公開日: 2025/10/30 (掲載号:No.642)
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谷口教授と学ぶ「税法基本判例」 【第53回】「給与所得該当性判断に関する「判断の一応の基準」の意味と展開」-外国親会社ストック・オプション[所得分類]事件・最判平成17年1月25日民集59巻1号64頁-

筆者: 谷口 勢津夫

谷口教授と学ぶ

税法基本判例

【第53回】

「給与所得該当性判断に関する「判断の一応の基準」の意味と展開」

-外国親会社ストック・オプション[所得分類]事件・最判平成17年1月25日民集59巻1号64頁-

 

大阪学院大学法学部教授
谷口 勢津夫

 

Ⅰ はじめに

前回は、弁護士顧問料事件・最判昭和56年4月24日民集35巻3号672頁(以下「昭和56年最判」という)において示された、事業所得と給与所得の区分に関する「判断の一応の基準」の意味について検討した結果、「自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反覆継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得」という事業所得の定義で示された基準は「判断の完全な基準」である(したがって、弁護士の顧問料が事業所得に該当すると判断した同判決については、この基準がレイシオ・デシデンダイである)のに対して、「雇傭契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付」という給与所得の定義で示された基準は「判断の一応の基準」にとどまるという見解を述べた(そこでは前者の基準を「労務の提供等の独立性」基準、後者の基準を「労務の提供等の従属性」基準と呼んだ)。

今回は、米国親会社がその100%子会社である内国法人の代表取締役に対して付与したストック・オプションに係る権利行使益(以下「本件権利行使益」という)の給与所得該当性を認めた外国親会社ストック・オプション[所得分類]事件・最判平成17年1月25日民集59巻1号64頁(以下「本判決」という)が「所論引用の判例[=昭和56年最判]は本件に適切でない。」と判断したことの意味を検討しながら、昭和56年最判が示した給与所得該当性の判断基準(「労務の提供等の従属性」基準)が「判断の一応の基準」であることの意味をもう一度確認し、本判決におけるその基準の展開を検討することにしたい。

なお、過少申告加算税の賦課以外は本件と類似の事実関係の下で過少加算税につき「正当な理由」が認められるか否かが争われた外国親会社ストック・オプション[加算税]事件については最判平成18年10月24日民集60巻8号3128頁がある(第34回参照)。

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税法基本判例

【第53回】

「給与所得該当性判断に関する「判断の一応の基準」の意味と展開」

-外国親会社ストック・オプション[所得分類]事件・最判平成17年1月25日民集59巻1号64頁-

 

大阪学院大学法学部教授
谷口 勢津夫

 

Ⅰ はじめに

前回は、弁護士顧問料事件・最判昭和56年4月24日民集35巻3号672頁(以下「昭和56年最判」という)において示された、事業所得と給与所得の区分に関する「判断の一応の基準」の意味について検討した結果、「自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反覆継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得」という事業所得の定義で示された基準は「判断の完全な基準」である(したがって、弁護士の顧問料が事業所得に該当すると判断した同判決については、この基準がレイシオ・デシデンダイである)のに対して、「雇傭契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付」という給与所得の定義で示された基準は「判断の一応の基準」にとどまるという見解を述べた(そこでは前者の基準を「労務の提供等の独立性」基準、後者の基準を「労務の提供等の従属性」基準と呼んだ)。

今回は、米国親会社がその100%子会社である内国法人の代表取締役に対して付与したストック・オプションに係る権利行使益(以下「本件権利行使益」という)の給与所得該当性を認めた外国親会社ストック・オプション[所得分類]事件・最判平成17年1月25日民集59巻1号64頁(以下「本判決」という)が「所論引用の判例[=昭和56年最判]は本件に適切でない。」と判断したことの意味を検討しながら、昭和56年最判が示した給与所得該当性の判断基準(「労務の提供等の従属性」基準)が「判断の一応の基準」であることの意味をもう一度確認し、本判決におけるその基準の展開を検討することにしたい。

なお、過少申告加算税の賦課以外は本件と類似の事実関係の下で過少加算税につき「正当な理由」が認められるか否かが争われた外国親会社ストック・オプション[加算税]事件については最判平成18年10月24日民集60巻8号3128頁がある(第34回参照)。

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連載目次

谷口教授と学ぶ「税法基本判例」

第1回~第20回

第21回~

筆者紹介

谷口 勢津夫

(たにぐち・せつお)

大阪学院大学法学部教授

1956年高知県生まれ。京都大学法学部卒業、同大学大学院法学研究科博士後期課程単位修得退学。甲南大学法学部教授、大阪大学大学院高等司法研究科教授を経て2022年4月より現職。大阪大学名誉教授。ほかに大阪大学大学院高等司法研究科長・大阪大学法務室長、アレクサンダー・フォン・フンボルト財団奨励研究員(Forschungsstipendiat der Alexander von Humboldt-Stiftung)・ミュンヘン大学客員研究員、日本税法学会理事長、租税法学会理事、IFA(International Fiscal Association)日本支部理事、資産評価政策学会理事、司法試験考査委員、公認会計士試験試験委員、独立行政法人造幣局契約監視委員会委員・委員長、大阪府収用委員会委員・会長、大阪府行政不服審査会委員・会長、公益財団法人日本税務研究センター評議員・同センター理事・同センター「日税研究賞」選考委員、公益財団法人納税協会連合会「税に関する論文」選考委員、公益社団法人商事法務研究会「商事法務研究会賞」審査委員、近畿税理士会・近畿税務研究センター顧問など(一部現職。ほか歴任)。

主要著書は『租税条約論』(清文社・1999年)、『租税回避論』(清文社・2014年)、『租税回避研究の展開と課題〔清永敬次先生謝恩論文集〕』(共著・ミネルヴァ書房・2015年)、『税法の基礎理論』(清文社・2021年)、『税法創造論』(清文社・2022年)、『税法基本判例Ⅰ』(清文社・2023年)、『基礎から学べる租税法〔第4版〕』(共著・弘文堂・2025年)、『税法基本講義〔第8版〕』(弘文堂・2025年)など。
 
  

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