公開日: 2018/03/08 (掲載号:No.259)
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さっと読める! 実務必須の[重要税務判例] 【第34回】「NTTドコモ事件」~最判平成20年9月16日(民集62巻8号2089頁)~

筆者: 菊田 雅裕

さっと読める!

実務必須の

[重要税務判例]

【第34回】

「NTTドコモ事件」

~最判平成20年9月16日(民集62巻8号2089頁)~

 

弁護士 菊田 雅裕

 

-本連載の趣旨-

本連載は、税務分野の重要判例の要旨を、できるだけ簡単な形でご紹介するものである。

税務争訟は、請求内容や主張立証等が細かく煩雑となりやすい類型の争訟であり、事件の正確な理解のためには、処分経過の把握や判決文の十分な読み込み等が必要となってくるが、若手税理士をはじめとする多忙な読者諸氏が、日常業務をこなしつつ判例研究の時間を確保することは、容易なことではないであろう。他方、これから税務重要判例を知識として蓄積していこうとする者にとっては、要点の把握すら困難な事件も数多い。

本連載では、解説のポイントを絞り、時には大胆な要約や言い換え等も行って、上記のような読者の方に、重要判例の概要を素早く把握していただこうと考えている。

このような企画趣旨から、本連載における解説は、自ずと必要最低限のものとなり、基礎知識の説明、判例の繊細なニュアンスの紹介、多角的な分析、主要な争点以外の判断事項の紹介等を省略することも多くなると思われるが、ご容赦をいただきたい。

なお、より深い内容については、できるだけ論末において他稿をご紹介するので、そちらをご参照いただきたい。

▷今回の題材

NTTドコモ事件

(最判平成20年9月16日(民集62巻8号2089頁))

《概要》

X社、A社、B社は、同グループに属する通信事業者である。A社はPHS(簡易型携帯電話)事業を営んでいて、A社のPHS回線とB社の電話網を、B社所有のエントランス回線を利用して接続することによって、PHS端末利用者に通話サービスを提供していた。この回線の設置に当たってのA社の負担金は1回線当たり7万2,800円で、回線数は15万回線であった。

X社は、A社からその事業の譲渡を受けることとし、A社に対し、エントランス回線利用権譲渡の対価として、1回線当たり7万2,800円を支払った。

X社は、該当事業年度の法人税の確定申告に当たり、個別のエントランス回線利用権をそれぞれ少額減価償却資産(旧法人税法施行令133条)として、取得価額の全額を損金に算入した。これに対し、Y税務署長は、同利用権は少額減価償却資産に該当しないとして、更正処分を行った。これを不服としてXが出訴した。

最高裁は、Xの主張を認めた。

《関係図》


▷争点

本件のエントランス回線利用権は、少額減価償却資産(旧法人税法施行令133条)に該当するか。

▷判決要旨

本件のエントランス回線利用権は、少額減価償却資産に該当する。

▷評釈

 取引の対象となった減価償却資産の取得価額が10万円未満であれば、その取得価額に相当する金額全額につき、取得した事業年度において損金処理することができる。
 本件では、X社主張のように、個別のエントランス回線利用権を1単位として取引したものとみれば、各利用権をそれぞれ少額減価償却資産とすることによって、取得価額に相当する金額全額につき、損金処理することができるようになる。本件では回線数が多数に及んだため、これが認められれば、当該事業年度において約110億円もの損金処理が可能となる。
 これに対し、Y主張のように、取引の対象となった利用権全体を一体としてみれば、少額減価償却資産には該当しないことになるから、当然、このような処理は認められない。

 この点について、Yは、まず前提として、無形固定資産等外形上個数を判定するのが困難な資産については、減価償却資産が事業において収益を生み出す源泉としての機能を発揮することができる単位をもって1個の資産と把握し、その取得価額を認定すべきであると主張した。
 その上で、X社のPHS事業において、1人のエンドユーザーに対し、サービスエリア内のどこからでも、また移動しながらでも通信できるという基本的サービスを提供するためには、エントランス回線が複数存在することが不可欠で、全体が一体となって、PHS事業の収益を生み出す源泉としての機能を発揮するのだから、全体を1個の資産とみて取得価額を認定すべきで、そうすると、本件のエントランス回線利用権は、少額減価償却資産には該当し得ないと主張した。

