公開日: 2017/02/09 (掲載号:No.205)
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被災したクライアント企業への実務支援のポイント〔法務面のアドバイス〕 【第4回】「被災による企業内部の法律問題」

筆者: 岨中 良太

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被災したクライアント企業への

実務支援のポイント

〔法務面のアドバイス〕

【第4回】

「被災による企業内部の法律問題」

 

弁護士 岨中 良太

 

1 取締役の死亡・行方不明

災害によって取締役全員が死亡あるいは行方不明となった場合、企業活動を継続するには、取締役を選任する必要がある。

株主に働きかけ、裁判所の許可を得て株主総会を招集してもらい、その株主総会において取締役を選任することになる。株主全員の協力が得られる場合には、全員出席総会として招集手続がなくとも取締役の選任が可能である。

株主の協力が得られない場合には、そもそも株主総会を開くことができないため、会社の利害関係人(役員、従業員、債権者等)が裁判所に対して一時取締役(仮取締役)の選任を申し立てることになる。裁判所から選任された仮取締役は、正式な取締役が株主総会によって選任されるまでの間、通常の取締役の権限を行使することになる。

なお、取締役の一部が死亡・行方不明となり、法定又は定款所定の取締役の員数が欠ける結果となった場合には、株主総会において後任の取締役を選任することになる。

 

2 定時株主総会の開催時期

災害の影響により、定時株主総会を定款所定の時期に開催することができず、当該時期の経過後に定時株主総会を開催した場合、形式的には株主総会招集手続の定款違反として株主総会決議取消事由となる。

もっとも、東日本大震災の際には、定時株主総会の開催時期に関する定款の規定については、通常、天災等のような極めて特殊な事情によりその時期に定時株主総会を開催することができない状況が生じた場合にまで形式的・画一的に適用してその時期に定時株主総会を開催しなければならないものとする趣旨ではないと考えるのが、合理的な意思解釈であるとして、開催時期が定款所定の時期より後になったとしても定款違反にならないと考えられていた。

 

3 従業員の被災

(1) 災害発生時における企業の安全配慮義務

安全配慮義務とは、雇用関係に関しては、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう必要な配慮をしなければならない使用者の義務(労働契約法5条)である。使用者たる企業が安全配慮義務を怠った場合、債務不履行責任(民法415条)として労働者側から損害賠償請求を受けることがある。

安全配慮義務の内容は、労働者の職種、労務内容、労働提供場所等の具体的な状況に応じて定まるものであり、一律には論じられないが、災害に伴う安全配慮義務としては、事前に情報収集を行い災害対策を行うべき義務と、事後に災害に関する情報収集を行い現場において対応すべき義務が考えられる。

災害発生直後に関していえば、企業は、混乱した現場においても、発生した災害に関する情報を収集し、全従業員の状況を把握しなければならず、現場における限られた情報を基に、短時間で適切に指示命令等の対応を行わなければならない。

(2) 労災

災害による場合でも、労災として認められ、労災保険給付を受けられる可能性がある。

まず、「労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡」の「業務災害」に労災保険給付が適用されるところ、「業務災害」に該当するためには、業務起因性(業務又は業務行為を原因として被害が発生したこと)と業務遂行性(労働者が労働契約に基づき事業主の支配・管理下にあったこと)という2つの要件を満たす必要がある。東日本大震災の際に示された厚生労働省の立場を前提とすると、勤務中に災害に遭った場合には広く柔軟に業務起因性と業務遂行性の要件が肯定されると考えられる。

また、「労働者の通勤による負傷、疾病障害又は死亡」の「通勤災害」に労災保険給付が適用されるところ、「通勤災害」に該当するためには労災保険法7条2項所定の「通勤」に該当することが必要である。災害が発生した場合、通常の通勤経路以外の経路を利用することや、通勤中に警報が発令され一時避難場所へ立ち寄ること、あるいは自宅以外の場所から通勤することなどの事情が発生するが、それら事情に合理性が認められる限り、「通勤」に該当する可能性は十分にある。

