公開日: 2016/07/28 (掲載号:No.179)
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フロー・チャートを使って学ぶ会計実務 【第28回】「IFRS15(収益認識の基本)」

筆者: 西田 友洋

【STEP5】履行義務の充足と収益認識

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【STEP5】では、いつ、どのように収益を認識するかを決定する。

企業は、約束した財又はサービスを顧客に移転することによって履行義務を充足した時に(又は充足するにつれて)、収益を認識する。財又はサービスは、顧客が当該財又はサービスに対する支配を獲得した時に(又は獲得するにつれて)、顧客に移転する(意見募集256)。

【財又はサービスに対する支配】
財又はサービスに対する支配とは、当該財又はサービスの使用を指図し、当該財又はサービスからの残りの便益のほとんどすべてを獲得する能力を指し、他の企業が財又はサービスの使用を指図して財又はサービスから便益を得ることを妨げる能力も含まれる(意見募集257)。

そして、【STEP2】に従って識別された履行義務のそれぞれについて、企業は、契約開始時に、企業が履行義務を「一定の期間」にわたり充足するのか、それとも「一時点」で充足するのかを決定する(意見募集258)。

(1) 一定の期間にわたり充足するか否か

以下の要件からいずれかを満たす場合、一定の期間にわたって充足される履行義務となる。それ以外は、一時点で充足される履行義務となる(意見募集259)。

【要件①】
顧客が、企業の履行によって提供される便益を、企業が履行するにつれて同時に受け取って消費する。

【検討のポイント】

▷ 上記要件への当てはめが単純な状況として、例えば、日常的又は反復的なサービス(清掃サービス等)がある。

▷ 上記要件への当てはめが単純でない状況では、企業が現在までに完了した作業について仮に他の企業が残りの履行義務を顧客に対して履行するとした場合に、作業の大幅なやり直しをする必要はないと判断されるときには、この要件に該当する。当該判断の際、以下の両方の仮定をおく。

(ⅰ) 残りの履行義務を他の企業に移転することを妨げるような契約上の制限又は実務上の制約は無視する。

(ⅱ) 履行義務の残りの部分を履行する他の企業は、企業が現在支配している財又はサービスの便益を有しておらず、履行義務が他の企業に移転されたとした場合に、企業が依然として当該財又はサービスを支配するものと推定する。

【要件②】
企業の履行が、財又はサービス(例えば、仕掛品)を創出するか又は増価させ、顧客が当該財又はサービスの創出又は増価につれてそれを支配する。

【検討のポイント】

▷ 上記の要件への当てはめをする際に、企業は支配の定義(意見募集257)等及び下記(3)の指標(一時点で充足される履行義務に関する支配の移転時点の判断指標)を適用する。

▷ 創出又は増価される財又はサービス(例えば、仕掛品)は、有形又は無形のいずれの可能性もある。

▷ 例えば、企業が顧客の土地の上に建設を行う工事契約の場合は、顧客は一般的に企業の履行から生じる仕掛品を支配する。

【要件③】
企業の履行が、企業が他に転用できる財又はサービスを創出せず、かつ、企業が現在までに完了した履行に対する支払を受ける強制可能な権利を有している。

【検討のポイント】

〈他に転用できる財又はサービスを創出しない〉

▷ 上記の要件を評価する際に、企業が当該財又はサービスを別の用途(別の顧客への売却等)に向けることを容易に指図する能力に対する契約上の制限又は実務上の制約の影響を考慮する。ただし、顧客との契約が解約される可能性は考慮しない。

▷ 契約上の制限が存在するのは、企業が当該財又はサービスを別の用途に向けようとした場合に、顧客が約束された財又はサービスに対する権利を強制できる場合である。

▷ 実務上の制約が存在するのは、当該財又はサービスを別の用途に向けるために企業に重大な経済的損失が生じる場合である(手直しするための重大なコストの発生、又は重大な損失を生じる売却等)。

〈現在までに完了した履行に対して支払を受ける権利〉

▷ 企業が現在までに完了した履行について企業に補償する金額は、現在までに移転した財又はサービスの販売価格に近似した金額(例えば、企業が履行義務を充足する際に生じたコストに合理的な利益マージンを加算したもの)である。

▷ 企業が現在までに完了した履行に対する支払を受ける権利は、(契約で示された支払の予定等に基づく)支払に対する現在の無条件の権利である必要はない。当該権利を有しているか否かを評価するにあたり、企業は、約束した履行を行うことができなかったこと以外の理由で契約が履行完了前に解約された場合に、現在までに完了した履行に対する支払を要求又は保持する強制可能な権利を有するかどうかを考慮しなければならない。

一定の期間にわたって充足する履行義務の場合、(2)を検討する。一時点で充足する履行義務の場合、(3)を検討する。

(2) 一定の期間にわたって充足する履行義務

一定の期間にわたり充足する履行義務については、その進捗に応じて収益を認識する(意見募集260)。

進捗度の測定方法としては、「アウトプット法」「インプット法」がある(意見募集260)。企業は、いずれか適切な方法を選択する。

[アウトプット法]

