公開日: 2019/02/07 (掲載号:No.305)
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〔平成31年3月期〕決算・申告にあたっての税務上の留意点 【第1回】「所得拡大促進税制の見直し(改組)」

筆者: 新名 貴則

〔平成31年3月期〕
決算・申告にあたっての税務上の留意点

【第1回】

「所得拡大促進税制の見直し(改組)」

 

公認会計士・税理士 新名 貴則

 

平成30年度税制改正における改正事項を中心として、平成31年3月期の法人税申告においては、いくつか注意が必要なポイントがある。その中の主なものの概要を、4回に分けて解説する。

【第1回】は、大企業及び中小企業者等それぞれの「所得拡大促進税制の見直し(改組)」について、平成31年3月期決算において留意すべき点を解説する。

 

1 所得拡大促進税制の見直し(大企業)

所得拡大促進税制とは、青色申告書を提出している法人が給与等支給額を一定以上増加させた場合に、その増加額の一定割合について税額控除が認められる制度である。ただし、当期の法人税額に一定の割合を乗じた金額が、控除限度額となる。

平成30年度税制改正において、この所得拡大促進税制の見直し(改組)が行われた。対象を中小企業者等とそれ以外(大企業)に区分し、それぞれ見直しを行っている。大企業に対しては設備投資の要件を追加し、「賃上げ・投資促進税制」(中小企業者等も選択適用可能)として改組しているので、まずはこちらを解説する。

① 要件の見直し

次のように要件の見直しが行われている。

給与等支給額

給与等支給額が、基準事業年度と比較して一定率以上増加していなければならないとする要件は廃止。
継続雇用者に対する給与等支給額が、前事業年度と比較して3%以上増加していることが必要。

設備投資額

新たに設備投資額の要件を設定。当事業年度の国内設備投資額が、減価償却費総額の90%以上であることが必要。

② 控除税額の見直し

次のように控除税額の見直しが行われている。

控除率

給与等支給額の増加額(前事業年度との比較)に15%を乗じた金額を、法人税額から控除。

《上乗せ要件》
教育訓練費について一定の増加要件を満たす場合には、控除率を15%から20%に上乗せ。

控除限度額

当事業年度の法人税額の20%(改正前10%)に引上げ。

この改正は平成30年4月1日以後に開始する事業年度から適用されるため、平成31年3月期決算申告には適用されることになる。

※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。

 平成30年3月期 平成31年3月期 基準年度 との比較 当事業年度の給与等支給額 ≧ 基準年度(※1)の給与等支給額 × 105% 廃止 前事業年度 との比較 当事業年度の給与等支給額 ≧ 前事業年度の給与等支給額 廃止 (前事業年度より増加していなければ、 そもそも税額控除不能) 継続雇用者(※2)の給与 当事業年度の継続雇用者の平均給与等支給額 ≧前事業年度の継続雇用者の平均給与等支給額×102% 当事業年度の継続雇用者の給与等支給総額 ≧ 前事業年度の継続雇用者の給与等支給総額 ×103% 設備投資 なし 当事業年度の国内設備投資額 ≧ 当事業年度の減価償却費総額 × 90% 控除率 給与等支給額の 基準年度からの増加額 × 10% + 前事業年度からの増加額 × 2% 給与等支給額の 前事業年度からの増加額 × 15% (教育訓練費の要件(※3)を満たす場合は× 20%) 控除上限 当事業年度の法人税額の10% 当事業年度の法人税額の20%

(※1) 3月決算法人の場合は平成25年3月期が該当する。

(※2) 継続雇用者の範囲が改正され、「当事業年度と前事業年度のすべての月の給与等の支給を受けた国内雇用者」とされた。

(※3) 教育訓練費の額 ≧ 比較教育訓練費(前期及び前々期の教育訓練費の年平均額)× 120%

 

2 所得拡大促進税制の見直し(中小企業者等)

平成30年度税制改正における所得拡大促進税制の見直しの中でも、中小企業者等を対象とした見直しについて解説する。

なお、中小企業者等であっても、「1 所得拡大促進税制の見直し(大企業)」で解説した「賃上げ・投資促進税制」の方を選択して適用することも可能である。

① 要件の見直し

次のように要件の見直しが行われている。

給与等支給額

給与等支給額が、基準事業年度と比較して一定率以上増加していなければならないとする要件は廃止。
継続雇用者に対する給与等支給額が、前事業年度と比較して1.5%以上増加していることが必要。

