求めること等ができます。

(注1)所得税又は法人税の還付を受けるための更正の請求については、法定申告期限等から5年を経過している場合は、法令上、減額更正できないこととされています。

(注2)法人税に係る純損失等の金額を増加するための更正の請求については、

・ 平成30年4月1日以後に開始する事業年度に係る更正の請求で、法定申告期限等から10年を経過している場合

・ 平成30年3月31日以前に開始した事業年度に係る更正の請求で、法定申告期限等から9年を経過している場合

は、法令上、更正できないこととされています。

(注3)更正の請求には、請求の理由の基礎となる事実を証明する書類の添付が必要です。

4 居住者又は内国法人の方へ

上記2の取扱いの変更は、過去に遡って適用されます。今回の取扱いの変更により、外国税額控除の額が減少する方は、修正申告が必要な場合があります。

なお、この見解の4は、納税者に不利な遡及課税をもたらすが故に原則として許容されず、その例外的許容性については、最判平成23年9月23日民集65巻6号2756頁等の判例で示された判断枠組み(第5回Ⅰ、拙著『税法基本講義〔第7版〕』(弘文堂・2021年)【36】参照)に従って判断する必要があるが、今回は、この問題には立ち入らない。

 

Ⅱ 国税庁による納税者に有利な「実質的」遡及課税

国税庁デリバティブ所得見解でも「参考」として引用されているとおり、「令和4年度税制改正の大綱」(令和3年12月24日閣議決定)の「五 国際課税」の「3 その他(国税)」(3)では次のとおり述べられている(下線筆者)。

(3) 金融商品取引法に規定する市場デリバティブ取引又は店頭デリバティブ取引の決済により生ずる所得は、所得税法及び法人税法に規定する国内源泉所得である「国内資産の運用・保有所得」に含まれないことを法令上明確化する。

(注)外国税額控除における国外源泉所得である「国外資産の運用・保有所得」についても同様とする。

この閣議決定は、デリバティブ所得に係る従来の取扱いを変更するものであるが、その従来の取扱いは、国税不服審判所平成31年3月25日裁決(LEX/DB文献番号26013006。以下「平成31年裁決」という)が非居住者の「国内にある資産の運用又は保有により生ずる所得」(平成26年法律第10号による改正前の所得税法161条1号=本件規定)の判断について示した次の見解と少なくとも結論の点では同じ見解を採用するものであったことから、この閣議決定は平成31年裁決の見解とは異なる見解を「法令上明確化する」とするもの、すなわち、平成31年裁決の見解を法令によって明確に変更(少なくとも結論の点では「否定」)しようとするものとみてよかろう。

(イ)法令解釈

本件規定にいう「資産の運用、保有により生ずる所得」とは、その経済的実質が時間の経過に従って生ずる利子といえるものを含むが、これに限らず、資産により生ずる所得のうち資産の譲渡により生ずる所得以外のもの、すなわち、資産の運用又は保有に該当する行為がある場合に、当該行為によって生じた所得を広く含むと解するのが相当である。

他方、本件規定にいう「資産の譲渡により生ずる所得」とは、これと所得税法第33条第1項に規定する「資産の譲渡による所得」とを別異に解する理由が見当たらないことからすると、保有資産を移転させる一切の行為から生ずる所得をいうものと解するのが相当である。

(ロ)検討

上記イのとおり、本件FX取引における契約上の地位は、本件FX取引の対象とされる通貨間の為替の変動に応じて利益又は損失を生じさせ得る契約上の地位であり、本件規定にいう「資産」に該当し、本件FX取引における差金決済に係る所得は、請求人がこのような契約上の地位に係る権利を行使することにより生じたものであって、当該契約上の地位又は権利を他に移転したことにより生じたものではない。

したがって、差金決済に係る所得は、本件規定にいう「資産の譲渡により生ずる所得」には該当せず、「資産の運用、保有により生ずる所得」に該当する。

また、本件FX取引においては、スワップポイントの受払い、すなわち、ロールオーバーにより決済日が繰り越されたことによる組合せ通貨間の金利差を調整するため、その差に基づいて算出される額の受払いが行われていたところ、当該スワップポイントは、資産たる未決済取引に係る契約上の地位を他に移転することなく保有することにより授受されるものであるから、スワップポイントに係る所得は、本件規定にいう「資産の運用、保有により生ずる所得」に該当する。

