公開日: 2020/08/20 (掲載号:No.382)
文字サイズ

〈ポイント解説〉役員報酬の税務 【第17回】「『事前確定届出給与に関する届出書』を提出する前に事前確定届出給与を支給した場合」

筆者: 中尾 隼大

〈ポイント解説〉

役員報酬の税務

【第17回】

「『事前確定届出給与に関する届出書』を提出する前に事前確定届出給与を支給した場合」

 

税理士 中尾 隼大

 

【 質 問 】

当社は、事前確定届出給与制度を活用して役員に賞与を支給することを計画しており、その支給日について相談させてください。

税務上、役員賞与について損金算入するためには、株主総会等で支給額を決議した後、事前確定届出給与に関する届出書を期限内に提出し、その届出内容の通りに支給することが必要であることは知っています。

ここで、届出書の期限内に支給する旨を決議し、支給日を届出書の期限より早い時期に設定し、その定めの通りに支給した後に提出期限内に届出書を提出した場合、事前確定届出給与として損金算入できるのでしょうか。

当社は3月決算法人であるため、夏季賞与の通常の支給時期が届出書の提出期限内であり、事務的に届出書の提出より賞与を支給する方が先となる可能性があるためです。


【 回 答 】

可能であると考えますが、公には明らかにされていません。最低でも、定時株主総会等で事前に支給額を定めていることが真実である必要があります。

仮に支給後において、後日付で定時株主総会議事録の体裁を整える等の行為が認められた場合、「事実の仮装」として重加算税の賦課決定対象とされる可能性が高いでしょう。

○●○● 解 説 ●○●○

事前確定届出給与制度は、役員に対して、従業員と同じ時期に賞与を支給する場合等に用いられている。事前に所轄税務署長に対し、個人別に支給時期・支給金額を記載した「事前確定届出給与に関する届出書(以下、「届出書」という)」を提出し、その届出どおりの時期と金額で支給をしていれば、恣意性の排除が担保されているものとして、当該支給額が損金算入されることとなる(法法34①二)。

本件の疑問点として、株主総会等で確定したものとして所轄税務署へ届出書を提出する以前に、確定した役員賞与をその定めどおりに支給しても問題ないのか、という点である。

【参考】 国税庁ホームページ
「[手続名]事前確定届出給与に関する届出」

 

(1) 「事前確定届出給与に関する届出書」の提出期限

ここで、一般的なことではあるが、届出書の期限を確認しておきたい。法人税法は、届出書の提出期限について政令委任しており、法人税法施行令によると、以下①又は②のいずれか早い日とされている(法令69④)。

① 株主総会等の決議日又は職務執行開始日のいずれか早い日から1月を経過する日

② 当該会計期間4月経過日等

(※1) 新設法人や臨時改定事由についての期限は割愛。

例えば、3月決算法人が5月20日に定時株主総会を開催し、6月1日から役員が職務執行を開始する旨、そして特定の時期に事前確定届出給与を支給する旨を定めた場合の届出書提出期限を考えたい。

税務上の「期限」は大変重要な論点であり、その期限を把握するためには「期間」の考え方を確認する必要がある。その基礎は、初日不算入の原則(通法10①一)と、「経過する日」と「経過した日」の意義がある。

まず、初日不算入の原則は、期間計算をする場合に初日を算入しないとするものであるため、その翌日が期間計算の起算点となる。これには例外も存在し、「その期間が午前零時から始まるとき、又は国税に関する法律に別段の定めがあるとき」は初日が期間計算に算入される(※2)。

(※2) 例えば、法人税法74条に定める確定申告の期限は「各事業年度終了の日の翌日から二月以内」である。3月決算法人の場合、事業年度終了の日が3月31日、その翌日は4月1日であるから、午前零時から始まる「各事業年度終了の日の翌日」に初日不算入の原則は適用されず、4月1日が期間計算に算入されることとなる。なお、「二月以内」と記載されている通り、期間の定めが月単位であるため暦に従い(同法10①二)、5月末が申告期限となる。

次に、「経過する日」と「経過した日」は、「期間の末日」の翌日が含まれるか否かという点で異なる。「経過する日」が期間の満了する日(末日)であることに対し、「経過した日」が期間の末日の翌日を指すのである。

以上を前提に、届出書の提出期限について確認すると、定時株主総会の当日は初日不算入の原則により期間に含まれないため、5月21日が起算日となる。これに対して職務執行開始日は6月1日であることから、5月21日から1月を経過する日までに提出しなければならない。

