Profession Journal » 税務・会計 » 税務 » 解説 » 所得税 » 租税争訟レポート 【第18回】「勝馬投票券の払戻金に係る所得を雑所得と判断した事例(控訴審判決)」

租税争訟レポート 【第18回】「勝馬投票券の払戻金に係る所得を雑所得と判断した事例(控訴審判決)」

筆者:米澤 勝

文字サイズ

租税争訟レポート

【第18回】

「勝馬投票券の払戻金に係る所得を雑所得と判断した事例(控訴審判決)」

 

税理士・公認不正検査士(CFE)
米澤 勝

大阪高等裁判所平成26年5月9日判決 (原審:大阪地方裁判所平成25年5月23日判決) 元会社員の男性 以下のとおり、課税所得が存在するにもかかわらず、所得税確定申告書を提出しなかったこと [平成19年分] 総所得金額3億7,420万132円、所得税額1億4,562万9,100円 [平成20年分] 総所得金額6億9,694万8,779円、所得税額2億7,488万1,500円 [平成21年分] 総所得金額3億8,836万3,205円、所得税額1億5,123万500円 正当な理由がなくて第120条第1項(確定所得申告)の規定による申告書をその提出期限までに提出しなかった者は、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。ただし、情状により、その刑を免除することができる。 控訴審での争点は、①被告人の本件馬券購入行為から生じた所得は一時所得か雑所得か、②外れ馬券の購入費用等も所得計算上控除されるべきかどうかである。 控訴棄却。 (第1審判決)懲役2月、執行猶予1年 1 被告人が、馬券の的中によって得た所得は雑所得と認める. 2 当たり馬券の購入費用だけでなく、外れ馬券を含めた全馬券の購入費用は、必要経費に該当する。 懲役1年


【事案の概要】

被告人の元会社員は、3年間で28億7,000万円分の馬券を購入し、30億円余りの的中配当を得たが、競馬の払戻金を一切申告せず、約5億7,000万円を脱税したとして、所得税法違反の罪で大阪地検に告発され、起訴された。

第1審の大阪地方裁判所は、被告人の勝ち馬投票券の払戻しによる所得は雑所得であると認定し、外れ馬券の購入費用等を必要経費として認めて、所得税額を約5,200万円と認定し、執行猶予付きの判決を言い渡した(本連載【第10回】を参照)。

これを不服とする検察が、控訴したものである。

 

【検察の控訴趣意書に対する裁判所の判断】

1 「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」に該当すること

検察は「馬券払戻金による所得は一時所得であり、被告人の本件馬券購入行為の特性を考慮しても、『営利を目的とする継続的行為から生じた所得』とは到底いえず、一時所得というべきである」と主張した。

これに対して、控訴審判決は「本件馬券購入行為は、条件に合致する馬券を、機械的に選択して網羅的に大量購入することを反復継続し、数年間にわたり、1日に数百万あるいは数千万円単位で、基準を充足する馬券を購入し続けるというものであり、3年間で、28億円以上の馬券を購入し、30億円以上の払戻金を得るという、極めて大きな規模なものであると同時に、それが客観的に明らかであることに鑑みると、その全体を一連の行為としてとらえるべきであり、その払戻金による所得は、『営利を目的とする継続的行為から生じた所得』に当たり、一時所得ではなく雑所得であると解するのが相当である」と結論づけた。

2 競馬の賭博性や馬券購入行為の性質等について

続いて検察は、「競馬の本質は賭博であり、競走結果としての勝敗は偶然の事情により決せられるもので、しかも、各競走は相互に法則性や関連性を持たず、競走ごとに独立して完結するから、馬券購入行為は所得発生の基礎として独立した行為であり、それがいくら繰り返されても独立した勝敗の集積に過ぎず、継続的行為とは評価できない」ため、「払戻金による所得が一時的、偶発的な所得である」から一時所得であると主張した。

この点についても控訴審判決は競馬が賭博であることを認めたうえで、賭博であり、払戻金の獲得が偶然に左右されること(所得の発生に偶然の要素があること)や射倖性から『営利を目的とする継続的行為から生じた所得』という要件に該当することが直ちに否定されるものではなく、馬券の大量購入を反覆継続した被告人の行為について営利目的や継続性を否定することはできない」として退けた。

3 一般的な馬券購入行為との区別について

さらに、検察は、原判決の判断によった場合、「被告人以外の場合であっても、払戻金を得た者の馬券購入行為が、『営利を目的とする継続的行為』に当たると認められる場合には、雑所得になると解釈すべきことになる」ことを理由に、馬券の払戻金について、一時所得の場合と雑所得の場合の区分が困難となるという批判を含む主張をした。

