公開日: 2017/03/16 (掲載号:No.210)
文字サイズ

被災したクライアント企業への実務支援のポイント〔税務面(所得税)のアドバイス〕 【第4回】「個人が支援を受けた場合、支援を行った場合」

筆者: 篠藤 敦子

※この連載は一般会員(無料)にご登録いただくとご覧いただけます。
※本連載は当面の間、非会員の方でもログインなしでご覧いただけます。

被災したクライアント企業への

実務支援のポイント

〔税務面(所得税)のアドバイス〕

【第4回】

「個人が支援を受けた場合、支援を行った場合」

 

公認会計士・税理士 篠藤 敦子

 

企業の事業所がある地域で大規模災害が発生した場合、多くの役員や従業員(以下、従業員等という)が災害の影響を受けると考えられる。企業の総務、経理担当者は、災害時における個人の税務上の取扱いを理解し、従業員等への情報発信や従業員等からの相談に適切な対応ができるようにしておきたい。

以下、災害時の税務上の取扱いについて、被災した個人が「支援を受けた」場合と、個人が被災者に「支援をした」場合に分けて解説を行う。

 

【1】 被災した個人が支援を受けた場合

個人が被災した場合、勤務先企業や日本赤十字社等から災害見舞金や義援金等を受け取ったり、各種の支援を受けることがある。災害見舞金や義援金等を受け取ったり、各種の支援を受けても、それが社会通念上相当と認められる範囲のものであれば、所得税は課されない(所法9①十七他)。

課税されない災害見舞金等には、次のようなものがある。

(1) 勤務先から受けるもの

(ア) 災害見舞金

(イ) 生活資金の無利息貸付け

(ウ) 社宅の無料貸与

(エ) 通常の交通手段で通勤できないため他の交通機関を利用する場合の交通費

(2) 勤務先以外から受けるもの

(ア) 災害義援金の配分

(イ) 災害見舞金

(ウ) 災害弔慰金

(エ) 被災者生活再建支援金

(1) 勤務先から支給を受ける災害見舞金や支援等

上表(1)(ア)から(エ)については、所得税は課税されない(詳細は前回参照)。

(2) 勤務先以外から受ける災害見舞金等

① 配分や支給を受けた場合の課税関係

(ア) 災害義援金の配分

心身又は資産に加えられた損害について個人が支払を受ける相当の見舞金に、所得税は課されない(所法9①十七、所令30三)。
したがって、配分を受けた義援金に所得税が課されることはない(所令30三)。

(イ) 災害見舞金

知人や友人から見舞金を受け取った場合、その見舞金がその受取人の社会的地位、贈与者との関係等に照らし社会通念上相当と認められるものについては、所得税は課されない(所法9十七、所令30三、所基通9-23)。
また、このような見舞金は、贈与税の課税対象にもならない(相基通21の3-9)。

(ウ) 災害弔慰金

一定の自然災害が発生した場合には、「災害弔慰金の支給等に関する法律」に基づいて、死亡した人の遺族に対して「災害弔慰金」が、精神又は身体に著しい障害を受けた人には「災害障害見舞金」が市町村から支給される。
「災害弔慰金」及び「災害傷害見舞金」は、同法により非課税とされている(災害弔慰金の支給等に関する法律6)。

(エ) 被災者生活再建支援金

自然災害によって住宅に被害を受けたときには、「被災者生活再建支援法」に基づいて、被災世帯の世帯主の申請により、都道府県から被害の割合に応じた「被災者生活再建支援金」が支給される。
「被災者生活再建支援金」は、同法により非課税とされている(被災者生活再建支援法21)。

② 雑損控除との関係

配分を受けた義援金や支給を受けた災害見舞金等と、本シリーズ【第5回】で取り上げる予定の雑損控除との関係をまとめると次の通りである(国税庁「東日本大震災により損害を受けた場合の所得税の取扱い(情報)(個人課税課情報第3号、資産課税情報第6号)」の「第Ⅱ 質疑応答編」第8、3-2)。

