租税争訟レポート 【第36回】「馬券の払戻金に係る所得区分と外れ馬券の必要経費性(最高裁判所平成29年12月15日判決)」
筆者:米澤 勝
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租税争訟レポート
【第36回】
「馬券の払戻金に係る所得区分と外れ馬券の必要経費性
(最高裁判所平成29年12月15日判決)」
税理士・公認不正検査士(CFE)
米澤 勝
馬券の払戻金に係る所得区分については、本連載【第22回】で取り上げた最高裁判所平成27年3月19日判決により、所得税基本通達の一部が改正され、一定の場合には、「馬券の払戻金に係る所得は、営利を目的とする継続的行為から生じた所得として雑所得に該当する」という注書きが加えられた(所得税基本通達34-1)。
一方、今回取り上げる訴訟では、類似事件として、上記最高裁判決(以下「別件最高裁判決」と略称する)を参照しつつ、第1審では原告・納税者の主張を退け、控訴審では控訴人・納税者の主張を認容するというかたちで判決が分かれていた。
本稿では、争いに終止符を打った平成29年12月15日の最高裁判所の判決を検討するとともに、再度改正が行われることとなった所得税基本通達34-1注書きについても、その狙いを検証することとする(パブリック・コメントについては、4月2日で締め切られている)。
なお、本件の第1審については本連載【第24回】・【第25回】、控訴審については【第28回】でそれぞれ取り上げているが、最高裁判決までの論点を整理するため、それらの判決についてもあらためて言及したい。
最高裁判所平成29年12月15日判決
原審:東京高等裁判所平成28年4月21日判決
第1審:東京地方裁判所平成27年5月14日判決
[被上告人]
個人
【第1審原告、第2審控訴人】
[上告人]
国
処分行政庁:稚内税務署長、事務承継者札幌南税務署長
【第1審被告、第2審被控訴人】
[争点]
(1) 競馬所得の一時所得該当性
(2) 競馬所得に係る所得の金額の計算上控除すべき馬券の購入代金の範囲
[判決]
上告棄却(納税者勝訴)
[下級審判決]
・第1審:東京地方裁判所平成27年5月14日判決
→原告の請求を棄却。
・第2審:東京高等裁判所平成28年4月21日判決
→第1審判決を取り消し、稚内税務署長による処分を取り消す。
「所得税更正処分等取消請求事件」(平成29年12月15日最高裁判所第二小法廷判決)
【事案の概要】
本件は、馬券の的中による払戻金に係る所得(以下「競馬所得」という)を得ていた原告が、平成17年分から平成21年分の所得税に係る申告期限後の確定申告及び平成22年分の所得税に係る申告期限内の確定申告を行い、その際、原告が得た競馬所得は雑所得に該当するとして総所得金額及び納付すべき税額を計算していたところ、所轄税務署長であった稚内税務署長から、本件競馬所得は一時所得に該当し、上記各年の一時所得の金額の計算において外れ馬券の購入代金を総収入金額から控除することはできないとして、平成23年3月14日付けで平成17年分から平成21年分の所得税に係る各更正及び各無申告加算税賦課決定を、平成23年3月30日付けで平成22年分の所得税に係る更正及び過少申告加算税賦課決定を、それぞれ受けたため、①本件競馬所得は雑所得に該当し、上記各年の雑所得の金額の計算において外れ馬券の購入代金も必要経費として総収入金額から控除されるべきである、②仮に本件競馬所得が一時所得に該当するとしても、その総収入金額から外れ馬券を含む全馬券の購入代金が控除されるべきであるから、本件各処分は違法であるとして、本件各更正処分のうち確定申告額を超える部分及び本件各賦課決定処分の取消しを求める事案である。
【第1審判決:東京地方裁判所平成27年5月14日】
第1審である東京地方裁判所は、以下のとおり、原告である納税者の訴えを棄却する判決を言い渡した。
(※) 第1審についての詳細は【第24回】・【第25回】を参照。
1 馬券の払戻金に係る所得区分