これに対し控訴審判決は、「馬券の払戻金について画一的に一時所得と解することは、一般の競馬愛好家による一時的、臨時的な収入については妥当である」としながらも、馬券購入をめぐる環境に変化が生じている中では、この解釈は、「むしろ実態に即さず、所得税法の文言にも適合しない」としたうえで、さらに、「購入や払戻しの履歴が記録化され、態様や規模が客観的に明らかになる馬券購入行為については、その払戻金に課税しようとする場合、『営利を目的とする継続的行為から生じた所得』に当たるか、(それ)以外の一時の所得に当たるのかを明確に判断できるから、異なる所得区分になることを認める解釈によって生じる弊害も考えにくい」と判示し、馬券購入行為の態様や規模の相違によって所得区分が異なることを容認する考えを示した。

4 担税力について

検察は、原判決への反論として、「原判決の背景には被告人の担税力への配慮があると思われるが、担税力は所得発生の時点で捉えるべきで、本件では各払戻金の獲得時点で被告人に担税力があるのに、被告人は、納税のため本来留保すべき金員で馬券の購入を続けただけ」であるから、「被告人の資力を勘案して、本件馬券購入行為について雑所得と解するとすれば、本末転倒であり、正直者が馬鹿を見る結果となって、租税の公平性の観点から著しく不当である」と主張したが、控訴審判決は、「原判決は、税額が現時点での自己の支払能力を超えるほど多額になることが予想されるからといって、申告義務を免れないことを判示しており、納税時の担税力に配慮して雑所得説を採用したとは考えられない」と述べると同時に、「被告人は納税資金を本来留保しておくべきであったという主張も、1回の競走ごとの払戻金を一時所得と把捉することが前提となっているから、原判決への批判とはならない」として退け、検察の批判は失当であると結論づけた。

5 所得計算上控除すべき金額

被告人の本件馬券購入行為から生じた所得は雑所得に当たるから、所得計算上、必要経費が控除されることになる。

被告人の本件馬券購入行為の態様に照らすと、当たり馬券だけではなく外れ馬券を含めた全馬券の購入費用と競馬予想ソフトや競馬情報配信サービスの利用料が、所得計算の基礎となった払戻金を得るために『直接に要した費用』に当たり、必要経費として控除されると解するのが相当である。

したがって、当審と理由づけは異なるものの、原判決が、外れ馬券を含む全馬券の購入費用と上記ソフト及びサービス利用料が必要経費に含まれるとしたのは正当である。

 

【解説】

控訴審判決は、「当審とは理由付けは異なる」としながらも、全体として第1審判決を妥当なものとして、検察の控訴を却下した。それ以上に特筆すべきは、判決文は第1審より以上に、課税庁・検察に対する厳しい批判を含んだものとなっていることである。

検察は上告受理申立てを行っているが、紙の馬券を1枚1枚手で販売していた時代に発遣された通達がとうに時代遅れになっていることは、第1審、控訴審における判決から明らかであり、本件第1審判決後も、同じような課税処分を繰り返している課税当局の姿勢に対して、批判するマスコミ報道も多い。

1 公訴事実に対する厳しい指摘

控訴審判決は、「付言すると」と前置きしたうえで、外れ馬券を必要経費として認めない検察の公訴事実を厳しく批判している(下線は筆者による)。

 本件公訴事実は、被告人が3年間で得た30億円以上の馬券払戻金合計額を所得計算の基礎として、課税しようというものであるが、被告人が30億円以上を得ることができたのは、28億円以上という極めて大きな規模で、馬券の大量購入を反復継続した結果である。当たり馬券だけを購入し30億円以上もの払戻金を獲得できることは現実にあり得ず、被告人は27億円以上の外れ馬券を含めて馬券を購入し続ける方式によって30億円以上を得たといってよい。このような本件馬券購入為の実態を無視して、1回の競走ごとに、勝った結果だけに着目し、負けた結果は除外して課税するとすれば、実質的な担税力に応じた公平な課税の観点からは、やはり問題があるというべきで、そのような課税の在り方が所得税法の適正な解釈といえるのかは疑問である。

2 相次ぐ同様の訴訟

マスコミ報道によると、本件以外にも、勝ち馬投票の払戻金をめぐっては、約78億円の払戻金を受けた北海道の公務員が、馬券の購入費計約73億円分を差し引いた約5億7,000万円を競馬の所得として申告したところ、札幌国税局から4億円以上の申告漏れを指摘されたため、これを不服として東京地裁に提訴しているということである。

また、馬券の購入によって2年間で約1,200万円の利益を得た横浜市の男性は、「競馬が仕事」だとして事業所得として申告したが、東京国税局は「一時所得」として約500万円を追徴課税。この男性は2月に横浜地裁に提訴したという報道もあった。