このように前記の閣議決定が平成31年裁決の見解を明確に変更しようとした背景については、次のような指摘がされている(週刊T&Amaster編集部「税制改正大綱踏まえ国税庁が公式見解 過去のデリバティブ取引も資産の運用保有所得に該当せず」週刊T&Amaster No.915(2022年1月24日)40-41頁)。

日本国内に恒久的施設を有していない非居住者である個人または外国法人が、国内にある資産の運用又は保有により生ずる所得を得た場合、通常は確定申告書の提出と納税が必要とされるが、平成31年裁決で取り扱われたFX取引は、同裁決によれば金融商品取引法2条22項1号に参照される店頭デリバティブの一種とされている。そのため、他のデリバティブ取引についてもこの裁決で示された判断基準が適用された場合、国内に恒久的施設を有していない外国法人が、日本の金融商品取引業者を通じてデリバティブ取引を行って得た所得についても、日本での申告納税が必要という解釈が成立してしまう可能性があった。

実務家の間では、租税条約を締結している国又は地域の外国法人であれば、租税条約の事業所得条項によって、日本での課税を回避できる余地もあるのではないかという意見もあるが、租税条約を締結していない国又は地域に所在する外国法人の場合には、国内法の規定にしたがった課税が行われることになってしまう。

このような背景から、非居住者である個人を想定した平成31年裁決において示された基準が法人の行うデリバティブ取引にも適用された場合、結果として外国金融機関が日本の金融機関を通じてデリバティブ取引を行うことを忌避することにも繋がりかねず、日本の金融市場にとってネガティブな影響を及ぼす可能性があったが、国税庁が令和4年度税制改正大綱を受けて公表した国税庁資料[=国税庁デリバティブ取引見解]において、改正の内容が過去に遡って適用されるとの見解が明記されたことで、金融機関の懸念は払しょくされたと言える。

前記の閣議決定それ自体の当否やこれを受けて示された国税庁デリバティブ所得見解の当否は措くとして、ここで指摘しておきたいのは、前記の閣議決定はデリバティブ所得の取扱いの変更について明文では遡及適用を定めていないのに対して、内閣の統括の下にある国税庁が、その閣議決定を受けてその取扱いの変更に対して「実質的に」遡及立法と同様の効力を付与した、とみることができるということである。つまり、前記の閣議決定は平成31年裁決の示した見解(非居住者のデリバティブ所得に係る従来の取扱い)を納税者に有利に変更するものであることからすると、それまで平成31年裁決の見解を是認してきた国税庁としては、その閣議決定に従い見解を改め、納税者に有利な「実質的」遡及課税を認めることにした、とみることができるのである。

このように、国税庁による納税者に有利な「実質的」遡及課税は、国家行政組織において内閣の統括の下にある国税庁の地位(国家行政組織法2条1項・3条2項、財務省設置法2条1項・18条1項参照)からすれば当然の帰結といってよかろう。

なお、平成31年裁決は、筆者がこれを国税不服審判所のホームページで初めて確認した令和4年2月1日の時点では、同ホームページの裁決事例集No.114に「公表裁決事例」として掲載されていたにもかかわらず、筆者が本稿の執筆の過程で再度確認しようとした同月16日の時点では、削除されていた。それは、前記の閣議決定を受けて示された国税庁デリバティブ所得見解によって、平成31年裁決で示された見解が明確に変更されたからであろうが、ここにも国税不服審判所の独立性(税通99条参照)の限界が露呈しているように思われる。

 

Ⅲ 国税庁による納税者に有利な「実質的」遡及課税の問題性

国税庁デリバティブ所得見解の3は、デリバティブ所得の取扱いの変更に伴う確定申告等(納税義務の確定)の変更について、通常の更正の請求(税通23条1項)及び通常の期間制限(同70条1項1号・2項[平成30年3月31日以前に開始した事業年度については平成27年度税制改正前の2項])に服する減額更正によることを予定しているように読めるが、問題は、果たしてそれで、デリバティブ所得について従来の取扱いを受けた納税者(非居住者・外国法人)の救済を十分に図ることができるかである。

