公開日: 2020/08/13 (掲載号:No.381)
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令和2年度税制改正における『連結納税制度』改正事項の解説 【第7回】「「開始・加入・離脱に伴う時価評価と繰越欠損金の取扱い」「利益・損失の二重計上の防止措置」「地方税」」

筆者: 足立 好幸

[10] 地方税

(1) 事業税

事業税(所得割)の計算の仕組みは、連結納税制度と変わらない。

連結納税制度と同様に、開始・加入前の繰越欠損金の切り捨て、損益通算、欠損金の通算を適用しない場合の所得の金額に基づいて事業税(所得割)を計算する(地法72の23①②)。

また、事業税の繰越欠損金を法人税とは別に単体納税と同様に計算する点も同様となる。

[事業税額の計算式]

事業税額 =(所得金額-事業税の繰越欠損金)× 事業税率

(2) 住民税

住民税では、法人税割の課税標準の計算について、法人税における繰越欠損金の切り捨てや損益通算等の影響を排除するための調整計算を行う(地法23①三・四、292①三・四、53③④⑥⑪~⑭⑯~⑳、321の8③④⑥⑪~⑭⑯~⑳)。

その点、連結納税制度と同様の仕組みであるが、その計算方法、用語、調整項目数など、グループ通算制度のプロラタ計算に合わせて非常に複雑な仕組みになっている。

住民税(法人税割)の計算式は以下のとおりとなる。

[住民税額の計算式]

住民税額 =(法人税額+加算調整額-住民税の欠損金)× 住民税率

[加算調整額]

法人税割の課税標準となる法人税額の算定について、次の項目の加算を行う。

加算対象通算対象欠損調整額

『加算対象通算対象欠損調整額』とは、当該事業年度で生じた通算対象欠損金額に法人税率を乗じた金額をいう。これによって、他の通算法人の欠損金額を通算する前の所得の金額に基づいて法人税額を計算することになる。

加算対象被配賦欠損調整額

『加算対象被配賦欠損調整額』とは、被配賦欠損金控除額に法人税率を乗じた金額をいう。『被配賦欠損金控除額』とは、非特定欠損金配賦額が非特定欠損金の期首残高を超える部分の金額に非特定損金算入割合を乗じて計算した金額をいう(つまり、他の通算法人から移転を受けた非特定欠損金のうち損金算入された金額をいう)。これによって、他の通算法人の非特定欠損金を通算する前の所得の金額に基づいて法人税額を計算することになる。

[住民税の欠損金]

法人税割の課税標準となる法人税額の算定について、当該事業年度開始日前10年(※1)以内に開始した事業年度において生じた次に掲げる住民税の欠損金の控除を行う。

控除対象通算適用前欠損調整額

『控除対象通算適用前欠損調整額』とは、法人税で開始・加入に伴い切り捨てられた繰越欠損金(通算適用前欠損金額)に法人税率を乗じた金額をいう(※1、2)。これは連結納税制度の「控除対象個別帰属調整額」に相当するものとなる。なお、通算適用前欠損金額には、法人税で新たな事業を開始した場合に切り捨てられた繰越欠損金(※3)も含める。

控除対象通算対象所得調整額

『控除対象通算対象所得調整額』とは、法人税で益金算入された通算対象所得金額に法人税率を乗じた金額で、連結納税制度の「控除対象個別帰属税額」に相当するものとなる。

控除対象配賦欠損調整額

『控除対象配賦欠損調整額』とは、非特定欠損金配賦額が非特定欠損金の期首残高に満たない部分の金額に非特定損金算入割合を乗じて計算した金額(配賦欠損金控除額)に法人税率を乗じた金額をいう。つまり、他の通算法人に移転した非特定欠損金のうち損金算入された金額に対応する住民税の欠損金となる。これも連結納税制度の「控除対象個別帰属税額」に相当するものとなる。

(※1) 控除対象通算適用前欠損調整額について、2018年4月1日前に開始した事業年度において生じた繰越欠損金に係るものは「9年」、2018年4月1日以後に開始した事業年度において生じた繰越欠損金に係るものは「10年」となる(令和2年地法改正法附則5⑦)。

(※2) 連結納税制度における「控除対象個別帰属調整額」と「控除対象個別帰属税額」は、グループ通算制度に移行した後は『控除対象通算適用前欠損調整額』として繰越控除される(令和2年地法改正法附則5④⑤)。この場合、繰越期間は、元々の「控除対象個別帰属調整額」又は「控除対象個別帰属税額」の繰越期間となる。

