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さっと読める! 実務必須の[重要税務判例] 【第5回】「興銀事件」~最判平成16年12月24日(民集58巻9号2637頁)~

筆者:菊田 雅裕

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さっと読める!

実務必須の

[重要税務判例]

【第5回】

「興銀事件」

~最判平成16年12月24日(民集58巻9号2637頁)~

 

弁護士 菊田 雅裕

 

-本連載の趣旨-

本連載は、税務分野の重要判例の要旨を、できるだけ簡単な形でご紹介するものである。

税務争訟は、請求内容や主張立証等が細かく煩雑となりやすい類型の争訟であり、事件の正確な理解のためには、処分経過の把握や判決文の十分な読み込み等が必要となってくるが、若手税理士をはじめとする多忙な読者諸氏が、日常業務をこなしつつ判例研究の時間を確保することは、容易なことではないであろう。他方、これから税務重要判例を知識として蓄積していこうとする者にとっては、要点の把握すら困難な事件も数多い。

本連載では、解説のポイントを絞り、時には大胆な要約や言い換え等も行って、上記のような読者の方に、重要判例の概要を素早く把握していただこうと考えている。

このような企画趣旨から、本連載における解説は、自ずと必要最低限のものとなり、基礎知識の説明、判例の繊細なニュアンスの紹介、多角的な分析、主要な争点以外の判断事項の紹介等を省略することも多くなると思われるが、ご容赦をいただきたい。

なお、より深い内容については、できるだけ論末において他稿をご紹介するので、そちらをご参照いただきたい。

▷今回の題材

興銀事件

最判平成16年12月24日(民集58巻9号2637頁)

《概要》

今回紹介する判例は、会社(Z社)の母体行となっていた銀行(X)が、Z社に対する貸金債権を放棄し、債権相当額を損金の額に算入して当該事業年度の法人税の確定申告をしたところ、Y税務署長から法人税の更正処分等を受けたという事案であり、本件の事情の下では、債権の全額が、放棄時に回収不能となっていたなどとして、X銀行による上記損金算入を認めた。

《関係図》

X銀行             Z社      ①債権放棄        ②確定申告     ③法人税の更正処分                  過少申告加算税の賦課決定処分              Y税務署長

▷争点

債権放棄時に、当該債権の全額が回収不能となっていたか。

▷判決要旨

債務者側の事情のみならず、債権者側の事情等も踏まえ、社会通念に従って総合的に判断すると、本件の事情の下では、債権の全額について、放棄時に回収不能であったというべきである(一審は全額が回収不能とし、控訴審は放棄時には全額が回収不能とはなっていなかったとした)。

▷評釈

 回収不能の判断において債務者の資産状況・支払能力が重要となることはいうまでもないが、本判決は、金銭債権の全額が回収不能であるかどうかについて、それら債務者側の事情のみならず、債権者側の事情、経済的環境等も踏まえ、社会通念に従って総合的に判断されるべきという判断基準を示した点に、大きな意義がある。
 なお、「考慮されるべき債務者側の事情」としては、債務者の資産状況、支払能力等が挙げられ、「考慮されるべき債権者側の事情」としては、債権回収に必要な労力、債権額と取立費用との比較衡量、債権回収を強行することによって生ずる他の債権者とのあつれきなどによる経営的損失等が挙げられている。

 本件では、債権放棄に解除条件(条件が成就したら、債権放棄の効力を失わせるという条件)が付されており、その不成就が確定しなければ、債権放棄の効力も確定的なものとならないのではないか、という問題もあったため、Y税務署長が処分に踏み切り、控訴審も最高裁と反対の結論に至ったものと思われる。
 しかし、本判決は、上記のような判断基準の下、放棄に至った経緯を詳細に分析し、放棄時には、債権全額の回収が社会通念上不可能となっていたと判断した。紙面の都合上、その経緯の詳細をご紹介することはできないが、全額の回収が不可能とした判断は、妥当であったように思われる。経緯の詳細については、時間に余裕があれば、各自研究していただきたい。
 そして、本判決は、放棄時点での回収不能状態は明らかである以上、解除条件が付されているからといって、結論は変わらないとした。

▷判決後の動向等

本判決により、回収不能の判断をかなり柔軟に行うことができるようになった。その意味で、本判決が実務に与えた影響は非常に大きかったといえる。もちろん、「貸倒れにしたい」という納税者の主観的事情のみで自由に判断できるわけではないが、納税者を取り巻く状況を踏まえた妥当な処理が可能になったと評価してよいだろう。

加えて、本件以後、企業による租税訴訟の提起が増加したとか、納税者も課税庁も判断を司法に委ねる姿勢が明確になってきたといった分析もなされているところである。

▷より詳しく学ぶための『参考文献』

  • 判例タイムズ1172号129頁
  • ジュリスト1301号78頁
  • ジュリスト1310号180頁
  • 租税判例百選〔第4版〕106頁
  • TAINSコード:Z254-9877

(了)

「さっと読める! 実務必須の[重要税務判例]」は、隔週で掲載されます。

連載目次

さっと読める! 実務必須の[重要税務判例]

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筆者紹介

  • 菊田 雅裕

    (きくた・まさひろ)

    弁護士
    横浜よつば法律税務事務所

    ・平成13年 東京大学法学部卒業
    ・平成16年 司法試験合格
    ・平成18年 弁護士登録
    ・平成23~25年 福岡国税不服審判所 国税審判官
    ・平成25~26年 東京国税不服審判所 国税審判官

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