[10] 地方税
(1) 事業税
事業税(所得割)の計算の仕組みは、連結納税制度と変わらない。
連結納税制度と同様に、開始・加入前の繰越欠損金の切り捨て、損益通算、欠損金の通算を適用しない場合の所得の金額に基づいて事業税(所得割)を計算する(地法72の23①②)。
また、事業税の繰越欠損金を法人税とは別に単体納税と同様に計算する点も同様となる。
[事業税額の計算式]
事業税額 =(所得金額-事業税の繰越欠損金)× 事業税率
(2) 住民税
住民税では、法人税割の課税標準の計算について、法人税における繰越欠損金の切り捨てや損益通算等の影響を排除するための調整計算を行う(地法23①三・四、292①三・四、53③④⑥⑪~⑭⑯~⑳、321の8③④⑥⑪~⑭⑯~⑳)。
その点、連結納税制度と同様の仕組みであるが、その計算方法、用語、調整項目数など、グループ通算制度のプロラタ計算に合わせて非常に複雑な仕組みになっている。
住民税(法人税割)の計算式は以下のとおりとなる。
[住民税額の計算式]
住民税額 =(法人税額+加算調整額-住民税の欠損金)× 住民税率
[加算調整額]
法人税割の課税標準となる法人税額の算定について、次の項目の加算を行う。
▷加算対象通算対象欠損調整額
『加算対象通算対象欠損調整額』とは、当該事業年度で生じた通算対象欠損金額に法人税率を乗じた金額をいう。これによって、他の通算法人の欠損金額を通算する前の所得の金額に基づいて法人税額を計算することになる。
▷加算対象被配賦欠損調整額
『加算対象被配賦欠損調整額』とは、被配賦欠損金控除額に法人税率を乗じた金額をいう。『被配賦欠損金控除額』とは、非特定欠損金配賦額が非特定欠損金の期首残高を超える部分の金額に非特定損金算入割合を乗じて計算した金額をいう(つまり、他の通算法人から移転を受けた非特定欠損金のうち損金算入された金額をいう)。これによって、他の通算法人の非特定欠損金を通算する前の所得の金額に基づいて法人税額を計算することになる。
[住民税の欠損金]
法人税割の課税標準となる法人税額の算定について、当該事業年度開始日前10年(※1)以内に開始した事業年度において生じた次に掲げる住民税の欠損金の控除を行う。
▷控除対象通算適用前欠損調整額
『控除対象通算適用前欠損調整額』とは、法人税で開始・加入に伴い切り捨てられた繰越欠損金(通算適用前欠損金額)に法人税率を乗じた金額をいう(※1、2)。これは連結納税制度の「控除対象個別帰属調整額」に相当するものとなる。なお、通算適用前欠損金額には、法人税で新たな事業を開始した場合に切り捨てられた繰越欠損金(※3)も含める。
▷控除対象通算対象所得調整額
『控除対象通算対象所得調整額』とは、法人税で益金算入された通算対象所得金額に法人税率を乗じた金額で、連結納税制度の「控除対象個別帰属税額」に相当するものとなる。
▷控除対象配賦欠損調整額
『控除対象配賦欠損調整額』とは、非特定欠損金配賦額が非特定欠損金の期首残高に満たない部分の金額に非特定損金算入割合を乗じて計算した金額(配賦欠損金控除額)に法人税率を乗じた金額をいう。つまり、他の通算法人に移転した非特定欠損金のうち損金算入された金額に対応する住民税の欠損金となる。これも連結納税制度の「控除対象個別帰属税額」に相当するものとなる。
(※1) 控除対象通算適用前欠損調整額について、2018年4月1日前に開始した事業年度において生じた繰越欠損金に係るものは「9年」、2018年4月1日以後に開始した事業年度において生じた繰越欠損金に係るものは「10年」となる(令和2年地法改正法附則5⑦)。
(※2) 連結納税制度における「控除対象個別帰属調整額」と「控除対象個別帰属税額」は、グループ通算制度に移行した後は『控除対象通算適用前欠損調整額』として繰越控除される(令和2年地法改正法附則5④⑤)。この場合、繰越期間は、元々の「控除対象個別帰属調整額」又は「控除対象個別帰属税額」の繰越期間となる。
(※3) 地方税法第53条第6項では「通算適用前欠損金額の生じた事業年度後最初の最初通算事業年度について法人税法第57条第6項又は第8項の規定(繰越欠損金の切り捨ての規定)の適用があることを証する書類を住民税の確定申告書に添付する」ことを控除対象通算適用前欠損調整額の控除の要件としているため、最初通算事業年度の翌事業年度以後に新たな事業を開始して切り捨てられた繰越欠損金は含まれない。
〔追記:2020/9/7〕
上記(※3)につき、執筆後、令和2年9月4日に公布された「地方税法施行令の一部を改正する政令」(政令第264号)において、通算適用前欠損金額には、最初通算事業年度の翌事業年度以後に新たな事業を開始して切り捨てられた繰越欠損金も含まれることが明らかとなった(地令8の14①、8の16の2、48の11の3①、48の11の6)。
〔凡例〕
法法・・・法人税法
法令・・・法人税法施行令
地方法法・・・地方法人税法
地法・・・地方税法
措法・・・租税特別措置法
措令・・・租税特別措置法施行令
令和2年所法等改正法・・・所得税法等の一部を改正する法律(令和2年法律第8号)
令和2年地法改正法・・・地方税法等の一部を改正する法律(令和2年法律第5号)
(例)法法57⑪三・・・法人税法57条11項3号
(了)
この連載の公開日程は、下記の連載目次をご覧ください。