現在までに移転した財又はサービスの顧客にとっての価値と契約で約束した残りの財又はサービスの価値との比率の直接的な測定に基づいて、収益を認識する方法

  • 現在までに完了した履行の調査、達成した成果の鑑定評価、達成したマイルストーン、経過期間、生産単位数又は引渡単位数等の方法が含まれる。
  • 選択したアウトプットが、支配が顧客に移転している財又はサービスの一部を測定できない場合には、企業の履行の忠実な描写を提供しない。
  • 実務上の簡便法として、企業が、現在までに完了した企業の履行に対する顧客にとっての価値に直接対応する金額で顧客から対価を受ける権利を有している場合(例えば、企業が提供したサービスの時間数ごとに固定金額を請求するサービス契約)には、企業は請求する権利を有している金額で収益を認識することができる。

[インプット法]

履行義務の充足のための企業の労力又はインプット(例えば、消費した資源、費やした労働時間、発生したコスト、経過期間、機械使用時間)が、当該履行義務の充足のための予想されるインプット合計に占める割合に基づいて、収益を認識する方法

  • インプットのうち、進捗度の測定の目的(企業が約束した財又はサービスに対する支配を顧客に移転する際の履行(すなわち、企業の履行義務の充足)を描写すること)に従って、財又はサービスを顧客へ移転する際の企業の履行を描写しないものの影響を、インプット法から除外しなければならない。

上記の方法で進捗度を合理的に算定できない場合も考えられる。しかし、進捗度を合理的に算定できない場合でも履行義務を充足する際に発生するコストを回収すると見込んでいる場合がある。このような場合、当該履行義務の結果を合理的に測定できるようになるまで、発生したコストが回収されると見込まれる範囲でのみ収益を認識する(意見募集262)。

(3) 一時点で充足する履行義務

一時点で充足する履行義務については、財又はサービスに対する支配が顧客に移転した時点で収益を認識する。

IFRS15では、支配の移転の指標として以下のものが例示されている(意見募集264)。

[指標①]
企業が資産に対する支払を受ける現在の権利を有している。

[指標②]
顧客が資産に対する法的所有権を有している。

[留意事項]

  • 企業が法的所有権を顧客の支払不履行に対する保護としてのみ保持している場合には、企業の当該権利は、顧客が資産に対する支配を獲得することを妨げるものではない。

[指標③]
企業が資産の物理的占有を移転した。

[留意事項]

  • (当該指標がある一方で)物理的な占有は資産に対する支配と一致しない場合もある。
  • 例えば、買戻し契約や委託販売契約の中には、顧客又は受託者が、企業が支配している資産を物理的に占有するものがある。逆に、請求済未出荷契約の中には、企業が、顧客が支配している財を物理的に占有するものがある。

[指標④]
顧客が資産の所有に伴う重大なリスクと経済価値を有している。

[留意事項]

  • 約束した資産の所有に伴うリスクと経済価値を評価する際に、企業は、当該資産を移転する履行義務のほか、独立した履行義務を生じさせるリスクを除外しなければならない。
  • 例えば、企業が資産に対する支配を顧客に移転しているが、移転した資産に関連した維持管理サービスを提供する追加的な履行義務をまだ充足していない場合がある。

[指標⑤]
顧客が資産を検収した。

[留意事項]

  • (当該指標がある一方で)財又はサービスの支配が契約で合意された仕様に従って顧客に移転されたことを企業が客観的に判断できる場合には、顧客の検収は形式的であり、顧客が財又はサービスの支配をいつ獲得したかに関する企業の判断に影響を与えない。
  • 顧客に提供する財又はサービスが契約で合意された仕様に従っていると企業が客観的に判断できない場合には、企業は、顧客の検収を受けるまで、顧客が支配を獲得したと判断することができない。

*   *   *

以上、5つのステップをまとめたフロー・チャートを再掲する。
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(了)

「フロー・チャートを使って学ぶ会計実務 」は、毎月最終週に掲載されます。

 

フロー・チャートを使って学ぶ会計実務

【第28回】

「IFRS15(収益認識の基本)」

 

仰星監査法人
公認会計士 西田 友洋

 

【はじめに】

2014年5月28日にIFRS第15号「顧客との契約から生じる収益(以下、「IFRS15」という)」が公表されている。IFRS15は、原則、2018年1月1日以後開始する事業年度から適用される。

また、日本においても、IFRS15の強制適用日に適用が可能となることを当面の目標として収益認識に関する包括的な会計基準の開発が検討されている(「収益認識に関する包括的な会計基準の開発についての意見の募集(以下、「意見募集」という)」15)。

今回は、IFRS15の「基本」について解説する。IFRS15では、収益認識は履行義務単位で行う。そして、5つのSTEPに分けて検討する。

※各ステップをクリックすると、それぞれのページに移動します。

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連載目次

フロー・チャートを使って学ぶ会計実務

第1回~第30回

筆者紹介

西田 友洋

(にしだ・ともひろ)

公認会計士

2007年に、仰星監査法人に入所。
法定監査、上場準備会社向けの監査を中心に様々な業種の会計監査業務に従事する。
その他、日本公認会計士協会の中小事務所等施策調査会「監査専門部会」専門委員に就任している。
2019年7月退所。

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