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被災したクライアント企業への
実務支援のポイント
〔経営面のアドバイス〕
【第2回】
「資金繰りの検討(その1)」
~融資制度の概要・検討ポイント~
公認会計士・税理士 中谷 敏久
復旧予定時期の設定後、次に経営者としてなすべきことは資金繰りである。
得意先が被災している場合には契約通り入金されないことも考えられる。また、自らが被災しているからといって従業員の給料支払いを遅延することは避けるべきである。業者に対する支払いも同様である。平常時においても資金繰りに余裕がないことが多いのに、非常時にはなおさらである。
このような企業の資金繰りを救済するためさまざまな融資制度が設けられているが、それらの融資制度の特徴を把握していない結果、適時に融資を受けることができない、あるいは、復旧を急ぐあまり緩い融資基準に惑わされ、結果的に過剰な融資を受け以後の返済に苦労している事業者は多い。
このため、復旧予定時期までに必要な運転資金あるいは設備資金を慎重に算出し、返済可能な範囲で融資を受けることが重要である。
融資制度の概要とその検討ポイントは以下の通りである。
(1) 小規模企業共済災害時貸付
中小企業基盤整備機構が取り扱う災害発生直後から利用可能な貸付制度である。
ただし、申込者は小規模企業共済加入者に限られる。
【貸付対象者】
・小規模企業共済制度に加入していること
・加入後、貸付資格判定時(4月末日及び10月末日)までに12ヶ月以上の掛金を納付していること
・災害救助法の適用される災害又はこれに準ずる災害として機構が認める災害の被災区域内に事業所を有すること
・災害の影響により次の①又は②の要件に該当する旨の証明を商工会、商工会議所、中小企業団体中央会、その他相当の団体から受けていること
① 被災区域内にある事業所又は主要な資産について全壊、流出、半壊、床上浸水等の被害を受けていること
② 災害の影響を受けた後、1月間の売上高が前年同月に比して減少することが見込まれること
【貸付限度額】
納付済掛金の合計額の7割から9割(ただし上限1,000万円、下限50万円)
【窓口】
商工組合中央金庫本・支店
罹災証明等の書類が整っていれば即日融資である(午前中に申し込めば午後に貸出し)。
(2) 災害時貸付け
中小企業基盤整備機構が取り扱う災害発生直後から利用可能な貸付制度である。
ただし、申込者は共済加入者に限られる。
【貸付対象者】
・共済制度に加入していること
・加入後、貸付資格判定時(4月末日及び10月末日)までに12ヶ月以上の掛金を納付していること
・災害救助法の適用される災害又はこれに準ずる災害として機構が認める災害の場合には、市町村の商工会、商工会議所、中小企業団体中央会、その他相当の団体から資格要件について証明を受けていること
・一般災害の場合には、罹災について市町村、消防署等から罹災証明を受けていること
【貸付限度額】
納付済掛金の合計額の7割から9割(ただし上限1,000万円、下限50万円)
【窓口】
商工組合中央金庫本・支店
災害が発生してから6ヶ月以内に申込みが必要。
(3) 緊急経営安定貸付け
中小企業基盤整備機構が取り扱う貸付制度である。
ただし、申込者は共済加入者に限られる。
【貸付対象者】
・共済制度に加入していること
・加入後、貸付資格判定時(4月末日及び10月末日)までに12ヶ月以上の掛金を納付していること
・次のいずれかに該当する確認を、市町村の商工会、商工会議所、中小企業団体中央会、青色申告会その他相当の団体から受けていること
◆最近3ヶ月間又は6ヶ月間の売上高が前年同期に比して5%以上減少しており、かつ、今後も減少が見込まれること
◆最近3ヶ月間又は6ヶ月間の売上高が2年前又は3年前の同期に比して5%以上減少しており、かつ、前年同期に比して減少しており、かつ、今後も減少が見込まれること
◆機構が認める要因の影響を受け、1ヶ月間の売上高が前年同月に比して急激に減少することが見込まれること
【貸付限度額】
納付済掛金の合計額の7割から9割(ただし上限1,000万円、下限50万円)
【窓口】
商工組合中央金庫本・支店
売上高が減少した最近3ヶ月間又は6ヶ月間として算定された最終月の翌月から3ヶ月以内に申込みが必要。
(4) 災害復旧貸付
株式会社日本政策金融公庫、商工組合中央金庫が取り扱う貸付制度である。
【貸付対象者】
別に指定された災害により被害を被った中小企業者であること
【貸付限度額】
日本政策金融公庫の中小企業事業では別枠で1億5,000万円、国民生活事業では各貸付制度の限度枠に上乗せ3,000万円、商工組合中央金庫では別枠で1億5,000万円
【窓口】
日本政策金融公庫、商工組合中央公庫
貸付限度額も高額であり、また既存の融資とは別枠である。
返済期間も10年以内(据置期間2年以内)と長い。
(5) セーフティネット保証4号
信用保証協会が売上の減少等一定の影響を受けた方に、通常の保証限度額とは別枠で保証(100%保証)を行う制度である。
【保証対象者】
・別に指定された災害により被害を被った中小企業者であること
・指定地域において1年間以上継続して事業を行っていること
・災害の発生に起因して、当該災害の影響を受けた後、原則として最近1ヶ月の売上高等が前年同月に比して20%以上減少しており、かつ、その後2ヶ月を含む3ヶ月間の売上高等が前年同期に比して20%以上減少することが見込まれること
【保証限度額】
別枠で普通保証2億円以内、無担保保証8,000万円以内
【窓口】
信用保証協会
対象者は直接的な被害を受けた者に限られない。保証割合は100%である。
ただし、売上高等の減少について市町村長が発行する認定書が必要である。
(6) 災害関係保証
信用保証協会が事業用資産に倒壊・火災等直接的な被害を受けた方に、通常の保証限度額とは別枠で保証(100%保証)を行う制度である。
【保証対象者】
・激甚災害について災害救助法が適用された地域又は中小企業者が有する施設が被災を受けていると認められるとして主務省において指定した地域(被災地域)内に事務所を有する方
・激甚災害により直接被害を受けた方
【保証限度額】
別枠で普通保証2億円以内、無担保保証8,000万円以内
【窓口】
信用保証協会
対象者は直接的な被害を受けた者に限られる。保証割合は100%である。
原則として被災した事業所の所在地を管轄する市町村長から発行された罹災証明書が必要である。ただし、保証申込時点で、市町村等の罹災証明書の入手が困難な場合については、事後の提出を条件に、保証の申込みを行うことが可能である。
災害時に設定される様々な融資制度の中から自社の資金繰りに適したものを選択すればよいのであるが、既往債務がある場合は当然二重債務となることを忘れてはいけない。据置期間、低金利、担保不要等の緩い条件に惹かれて融資を受けたものの受注が戻らず、ローン地獄に陥るリスクもあるのである。
やはり、地震保険、利益保険などの損害保険が入金されるまでの一時的な資金繰りのために融資を受けるという考え方が安全である。
金融機関も既往債務の期日延長や返済方法の変更等に柔軟に対応してくれると思うので、それらをまず利用することによって資金繰りができないか検討すべきである。
(了)
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