5月21日から1月を「経過する日」は期間の末日を指すため、6月20日が上記①に定める期限となる。これに対して、上記②に定める期限については、会計期間開始日が零時から開始するため例外的に初日が算入され、4月1日から4月を「経過する日」である7月31日が期限となる。したがって、この前提に立てば、①の期限の方が早いため、届出書の提出期限は6月20日となる(※3)。

(※3) なお、実際にはここに閉庁日の運用が加わる。具体的には、届出期限が土日祝祭日等に当たる場合、その日の翌日が提出期限となる(通法10②、通令2②)。

 

(2) 届出書の提出期限内、かつ提出前に役員賞与を支給した場合

上記のように、届出書は提出期限まで1ヶ月程度の猶予があることが一般的であり、翻せば、株主総会日等から1月以内を支給日とする役員賞与の支給を決議したらどうなるのか、という冒頭の疑問が生じる。結果として、届出書の提出前に事前確定届出給与の支給をすることが可能であり、法人税法上の役員給与に関する規定の趣旨である恣意性の排除がなされていないようにも思われるのである。

しかし、この点については、事前確定届出給与の額が株主総会等の決議であらかじめ定められた確定額どおりであれば、その届出書の提出時期を問題とする理由はないという情報が当初から存在することに加え(※4)、(1)で確認した通り、事前確定届出給与に関する諸規定はその届出書の提出期限や届出を行うこと自体が要件であることのみが定められているため、理論上は可能であると考えられる。

(※4) 「事前確定届出給与の届出書、1回⽬の⽀給後の提出でもOK」T&A master305号(2009)。

また、事前確定届出給与は職務執行の対価として役員へ支給されるものであり、それを職務執行期間の前半に支給することについて、それが企業慣行であるならば不自然ではないとする質疑応答事例がある(※5)。

(※5) 国税庁「役員給与に関する質疑応答事例」(2006)8頁。

そして、平成19年度税制改正前の届出書の提出期限は「その給与に係る職務の執行を開始する日と会計期間開始の日から3月を経過する日のいずれか早い日」であり、その給与に係る職務の執行を開始する日を株主総会の日と解すると期限まで実質的余裕がないという指摘もあったことから現行の期限に改正されたという経緯がある(※6)。この点に鑑みると、改正により生まれた期限までの余裕期間中の支給が損金不算入となるのであれば、些か不自然であるといえる。

(※6) 武田昌輔『DHCコンメンタール法人税法』(第一法規、加除式)2161頁の29。

なお、前回触れている通り、定時株主総会等の議事録をバックデートで作成する等の行為があった場合、「事実の仮装」であるとして重加算税の賦課決定対象となるため論外である。したがって、定時株主総会等で支給額の確定がリアルタイムで行われていたことを証することは前提条件となるだろう。

事前確定届出給与の特性や役員の職責に鑑みると、このようなリスクを敢えて取るよりは、通常通り届出書を提出した上で支給するべきであるといえる。このような考え方からか、筆者の見聞する限り、届出書の提出前に事前確定届出給与を支給した例はないが、もし実施するのであれば、このような留意点に気を払うべきである。

〔凡例〕
法法・・・法人税法
法令・・・法人税法施行令
法規・・・法人税法施行規則
法基通・・・法人税基本通達
措法・・・租税特別措置法
措令・・・租税特別措置法施行令
措規・・・租税特別措置法施行規則
措通・・・租税特別措置法関係通達
所令・・・所得税法施行令
通法・・・国税通則法
通令・・・国税通則法施行令
(例)法法34①一・・・法人税法34条1項1号

(了)

「〈ポイント解説〉役員報酬の税務」は、毎月第3週に掲載されます。

〈ポイント解説〉

役員報酬の税務

【第17回】

「『事前確定届出給与に関する届出書』を提出する前に事前確定届出給与を支給した場合」

 

税理士 中尾 隼大

 

【 質 問 】

当社は、事前確定届出給与制度を活用して役員に賞与を支給することを計画しており、その支給日について相談させてください。

税務上、役員賞与について損金算入するためには、株主総会等で支給額を決議した後、事前確定届出給与に関する届出書を期限内に提出し、その届出内容の通りに支給することが必要であることは知っています。

ここで、届出書の期限内に支給する旨を決議し、支給日を届出書の期限より早い時期に設定し、その定めの通りに支給した後に提出期限内に届出書を提出した場合、事前確定届出給与として損金算入できるのでしょうか。