災害義援金

災害見舞金

災害弔慰金

・・・資産の損害の補てんを目的として配分又は支給されるものではない。

雑損控除の損失額の計算において控除する必要はない。

被災者生活再建支援金

・・・住宅の被害の程度と再建方法に応じて支給される。

雑損控除の損失額の計算において控除しない。

〔追記:2019/1/21〕
本稿公開時において、上記赤字部分は「控除する」としていましたが、正しくは上記のとおりです。お詫びの上、訂正させていただきます。
【参考】 国税庁ホームページ
被災者生活再建支援金の税務上の取扱いについて-所得税の雑損控除の取扱いを見直します-

 

【2】 被災した個人が金融機関等から債権放棄を受けた場合

個人が債務免除を受けた場合の債務免除益は、原則として所得金額の計算上収入金額又は総収入金額に算入する(所基通36-15(5))。ただし、資力を喪失して債務を返済することが著しく困難である場合に受けた債務免除益は、課税の対象とならない(所法44の2①)。

住宅ローンや事業性ローンを借りている個人が、金融機関等から「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」に基づいて債務免除を受けた場合は、上記「資力を喪失して債務を返済することが著しく困難である場合に受けた債務免除益」に該当するものとして課税されない。

詳細は本誌掲載の下記拙稿をご参照いただきたい。

 

【3】 個人が被災地域や被災者に対して支援を行った場合

(1) 個人が寄附金を支出した場合の取扱い

個人が特定寄附金を支出したときは、寄附金控除を受けることができる(所法78①)。

寄附金控除の額は、次の算式により計算する。

寄附金控除額

その年中に支出した特定寄附金の額の合計額 - 2,000円
        

所得金額 × 40%相当額が限度

なお、東日本大震災に関連する寄附金については、震災特例法により特別な取扱いが規定されている。その内容については、本シリーズ【第6回】において、過去の大規模災害時における特例措置としてまとめて解説する予定である。

(2) 特定寄附金とは 

特定寄附金には、次のようなものが該当する(所法78①、措法41の18の3)。

 国又は地方公共団体に対する寄附金

 公益社団法人等に対する寄附金のうち、一定の要件を満たすものとして財務大臣が指定したもの

 特定公益増進法人に対する寄附金で、当該法人の主たる目的である業務に関連するもの

 認定NPO法人に対する寄附金のうち一定のもの

なお、災害救助法の規定の適用を受ける地域の被災者のために、日本赤十字社や新聞・放送等の報道機関等の募金団体が募集する義援金等については、その義援金等が最終的に義援金配分委員会等に対して拠出されることが募集趣意書等において明らかにされているものであるときは、地方公共団体に対する寄附金として扱われる(所基通78-5)。

〔凡例〕
所法・・・所得税法
所令・・・所得税法施行令
所基通・・・所得税法基本通達
災免法・・・災害被害者に対する租税の減免、徴収猶予等に関する法律
災免法令・・・災害被害者に対する租税の減免、徴収猶予等に関する法律の施行に関する政令
通法・・・国税通則法
通法令・・・国税通則法施行令
通法基通・・・国税通則法基本通達
相基通・・・相続税法基本通達
(例)所法9①十七・・・所得税法9条1項17号

(了)

この連載の公開日程は、下記の連載目次をご覧ください。

※この連載は一般会員(無料)にご登録いただくとご覧いただけます。
※本連載は当面の間、非会員の方でもログインなしでご覧いただけます。

被災したクライアント企業への

実務支援のポイント

〔税務面(所得税)のアドバイス〕

【第4回】

「個人が支援を受けた場合、支援を行った場合」

 

公認会計士・税理士 篠藤 敦子

 

企業の事業所がある地域で大規模災害が発生した場合、多くの役員や従業員(以下、従業員等という)が災害の影響を受けると考えられる。企業の総務、経理担当者は、災害時における個人の税務上の取扱いを理解し、従業員等への情報発信や従業員等からの相談に適切な対応ができるようにしておきたい。

以下、災害時の税務上の取扱いについて、被災した個人が「支援を受けた」場合と、個人が被災者に「支援をした」場合に分けて解説を行う。

 