そもそも、減額更正も、税法が定める課税要件の充足によって成立した納税義務を正しく(税法の規定どおりに)確定するために課税庁に税法によって義務づけられた処分と解すべきであり(課税処分権及び課税処分義務の観念を前提とする課税処分の捉え方について前掲拙著【136】参照)、しかも国税庁がデリバティブ所得の取扱いについて内閣の統括の下閣議決定を受けて一方的に(平成31年裁決を含め)従来の取扱いを変更しその変更後の取扱いを遡及適用することとしたものである以上、課税庁としては、更正の請求の有無にかかわらず、デリバティブ所得に係る確定申告等につき減額更正を行い、「納めすぎた税金の還付」等をすべきである。

もっとも、課税庁がそのように減額更正をしようとしても、その時点から起算して減額更正に係る通常の除斥期間に相当する期間より以前にデリバティブ所得について従来の取扱いを受けた納税者に対しては、除斥期間経過の故に減額更正をすることができないことになる。つまり、そのような納税者は、国税庁デリバティブ所得見解によっては救済されないことになるのである。

このような問題を解決するためには、減額更正について特別の期間制限を定めるべきである。この点については、国税通則法施行令6条1項5号の規定が参考になる。この規定が定める理由は、特別の期間制限が認められる減額更正の理由とはされていないが(税通71条1項2号、同令30条・24条4項参照)、ただ、「その申告、更正又は決定に係る課税標準等又は税額の計算の基礎となつた事実に係る・・・・・・国税庁長官の法令の解釈」が変更され「変更後の解釈が国税庁長官により公表された」場合を想定するものである点で、国税庁デリバティブ所得見解による減額更正の理由と類似する。

国税通則法施行令6条1項5号の規定は、親から贈与されたゴルフ会員権の名義書換料について従来の課税実務上の取扱いとは異なり取得費該当性を認めた最判平成17年2月1日訟月52巻3号1034頁に伴って、同施行令平成18年改正(平成18年政令第132号)によって新設され、同号所定の理由が特別の更正の請求をすることができる「やむを得ない理由」(税通23条2項3号)の1つとされたが、特別の期間制限が認められる減額更正の理由とはされなかった。つまり、国税通則法施行令6条1項5号所定の理由が減額更正に係る通常の除斥期間の経過後に生じた場合には、課税庁は減額更正をすることができず、したがって、納税者としては結果的にはその理由による特別の更正の請求をすることができない(しても意味がない)ことになるのである。

国税通則法がそのような結果を容認したのは、確定申告に係る更正や決定に対してその根拠となる法令の解釈を争って争訟を提起することが可能であること等を考慮したからであると解される(前掲拙著【135】(ハ)参照)。この点では、国税庁デリバティブ所得見解の場合とは事情が異なる。というのも、国税庁デリバティブ所得見解は、納税者が提起した争訟の結果に伴って示されたものではなく、国税庁が内閣の統括の下閣議決定を受けて一方的に示したものであるからである。

このように考えてくると、国税庁デリバティブ所得見解の場合のように国税庁長官が閣議決定を受けて法令の解釈を変更し変更後の解釈を公表する場合を想定して、これを理由とする減額更正について特別の期間制限を認め、併せて特別の更正の請求も可能にするよう法令の改正をすべきである。具体的には、そのような理由を定める国税通則法施行令6条1項6号を新設した上で、同号所定の理由を同令24条4項所定の理由から除外しないようにすべきである。

 

Ⅳ おわりに

以上において、国税庁デリバティブ所得見解の3について、それがデリバティブ所得に対する納税者に有利な「実質的」遡及課税をもたらすものであること及びその遡及課税の実施には減額更正の期間制限との関係で限界があることを明らかにし、そのような限界があるという問題を解決するための立法提案を行った。