(※3) 地方税法第53条第6項では「通算適用前欠損金額の生じた事業年度後最初の最初通算事業年度について法人税法第57条第6項又は第8項の規定(繰越欠損金の切り捨ての規定)の適用があることを証する書類を住民税の確定申告書に添付する」ことを控除対象通算適用前欠損調整額の控除の要件としているため、最初通算事業年度の翌事業年度以後に新たな事業を開始して切り捨てられた繰越欠損金は含まれない。

〔追記:2020/9/7〕
上記(※3)につき、執筆後、令和2年9月4日に公布された「地方税法施行令の一部を改正する政令」(政令第264号)において、通算適用前欠損金額には、最初通算事業年度の翌事業年度以後に新たな事業を開始して切り捨てられた繰越欠損金も含まれることが明らかとなった(地令8の14①、8の16の2、48の11の3①、48の11の6)。

 

〔凡例〕
法法・・・法人税法
法令・・・法人税法施行令
地方法法・・・地方法人税法
地法・・・地方税法
措法・・・租税特別措置法
措令・・・租税特別措置法施行令
令和2年所法等改正法・・・所得税法等の一部を改正する法律(令和2年法律第8号)
令和2年地法改正法・・・地方税法等の一部を改正する法律(令和2年法律第5号)
(例)法法57⑪三・・・法人税法57条11項3号

(了)

この連載の公開日程は、下記の連載目次をご覧ください。

令和2年度税制改正における

『連結納税制度』改正事項の解説

【第7回】

「「開始・加入・離脱に伴う時価評価と繰越欠損金の取扱い」
「利益・損失の二重計上の防止措置」
「地方税」」

 

公認会計士・税理士
税理士法人トラスト
足立 好幸

 

連載の目次はこちら

[8] 開始・加入・離脱に伴う時価評価と繰越欠損金の取扱い

グループ通算制度の開始・加入・離脱時において、一定の場合には、資産の時価評価や繰越欠損金の切り捨て等の制限が生じる。

(1) 時価評価除外法人

グループ通算制度の開始又は通算グループへの加入に伴う資産の時価評価について、対象外となる法人(時価評価除外法人)は次の法人となる(法法64の11①、64の12①)。

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連載目次

*  *  *

税制改正における『連結納税制度』改正事項の解説 

▷令和3年度税制改正(全7回)

▷令和2年度税制改正(全9回)

▷平成31年度税制改正(全8回)

▷平成30年度税制改正(全9回)

▷平成29年度税制改正(全9回)

※クリックすると表示されます

【第1回】 非特定連結子法人の時価評価資産の対象範囲の見直し

はじめに

[1] 非特定連結子法人の時価評価資産の対象範囲の見直し

1 改正内容

2 『自己創設営業権』の評価問題が解消!

3 連結納税開始日・加入日が平成29年10月1日の場合は旧税制が適用に!

4 どうせ時価課税されるなら、合併で時価譲渡になる方がいいのか、スクイーズアウトで時価評価される方がいいのか?(時価課税の有利・不利)

【第2回】 スクイーズアウトにおける特定連結子法人の範囲の拡大

[2] スクイーズアウトにおける特定連結子法人の範囲の拡大

1 改正内容

2 連結納税の不利益を受けずに少数株主排除が可能に!

3 連結納税開始日が平成29年10月1日以後であっても、株式交換等が平成29年9月30日以前に行われた場合は旧税制が適用される!

4 全部取得条項付種類株式方式又は株式併合方式により連結納税に加入した場合、「完全支配関係を有することとなった日」はいつになるのか?

【第3回】 研究開発税制の見直し

[3] 研究開発税制の見直し

【第4回】 所得拡大促進税制の見直し他

[4] 所得拡大促進税制の見直し

[5] 役員給与等の見直し

[6] 地域未来投資促進税制の創設

【第5回】 中小企業者向け設備投資促進税制の拡充(その1)

[7] 中小企業者向け設備投資促進税制の拡充

1 中小企業経営強化税制の創設

【第6回】 中小企業者向け設備投資促進税制の拡充(その2)

2 中小企業投資促進税制の見直しと適用期限の延長

3 商業・サービス業活性化税制の適用期限の延長

【第7回】 中小企業者向け租税特別措置の適用法人の制限、災害特例措置

[8] 震災・災害に関する税制措置の整備

[9] 中小企業者向け租税特別措置の適用法人の制限

【第8回】 連結法人の申告期限の延長の見直し

[10] 連結法人の申告期限の延長の見直し

1 法人税の申告期限の延長について

2 事業税の申告期限の延長について

【第9回】 地方税率の改正時期の変更他

[11] 地方税率の改正時期の変更

[12] 組織再編税制に係る改正

[13] タックス・ヘイブン税制の総合的見直し

▷平成28年度税制改正(全12回)

