〔事例で使える〕
中小企業会計指針・会計要領
《繰延資産・資産除去債務-敷金》編
【第1回】
「敷金(1)」
公認会計士・税理士 前原 啓二
連載の目次はこちら
本連載の趣旨
「中小企業の会計に関する指針」(以下「中小企業会計指針」とします)は、中小企業が計算書類の作成に当たり拠ることが望ましい会計処理等を示すもので、一定の水準を保ったものとされています。これに比べ簡単な会計処理をすることが適切と考えられる中小企業を対象に「中小企業の会計に関する基本要領」も公表されました。
しかし、これらは簡潔に文章で記載されており、概念的には理解できても、実際にはどのように会計処理するのかがわからないため、仕方なく法人税法の規定による決算処理を続けている中小企業が散見されます。
そこで、本連載では、実際の中小企業で行われている基本的かつ重要な会計処理の事例をテーマごとに選び出し、「中小企業会計指針」等に基づく会計処理の一例について数値例を用いて具体的に示して、実務上のモデルとなるように解説します。
連載の第9弾として、『敷金』を取り上げます。これは、平成29年の「中小企業会計指針」の改訂において、資産除去債務の取扱いと税法固有の繰延資産の処理との2テーマを合わせて固定資産の一項目に追加されたものです。
本連載が、「中小企業会計指針」等のより一層の普及、さらに、中小企業の経営実態の正確な把握や適切な経営管理への発展に、少しでもつながれば幸いです。
▷《繰延資産・資産除去債務-敷金》 編のラインナップ
- 【第1回】 敷金(1)(本稿)
- 【第2回】 敷金(2)
はじめに
「中小企業会計指針」における資産除去債務の取扱いについては、従来、我が国における企業会計慣行の成熟を踏まえつつ、引き続き検討することとされてきましたが、その対応として、平成29年の同指針改正により、様々な資産除去債務のうち中小企業にもよく見られる建物等賃貸借契約上の原状回復義務だけが、『敷金』に関する会計処理に含めて明記されました。今回は、この『敷金』に関する会計処理を、税法固有の繰延資産の処理と合わせてご紹介します。
【設例1】
A社(3月31日決算)は、×0年4月1日にO社と建物の賃貸借契約を締結し、敷金1,200,000円を支払って、同日から入居を開始しました。退去時には、敷金1,200,000円のうち400,000円(敷引)を差し引いた額から原状回復費用を控除してO社へ返還する契約となっています。
入居時において、A社の同種の賃貸建物への平均的な入居期間は5年、退去時の原状回復費用は300,000円と見積もられます。
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