このような検討作業は、既に述べたように、前記の閣議決定それ自体の当否に立ち入らないことを前提にして、行ったものであるが、ただ、国税庁デリバティブ所得見解の「真の」問題性は、令和4年度税制改正大綱がデリバティブ所得の取扱いの変更を「法令上明確化する」と明記するにとどまり、その法令の規定を遡及適用するものとする旨を明記せず、その代わりに、国税庁が内閣の統括の下行政内部の取扱いでその法令の規定を「実質的に」遡及適用することとしたことにあるように思われる。

デリバティブ所得の取扱いを「法令上明確化する」ことは、課税要件明確主義の見地から望ましいことであるが、その「明確化」した取扱いが課税実務上の従来の取扱いを変更するものである以上、課税要件明確主義の見地からは、その「明確化」した取扱いの遡及適用を法令上明文で定めるべきである。その際、併せて、その遡及適用を実効性あるものにするために、特別の更正の請求及び減額更正に係る特別の期間制限について所要の措置を講ずるべきである。

(了)

この連載の公開日程は、下記の連載目次をご覧ください。

谷口教授と学ぶ

税法基本判例

【第11回】

「納税者に有利な「実質的」遡及課税とその問題性」

-国税不服審判所平成31年3月25日裁決による法令解釈と閣議決定によるその変更-

 

大阪大学大学院高等司法研究科教授
谷口 勢津夫

 

Ⅰ はじめに

第5回では、遡及課税は租税法律主義の下では原則として禁止されることを確認してきたが、このことは、遡及課税が納税者に不利な結果をもたらす場合についていえることである。つまり、逆にいえば、納税者に有利な遡及課税は許容されるのである。

この点に関して注目すべき動きが先月あった。それは、令和4年1月7日付けで国税庁ホームページ(ホーム/お知らせ/その他のお知らせ)に「クロスボーダーで行うデリバティブ取引の決済により生ずる所得の取扱いについて」という国税庁の見解(以下「国税庁デリバティブ所得見解」という)が公表されたことであるが、その見解は次のとおり述べている(下線筆者)。

令和4年1月

国 税 庁

クロスボーダーで行うデリバティブ取引の決済により生ずる所得の取扱いについて

1 従来の取扱い

クロスボーダーで行う金融商品取引法の市場デリバティブ取引及び店頭デリバティブ取引の決済により生ずる所得(以下「デリバティブ所得」といいます。)については、恒久的施設等に帰属するデリバティブ所得を除き、

・ 非居住者又は外国法人に係るデリバティブ所得は、国内源泉所得である「国内資産の運用・保有所得」に該当する

・ 居住者又は内国法人に係るデリバティブ所得は、国外源泉所得である「国外資産の運用・保有所得」に該当する

と取り扱っていました。

2 今後の取扱い

令和3年12月24日に閣議決定された「令和4年度税制改正の大綱」においては、恒久的施設等に帰属するデリバティブ所得を除き、

・ 非居住者又は外国法人に係るデリバティブ所得は、国内源泉所得である「国内資産の運用・保有所得」に該当しない

・ 居住者又は内国法人に係るデリバティブ所得は、国外源泉所得である「国外資産の運用・保有所得」に該当しない

ことを法令上明確化することとされました。

今回の閣議決定を受け、従来の取扱いを変更することとします。

(参考)令和4年度税制改正の大綱(令和3年12月24日閣議決定)

● 金融商品取引法に規定する市場デリバティブ取引又は店頭デリバティブ取引の決済により生ずる所得は、所得税法及び法人税法に規定する国内源泉所得である「国内資産の運用・保有所得」に含まれないことを法令上明確化する。

(注)外国税額控除における国外源泉所得である「国外資産の運用・保有所得」についても同様とする。

3 非居住者又は外国法人の方へ

上記2の取扱いの変更は、過去に遡って適用されます。今回の取扱いの変更により、税金が納め過ぎとなる方については、更正の請求を行い、納めすぎた税金の還付を求めること等ができます。