【1】 被災した個人が支援を受けた場合

個人が被災した場合、勤務先企業や日本赤十字社等から災害見舞金や義援金等を受け取ったり、各種の支援を受けることがある。災害見舞金や義援金等を受け取ったり、各種の支援を受けても、それが社会通念上相当と認められる範囲のものであれば、所得税は課されない(所法9①十七他)。

課税されない災害見舞金等には、次のようなものがある。

(1) 勤務先から受けるもの

(ア) 災害見舞金

(イ) 生活資金の無利息貸付け

(ウ) 社宅の無料貸与

(エ) 通常の交通手段で通勤できないため他の交通機関を利用する場合の交通費

(2) 勤務先以外から受けるもの

(ア) 災害義援金の配分

(イ) 災害見舞金

(ウ) 災害弔慰金

(エ) 被災者生活再建支援金

(1) 勤務先から支給を受ける災害見舞金や支援等

上表(1)(ア)から(エ)については、所得税は課税されない(詳細は前回参照)。

(2) 勤務先以外から受ける災害見舞金等

① 配分や支給を受けた場合の課税関係

(ア) 災害義援金の配分

心身又は資産に加えられた損害について個人が支払を受ける相当の見舞金に、所得税は課されない(所法9①十七、所令30三)。
したがって、配分を受けた義援金に所得税が課されることはない(所令30三)。

(イ) 災害見舞金

知人や友人から見舞金を受け取った場合、その見舞金がその受取人の社会的地位、贈与者との関係等に照らし社会通念上相当と認められるものについては、所得税は課されない(所法9十七、所令30三、所基通9-23)。
また、このような見舞金は、贈与税の課税対象にもならない(相基通21の3-9)。

(ウ) 災害弔慰金

一定の自然災害が発生した場合には、「災害弔慰金の支給等に関する法律」に基づいて、死亡した人の遺族に対して「災害弔慰金」が、精神又は身体に著しい障害を受けた人には「災害障害見舞金」が市町村から支給される。
「災害弔慰金」及び「災害傷害見舞金」は、同法により非課税とされている(災害弔慰金の支給等に関する法律6)。

(エ) 被災者生活再建支援金

自然災害によって住宅に被害を受けたときには、「被災者生活再建支援法」に基づいて、被災世帯の世帯主の申請により、都道府県から被害の割合に応じた「被災者生活再建支援金」が支給される。
「被災者生活再建支援金」は、同法により非課税とされている(被災者生活再建支援法21)。

② 雑損控除との関係

配分を受けた義援金や支給を受けた災害見舞金等と、本シリーズ【第5回】で取り上げる予定の雑損控除との関係をまとめると次の通りである(国税庁「東日本大震災により損害を受けた場合の所得税の取扱い(情報)(個人課税課情報第3号、資産課税情報第6号)」の「第Ⅱ 質疑応答編」第8、3-2)。

災害義援金

災害見舞金

災害弔慰金

・・・資産の損害の補てんを目的として配分又は支給されるものではない。

雑損控除の損失額の計算において控除する必要はない。

被災者生活再建支援金

・・・住宅の被害の程度と再建方法に応じて支給される。

雑損控除の損失額の計算において控除しない。

〔追記:2019/1/21〕
本稿公開時において、上記赤字部分は「控除する」としていましたが、正しくは上記のとおりです。お詫びの上、訂正させていただきます。
【参考】 国税庁ホームページ
被災者生活再建支援金の税務上の取扱いについて-所得税の雑損控除の取扱いを見直します-

 

【2】 被災した個人が金融機関等から債権放棄を受けた場合

個人が債務免除を受けた場合の債務免除益は、原則として所得金額の計算上収入金額又は総収入金額に算入する(所基通36-15(5))。ただし、資力を喪失して債務を返済することが著しく困難である場合に受けた債務免除益は、課税の対象とならない(所法44の2①)。

住宅ローンや事業性ローンを借りている個人が、金融機関等から「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」に基づいて債務免除を受けた場合は、上記「資力を喪失して債務を返済することが著しく困難である場合に受けた債務免除益」に該当するものとして課税されない。