業務災害及び通勤災害のいずれについても、労災保険給付が認められるか否かを労働者自身で判断することなく、労災請求を勧めるのが適切であると考えられる。

(3) 賃金

災害により従業員が出勤できなくなった場合、当事者双方の帰責性なく従業員の労務提供債務が履行不能となった場合に該当し、反対給付である賃金支払債務も消滅するのが民法上の原則である。

したがって、原則として企業は従業員に対して、出勤しなかった期間に相当する賃金を支払う必要がない。

もっとも、上記民法上の原則は特約によって異なる合意が可能であり、労働契約、労働協約、就業規則等において異なる定めがなされていないか、確認する必要がある。

(4) 解雇

従業員の解雇に関しては、労働契約法16条によって、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合」には権利の濫用として無効とされている(解雇権濫用法理)。そして、災害を原因とする解雇は従業員に帰責性のない解雇であり、いわゆる整理解雇としてその有効性が厳格に判断されることになる。

すなわち、人員削減の必要性、解雇回避努力義務を尽くしたこと、被解雇者選定基準及び選定の合理性、解雇手続の相当性を満たす必要がある。

実際の解雇の有効性の判断については、事案ごとに個別に判断されることになるが、災害が発生すれば解雇が許されるという単純なものではない。また、災害によって連絡もできないまま出勤不能になった場合について、形式的に無断欠勤を理由として解雇することは許されない。

(了)

次回からは「税務面(所得税)のアドバイス」がスタートします。

この連載の公開日程は、下記の連載目次をご覧ください。

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被災したクライアント企業への

実務支援のポイント

〔法務面のアドバイス〕

【第4回】

「被災による企業内部の法律問題」

 

弁護士 岨中 良太

 

1 取締役の死亡・行方不明

災害によって取締役全員が死亡あるいは行方不明となった場合、企業活動を継続するには、取締役を選任する必要がある。

株主に働きかけ、裁判所の許可を得て株主総会を招集してもらい、その株主総会において取締役を選任することになる。株主全員の協力が得られる場合には、全員出席総会として招集手続がなくとも取締役の選任が可能である。

株主の協力が得られない場合には、そもそも株主総会を開くことができないため、会社の利害関係人(役員、従業員、債権者等)が裁判所に対して一時取締役(仮取締役)の選任を申し立てることになる。裁判所から選任された仮取締役は、正式な取締役が株主総会によって選任されるまでの間、通常の取締役の権限を行使することになる。

なお、取締役の一部が死亡・行方不明となり、法定又は定款所定の取締役の員数が欠ける結果となった場合には、株主総会において後任の取締役を選任することになる。

 

2 定時株主総会の開催時期

災害の影響により、定時株主総会を定款所定の時期に開催することができず、当該時期の経過後に定時株主総会を開催した場合、形式的には株主総会招集手続の定款違反として株主総会決議取消事由となる。

もっとも、東日本大震災の際には、定時株主総会の開催時期に関する定款の規定については、通常、天災等のような極めて特殊な事情によりその時期に定時株主総会を開催することができない状況が生じた場合にまで形式的・画一的に適用してその時期に定時株主総会を開催しなければならないものとする趣旨ではないと考えるのが、合理的な意思解釈であるとして、開催時期が定款所定の時期より後になったとしても定款違反にならないと考えられていた。

 

3 従業員の被災

(1) 災害発生時における企業の安全配慮義務

安全配慮義務とは、雇用関係に関しては、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう必要な配慮をしなければならない使用者の義務(労働契約法5条)である。使用者たる企業が安全配慮義務を怠った場合、債務不履行責任(民法415条)として労働者側から損害賠償請求を受けることがある。

安全配慮義務の内容は、労働者の職種、労務内容、労働提供場所等の具体的な状況に応じて定まるものであり、一律には論じられないが、災害に伴う安全配慮義務としては、事前に情報収集を行い災害対策を行うべき義務と、事後に災害に関する情報収集を行い現場において対応すべき義務が考えられる。