(注1)所得税又は法人税の還付を受けるための更正の請求については、法定申告期限等から5年を経過している場合は、法令上、減額更正できないこととされています。

(注2)法人税に係る純損失等の金額を増加するための更正の請求については、

・ 平成30年4月1日以後に開始する事業年度に係る更正の請求で、法定申告期限等から10年を経過している場合

・ 平成30年3月31日以前に開始した事業年度に係る更正の請求で、法定申告期限等から9年を経過している場合

は、法令上、更正できないこととされています。

(注3)更正の請求には、請求の理由の基礎となる事実を証明する書類の添付が必要です。

4 居住者又は内国法人の方へ

上記2の取扱いの変更は、過去に遡って適用されます。今回の取扱いの変更により、外国税額控除の額が減少する方は、修正申告が必要な場合があります。

なお、この見解の4は、納税者に不利な遡及課税をもたらすが故に原則として許容されず、その例外的許容性については、最判平成23年9月23日民集65巻6号2756頁等の判例で示された判断枠組み(第5回Ⅰ、拙著『税法基本講義〔第7版〕』(弘文堂・2021年)【36】参照)に従って判断する必要があるが、今回は、この問題には立ち入らない。

 

Ⅱ 国税庁による納税者に有利な「実質的」遡及課税

国税庁デリバティブ所得見解でも「参考」として引用されているとおり、「令和4年度税制改正の大綱」(令和3年12月24日閣議決定)の「五 国際課税」の「3 その他(国税)」(3)では次のとおり述べられている(下線筆者)。

(3) 金融商品取引法に規定する市場デリバティブ取引又は店頭デリバティブ取引の決済により生ずる所得は、所得税法及び法人税法に規定する国内源泉所得である「国内資産の運用・保有所得」に含まれないことを法令上明確化する。

(注)外国税額控除における国外源泉所得である「国外資産の運用・保有所得」についても同様とする。

この閣議決定は、デリバティブ所得に係る従来の取扱いを変更するものであるが、その従来の取扱いは、国税不服審判所平成31年3月25日裁決(LEX/DB文献番号26013006。以下「平成31年裁決」という)が非居住者の「国内にある資産の運用又は保有により生ずる所得」(平成26年法律第10号による改正前の所得税法161条1号=本件規定)の判断について示した次の見解と少なくとも結論の点では同じ見解を採用するものであったことから、この閣議決定は平成31年裁決の見解とは異なる見解を「法令上明確化する」とするもの、すなわち、平成31年裁決の見解を法令によって明確に変更(少なくとも結論の点では「否定」)しようとするものとみてよかろう。

(イ)法令解釈

本件規定にいう「資産の運用、保有により生ずる所得」とは、その経済的実質が時間の経過に従って生ずる利子といえるものを含むが、これに限らず、資産により生ずる所得のうち資産の譲渡により生ずる所得以外のもの、すなわち、資産の運用又は保有に該当する行為がある場合に、当該行為によって生じた所得を広く含むと解するのが相当である。

他方、本件規定にいう「資産の譲渡により生ずる所得」とは、これと所得税法第33条第1項に規定する「資産の譲渡による所得」とを別異に解する理由が見当たらないことからすると、保有資産を移転させる一切の行為から生ずる所得をいうものと解するのが相当である。

(ロ)検討

上記イのとおり、本件FX取引における契約上の地位は、本件FX取引の対象とされる通貨間の為替の変動に応じて利益又は損失を生じさせ得る契約上の地位であり、本件規定にいう「資産」に該当し、本件FX取引における差金決済に係る所得は、請求人がこのような契約上の地位に係る権利を行使することにより生じたものであって、当該契約上の地位又は権利を他に移転したことにより生じたものではない。

したがって、差金決済に係る所得は、本件規定にいう「資産の譲渡により生ずる所得」には該当せず、「資産の運用、保有により生ずる所得」に該当する。

また、本件FX取引においては、スワップポイントの受払い、すなわち、ロールオーバーにより決済日が繰り越されたことによる組合せ通貨間の金利差を調整するため、その差に基づいて算出される額の受払いが行われていたところ、当該スワップポイントは、資産たる未決済取引に係る契約上の地位を他に移転することなく保有することにより授受されるものであるから、スワップポイントに係る所得は、本件規定にいう「資産の運用、保有により生ずる所得」に該当する。