※クリックすると表示されます

【第1回】 法人税率等の改正

~はじめに~

[1] 連結法人税、連結地方法人税、住民税、事業税の税率の改正

【第2回】 欠損金の繰越控除制度の見直し

[2] 連結欠損金の繰越控除制度の見直し

[3] 事業税に係る繰越欠損金の繰越控除制度の見直し

[4] 控除対象個別帰属調整額及び控除対象個別帰属税額の繰越控除制度の見直し

【第3回】 減価償却制度の見直し

[5] 減価償却制度の見直し

【第4回】 役員給与の見直し

[6] 役員給与の見直し

【第5回】 雇用促進税制の見直し

[7] 雇用促進税制の見直し

【第6回】 地方創生応援税制(企業版ふるさと納税)の創設

[8] 地方創生応援税制(企業版ふるさと納税)の創設

【第7回】 組織再編関連税制の見直し

[9] 適格現物出資の見直し

[10] 組織再編税制の見直し

【第8回】 移転価格文書化制度(その1)

[11] 移転価格文書化制度

1 多国籍企業グループの移転価格文書化制度

(1) 国別報告書

【第9回】 移転価格文書化制度(その2)

(2) マスターファイル(事業概況報告事項)

【第10回】 移転価格文書化制度(その3)

(3) ローカルファイル(独立企業間価格を算定するために必要と認められる書類)

2 国外事業所等との内部取引に係る移転価格文書化制度

【第11回】 日台民間租税取決めに規定された内容の実施に係る国内法の整備

[12] 日台民間租税取決めに規定された内容の実施に係る国内法の整備

【第12回】 その他国際税務の改正・固定資産税の特例措置

[13] 外国子会社合算税制(タックス・ヘイブン税制)の見直し

[14] 国際課税原則の帰属主義への変更の円滑な実施

[15] 機械装置の固定資産税の特例措置の創設

▷平成27年度税制改正(全12回)

※クリックすると表示されます

【第1回】 法人税率の引下げ

~はじめに~

[1] 連結法人税率の引下げ

【第2回】 欠損金の繰越控除制度の見直し(その1)

[2] 連結欠損金の控除限度額の段階的引下げ

(1) 連結欠損金の控除限度額の段階的引き下げ

(2) 連結所得金額の100%を控除限度額とする特例

① 中小法人等

② 経営再建中の法人

【第3回】 欠損金の繰越控除制度の見直し(その2)

③ 新設法人

【第4回】 欠損金の繰越控除制度の見直し(その3)

[3] 連結欠損金の繰越期間の延長

[4] 事業税に係る繰越欠損金の繰越控除制度の見直し

[5] 控除対象個別帰属調整額及び控除対象個別帰属税額の繰越控除制度の見直し

【第5回】 受取配当等の益金不算入制度の見直し

[6] 連結納税適用法人に係る受取配当等の益金不算入制度の見直し

【第6回】 研究開発税制の見直し

[7] 連結納税適用法人に係る研究開発税制の見直し

【第7回】 地方拠点強化税制の創設(その1)

[8] 連結納税適用法人に係る地方拠点強化税制の創設

(1) 改正の概要

(2) 地方拠点建物等の取得費の特例措置

【第8回】 地方拠点強化税制の創設(その2)

(3) 雇用促進税制の拡充

【第9回】 特定資産の買換えの場合の課税の特例の縮減・延長

[9] 特定資産の買換えの場合の課税の特例の縮減・延長

【第10回】 所得拡大促進税制・その他の租税特別措置法上の見直し

[10] 連結納税適用法人に係る所得拡大促進税制の見直し

[11] その他の租税特別措置法上の見直し

【第11回】 事業税の改正

[12] 連結納税適用法人に係る事業税の改正

【第12回】 国際税務の改正

[13] 連結納税適用法人に係る国際税務の改正

筆者紹介

足立 好幸

(あだち・よしゆき)

公認会計士・税理士
税理士法人トラスト

グループ通算制度・連結納税制度・組織再編税制を専門にグループ企業の税制最適化、企業グループ税制に係る業務を行う。

著書に、『令和6年10月改訂 プロフェッショナル グループ通算制度』『グループ通算制度への移行・採用の有利・不利とシミュレーション』『グループ法人税制Q&A』『M&A・組織再編のスキーム選択』(以上、清文社)、『グループ通算制度の実務Q&A』『グループ通算制度の税効果会計』『早わかり 連結納税制度の見直しQ&A-グループ通算制度の創設で何が変わる?』『ケーススタディでわかる連結納税申告書の作り方』『連結納税の組織再編税制ケーススタディ』『連結納税の清算課税ケーススタディ』『連結納税の欠損金Q&A』『連結納税導入プロジェクト』(以上、中央経済社)など多数。
 

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