公開日: 2016/07/28 (掲載号:No.179)
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フロー・チャートを使って学ぶ会計実務 【第28回】「IFRS15(収益認識の基本)」

筆者: 西田 友洋

【STEP3】取引価格の算定

ここでは、取引価格を算定する。取引価格とは、約束した財又はサービスの顧客への移転と交換に企業が権利を得ると見込んでいる対価の金額であり、第三者に代わって回収する金額(例えば、一部の売上税)を除くものである。顧客との契約において約束された対価には、固定された金額、変動性のある金額、あるいはその両方が含まれる場合がある(意見募集225)。

取引価格を算定する際には、以下の4つについて検討する。

(1) 変動対価

(2) 重要な金融要素

(3) 現金以外の対価

(4) 顧客に支払われる対価

※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。

(1) 変動対価

契約において約束された対価に変動対価を含んでいる場合には、企業は、約束した財又はサービスの顧客への移転と交換に権利を得ることになる対価の金額を見積もる意見募集226)。見積り方法には、「期待値法」「最頻値法」がある(意見募集229)。

見積りの方法	定 義	変動対価の適切な見積りとなる 可能性がある状況 期待値	考え得る対価の金額の範囲における確率加重金額の合計にて算出する方法	特徴の類似した多数の契約を有している場合 最頻値法	考え得る対価の金額の範囲のうち、単一の最も可能性の高い金額を選択する方法	契約で生じ得る結果が2つしかない場合 (例えば、企業が業績ボーナスを達成するかしないかのいずれかである場合)

見積もられた変動対価の金額について、当該変動対価に関する不確実性がその後において解消される際に、認識した収益の累計額に重大な戻入れが生じない可能性が非常に高いと判断される範囲の金額のみを取引価格に含める意見募集230)。

(2) 重要な金融要素

契約が金融要素を含んでいるかどうか及び金融要素が契約にとって重要であるかどうかを評価する。

① 重要な金融要素の評価

評価する際には、関連するすべての事実及び状況を考慮しなければならないが、これには以下の両者が含まれる(意見募集234)。

(ⅰ) 約束した対価の金額と約束した財又はサービスの現金販売価格との差額(もしあれば)

(ⅱ) 次の両者の影響の組み合わせ

(イ) 企業が約束した財又はサービスを顧客に移転する時点と、顧客が当該財又はサービスに対して支払を行う時点との間の予想される期間の長さ

(ロ) 関連性のある市場における実勢金利

なお、上記(ⅰ)及び(ⅱ)に関わらず、顧客との契約は、以下の要因のいずれかが存在する場合には、重要な金融要素を含まないと判断される(意見募集236)。

  • 顧客が財又はサービスに対して現金を前払しており、当該財又はサービスの移転の時期が顧客の裁量で決定される。
  • 顧客が約束した対価のうち相当な金額に変動性があり、当該対価の金額又は時期が、顧客又は企業の支配が実質的に及ばない将来の事象が発生すること又は発生しないことに基づいて変動する(例えば、対価が売上高ベースのロイヤルティである場合)。
  • 約束した対価と財又はサービスの現金販売価格との差額が、顧客又は企業のいずれかに対する資金提供以外の理由で生じている。例えば、企業又は顧客に、相手方が契約に基づく義務の一部又は全部を適切に完了できないことに対して保護するための支払条件が付されている場合がある。

重要な金融要素を含んでいると評価された場合、を検討する。含んでいないと評価された場合、(3)を検討する。

② 重要な金融要素を含んでいる場合

契約が重要な金融要素を含んでいる場合には、企業は、約束された対価の金額を貨幣の時間価値の影響について調整する意見募集233)。つまり、割引計算を行う。割引計算を行う際に、企業は、契約開始時における企業と顧客との間での独立した金融取引に反映されると考えられる割引率を使用する(意見募集235)。

なお、契約開始時において、企業が約束した財又はサービスを顧客に移転する時点と顧客が当該財又はサービスに対して支払を行う時点との間の期間が 1年以内となると見込まれる場合は、重要な金融要素の影響について調整する必要はない(意見募集注43)。