このように前記の閣議決定が平成31年裁決の見解を明確に変更しようとした背景については、次のような指摘がされている(週刊T&Amaster編集部「税制改正大綱踏まえ国税庁が公式見解 過去のデリバティブ取引も資産の運用保有所得に該当せず」週刊T&Amaster No.915(2022年1月24日)40-41頁)。

日本国内に恒久的施設を有していない非居住者である個人または外国法人が、国内にある資産の運用又は保有により生ずる所得を得た場合、通常は確定申告書の提出と納税が必要とされるが、平成31年裁決で取り扱われたFX取引は、同裁決によれば金融商品取引法2条22項1号に参照される店頭デリバティブの一種とされている。そのため、他のデリバティブ取引についてもこの裁決で示された判断基準が適用された場合、国内に恒久的施設を有していない外国法人が、日本の金融商品取引業者を通じてデリバティブ取引を行って得た所得についても、日本での申告納税が必要という解釈が成立してしまう可能性があった。

実務家の間では、租税条約を締結している国又は地域の外国法人であれば、租税条約の事業所得条項によって、日本での課税を回避できる余地もあるのではないかという意見もあるが、租税条約を締結していない国又は地域に所在する外国法人の場合には、国内法の規定にしたがった課税が行われることになってしまう。

このような背景から、非居住者である個人を想定した平成31年裁決において示された基準が法人の行うデリバティブ取引にも適用された場合、結果として外国金融機関が日本の金融機関を通じてデリバティブ取引を行うことを忌避することにも繋がりかねず、日本の金融市場にとってネガティブな影響を及ぼす可能性があったが、国税庁が令和4年度税制改正大綱を受けて公表した国税庁資料[=国税庁デリバティブ取引見解]において、改正の内容が過去に遡って適用されるとの見解が明記されたことで、金融機関の懸念は払しょくされたと言える。

前記の閣議決定それ自体の当否やこれを受けて示された国税庁デリバティブ所得見解の当否は措くとして、ここで指摘しておきたいのは、前記の閣議決定はデリバティブ所得の取扱いの変更について明文では遡及適用を定めていないのに対して、内閣の統括の下にある国税庁が、その閣議決定を受けてその取扱いの変更に対して「実質的に」遡及立法と同様の効力を付与した、とみることができるということである。つまり、前記の閣議決定は平成31年裁決の示した見解(非居住者のデリバティブ所得に係る従来の取扱い)を納税者に有利に変更するものであることからすると、それまで平成31年裁決の見解を是認してきた国税庁としては、その閣議決定に従い見解を改め、納税者に有利な「実質的」遡及課税を認めることにした、とみることができるのである。

このように、国税庁による納税者に有利な「実質的」遡及課税は、国家行政組織において内閣の統括の下にある国税庁の地位(国家行政組織法2条1項・3条2項、財務省設置法2条1項・18条1項参照)からすれば当然の帰結といってよかろう。

なお、平成31年裁決は、筆者がこれを国税不服審判所のホームページで初めて確認した令和4年2月1日の時点では、同ホームページの裁決事例集No.114に「公表裁決事例」として掲載されていたにもかかわらず、筆者が本稿の執筆の過程で再度確認しようとした同月16日の時点では、削除されていた。それは、前記の閣議決定を受けて示された国税庁デリバティブ所得見解によって、平成31年裁決で示された見解が明確に変更されたからであろうが、ここにも国税不服審判所の独立性(税通99条参照)の限界が露呈しているように思われる。

 

Ⅲ 国税庁による納税者に有利な「実質的」遡及課税の問題性

国税庁デリバティブ所得見解の3は、デリバティブ所得の取扱いの変更に伴う確定申告等(納税義務の確定)の変更について、通常の更正の請求(税通23条1項)及び通常の期間制限(同70条1項1号・2項[平成30年3月31日以前に開始した事業年度については平成27年度税制改正前の2項])に服する減額更正によることを予定しているように読めるが、問題は、果たしてそれで、デリバティブ所得について従来の取扱いを受けた納税者(非居住者・外国法人)の救済を十分に図ることができるかである。