災害発生直後に関していえば、企業は、混乱した現場においても、発生した災害に関する情報を収集し、全従業員の状況を把握しなければならず、現場における限られた情報を基に、短時間で適切に指示命令等の対応を行わなければならない。

(2) 労災

災害による場合でも、労災として認められ、労災保険給付を受けられる可能性がある。

まず、「労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡」の「業務災害」に労災保険給付が適用されるところ、「業務災害」に該当するためには、業務起因性(業務又は業務行為を原因として被害が発生したこと)と業務遂行性(労働者が労働契約に基づき事業主の支配・管理下にあったこと)という2つの要件を満たす必要がある。東日本大震災の際に示された厚生労働省の立場を前提とすると、勤務中に災害に遭った場合には広く柔軟に業務起因性と業務遂行性の要件が肯定されると考えられる。

また、「労働者の通勤による負傷、疾病障害又は死亡」の「通勤災害」に労災保険給付が適用されるところ、「通勤災害」に該当するためには労災保険法7条2項所定の「通勤」に該当することが必要である。災害が発生した場合、通常の通勤経路以外の経路を利用することや、通勤中に警報が発令され一時避難場所へ立ち寄ること、あるいは自宅以外の場所から通勤することなどの事情が発生するが、それら事情に合理性が認められる限り、「通勤」に該当する可能性は十分にある。

業務災害及び通勤災害のいずれについても、労災保険給付が認められるか否かを労働者自身で判断することなく、労災請求を勧めるのが適切であると考えられる。

(3) 賃金

災害により従業員が出勤できなくなった場合、当事者双方の帰責性なく従業員の労務提供債務が履行不能となった場合に該当し、反対給付である賃金支払債務も消滅するのが民法上の原則である。

したがって、原則として企業は従業員に対して、出勤しなかった期間に相当する賃金を支払う必要がない。

もっとも、上記民法上の原則は特約によって異なる合意が可能であり、労働契約、労働協約、就業規則等において異なる定めがなされていないか、確認する必要がある。

(4) 解雇

従業員の解雇に関しては、労働契約法16条によって、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合」には権利の濫用として無効とされている(解雇権濫用法理)。そして、災害を原因とする解雇は従業員に帰責性のない解雇であり、いわゆる整理解雇としてその有効性が厳格に判断されることになる。

すなわち、人員削減の必要性、解雇回避努力義務を尽くしたこと、被解雇者選定基準及び選定の合理性、解雇手続の相当性を満たす必要がある。

実際の解雇の有効性の判断については、事案ごとに個別に判断されることになるが、災害が発生すれば解雇が許されるという単純なものではない。また、災害によって連絡もできないまま出勤不能になった場合について、形式的に無断欠勤を理由として解雇することは許されない。

(了)

次回からは「税務面(所得税)のアドバイス」がスタートします。

この連載の公開日程は、下記の連載目次をご覧ください。

連載目次

被災したクライアント企業への
実務支援のポイント

【経営面のアドバイス

(公認会計士・税理士 中谷敏久)

【会計面のアドバイス

(公認会計士・税理士 篠藤敦子)
(公認会計士・税理士 新名貴則)
(公認会計士 深谷玲子)

【労務面のアドバイス

(特定社会保険労務士・中小企業診断士 小宮山敏恵)

【税務面(法人税・消費税)のアドバイス】

(公認会計士・税理士 新名貴則)

【税務面(所得税)のアドバイス】

(公認会計士・税理士 篠藤敦子)

【法務面のアドバイス】

(弁護士 岨中良太)

【ケーススタディQ&A】

(公認会計士・税理士 篠藤敦子)

(公認会計士・税理士 深谷玲子)

筆者紹介

岨中 良太

(そわなか・りょうた)

弁護士

京都大学法学部卒業
平成16年   弁護士法人関西法律特許事務所入所
平成22年   北船場法律事務所開設

平成20~28年 甲南大学大学院会計専門職専攻(会計大学院)特別講師(企業法)
平成23年~  公認不正検査士登録
平成24年~  中小企業経営革新等認定支援機関登録

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