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実務必須の
[重要税務判例]
【第77回】
「稚内市過納金還付請求事件」
~最判令和3年6月22日(民集75巻7号3124頁)~
弁護士 菊田 雅裕
-本連載の趣旨-
本連載は、税務分野の重要判例の要旨を、できるだけ簡単な形でご紹介するものである。
税務争訟は、請求内容や主張立証等が細かく煩雑となりやすい類型の争訟であり、事件の正確な理解のためには、処分経過の把握や判決文の十分な読み込み等が必要となってくるが、若手税理士をはじめとする多忙な読者諸氏が、日常業務をこなしつつ判例研究の時間を確保することは、容易なことではないであろう。他方、これから税務重要判例を知識として蓄積していこうとする者にとっては、要点の把握すら困難な事件も数多い。
本連載では、解説のポイントを絞り、時には大胆な要約や言い換え等も行って、上記のような読者の方に、重要判例の概要を素早く把握していただこうと考えている。
このような企画趣旨から、本連載における解説は、自ずと必要最低限のものとなり、基礎知識の説明、判例の繊細なニュアンスの紹介、多角的な分析、主要な争点以外の判断事項の紹介等を省略することも多くなると思われるが、ご容赦をいただきたい。
なお、より深い内容については、できるだけ論末において他稿をご紹介するので、そちらをご参照いただきたい。
▷今回の題材
稚内市過納金還付請求事件
最判令和3年6月22日(民集75巻7号3124頁)
《概要》
Xが複数の年分の所得税の確定申告をしたところ、B税務署長は、Xに対し、各年分の所得税について増額更正処分をした。A(Y市長)は、これを受けて、Xに対し、各年度分の市道民税の増額賦課決定をし、当該市道民税につき、滞納処分(預金債権の差押え等)をした(本件滞納処分)。徴収された金銭は、当該市道民税に順次配当された。
他方、Xは、B税務署長に対し増額更正処分の取消請求訴訟を提起してこれに勝訴し、その判決が確定した。これを受けて、Aは、Xに対し、各年度分の市道民税の減額賦課決定をし、過納金と還付加算金の支払をした。ただし、本件滞納処分はこの減額賦課決定より前に行われていたため、結果的に、本来存在しなかったはずの分の市道民税にまで配当がなされた形になっていた。Aは、これに相当する金額を、別の年度の未納部分には充当せず、直ちに過納金として扱い、この別の年度の未納部分は、未納のままとした(そのため、時間の経過とともに延滞金が増える計算となる)。
Xは、Aによるこの扱いは誤りであり、当該金額を直ちに過納金とするのではなく、別の年度の未納部分に充当すべきだったと主張した。そして、そのように扱わなかったために、過納金の額が過少に算出されたとして、Y市に対し、不足分の過納金・還付加算金の還付を求める訴訟を提起した。
最高裁は、Xの主張を認めた。
《関係図》
▷争点
個人の住民税について賦課決定をした上で滞納処分を行い、回収した金銭を当該住民税に配当した後、当該住民税の減額賦課決定をしたために、本来存在しなかったはずの住民税にまで配当していたこととなってしまった場合、その分に相当する金銭は、別の未納の住民税が存在するならそれに充当すべきか、それとも、直ちに過納金として扱い、当該個人に還付すべきか。
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