詳細は本誌掲載の下記拙稿をご参照いただきたい。

 

【3】 個人が被災地域や被災者に対して支援を行った場合

(1) 個人が寄附金を支出した場合の取扱い

個人が特定寄附金を支出したときは、寄附金控除を受けることができる(所法78①)。

寄附金控除の額は、次の算式により計算する。

寄附金控除額

その年中に支出した特定寄附金の額の合計額 - 2,000円
        

所得金額 × 40%相当額が限度

なお、東日本大震災に関連する寄附金については、震災特例法により特別な取扱いが規定されている。その内容については、本シリーズ【第6回】において、過去の大規模災害時における特例措置としてまとめて解説する予定である。

(2) 特定寄附金とは 

特定寄附金には、次のようなものが該当する(所法78①、措法41の18の3)。

 国又は地方公共団体に対する寄附金

 公益社団法人等に対する寄附金のうち、一定の要件を満たすものとして財務大臣が指定したもの

 特定公益増進法人に対する寄附金で、当該法人の主たる目的である業務に関連するもの

 認定NPO法人に対する寄附金のうち一定のもの

なお、災害救助法の規定の適用を受ける地域の被災者のために、日本赤十字社や新聞・放送等の報道機関等の募金団体が募集する義援金等については、その義援金等が最終的に義援金配分委員会等に対して拠出されることが募集趣意書等において明らかにされているものであるときは、地方公共団体に対する寄附金として扱われる(所基通78-5)。

〔凡例〕
所法・・・所得税法
所令・・・所得税法施行令
所基通・・・所得税法基本通達
災免法・・・災害被害者に対する租税の減免、徴収猶予等に関する法律
災免法令・・・災害被害者に対する租税の減免、徴収猶予等に関する法律の施行に関する政令
通法・・・国税通則法
通法令・・・国税通則法施行令
通法基通・・・国税通則法基本通達
相基通・・・相続税法基本通達
(例)所法9①十七・・・所得税法9条1項17号

(了)

この連載の公開日程は、下記の連載目次をご覧ください。

連載目次

※以下の連載は会員以外の方もご覧いただけます※

被災したクライアント企業への
実務支援のポイント

【経営面のアドバイス

(公認会計士・税理士 中谷敏久)

【会計面のアドバイス

(公認会計士・税理士 篠藤敦子)
(公認会計士・税理士 新名貴則)
(公認会計士 深谷玲子)

【労務面のアドバイス

(特定社会保険労務士・中小企業診断士 小宮山敏恵)

【税務面(法人税・消費税)のアドバイス】

(公認会計士・税理士 新名貴則)

【税務面(所得税)のアドバイス】

(公認会計士・税理士 篠藤敦子)

【法務面のアドバイス】

(弁護士 岨中良太)

【ケーススタディQ&A】

(公認会計士・税理士 篠藤敦子)

(公認会計士・税理士 深谷玲子)

筆者紹介

篠藤 敦子

(しのとう・あつこ)

公認会計士・税理士

津田塾大学卒業
1989年 公認会計士試験第二次試験合格
1994年 朝日監査法人(現 あずさ監査法人)退社後、個人事務所を開業し、会計と税務実務に従事。
2008年より甲南大学社会科学研究科会計専門職専攻教授(2016年3月まで)
2010年より大阪電気通信大学金融経済学部非常勤講師

【著書等】
・『マンガと図解/新・くらしの税金百科』共著(清文社)
・『会計学実践講義』共著
・『日商簿記1級徹底対策ドリル 商業簿記・会計学編』共著(以上、同文舘出版)
・『148の事例から見た是否認事項の判断ポイント』共著(税務経理協会)
・「不動産取引を行った場合」『税経通信』2012年3月号(103-109頁)

【過去に担当した研修、セミナー】
SMBCコンサルティング、日本経済新聞社、日本賃金研究センター
社団法人大阪府工業協会、西日本旅客鉄道株式会社、社団法人埼玉県経営者協会
大阪法務局

#