公開日: 2018/01/25 (掲載号:No.253)
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〔平成30年3月期〕決算・申告にあたっての税務上の留意点 【第1回】「「法人税率の確認」及び「中小企業向け設備投資減税の見直し」」

筆者: 新名 貴則

〔平成30年3月期〕
決算・申告にあたっての税務上の留意点

【第1回】

「「法人税率の確認」及び「中小企業向け設備投資減税の見直し」」

 

公認会計士・税理士 新名 貴則

 

平成30年3月期の決算申告においては、平成29年度税制改正における改正事項を中心として、いくつか留意すべき点がある。本連載では、その中でも主なものを解説する。

【第1回】は、適用される法人税率の確認、及び、中小企業の設備投資減税の見直しについて、平成30年3月期決算において留意すべき点を解説する。

 

1 法人税率は平成29年3月期と同じ

中小法人等において800万円までの課税所得に適用される軽減税率は本来19%だが、平成29年3月期決算申告においては、特例措置により15%に引き下げられていた。この措置は平成29年3月31日までに開始する事業年度が対象であったが、平成29年度税制改正により2年間(平成31年3月31日までに開始する事業年度まで)延長された。したがって、平成30年3月期決算申告においても、15%が適用される。

中小法人等以外の法人の課税所得や、中小法人等において800万円を超える課税所得に適用される法人税率は、平成27年度税制改正、平成28年度税制改正と連続して引き下げられており、平成29年3月期決算申告においては23.4%が適用されていた。平成30年3月31日までに開始する事業年度については23.4%が適用されるため、平成30年3月期決算申告においても23.4%が適用されることになる。

【法人税率(平成29年3月期と変化なし)】
 中小法人(※)等 中小法人等以外 課税所得800万円超 課税所得 課税所得800万円まで

(※) 資本金1億円以下の法人(資本金5億円以上の大法人の完全子会社を除く)

なお、平成30年4月1日以後に開始する事業年度においては、法人税率が23.4%から23.2%に引き下げられる。したがって、平成31年3月期決算申告においては23.2%が適用される。

 

2 中小企業の設備投資に対する優遇税制の見直し

① 「中小企業投資促進税制」の見直しと期間延長

「中小企業投資促進税制」とは、青色申告書を提出している中小企業者等が、特定の機械装置などを取得又は製作して、指定事業(風俗営業や娯楽業等を除くほぼ全業種)の用に供した場合に、その事業の用に供した事業年度において、30%の特別償却又は7%の税額控除を認める制度である。

平成29年3月31日までに取得等をして事業供用した資産が対象であったが、平成29年度税制改正により、その期限が平成31年3月31日まで2年間延長された。ただし、改正後は適用対象資産から「器具及び備品」が除かれている。

したがって、平成30年3月期決算申告においては「中小企業投資促進税制」の適用が継続され、その適用対象資産は次の通りである。

種 類 平成30年3月期 機械及び装置 指定なし  1つ160万円以上 工具 一定の測定工具及び検査工具  1つ120万円以上、又は、1つ30万円以上かつ複数合計120万円以上 器具及び備品 (改正により対象から除外) 車両及び運搬具 貨物運搬用の普通自動車  車両総重量3.5トン以上 船舶 内航船舶  取得価額の75%が対象 ソフトウェア 一定のソフトウェア  1つ70万円以上、又は、1つ30万円以上かつ複数合計70万円以上

② 「商業・サービス業・農林水産業活性化税制」の期間延長

「商業・サービス業・農林水産業活性化税制」とは、青色申告書を提出する中小企業者等が認定経営革新等支援機関等の指導及び助言を受け、一定の器具備品及び建物附属設備を取得等した場合に、30%の特別償却又は7%の税額控除を認める制度である。この制度の適用を受けるためには、指導及び助言を受けた旨を明らかにする書類の提出が必要となる。

平成29年3月31日までに取得等をして指定事業に供用した資産が対象であったが、平成29年度税制改正により、その期限が平成31年3月31日まで2年間延長されている。したがって、平成30年3月期の決算申告においては適用が継続される。

③ 「生産性向上設備投資促進税制」の終了

「生産性向上設備投資促進税制」とは、青色申告法人が「生産性向上設備」を取得等して国内の事業の用に供した場合に、特別償却又は税額控除を認める制度である。

この特例は、当初の予定通り平成29年3月31日をもって終了した。したがって、平成30年3月期において取得等及び事業供用した資産には適用されない。

④ 「中小企業経営強化税制」の創設

「中小企業経営強化税制」とは、青色申告書を提出する中小企業者等が、中小企業等経営強化法の認定を受けた経営力向上計画に基づき、一定の設備を取得等し指定事業に供用した場合に、即時償却又は税額控除(7%又は10%)を認める制度である。