当社は3月決算法人であるため、夏季賞与の通常の支給時期が届出書の提出期限内であり、事務的に届出書の提出より賞与を支給する方が先となる可能性があるためです。

【 回 答 】

可能であると考えますが、公には明らかにされていません。最低でも、定時株主総会等で事前に支給額を定めていることが真実である必要があります。

仮に支給後において、後日付で定時株主総会議事録の体裁を整える等の行為が認められた場合、「事実の仮装」として重加算税の賦課決定対象とされる可能性が高いでしょう。

○●○● 解 説 ●○●○

事前確定届出給与制度は、役員に対して、従業員と同じ時期に賞与を支給する場合等に用いられている。事前に所轄税務署長に対し、個人別に支給時期・支給金額を記載した「事前確定届出給与に関する届出書(以下、「届出書」という)」を提出し、その届出どおりの時期と金額で支給をしていれば、恣意性の排除が担保されているものとして、当該支給額が損金算入されることとなる(法法34①二)。

本件の疑問点として、株主総会等で確定したものとして所轄税務署へ届出書を提出する以前に、確定した役員賞与をその定めどおりに支給しても問題ないのか、という点である。

【参考】 国税庁ホームページ
「[手続名]事前確定届出給与に関する届出」

 

(1) 「事前確定届出給与に関する届出書」の提出期限

ここで、一般的なことではあるが、届出書の期限を確認しておきたい。法人税法は、届出書の提出期限について政令委任しており、法人税法施行令によると、以下①又は②のいずれか早い日とされている(法令69④)。

① 株主総会等の決議日又は職務執行開始日のいずれか早い日から1月を経過する日

② 当該会計期間4月経過日等

(※1) 新設法人や臨時改定事由についての期限は割愛。

例えば、3月決算法人が5月20日に定時株主総会を開催し、6月1日から役員が職務執行を開始する旨、そして特定の時期に事前確定届出給与を支給する旨を定めた場合の届出書提出期限を考えたい。

税務上の「期限」は大変重要な論点であり、その期限を把握するためには「期間」の考え方を確認する必要がある。その基礎は、初日不算入の原則(通法10①一)と、「経過する日」と「経過した日」の意義がある。

まず、初日不算入の原則は、期間計算をする場合に初日を算入しないとするものであるため、その翌日が期間計算の起算点となる。これには例外も存在し、「その期間が午前零時から始まるとき、又は国税に関する法律に別段の定めがあるとき」は初日が期間計算に算入される(※2)。

(※2) 例えば、法人税法74条に定める確定申告の期限は「各事業年度終了の日の翌日から二月以内」である。3月決算法人の場合、事業年度終了の日が3月31日、その翌日は4月1日であるから、午前零時から始まる「各事業年度終了の日の翌日」に初日不算入の原則は適用されず、4月1日が期間計算に算入されることとなる。なお、「二月以内」と記載されている通り、期間の定めが月単位であるため暦に従い(同法10①二)、5月末が申告期限となる。

次に、「経過する日」と「経過した日」は、「期間の末日」の翌日が含まれるか否かという点で異なる。「経過する日」が期間の満了する日(末日)であることに対し、「経過した日」が期間の末日の翌日を指すのである。

以上を前提に、届出書の提出期限について確認すると、定時株主総会の当日は初日不算入の原則により期間に含まれないため、5月21日が起算日となる。これに対して職務執行開始日は6月1日であることから、5月21日から1月を経過する日までに提出しなければならない。

5月21日から1月を「経過する日」は期間の末日を指すため、6月20日が上記①に定める期限となる。これに対して、上記②に定める期限については、会計期間開始日が零時から開始するため例外的に初日が算入され、4月1日から4月を「経過する日」である7月31日が期限となる。したがって、この前提に立てば、①の期限の方が早いため、届出書の提出期限は6月20日となる(※3)。

(※3) なお、実際にはここに閉庁日の運用が加わる。具体的には、届出期限が土日祝祭日等に当たる場合、その日の翌日が提出期限となる(通法10②、通令2②)。

 

(2) 届出書の提出期限内、かつ提出前に役員賞与を支給した場合

上記のように、届出書は提出期限まで1ヶ月程度の猶予があることが一般的であり、翻せば、株主総会日等から1月以内を支給日とする役員賞与の支給を決議したらどうなるのか、という冒頭の疑問が生じる。結果として、届出書の提出前に事前確定届出給与の支給をすることが可能であり、法人税法上の役員給与に関する規定の趣旨である恣意性の排除がなされていないようにも思われるのである。

しかし、この点については、事前確定届出給与の額が株主総会等の決議であらかじめ定められた確定額どおりであれば、その届出書の提出時期を問題とする理由はないという情報が当初から存在することに加え(※4)、(1)で確認した通り、事前確定届出給与に関する諸規定はその届出書の提出期限や届出を行うこと自体が要件であることのみが定められているため、理論上は可能であると考えられる。