設備投資額

大企業とは異なり、設備投資に関する要件はなし。

② 控除税額の見直し

次のように控除税額の見直しが行われている。

控除率

給与等支給額の増加額(前事業年度との比較)に15%を乗じた金額を、法人税額から控除。

《上乗せ要件》

継続雇用者に対する給与等支給額が2.5%以上増加し、かつ、次のいずれかを満たす場合は控除率を15%から25%に上乗せ。

● 当事業年度の教育訓練費 ≧ 前事業年度の教育訓練費 × 110%

● 認定を受けた経営力向上計画に従って、経営力向上が確実に行われたと証明されたこと

控除限度額

当事業年度の法人税額の20%から変更なし。

この改正は平成30年4月1日以後に開始する事業年度から適用されるため、平成31年3月期決算申告には適用されることになる。

※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。

 平成30年3月期 平成31年3月期 基準年度 との比較 当事業年度の給与等支給額 ≧ 基準年度(※1)の給与等支給額 × 103% 廃止 前事業年度 との比較 当事業年度の給与等支給額 ≧ 前事業年度の給与等支給額 廃止 (前事業年度より増加していなければ、 そもそも税額控除不能) 継続雇用者(※2)の給与 当事業年度の継続雇用者の平均給与等支給額 > 前事業年度の継続雇用者の平均給与等支給額 当事業年度の継続雇用者の給与等支給総額 ≧ 前事業年度の継続雇用者の給与等支給総額×101.5% 設備投資 要件 なし なし 控除率 給与等支給額の 基準年度からの増加額 × 10% + 前事業年度からの増加額 × 12%(※3) 給与等支給額の 前事業年度からの増加額 × 15% (上乗せ要件を満たす場合は × 25%) 控除上限 当事業年度の法人税額の20% (改正なし) 当事業年度の法人税額の20%

(※1) 3月決算法人の場合は平成25年3月期が該当する。

(※2) 継続雇用者の範囲が改正され、「当事業年度と前事業年度のすべての月の給与等の支給を受けた国内雇用者」とされた。

(※3) 上乗せ要件を満たす場合のみ。

(了)

【関連記事】
「〈平成30年度改正対応〉賃上げ・投資促進税制(旧・所得拡大促進税制)の適用上の留意点Q&A」(全12回)

次回は2/14の公開となります。

〔平成31年3月期〕
決算・申告にあたっての税務上の留意点

【第1回】

「所得拡大促進税制の見直し(改組)」

 

公認会計士・税理士 新名 貴則

 

平成30年度税制改正における改正事項を中心として、平成31年3月期の法人税申告においては、いくつか注意が必要なポイントがある。その中の主なものの概要を、4回に分けて解説する。

【第1回】は、大企業及び中小企業者等それぞれの「所得拡大促進税制の見直し(改組)」について、平成31年3月期決算において留意すべき点を解説する。

 

1 所得拡大促進税制の見直し(大企業)

所得拡大促進税制とは、青色申告書を提出している法人が給与等支給額を一定以上増加させた場合に、その増加額の一定割合について税額控除が認められる制度である。ただし、当期の法人税額に一定の割合を乗じた金額が、控除限度額となる。

平成30年度税制改正において、この所得拡大促進税制の見直し(改組)が行われた。対象を中小企業者等とそれ以外(大企業)に区分し、それぞれ見直しを行っている。大企業に対しては設備投資の要件を追加し、「賃上げ・投資促進税制」(中小企業者等も選択適用可能)として改組しているので、まずはこちらを解説する。

① 要件の見直し

次のように要件の見直しが行われている。

給与等支給額

給与等支給額が、基準事業年度と比較して一定率以上増加していなければならないとする要件は廃止。
継続雇用者に対する給与等支給額が、前事業年度と比較して3%以上増加していることが必要。

設備投資額

新たに設備投資額の要件を設定。当事業年度の国内設備投資額が、減価償却費総額の90%以上であることが必要。

② 控除税額の見直し

次のように控除税額の見直しが行われている。

控除率

給与等支給額の増加額(前事業年度との比較)に15%を乗じた金額を、法人税額から控除。

《上乗せ要件》
教育訓練費について一定の増加要件を満たす場合には、控除率を15%から20%に上乗せ。

控除限度額

当事業年度の法人税額の20%(改正前10%)に引上げ。

この改正は平成30年4月1日以後に開始する事業年度から適用されるため、平成31年3月期決算申告には適用されることになる。

※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。

 平成30年3月期 平成31年3月期 基準年度 との比較 当事業年度の給与等支給額 ≧ 基準年度(※1)の給与等支給額 × 105% 廃止 前事業年度 との比較 当事業年度の給与等支給額 ≧ 前事業年度の給与等支給額 廃止 (前事業年度より増加していなければ、 そもそも税額控除不能) 継続雇用者(※2)の給与 当事業年度の継続雇用者の平均給与等支給額 ≧前事業年度の継続雇用者の平均給与等支給額×102% 当事業年度の継続雇用者の給与等支給総額 ≧ 前事業年度の継続雇用者の給与等支給総額 ×103% 設備投資 なし 当事業年度の国内設備投資額 ≧ 当事業年度の減価償却費総額 × 90% 控除率 給与等支給額の 基準年度からの増加額 × 10% + 前事業年度からの増加額 × 2% 給与等支給額の 前事業年度からの増加額 × 15% (教育訓練費の要件(※3)を満たす場合は× 20%) 控除上限 当事業年度の法人税額の10% 当事業年度の法人税額の20%