平成29年4月1日から平成31年3月31日までの間に取得等して事業供用した資産が対象となるため、平成30年3月期の決算申告においては適用があることになる。

生産性向上設備 (A類型) 収益性強化設備 (B類型) 要 件 生産性が旧モデルと比べて年平均1%以上向上する設備 投資利益率が年平均5%以上の投資計画に係る設備 確認者 工業会等 経済産業局 対 象 設 備 機械装置 全て  1つ160万円以上  販売開始から10年以内 全て  1つ160万円以上 工具 測定工具及び検査工具  1つ30万円以上  販売開始から5年以内 全て  1つ30万円以上 器具備品 (※1) 全て  1つ30万円以上  販売開始から6年以内 全て  1つ30万円以上 建物附属設備 (※2) 全て  1つ60万円以上  販売開始から14年以内 全て  1つ60万円以上 ソフト ウェア (※3) 情報収集機能及び分析・指示機能を有するもの  1つ70万円以上  販売開始から5年以内 全て  1つ70万円以上

(※1) 情報通信業や医療保険業においては、一定の場合に制限あり。

(※2) 医療保険業を行う事業者が取得等するものは除く。

(※3) 複写販売用の原本、開発研究用のもの、サーバー用OSのうち一定のものなどは除く。

⑤ 適用関係の整理

平成30年3月期決算申告における、中小企業の設備投資に対する優遇税制の適用関係は次の通りである。
制 度 平成30年3月期 中小企業投資促進税制 期間延長により適用 商業・サービス業・農林水産業活性化税制 期間延長により適用 中小企業経営強化税制 新設により適用 生産性向上設備投資促進税制 (期間終了のため不適用)

(了)

次回は2/1の公開となります。

〔平成30年3月期〕
決算・申告にあたっての税務上の留意点

【第1回】

「「法人税率の確認」及び「中小企業向け設備投資減税の見直し」」

 

公認会計士・税理士 新名 貴則

 

平成30年3月期の決算申告においては、平成29年度税制改正における改正事項を中心として、いくつか留意すべき点がある。本連載では、その中でも主なものを解説する。

【第1回】は、適用される法人税率の確認、及び、中小企業の設備投資減税の見直しについて、平成30年3月期決算において留意すべき点を解説する。

 

1 法人税率は平成29年3月期と同じ

中小法人等において800万円までの課税所得に適用される軽減税率は本来19%だが、平成29年3月期決算申告においては、特例措置により15%に引き下げられていた。この措置は平成29年3月31日までに開始する事業年度が対象であったが、平成29年度税制改正により2年間(平成31年3月31日までに開始する事業年度まで)延長された。したがって、平成30年3月期決算申告においても、15%が適用される。

中小法人等以外の法人の課税所得や、中小法人等において800万円を超える課税所得に適用される法人税率は、平成27年度税制改正、平成28年度税制改正と連続して引き下げられており、平成29年3月期決算申告においては23.4%が適用されていた。平成30年3月31日までに開始する事業年度については23.4%が適用されるため、平成30年3月期決算申告においても23.4%が適用されることになる。

【法人税率(平成29年3月期と変化なし)】
 中小法人(※)等 中小法人等以外 課税所得800万円超 課税所得 課税所得800万円まで

(※) 資本金1億円以下の法人(資本金5億円以上の大法人の完全子会社を除く)

なお、平成30年4月1日以後に開始する事業年度においては、法人税率が23.4%から23.2%に引き下げられる。したがって、平成31年3月期決算申告においては23.2%が適用される。

 

2 中小企業の設備投資に対する優遇税制の見直し

① 「中小企業投資促進税制」の見直しと期間延長

「中小企業投資促進税制」とは、青色申告書を提出している中小企業者等が、特定の機械装置などを取得又は製作して、指定事業(風俗営業や娯楽業等を除くほぼ全業種)の用に供した場合に、その事業の用に供した事業年度において、30%の特別償却又は7%の税額控除を認める制度である。

平成29年3月31日までに取得等をして事業供用した資産が対象であったが、平成29年度税制改正により、その期限が平成31年3月31日まで2年間延長された。ただし、改正後は適用対象資産から「器具及び備品」が除かれている。