(※4) 「事前確定届出給与の届出書、1回⽬の⽀給後の提出でもOK」T&A master305号(2009)。

また、事前確定届出給与は職務執行の対価として役員へ支給されるものであり、それを職務執行期間の前半に支給することについて、それが企業慣行であるならば不自然ではないとする質疑応答事例がある(※5)。

(※5) 国税庁「役員給与に関する質疑応答事例」(2006)8頁。

そして、平成19年度税制改正前の届出書の提出期限は「その給与に係る職務の執行を開始する日と会計期間開始の日から3月を経過する日のいずれか早い日」であり、その給与に係る職務の執行を開始する日を株主総会の日と解すると期限まで実質的余裕がないという指摘もあったことから現行の期限に改正されたという経緯がある(※6)。この点に鑑みると、改正により生まれた期限までの余裕期間中の支給が損金不算入となるのであれば、些か不自然であるといえる。

(※6) 武田昌輔『DHCコンメンタール法人税法』(第一法規、加除式)2161頁の29。

なお、前回触れている通り、定時株主総会等の議事録をバックデートで作成する等の行為があった場合、「事実の仮装」であるとして重加算税の賦課決定対象となるため論外である。したがって、定時株主総会等で支給額の確定がリアルタイムで行われていたことを証することは前提条件となるだろう。

事前確定届出給与の特性や役員の職責に鑑みると、このようなリスクを敢えて取るよりは、通常通り届出書を提出した上で支給するべきであるといえる。このような考え方からか、筆者の見聞する限り、届出書の提出前に事前確定届出給与を支給した例はないが、もし実施するのであれば、このような留意点に気を払うべきである。

〔凡例〕
法法・・・法人税法
法令・・・法人税法施行令
法規・・・法人税法施行規則
法基通・・・法人税基本通達
措法・・・租税特別措置法
措令・・・租税特別措置法施行令
措規・・・租税特別措置法施行規則
措通・・・租税特別措置法関係通達
所令・・・所得税法施行令
通法・・・国税通則法
通令・・・国税通則法施行令
(例)法法34①一・・・法人税法34条1項1号

(了)

「〈ポイント解説〉役員報酬の税務」は、毎月第3週に掲載されます。

連載目次

〈ポイント解説〉

役員報酬の税務

連載を収録した単行本が好評発売中!!

第1回~第50回

第51回~

筆者紹介

中尾 隼大

(なかお・しゅんた)

税理士
税理士法人中尾総合事務所 所長
https://www.nakao-tax.com

中国税理士会税務研究所 研究員

平成22年 税理士法人プライスウォーターハウスクーパース(現:PwC税理士法人)入所
平成24年 税理士登録
平成25年 税理士法人中尾総合事務所設立 現在に至る

【著作・論文】
「一般社団法人を利用した租税回避スキームに関する試論」第40回 日税研究賞 税理士の部 入選
「これで万全!!2019年10月 消費増税・軽減税率対策 転嫁・インボイスはこう進める」共著(ぎょうせい・2019)
「個人版事業承継税制のポイントと有利判定シミュレーション」共著(日本法令・2019)
「ワークフロー式消費税[軽減税率]申告書作成の実務」共著(日本法令・2020)
「消費税 適用判断の原則と例外」共著(新日本法規・2021)
「精選Q&A 役員報酬の税務」(清文社・2024)

関連書籍

重点解説 法人税申告の実務

公認会計士・税理士 鈴木基史 著

演習法人税法

公益社団法人 全国経理教育協会 編

法人税事例選集

公認会計士・税理士 森田政夫 共著 公認会計士・税理士 西尾宇一郎 共著

精選Q&A 役員報酬の税務

税理士 中尾隼大 著

徹底解説 課税上のグレーゾーン

辻・本郷税理士法人 監修 辻・本郷税理士法人 関西審理室 編 税理士 山本秀樹 著

企業戦略としての役員報酬

弁護士 中西和幸 著

企業法務で知っておくべき税務上の問題点100

弁護士・税理士 米倉裕樹 著 弁護士・税理士 中村和洋 著 弁護士・税理士 平松亜矢子 著 弁護士 元氏成保 著 弁護士・税理士 下尾裕 著 弁護士・税理士 永井秀人 著

法人税申告書と決算書の作成手順

税理士 杉田宗久 共著 税理士 岡野敏明 共著

役員報酬をめぐる法務・会計・税務

田辺総合法律事務所、Moore至誠監査法人、Moore至誠税理士法人 編著

会社役員間取引の税務

公認会計士・税理士 森田政夫、公認会計士・税理士 西尾宇一郎 著

新着情報

もっと見る

記事検索

#