本控訴審判決が確定することになれば、少なくとも、馬券購入行為の態様や規模から、『営利を目的とする継続的な行為から生じた所得(=雑所得)』であることが認められれば、外れ馬券の購入金額や競馬ソフトなどの利用料も必要経費として認められることとなり、担税力を無視した課税を避けることは可能であるが、果たしてどの程度の馬券購入を続ければ、「営利目的」と認定されるのかという問題が、次に生じることは避けがたい。

上記2つの事例においても、前者は、本件大阪高裁判決よりも多額の馬券を購入しているから雑所得と認定されるにしろ、後者では認められないといったことにもなりかねず、控訴審判決は、「異なる所得区分になることを認める解釈によって生じる弊害も考えにくい」としているが、課税実務が混乱することは十分に考えられるのではないか。

むしろ、勝ち馬投票券の払戻しにより生じた利益は雑所得であるとしたうえで、高額の払戻金からは所得税を源泉徴収した方が、税制としてはすっきりしたものとなるはずである。
ただし、こうした改正は、売上不振が伝えられる競馬をはじめとする公営ギャンブルの主催者の根強い反対もあって、実現しそうにはない。

3 雑所得という所得区分にしたくない課税庁の思惑

検察の主張にはないことだが、実際問題として、勝ち馬投票券の払戻金が雑所得として課税され、外れ馬券が必要経費として認められることになると、競馬で損失を出した多くの競馬ファンのうち、他に雑所得を有する納税者は、損益通算をして、納税額を少なくすることが可能となる。

多くのサラリーマンは給与所得者であり所得区分が異なるので、馬券の損失による雑所得の赤字はなかったものとして損益通算はできないが、年金受給者であれば、公的年金等と馬券の損失は同じ雑所得に区分されるため、現行税制では、損益通算が可能となる。
課税庁が一時所得にこだわる真意がこのあたりにあるのではないかというのは、穿ちすぎた考えだろうか。

ポイント

  • 控訴審でも、現行所得税法では、勝馬投票券の払戻金については「一時所得」として課税されるが、これは、一般の競馬愛好家による一時的、臨時的な収入については妥当な取扱いであると判断した。
  • 一方、本件の被告人については、馬券の購入態様や規模から、本来の一時所得課税ではなく、営利を目的とする継続的行為から生じた所得である雑所得とし、外れ馬券の購入費用も「その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用の額」として必要経費に該当するという第1審の判断を支持した。
  • 馬券購入をめぐる環境に変化が生じている中、本件被告人と一般の競馬ファンとをどのように線引きして課税するかということを考えれば、むしろ、勝馬投票券の払戻金については雑所得とするよう、通達の改正が必要なのではないだろうか。

(了)

「租税争訟レポート」は、不定期の掲載となります。

連載目次

租税争訟レポート

第1回~第30回

このエントリーをはてなブックマークに追加

筆者紹介

  • 米澤 勝

    (よねざわ・まさる)

    税理士・公認不正検査士(CFE)

    1997年12月 税理士試験合格
    1998年2月 富士通サポートアンドサービス株式会社(現社名:株式会社富士通エフサス)入社。経理部配属(税務、債権管理担当)
    1998年6月 税理士登録(東京税理士会)
    2007年4月 経理部からビジネスマネジメント本部へ異動。内部統制担当
    2010年1月 株式会社富士通エフサス退職。税理士として開業(現在に至る)

    【著書】

    ・『新版 架空循環取引─法務・会計・税務の実務対応』共著(清文社・2019)

    ・『企業はなぜ、会計不正に手を染めたのか-「会計不正調査報告書」を読む-』(清文社・2014)

    ・「企業内不正発覚後の税務」『税務弘報』(中央経済社)2011年9月号から2012年4月号まで連載(全6回)

    【寄稿】

    ・(インタビュー)「会計監査クライシスfile.4 不正は指摘できない」『企業会計』(2016年4月号、中央経済社)

    ・「不正をめぐる会計処理の考え方と実務ポイント」『旬刊経理情報』(2015年4月10日号、中央経済社)

    【セミナー・講演等】

    一般社団法人日本公認不正検査士協会主催
    「会計不正の早期発見
    ――不正事例における発覚の経緯から考察する効果的な対策」2016年10月

    公益財団法人日本監査役協会主催
    情報連絡会「不正会計の早期発見手法――監査役の視点から」2016年6月

    株式会社プロフェッションネットワーク主催
    「企業の会計不正を斬る!――最新事例から学ぶ,その手口と防止策」2015年11月

     

関連書籍

Profession Journal » 税務・会計 » 税務 » 解説 » 所得税 » 租税争訟レポート 【第18回】「勝馬投票券の払戻金に係る所得を雑所得と判断した事例(控訴審判決)」

Copyright ©2012- Profession Network Co.,Ltd. All Rights Reserved.

Scroll to top
Go to home