原告による馬券の購入は、原告の陳述によっても、レースの結果を予想して、予想の確度に応じて馬券の購入金額を決め、どのように馬券を購入するのかを個別に判断していたというものであって、その馬券購入の態様は、一般的な競馬愛好家による馬券購入の態様と質的に大きな差があるものとは認められず、自動的、機械的に馬券を購入していたとまではいえないし、馬券の購入履歴や収支に関する資料が何ら保存されていないため、原告が網羅的に馬券を購入していたのかどうかを含めて原告の馬券購入の態様は客観的には明らかでないことからすると、原告による一連の馬券の購入が一体の経済活動の実態を有するというべきほどのものとまでは認められない。
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連載目次
租税争訟レポート
第1回~第30回
- 【第1回】 弁護士業の必要経費・弁護士会役員の交際費
- 【第2回】 架空役員給与認定による青色申告承認取消及び更正処分等に対する不服申立事件
- 【第3回】 納税者と法人が保険料を負担した養老保険に係る一時所得の計算
- 【第4回】 勝馬投票券の払戻金に係る所得を一時所得と判断した事例
- 【第5回】 税理士の過失による損害賠償義務の範囲
- 【第6回】 税理士の過失による損害賠償義務と納税者の過失相殺
- 【第7回】 法定外普通税の規定は地方税法違反で、無効〔納税者勝訴〕
- 【第8回】 クレディ・スイス元部長脱税事件第一審判決〔無罪〕
- 【第9回】 意思能力のない被相続人による保険契約の締結と税理士の債務不履行責任
- 【第10回】 勝馬投票券の払戻金に係る所得を雑所得と判断した事例
- 【第11回】 配偶者が受給する年金から特別徴収された介護保険料
- 【第12回】 架空外注費の認定による課税処分を否認した裁決
- 【第13回】 非課税貯蓄申込書の受付義務と損害賠償
- 【第14回】 理由附記の不備による課税処分の取消し
- 【第15回】 従業員による横領と法人に対する重加算税〔納税者勝訴〕
- 【第16回】 弁護士の必要経費(上告受理申立て不受理決定)
- 【第17回】 損害賠償金に対する課税(ライブドア事件による損害賠償金)〔納税者勝訴〕
- 【第18回】 勝馬投票券の払戻金に係る所得を雑所得と判断した事例(控訴審判決)
- 【第19回】 団地の管理組合が行う収益事業(国税不服審判所裁決)
- 【第20回】 株主優待券の使用に係る費用に対する課税(国税不服審判所裁決)
- 【第21回】 課税仕入れ等の範囲(国税不服審判所裁決)
- 【第22回】 的中馬券に対する課税(最高裁判決)
- 【第23回】 親子会社間の売上値引き・単価変更と寄附金該当性(東京地方裁判所判決)
- 【第24回】 馬券の払戻金の所得区分と外れ馬券の必要経費該当性(東京地方裁判所判決)〈前編〉
- 【第25回】 馬券の払戻金の所得区分と外れ馬券の必要経費該当性(東京地方裁判所判決)〈後編〉
- 【第26回】 債務免除益と源泉所得税の納税告知処分(最高裁判決)
- 【第27回】 分掌変更に伴う役員退職金の分割支給(東京地方裁判所判決)
- 【第28回】 馬券の払戻金の所得区分と外れ馬券の必要経費該当性(東京高等裁判所判決)
- 【第29回】 不動産所得、返還しなかった敷金に対する課税(国税不服審判所裁決)
- 【第30回】 使途を明らかにしない商品券の購入代金に対する課税(東京地方裁判所判決)
- 【第31回】 架空請求により取得した簿外資金の役員給与該当性(東京地方裁判所判決)
- 【第32回】 租税特別措置法上の当初申告要件(東京地方裁判所判決)
- 【第33回】 顧問税理士の不正発見義務(東京地方裁判所判決)
- 【第34回】 賃貸用建物の建築費用の用途区分(国税不服審判所裁決)
- 【第35回】 専ら従業員の慰安のために行われた「感謝の集い」に要した費用の交際費等該当性(福岡地方裁判所判決)
- 【第36回】 馬券の払戻金に係る所得区分と外れ馬券の必要経費性(最高裁判所平成29年12月15日判決)
- 【第37回】 架空の業務委託契約に係る消費税の仕入税額控除と源泉所得税の納税告知処分(東京地方裁判所平成29年5月11日判決)
