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被災したクライアント企業への
実務支援のポイント
〔経営面のアドバイス〕
【第1回】
「復旧予定時期の設定」
公認会計士・税理士 中谷 敏久
-はじめに-
企業を取り巻く環境が日々刻々と変化する中で、新商品の開発、販路の拡大、人材確保、資金繰り、事業承継等、平常時においても頭を悩ませている経営者は少なくない。
最近はこれらに加えて地震、ゲリラ豪雨、巨大台風、土砂崩れ、河川の氾濫、火山の噴火等の自然災害への対策も無視できなくなってきている。特に震度6強以上の地震が日本各地で頻発しており、長い年月をかけて構築してきた事業基盤が一瞬にして崩壊する危険性をはらんでいる。
百年に一度あるかないかの大災害が現実のものとなった時、経営者はどのように判断し、行動すればよいのか。
そして平時からその会社・経営者に寄り添い支援を行っている税理士等の実務家は、どのようなアドバイスができるのか。
この連載では、公認会計士、税理士、弁護士等の実務家による共同執筆により、実際にクライアント企業が被災した際にできる支援策を様々な角度から解説していく。
この連載のスタートは、経営の面から見た実務上のアドバイスである。
阪神・淡路大震災(平成7年)、新潟県中越地震(平成16年)、能登半島地震(平成19年)、新潟県中越沖地震(平成19年)、東日本大震災(平成23年)で被災した中小企業経営者の貴重な体験を基にして、非常時の実務支援のポイントを整理してみたい。
1 最優先でなすべきは復旧予定時期の設定
災害直後のパニックの中で非常に難しいかもしれないが、経営者として最優先でなすべきことは、「復旧予定時期の設定」である。
復旧予定時期が3ヶ月後であるならば当然3ヶ月分の固定費を賄うだけの運転資金が必要となるであろうし、顧客に対する商品サービスの提供も3ヶ月間止まることになる。運転資金が確保され、また顧客も3ヶ月間の供給停止を了承するのであれば問題ないが、そうでない場合は会社の存亡を左右することとなる。
復旧予定時期の設定がいい加減であったがために、結果的に従業員への給料が支払えなくなった、あるいは顧客の商品サービスの提供時期が延期されたということになれば、従業員が退職しあるいは得意先との取引が中止になるかもしれない。
復興復旧のための融資制度を利用し事務所工場を再建したものの従業員を確保できず、また顧客からの受注が戻らないまま多額の借金だけが残ったということになれば、目も当てられないのである。
2 正確な復旧予定時期を設定するための情報収集
では、正確な復旧予定時期を設定するために必要な情報とはいったい何か。
欠くことのできないのは
(1) 事務所や工場の被災状況
(2) 従業員の被災状況
(3) 協力会社の被災状況
(4) 事業インフラの情報
である。
これらの状況把握を正確にできるか否かが、以後の復旧時期の設定に大きく影響する。
各項目のポイントは以下の通り。
(1) 事務所や工場の被災状況
- 事務所や工場は修復すれば使用可能か、それとも再建築が必要か。
- 事務所や工場の損壊が少なく修繕すれば使用可能である場合には、施工業者に連絡をとり工事日程を調整できるか否か。
- 損壊状況が激しく再建築が必要な場合は、他の事務所や工場を使って事業再開できるか否か。
- 機械設備の損傷が少ない場合、正常稼働を確認するためにどれほどの日数が必要か。
- 機械設備の損傷が激しい場合、同機種を再調達できるか否か。
(2) 従業員の被災状況
- 安否確認を実施し、出社可能な従業員の人数を見積もる。
- 安否確認の仕方としては、会社側からアプローチするより、従業員から連絡する方が結果的に早く確認できる場合が多い。
- 従業員が出社できる状態であったとしても、電気ガス水道などのインフラが復旧できていない場合には、シフト制を実施して業務を行うか否か。
(3) 協力会社の被災状況
- 協力会社は被災地域内にあり、自社と同様の被災状況であると推測されるか、あるいは地域外にあり被災していない可能性があるか。
- 被災しているのであれば、復旧に自社の社員を派遣させることも検討する。
(4) 事業インフラの状況
- 電気ガス水道などの復旧の目途はいつか(阪神淡路大震災では、全面復旧までに電気7日間、水道90日間、都市ガス84日間かかった)。
- 交通規制の状況はどうか(発生後3日間は緊急車両の通行優先、1週間は緊急支援物資の輸送優先)。
3 経営者としての事業継続の意思を示す
これらの状況を正確に把握し、復旧の制約要因となるものを特定することによって、目標とする復旧予定時期を設定する。そして、復旧予定時期を得意先や従業員に伝えることによって、経営者としての事業継続の意思を明確にしなければならない。
ただし、復旧予定時期があまりにも先になることが見込まれる場合、あるいは復旧の目途が立たない場合には、取引先との契約を一旦解消し、従業員を解雇することが経営者として正しい判断になることもあり得ることを認識しておく必要がある(この点については【第3回】で紹介する)。
(了)
この連載の公開日程は、下記の連載目次をご覧ください。