公開日: 2014/10/02 (掲載号:No.88)
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租税争訟レポート 【第19回】「団地の管理組合が行う収益事業(国税不服審判所裁決)」

筆者: 米澤 勝

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5 質疑応答事例、事前照会に見る課税庁の考え方

本稿で取り上げた裁決が公開されたのち、国税庁ホームページの質疑応答事例にも、ほぼ同様の照会と回答が追加されている。

この他にも、マンション管理組合が行う駐車場の貸付について、収益事業に該当するかどうかに関する質疑応答事例、事前照会が公開されているので、併せて確認しておきたい。

(1) 質疑応答事例:マンション管理組合が携帯電話基地局の設置場所を貸し付けた場合の収益事業判定

【照会要旨】

 Aマンション管理組合は、移動体通信業者Xとの間で、携帯電話基地局(アンテナ)設置のためにマンション屋上(共用部分)の使用を目的として、建物賃貸借契約を締結することとなりました。今後、Aマンション管理組合は、当該建物賃貸借契約に基づきマンション屋上の使用の対価として設置料収入を得ることとなりますが、当該設置料収入は、法人税法上の収益事業(不動産貸付業)に該当することとなりますか。なお、Aマンション管理組合は、法人税法上、人格のない社団等又は公益法人等に該当することを照会の前提とします。

【回答要旨】

 収益事業たる不動産貸付業に該当します。

その理由として、①人格のない社団等に対する法人税は、収益事業から生じた所得にのみ課されること、②マンション管理組合が賃貸借契約に基づいてマンション(建物)の一部を他の者に使用させ、その対価を得た場合には、収益事業(不動産貸付業)に該当することを説明している。

(2) 質疑応答事例:(収益事業)団地管理組合等が行う駐車場の収益事業判定

【照会要旨】

 団地管理組合又は団地管理組合法人(以下「管理組合」といいます。)が、その業務の一環として、その区分所有者(入居者)を対象として行っている駐車場業は、収益事業に該当するでしょうか。

(事業の概要)

① 駐車場業は、その区分所有者を対象として行われています。

② 駐車場の敷地は、その区分所有者が所有しています。

③ その収入は、通常の管理費等と区分することなく、一体として運用されています。

④ 駐車料金は、付近の駐車場と比較し低額です。

【回答要旨】

 照会の事実関係を前提とする限り、収益事業に該当しません。

その理由として、「団地管理組合は人格のない社団等であるという趣旨の注書きを入れたうえで、①管理組合が、その構成員を対象として行う共済的な事業であること、②駐車料金は、区分所有者が所有している共有物たる駐車場の敷地を特別に利用したことによる「管理費の割増金」と考えられること、③その収入は、区分所有者に分配されることなく、管理組合において運営費又は修繕積立金の一部に充当されていることを挙げ、管理組合が駐車場を貸し付けた場合であっても、その貸し付けた相手が区分所有者であるときは、収益事業には当たらず、法人税の納税義務は生じないことを明らかにしている。

(3) 質疑応答事例:(資産の譲渡の範囲)マンション管理組合の課税関係

【照会要旨】

 マンション管理組合の課税関係はどうなるのでしょうか。

【回答要旨】

 マンション管理組合は、その居住者である区分所有者を構成員とする組合であり、その組合員との間で行う取引は営業に該当しません。

 したがって、マンション管理組合が収受する金銭に対する消費税の課税関係は次のとおりとなります。

イ 駐車場の貸付け・・・組合員である区分所有者に対する貸付けに係る対価は不課税となりますが、組合員以外の者に対する貸付けに係る対価は消費税の課税対象となります。

ロ 管理費等の収受・・・不課税となります。

マンション管理組合に対する消費税の課税関係に関する質疑であり、こちらは、人格のない社団等ではなく、民法上の組合を前提とした回答になっているようであるが、組合員から得る賃貸料、管理費等は消費税の課税対象とはならないとする一方、組合員以外から得る賃貸料は消費税の課税対象となることが明らかにされている。

(4) 事前照会:マンション管理組合が区分所有者以外の者へのマンション駐車場の使用を認めた場合の収益事業の判定について

国土交通省住宅局長からの照会に、国税庁課税部長が、平成24年2月13日に回答した事前照会は、上記(2)のマンション管理組合が得る駐車場収入に関する課税関係について、さらに細かい前提条件を付けて分類したものであり、実務上も参考になる事前照会である。

