公開日: 2016/07/28 (掲載号:No.179)
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フロー・チャートを使って学ぶ会計実務 【第28回】「IFRS15(収益認識の基本)」

筆者: 西田 友洋

【STEP1】顧客との契約の識別

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まず、顧客との契約を識別する。契約とは、強制可能な権利及び義務を生じさせる複数の当事者間の合意であり、以下の識別要件のすべてに該当するものをいう(意見募集197)。

(1) 契約の当事者が、契約を(書面で、口頭で又は他の取引慣行に従って)承認しており、それぞれの義務の履行を確約している。

(2) 企業が、移転すべき財又はサービスに関する各当事者の権利を識別できる。

(3) 企業が、移転すべき財又はサービスに関する支払条件を識別できる。

(4) 契約に経済的実質がある(契約の結果として、企業の将来キャッシュ・フローのリスク、時期又は金額が変動すると見込まれる)。

(5) 企業が、顧客に移転する財又はサービスと交換に権利を得ることになる対価を回収する可能性が高い。対価の金額の回収可能性が高いかどうかを評価する際に、企業は、顧客が期限到来時に当該対価の金額を支払う能力と意図だけを考慮しなければならない。

契約の識別の要件を満たした場合、【STEP2】を検討する。満たさない場合、以下のように収益認識を行う。

顧客との契約が契約の識別要件を満たさず、企業が顧客から対価を受け取る場合には、企業は、以下のいずれかの事象が発生している場合にのみ、受け取った対価を収益として認識する意見募集200)。また、【STEP2】以降の検討は不要である。

  • 企業が顧客に財又はサービスを移転する義務が残っておらず、かつ、顧客が約束した対価のすべて又はほとんどすべてを企業が受け取っていて、当該対価は返金不要である。
  • 契約が解約されており、顧客から受け取った対価が返金不要である。

【補足ポイント①:契約の結合】

企業は、以下の要件のいずれかに該当する場合には、同一の顧客(又は顧客の関連当事者)と同時又はほぼ同時に締結した複数の契約を結合して、単一の契約として会計処理する(意見募集201)。

  • 契約が単一の商業目的を有するパッケージとして交渉されている。
  • 1つの契約で支払われる対価の金額が、他の契約の価格又は履行に左右される。
  • 複数の契約で約束した財又はサービス(あるいは各契約で約束した財又はサービスの一部)が、単一の履行義務を構成する。

【補足ポイント②:契約の変更】

「契約の変更」とは、契約の当事者が承認した契約の範囲又は価格(あるいはその両方)の変更である。契約の変更が存在するのは、契約の当事者が、契約の当事者の強制可能な権利及び義務を新たに創出するか又は既存の強制可能な権利及び義務を変更することを承認した場合である。契約の変更の場合、以下のように会計処理する(意見募集202)。

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No.	状 況	IFRS15における取扱い ①	契約の承認の有無	契約の当事者が契約の変更を承認していない(したがって、契約の変更はまだ存在していない)。	契約の変更が承認されるまで、IFRS15を既存の契約に引き続き適用する。 ②		契約の当事者が契約の範囲の変更を承認したが、それに対応する価格の変更をまだ決定していない。	左記の状況でも契約の変更は存在する可能性がある。 契約の変更から生じる取引価格の変更の見積りを、変動対価の見積り(IFRS15.50~54)及び変動対価の見積りの制限(IFRS15.56~58)に関する要求事項に従って行った上で下記③又は④の状況における会計処理を行う。 ③	契約の変更が存在している場合	契約の変更が存在しており、以下の両方の要件に該当する。 (ⅰ)別個のものである約束した財又はサービスの追加により、契約の範囲が拡大する。 (ⅱ)契約の価格が、以下のものを反映した対価の金額の分だけ増額される。 	追加的に約束した財又はサービスについての企業の独立販売価格 	当該契約の状況を反映するための当該価格の適切な調整	契約の変更を独立した契約として会計処理する。 ④		契約の変更が存在しているが、上記③ で記述した要件には該当しない。	約束した財又はサービスのうち契約変更日現在でまだ移転していないものを、以下のうち該当する方法で会計処理する。 (ⅰ)残りの財又はサービスが、契約変更日以前に移転した財又はサービスと別個のものである場合:企業は、契約の変更を既存の契約の解約と新契約の創出であるかのように会計処理する。 (ⅱ)残りの財又はサービスが別個のものではなく、契約変更日現在で部分的に充足されている単一の履行義務の一部を構成する場合:企業は、契約の変更を既存の契約の一部であるかのように会計処理する(累積的キャッチアップ処理)。 (ⅲ)残りの財又はサービスが(ⅰ)と(ⅱ)の組み合わせである場合:企業は、契約の変更が変更後の契約の中の未充足(部分的な未充足を含む)の履行義務に与える影響を、(ⅰ)と(ⅱ)の組み合わせで会計処理する。

フロー・チャートを使って学ぶ会計実務

【第28回】

「IFRS15(収益認識の基本)」

 

仰星監査法人
公認会計士 西田 友洋

 

【はじめに】

2014年5月28日にIFRS第15号「顧客との契約から生じる収益(以下、「IFRS15」という)」が公表されている。IFRS15は、原則、2018年1月1日以後開始する事業年度から適用される。

また、日本においても、IFRS15の強制適用日に適用が可能となることを当面の目標として収益認識に関する包括的な会計基準の開発が検討されている(「収益認識に関する包括的な会計基準の開発についての意見の募集(以下、「意見募集」という)」15)。

今回は、IFRS15の「基本」について解説する。IFRS15では、収益認識は履行義務単位で行う。そして、5つのSTEPに分けて検討する。

※各ステップをクリックすると、それぞれのページに移動します。

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連載目次

フロー・チャートを使って学ぶ会計実務

第1回~第30回

筆者紹介

西田 友洋

(にしだ・ともひろ)

公認会計士

2007年に、仰星監査法人に入所。
法定監査、上場準備会社向けの監査を中心に様々な業種の会計監査業務に従事する。
その他、日本公認会計士協会の中小事務所等施策調査会「監査専門部会」専門委員に就任している。
2019年7月退所。

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