したがって、平成30年3月期決算申告においては「中小企業投資促進税制」の適用が継続され、その適用対象資産は次の通りである。

種 類 平成30年3月期 機械及び装置 指定なし  1つ160万円以上 工具 一定の測定工具及び検査工具  1つ120万円以上、又は、1つ30万円以上かつ複数合計120万円以上 器具及び備品 (改正により対象から除外) 車両及び運搬具 貨物運搬用の普通自動車  車両総重量3.5トン以上 船舶 内航船舶  取得価額の75%が対象 ソフトウェア 一定のソフトウェア  1つ70万円以上、又は、1つ30万円以上かつ複数合計70万円以上

② 「商業・サービス業・農林水産業活性化税制」の期間延長

「商業・サービス業・農林水産業活性化税制」とは、青色申告書を提出する中小企業者等が認定経営革新等支援機関等の指導及び助言を受け、一定の器具備品及び建物附属設備を取得等した場合に、30%の特別償却又は7%の税額控除を認める制度である。この制度の適用を受けるためには、指導及び助言を受けた旨を明らかにする書類の提出が必要となる。

平成29年3月31日までに取得等をして指定事業に供用した資産が対象であったが、平成29年度税制改正により、その期限が平成31年3月31日まで2年間延長されている。したがって、平成30年3月期の決算申告においては適用が継続される。

③ 「生産性向上設備投資促進税制」の終了

「生産性向上設備投資促進税制」とは、青色申告法人が「生産性向上設備」を取得等して国内の事業の用に供した場合に、特別償却又は税額控除を認める制度である。

この特例は、当初の予定通り平成29年3月31日をもって終了した。したがって、平成30年3月期において取得等及び事業供用した資産には適用されない。

④ 「中小企業経営強化税制」の創設

「中小企業経営強化税制」とは、青色申告書を提出する中小企業者等が、中小企業等経営強化法の認定を受けた経営力向上計画に基づき、一定の設備を取得等し指定事業に供用した場合に、即時償却又は税額控除(7%又は10%)を認める制度である。

平成29年4月1日から平成31年3月31日までの間に取得等して事業供用した資産が対象となるため、平成30年3月期の決算申告においては適用があることになる。

生産性向上設備 (A類型) 収益性強化設備 (B類型) 要 件 生産性が旧モデルと比べて年平均1%以上向上する設備 投資利益率が年平均5%以上の投資計画に係る設備 確認者 工業会等 経済産業局 対 象 設 備 機械装置 全て  1つ160万円以上  販売開始から10年以内 全て  1つ160万円以上 工具 測定工具及び検査工具  1つ30万円以上  販売開始から5年以内 全て  1つ30万円以上 器具備品 (※1) 全て  1つ30万円以上  販売開始から6年以内 全て  1つ30万円以上 建物附属設備 (※2) 全て  1つ60万円以上  販売開始から14年以内 全て  1つ60万円以上 ソフト ウェア (※3) 情報収集機能及び分析・指示機能を有するもの  1つ70万円以上  販売開始から5年以内 全て  1つ70万円以上

(※1) 情報通信業や医療保険業においては、一定の場合に制限あり。

(※2) 医療保険業を行う事業者が取得等するものは除く。

(※3) 複写販売用の原本、開発研究用のもの、サーバー用OSのうち一定のものなどは除く。

⑤ 適用関係の整理

平成30年3月期決算申告における、中小企業の設備投資に対する優遇税制の適用関係は次の通りである。
制 度 平成30年3月期 中小企業投資促進税制 期間延長により適用 商業・サービス業・農林水産業活性化税制 期間延長により適用 中小企業経営強化税制 新設により適用 生産性向上設備投資促進税制 (期間終了のため不適用)

(了)

次回は2/1の公開となります。

連載目次

筆者紹介

新名 貴則

(しんみょう・たかのり)

公認会計士・税理士

京都大学経済学部卒。愛媛県松山市出身。
朝日監査法人(現:有限責任あずさ監査法人)にて、主に会計監査と内部統制構築に従事。
日本マネジメント税理士法人にて、個人商店から上場企業まで幅広く顧問先を担当。またM&Aや監査法人対応などのアドバイスも行う。
平成24年10月1日より新名公認会計士・税理士事務所代表。

【著書】
・『新版 退職金をめぐる税務』(清文社)
・『Q&Aでわかる 監査法人対応のコツ』
・『現場の疑問に答える 税効果会計の基本Q&A』
・『148の事例から見た是否認事項の判断ポイント』(共著)
・『消費税申告の実務』(共著)
(以上、税務経理協会)

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