(3) 現金以外の対価

企業が現金以外の対価を受領する場合には、当該対価を公正価値で測定する。現金以外の対価の公正価値を合理的に見積もることができない場合には、当該対価の測定を、約束した財又はサービスの独立販売価格を参照して間接的に行う(意見募集237)。

(4) 顧客に支払われる対価

顧客に支払われる対価では、以下の検討が必要である。

① 顧客に支払われる対価が、区別できる財又はサービスに対する支払いであるか

② 顧客に支払われる対価が、区別できる財又はサービスに対する支払いでない場合の会計処理

③ 公正価値の合理的な見積り

④ 公正価値を超過するか

⑤ 公正価値を超過する場合の会計処理

⑥ 公正価値を超過しない場合の会計処理

① 顧客に支払われる対価が、区別できる財又はサービスに対する支払いであるか

顧客に支払われる対価が、区別できる財又はサービスに対する支払いであるか否かにより会計処理が異なるため、まず、顧客に支払われる対価が、区別できる財又はサービスに対する支払いであるか否かを検討する。

顧客に支払われる対価が、区別できる財又はサービスに対する支払いである場合、を検討する。区別できる財又はサービスに対する支払いでない場合、を検討する。

② 顧客に支払われる対価が、区別できる財又はサービスに対する支払いでない場合の会計処理

顧客に支払われる対価を、取引価格の減額(収益の減額)として会計処理する(意見募集240)。

顧客に支払われる対価を取引価格の減額として会計処理する場合には、以下の事象のうち遅い方が発生する時点で(又は発生するにつれて)、収益を減額しなければならない(意見募集242)。

(ⅰ) 企業が関連する財又はサービスの顧客への移転についての収益を認識する。

(ⅱ) 企業が対価を支払うか又は支払を約束する(支払が将来の事象を条件とする場合であっても)。この約束には、企業の取引慣行により含意されている場合も含まれる。

次は、【STEP4】を検討する。

③ 公正価値の合理的な見積り

顧客に支払われる対価が、区別できる財又はサービスに対する支払いである場合、企業は受け取る財又はサービスの公正価値を合理的に見積もることができるかどうかを検討する。

公正価値を合理的に見積もることができる場合、を検討する。合理的に見積もることができない場合、を検討する。

④ 公正価値を超過するか

区別できる財又はサービスに対して支払われる対価が、で算定した受け取る財又はサービスの公正価値を超過する場合、を検討する。超過しない場合、を検討する。

⑤ 公正価値を超過する場合の会計処理

顧客に支払われる対価が、企業が顧客から受け取る別個の財又はサービスの公正価値を超える場合には、企業はその超過額を取引価格の減額として会計処理する(意見募集241)。残りの金額は、当該財又はサービスの購入を仕入先からの他の購入と同じ方法で会計処理する(意見募集241)。

⑥ 公正価値を超過しない場合の会計処理

顧客に支払われる対価が、企業が顧客から受け取る別個の財又はサービスの公正価値を超えない場合には、当該財又はサービスの購入を仕入先からの他の購入と同じ方法で会計処理する(意見募集241)。

フロー・チャートを使って学ぶ会計実務

【第28回】

「IFRS15(収益認識の基本)」

 

仰星監査法人
公認会計士 西田 友洋

 

【はじめに】

2014年5月28日にIFRS第15号「顧客との契約から生じる収益(以下、「IFRS15」という)」が公表されている。IFRS15は、原則、2018年1月1日以後開始する事業年度から適用される。

また、日本においても、IFRS15の強制適用日に適用が可能となることを当面の目標として収益認識に関する包括的な会計基準の開発が検討されている(「収益認識に関する包括的な会計基準の開発についての意見の募集(以下、「意見募集」という)」15)。

今回は、IFRS15の「基本」について解説する。IFRS15では、収益認識は履行義務単位で行う。そして、5つのSTEPに分けて検討する。

※各ステップをクリックすると、それぞれのページに移動します。

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連載目次

フロー・チャートを使って学ぶ会計実務

第1回~第30回

筆者紹介

西田 友洋

(にしだ・ともひろ)

公認会計士

2007年に、仰星監査法人に入所。
法定監査、上場準備会社向けの監査を中心に様々な業種の会計監査業務に従事する。
その他、日本公認会計士協会の中小事務所等施策調査会「監査専門部会」専門委員に就任している。
2019年7月退所。

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