そもそも、減額更正も、税法が定める課税要件の充足によって成立した納税義務を正しく(税法の規定どおりに)確定するために課税庁に税法によって義務づけられた処分と解すべきであり(課税処分権及び課税処分義務の観念を前提とする課税処分の捉え方について前掲拙著【136】参照)、しかも国税庁がデリバティブ所得の取扱いについて内閣の統括の下閣議決定を受けて一方的に(平成31年裁決を含め)従来の取扱いを変更しその変更後の取扱いを遡及適用することとしたものである以上、課税庁としては、更正の請求の有無にかかわらず、デリバティブ所得に係る確定申告等につき減額更正を行い、「納めすぎた税金の還付」等をすべきである。

もっとも、課税庁がそのように減額更正をしようとしても、その時点から起算して減額更正に係る通常の除斥期間に相当する期間より以前にデリバティブ所得について従来の取扱いを受けた納税者に対しては、除斥期間経過の故に減額更正をすることができないことになる。つまり、そのような納税者は、国税庁デリバティブ所得見解によっては救済されないことになるのである。

このような問題を解決するためには、減額更正について特別の期間制限を定めるべきである。この点については、国税通則法施行令6条1項5号の規定が参考になる。この規定が定める理由は、特別の期間制限が認められる減額更正の理由とはされていないが(税通71条1項2号、同令30条・24条4項参照)、ただ、「その申告、更正又は決定に係る課税標準等又は税額の計算の基礎となつた事実に係る・・・・・・国税庁長官の法令の解釈」が変更され「変更後の解釈が国税庁長官により公表された」場合を想定するものである点で、国税庁デリバティブ所得見解による減額更正の理由と類似する。

国税通則法施行令6条1項5号の規定は、親から贈与されたゴルフ会員権の名義書換料について従来の課税実務上の取扱いとは異なり取得費該当性を認めた最判平成17年2月1日訟月52巻3号1034頁に伴って、同施行令平成18年改正(平成18年政令第132号)によって新設され、同号所定の理由が特別の更正の請求をすることができる「やむを得ない理由」(税通23条2項3号)の1つとされたが、特別の期間制限が認められる減額更正の理由とはされなかった。つまり、国税通則法施行令6条1項5号所定の理由が減額更正に係る通常の除斥期間の経過後に生じた場合には、課税庁は減額更正をすることができず、したがって、納税者としては結果的にはその理由による特別の更正の請求をすることができない(しても意味がない)ことになるのである。

国税通則法がそのような結果を容認したのは、確定申告に係る更正や決定に対してその根拠となる法令の解釈を争って争訟を提起することが可能であること等を考慮したからであると解される(前掲拙著【135】(ハ)参照)。この点では、国税庁デリバティブ所得見解の場合とは事情が異なる。というのも、国税庁デリバティブ所得見解は、納税者が提起した争訟の結果に伴って示されたものではなく、国税庁が内閣の統括の下閣議決定を受けて一方的に示したものであるからである。

このように考えてくると、国税庁デリバティブ所得見解の場合のように国税庁長官が閣議決定を受けて法令の解釈を変更し変更後の解釈を公表する場合を想定して、これを理由とする減額更正について特別の期間制限を認め、併せて特別の更正の請求も可能にするよう法令の改正をすべきである。具体的には、そのような理由を定める国税通則法施行令6条1項6号を新設した上で、同号所定の理由を同令24条4項所定の理由から除外しないようにすべきである。

 

Ⅳ おわりに

以上において、国税庁デリバティブ所得見解の3について、それがデリバティブ所得に対する納税者に有利な「実質的」遡及課税をもたらすものであること及びその遡及課税の実施には減額更正の期間制限との関係で限界があることを明らかにし、そのような限界があるという問題を解決するための立法提案を行った。

このような検討作業は、既に述べたように、前記の閣議決定それ自体の当否に立ち入らないことを前提にして、行ったものであるが、ただ、国税庁デリバティブ所得見解の「真の」問題性は、令和4年度税制改正大綱がデリバティブ所得の取扱いの変更を「法令上明確化する」と明記するにとどまり、その法令の規定を遡及適用するものとする旨を明記せず、その代わりに、国税庁が内閣の統括の下行政内部の取扱いでその法令の規定を「実質的に」遡及適用することとしたことにあるように思われる。