 これに対し、最高裁は、エントランス回線が1回線あれば、その回線が接続する基地局のエリア内のPHS端末と、固定電話や携帯電話との間で、双方向の通話が可能になるし、利用権の対価も1回線単位で定められている点を指摘した上で、本件のエントランス回線利用権は、エントランス回線1回線にかかる権利1つを1単位として取引されているということができると認定した。
 また、エントランス回線が1回線あれば、必要な機能を発揮でき、収益の獲得にも寄与できるとも指摘した。
 そして、これらを踏まえ、エントランス回線1回線にかかる利用権1つをもって、1つの減価償却資産とみるのが相当であるとし、その各取得価額が7万2,800円だから、それぞれが少額減価償却資産であると結論付けた。

 エントランス回線総体として高い価値になるという見方は可能だろうが、1回線のみではその価値を評価できないわけでもないだろうし、1回線のみ追加することも一応可能だろう。Yの主張も直感的には理解できないではないが、結論としては、最高裁が示したようなものとなるであろう。

▷判決後の動向等

本件は、判断の集積が少ない分野についての事例判断として、実務上重要な意義を有するといえる。

他方、本件の結論に対しては、批判的意見も散見される。例えば、減価償却資産を細分化することにより、少額減価償却資産の規定を適用することができるならば、内容によっては当該規程の濫用になりかねないとの指摘がある(もっとも、これに対しては、控除限度額を設けるなどの対策があるとの指摘もある)。さらなる議論の進展が待たれる。

▷より詳しく学ぶための『参考文献』

  • 最高裁判所判例解説民事篇(平成20年度)467頁
  • 判例タイムズ別冊29号282頁
  • 租税判例百選〔第5版〕106頁
  • 租税判例百選〔第6版〕106頁
  • TAINSコード:Z258-11032

(了)

「さっと読める! 実務必須の[重要税務判例]」は毎月第2週に掲載されます。

さっと読める!

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[重要税務判例]

【第34回】

「NTTドコモ事件」

~最判平成20年9月16日(民集62巻8号2089頁)~

 

弁護士 菊田 雅裕

 

-本連載の趣旨-

本連載は、税務分野の重要判例の要旨を、できるだけ簡単な形でご紹介するものである。

税務争訟は、請求内容や主張立証等が細かく煩雑となりやすい類型の争訟であり、事件の正確な理解のためには、処分経過の把握や判決文の十分な読み込み等が必要となってくるが、若手税理士をはじめとする多忙な読者諸氏が、日常業務をこなしつつ判例研究の時間を確保することは、容易なことではないであろう。他方、これから税務重要判例を知識として蓄積していこうとする者にとっては、要点の把握すら困難な事件も数多い。

本連載では、解説のポイントを絞り、時には大胆な要約や言い換え等も行って、上記のような読者の方に、重要判例の概要を素早く把握していただこうと考えている。

このような企画趣旨から、本連載における解説は、自ずと必要最低限のものとなり、基礎知識の説明、判例の繊細なニュアンスの紹介、多角的な分析、主要な争点以外の判断事項の紹介等を省略することも多くなると思われるが、ご容赦をいただきたい。

なお、より深い内容については、できるだけ論末において他稿をご紹介するので、そちらをご参照いただきたい。

▷今回の題材

NTTドコモ事件

(最判平成20年9月16日(民集62巻8号2089頁))

《概要》

X社、A社、B社は、同グループに属する通信事業者である。A社はPHS(簡易型携帯電話)事業を営んでいて、A社のPHS回線とB社の電話網を、B社所有のエントランス回線を利用して接続することによって、PHS端末利用者に通話サービスを提供していた。この回線の設置に当たってのA社の負担金は1回線当たり7万2,800円で、回線数は15万回線であった。

X社は、A社からその事業の譲渡を受けることとし、A社に対し、エントランス回線利用権譲渡の対価として、1回線当たり7万2,800円を支払った。

X社は、該当事業年度の法人税の確定申告に当たり、個別のエントランス回線利用権をそれぞれ少額減価償却資産(旧法人税法施行令133条)として、取得価額の全額を損金に算入した。これに対し、Y税務署長は、同利用権は少額減価償却資産に該当しないとして、更正処分を行った。これを不服としてXが出訴した。

最高裁は、Xの主張を認めた。

《関係図》

連載目次

さっと読める! 実務必須の[重要税務判例]

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第1回~第60回

第61回~

筆者紹介

菊田 雅裕

(きくた・まさひろ)

弁護士
横浜よつば法律税務事務所

【略歴】
・平成13年 東京大学法学部卒業
・平成16年 司法試験合格
・平成18年 弁護士登録
・平成23~25年 福岡国税不服審判所 国税審判官
・平成25~26年 東京国税不服審判所 国税審判官

【著書】
さっと読める!実務必須の重要税務判例70』(清文社、2021年)

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