(※1) 3月決算法人の場合は平成25年3月期が該当する。

(※2) 継続雇用者の範囲が改正され、「当事業年度と前事業年度のすべての月の給与等の支給を受けた国内雇用者」とされた。

(※3) 教育訓練費の額 ≧ 比較教育訓練費(前期及び前々期の教育訓練費の年平均額)× 120%

 

2 所得拡大促進税制の見直し(中小企業者等)

平成30年度税制改正における所得拡大促進税制の見直しの中でも、中小企業者等を対象とした見直しについて解説する。

なお、中小企業者等であっても、「1 所得拡大促進税制の見直し(大企業)」で解説した「賃上げ・投資促進税制」の方を選択して適用することも可能である。

① 要件の見直し

次のように要件の見直しが行われている。

給与等支給額

給与等支給額が、基準事業年度と比較して一定率以上増加していなければならないとする要件は廃止。
継続雇用者に対する給与等支給額が、前事業年度と比較して1.5%以上増加していることが必要。

設備投資額

大企業とは異なり、設備投資に関する要件はなし。

② 控除税額の見直し

次のように控除税額の見直しが行われている。

控除率

給与等支給額の増加額(前事業年度との比較)に15%を乗じた金額を、法人税額から控除。

《上乗せ要件》

継続雇用者に対する給与等支給額が2.5%以上増加し、かつ、次のいずれかを満たす場合は控除率を15%から25%に上乗せ。

● 当事業年度の教育訓練費 ≧ 前事業年度の教育訓練費 × 110%

● 認定を受けた経営力向上計画に従って、経営力向上が確実に行われたと証明されたこと

控除限度額

当事業年度の法人税額の20%から変更なし。

この改正は平成30年4月1日以後に開始する事業年度から適用されるため、平成31年3月期決算申告には適用されることになる。

※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。

 平成30年3月期 平成31年3月期 基準年度 との比較 当事業年度の給与等支給額 ≧ 基準年度(※1)の給与等支給額 × 103% 廃止 前事業年度 との比較 当事業年度の給与等支給額 ≧ 前事業年度の給与等支給額 廃止 (前事業年度より増加していなければ、 そもそも税額控除不能) 継続雇用者(※2)の給与 当事業年度の継続雇用者の平均給与等支給額 > 前事業年度の継続雇用者の平均給与等支給額 当事業年度の継続雇用者の給与等支給総額 ≧ 前事業年度の継続雇用者の給与等支給総額×101.5% 設備投資 要件 なし なし 控除率 給与等支給額の 基準年度からの増加額 × 10% + 前事業年度からの増加額 × 12%(※3) 給与等支給額の 前事業年度からの増加額 × 15% (上乗せ要件を満たす場合は × 25%) 控除上限 当事業年度の法人税額の20% (改正なし) 当事業年度の法人税額の20%

(※1) 3月決算法人の場合は平成25年3月期が該当する。

(※2) 継続雇用者の範囲が改正され、「当事業年度と前事業年度のすべての月の給与等の支給を受けた国内雇用者」とされた。

(※3) 上乗せ要件を満たす場合のみ。

(了)

【関連記事】
「〈平成30年度改正対応〉賃上げ・投資促進税制(旧・所得拡大促進税制)の適用上の留意点Q&A」(全12回)

次回は2/14の公開となります。

連載目次

筆者紹介

新名 貴則

(しんみょう・たかのり)

公認会計士・税理士

京都大学経済学部卒。愛媛県松山市出身。
朝日監査法人(現:有限責任あずさ監査法人)にて、主に会計監査と内部統制構築に従事。
日本マネジメント税理士法人にて、個人商店から上場企業まで幅広く顧問先を担当。またM&Aや監査法人対応などのアドバイスも行う。
平成24年10月1日より新名公認会計士・税理士事務所代表。

【著書】
・『新版 退職金をめぐる税務』(清文社)
・『Q&Aでわかる 監査法人対応のコツ』
・『現場の疑問に答える 税効果会計の基本Q&A』
・『148の事例から見た是否認事項の判断ポイント』(共著)
・『消費税申告の実務』(共著)
(以上、税務経理協会)

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