デリバティブ所得の取扱いを「法令上明確化する」ことは、課税要件明確主義の見地から望ましいことであるが、その「明確化」した取扱いが課税実務上の従来の取扱いを変更するものである以上、課税要件明確主義の見地からは、その「明確化」した取扱いの遡及適用を法令上明文で定めるべきである。その際、併せて、その遡及適用を実効性あるものにするために、特別の更正の請求及び減額更正に係る特別の期間制限について所要の措置を講ずるべきである。

(了)

この連載の公開日程は、下記の連載目次をご覧ください。

連載目次

谷口教授と学ぶ「税法基本判例」

第1回~第20回

第21回~

筆者紹介

谷口 勢津夫

(たにぐち・せつお)

大阪学院大学法学部教授

1956年高知県生まれ。京都大学法学部卒業、同大学大学院法学研究科博士後期課程単位修得退学。甲南大学法学部教授、大阪大学大学院高等司法研究科教授を経て2022年4月より現職。大阪大学名誉教授。ほかに大阪大学大学院高等司法研究科長・大阪大学法務室長、アレクサンダー・フォン・フンボルト財団奨励研究員(Forschungsstipendiat der Alexander von Humboldt-Stiftung)・ミュンヘン大学客員研究員、日本税法学会理事長、租税法学会理事、IFA(International Fiscal Association)日本支部理事、資産評価政策学会理事、司法試験考査委員、公認会計士試験試験委員、独立行政法人造幣局契約監視委員会委員・委員長、大阪府収用委員会委員・会長、大阪府行政不服審査会委員・会長、公益財団法人日本税務研究センター評議員・同センター理事・同センター「日税研究賞」選考委員・同センター編集委員会委員、公益財団法人納税協会連合会「税に関する論文」選考委員、公益社団法人商事法務研究会「商事法務研究会賞」審査委員、近畿税理士会・近畿税務研究センター顧問など(一部現職。ほか歴任)。

主要著書は『租税条約論』(清文社・1999年)、『租税回避論』(清文社・2014年)、『租税回避研究の展開と課題〔清永敬次先生謝恩論文集〕』(共著・ミネルヴァ書房・2015年)、『税法の基礎理論』(清文社・2021年)、『税法創造論』(清文社・2022年)、『税法基本判例Ⅰ』(清文社・2023年)、『基礎から学べる租税法〔第4版〕』(共著・弘文堂・2025年)、『税法基本講義〔第8版〕』(弘文堂・2025年)、『税法基本判例Ⅱ』(清文社・2025年)など。
 
   

関連書籍

源泉所得税取扱いの手引

公益財団法人 納税協会連合会 編集部 編

源泉所得税の実務

杉浦孝幸 編

新・くらしの税金百科 2026→2027

公益財団法人 納税協会連合会 編

現代税法入門塾

石村耕治 編

入門税法

公益社団法人 全国経理教育協会 編

図解 租税法ノート

八ッ尾順一 著

〇×判定ですぐわかる資産税の実務

公益財団法人 納税協会連合会 編集部 編

実務必須の重要税務判例100

弁護士 菊田雅裕 著

金融・投資商品の税務Q&A

PwC税理士法人 税理士 箱田晶子 著 税理士 高木 宏 著 税理士 西川真由美 著

SPC&匿名組合の法律・会計税務と評価

弁護士 永沢 徹 監修 さくら綜合事務所グループ 編著

法人税の損金経理

税理士 安部和彦 著

事例で学ぶ暗号資産・NFT・メタバースの会計税務Q&A70選

税理士 延平昌弥 著 税理士 山田誠一朗 著 税理士 髙橋健悟 著 税理士 藤原琢也 著 税理士 田村光裕 著 税理士 山中朋文 著

わたしは税金

公認会計士・税理士 鈴木基史 著

税法基本判例 Ⅰ

谷口勢津夫 著
#