- 【第38回】 架空循環取引をめぐる青色申告承認取消等の処分の要件該当性(宮崎地方裁判所平成28年11月25日判決)
- 【第39回】 消費税の適正な転嫁と課税庁による外注費の給与認定
- 【第40回】 所得税法第204条第1項第6号に規定する「ホステス等」の意義とは(国税不服審判所平成30年1月11日裁決他)
- 【第41回】 太陽光発電設備の減価償却をめぐる問題(国税不服審判所平成30年3月27日裁決、同6月19日裁決)
- 【第42回】 マンション管理組合が行う収益事業に対する課税関係(第一審:東京地方裁判所平成30年3月15日判決、控訴審:東京高等裁判所平成30年10月31日判決)
- 【第43回】 税理士に対する所得の秘匿行為を重加算税の賦課要件に該当すると判断した事例(東京地方裁判所平成30年6月29日判決)
- 【第44回】 代表者個人名義のクレジットカードによる交際費の支払い(重加算税賦課決定処分等取消し請求、国税不服審判所平成30年9月21日裁決)
- 【第45回】 相続税申告における現金の申告漏れに係る重加算税賦課決定処分等取消し請求(第一審:東京地方裁判所平成30年4月24日判決、控訴審:東京高等裁判所平成30年11月15日判決)
- 【第46回】 同族会社等の行為計算の否認(法人税法132条)-ユニバーサル・ミュージック事件-(第一審:東京地方裁判所2019(令和1)年6月27日判決)
- 【第47回】 内縁の妻に対して支給した給与の否認と納税告知処分(第一審:東京地方裁判所2019(令和1)年5月30日判決)
- 【第48回】 居住者の認定を巡る無申告加算税・不納付加算税賦課決定処分と納税告知処分(第一審:東京地方裁判所2019(令和1)年5月30日判決、控訴審:東京高等裁判所2019(令和1)年11月27日判決)
- 【第49回】 個人事業主の必要経費該当性(第一審:大阪地方裁判所2018(平成30)年4月19日判決、控訴審:大阪高等裁判所2018(平成30)年11月2日判決)
- 【第50回】 準確定申告における無申告加算税の正当な理由(国税不服審判所2019(平成31)年2月1日裁決)
- 【第51回】 経理担当者による横領と重加算税(国税不服審判所2018(平成30)年4月16日裁決)
- 【第52回】 課税仕入れの計上時期(第一審:東京地方裁判所2019(平成31)年3月15日判決、控訴審:東京高等裁判所2019(令和1)年9月26日判決)
筆者紹介
米澤 勝
(よねざわ・まさる)
税理士・公認不正検査士(CFE)
1997年12月 税理士試験合格
1998年2月 富士通サポートアンドサービス株式会社(現社名:株式会社富士通エフサス)入社。経理部配属(税務、債権管理担当)
1998年6月 税理士登録(東京税理士会)
2007年4月 経理部からビジネスマネジメント本部へ異動。内部統制担当
2010年1月 株式会社富士通エフサス退職。税理士として開業(現在に至る)【著書】
・『新版 架空循環取引─法務・会計・税務の実務対応』共著(清文社・2019)
・『企業はなぜ、会計不正に手を染めたのか-「会計不正調査報告書」を読む-』(清文社・2014)
・「企業内不正発覚後の税務」『税務弘報』(中央経済社)2011年9月号から2012年4月号まで連載(全6回)
【寄稿】
・(インタビュー)「会計監査クライシスfile.4 不正は指摘できない」『企業会計』(2016年4月号、中央経済社)
・「不正をめぐる会計処理の考え方と実務ポイント」『旬刊経理情報』(2015年4月10日号、中央経済社)
【セミナー・講演等】
・一般社団法人日本公認不正検査士協会主催
「会計不正の早期発見
――不正事例における発覚の経緯から考察する効果的な対策」2016年10月・公益財団法人日本監査役協会主催
情報連絡会「不正会計の早期発見手法――監査役の視点から」2016年6月・株式会社プロフェッションネットワーク主催
「企業の会計不正を斬る!――最新事例から学ぶ,その手口と防止策」2015年11月
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