【照会要旨:ケース1】

 Aマンションにおいては、恒常的に相当な台数分の空き駐車場が生じており、マンション管理組合(以下「A組合」といいます。)が区分所有者に対して駐車場需要を確認したところ、当面は空き駐車場が解消する予定がないことが判明しました。
 仮に、この状態が継続し、現行の管理費等(駐車場使用料、管理費及び修繕積立金をいいます。以下同じです。)の金額を増額することなく維持すれば、管理費又は修繕積立金が不足することは明らかなため、A組合では駐車場の外部使用を行うこととなりました。
 この外部使用を開始するに際して、募集は区分所有者と外部者とを分けずに広く行い、使用は区分所有者であるかどうかを問わず申込み順とし、使用料や使用期間などの使用条件についても区分所有者と同様の条件とする予定です。
 したがって、外部使用を行うことにより空き駐車場が解消している状態で、区分所有者から駐車場の使用希望があった場合でも、外部使用を受けている者に対して早期退去を求めるようなことはありません。

【課税関係:ケース1】

 駐車場の使用については、外部使用部分だけでなく、区分所有者の使用も含め、そのすべてが収益事業に該当する。

【照会要旨:ケース2】

 Bマンションにおいても、恒常的に空き駐車場が生じており、マンション管理組合(以下「B組合」といいます。)が区分所有者に対して駐車場需要を確認したところ、当面は空き駐車場が解消する予定がないことが判明しました。
 このため、Aマンションと同様に、Bマンションにおいても駐車場の外部使用を行うこととなりました。
 この外部使用を開始するに際して、募集は区分所有者とは別に外部に対しても広く行いますが、あくまで区分所有者のための駐車場であることから、外部使用に当たっては、区分所有者を優先する条件を設定することとしました。
 具体的には、区分所有者の使用希望がない場合にのみ外部使用を行うこととし、外部使用により空き駐車場が解消している状態で、区分所有者から駐車場の使用希望があったときには、一定の期間(例えば3か月)以内に、外部使用を受けている者は明け渡さなければならないという条件です。

【課税関係:ケース2】

 駐車場の使用については、外部使用部分のみが収益事業に該当する。

【照会要旨:ケース3】

 Cマンションにおいては、先日、区分所有者の異動により空き駐車場が生じることとなりましたが、他の区分所有者の中には使用希望者がいないため、区分所有者から使用希望者が現れるまでの間、空き駐車場の状態にしておく予定でいました。この度、近隣で道路工事を行っている土木業者から、マンション管理組合(以下「C組合」といいます。)に対して、工事期間(約2週間)に限定して空き駐車場を使用したいとの申出がありました。
 これを受けて、C組合で検討した結果、短期間であり、区分所有者の利用の妨げにならないと考えられることから、これに応ずることにしたところです。

【課税関係:ケース3】

 駐車場の使用については、区分所有者への使用のみならず、外部使用部分も含め、そのすべてが収益事業に該当しない。

課税関係を上記のように解した理由として、照会者は次のように説明している。

ケース1については、A組合が行う外部使用は、区分所有者に対する優先性がまったく見られず、Aマンションの敷地内にあるものの、管理業務の一環としての「共済的事業」とは認められず、市中の有料駐車場と同様の駐車場業を行っているものと考えられる。したがって、区分所有者に対する使用と区分所有者以外の者に対する使用を区分することなく、その全体が収益事業たる駐車場業に該当することとなると考える。

ケース2については、B組合が行う外部使用については、区分所有者の使用希望がない場合にのみ外部使用を行うこととし、また、外部使用を行っている状態で区分所有者から駐車場の使用希望があった場合には、一定の期間(例えば3ヶ月)以内に、外部使用を受けている者は明け渡さなければならないといった区分所有者を優先する条件を設定しており、区分所有者に対する一定の優先性が見られることから、少なくとも区分所有者の使用に限れば、管理業務の一環としての「共済的事業」であり、収益事業たる「駐車場業」には該当しないと考えられる。次に、区分所有者以外の者に対する外部使用は管理業務の一環としての「共済的事業」とは別に、異なる独立した事業を行っていると考えることが相当である。このように独立した事業である駐車場の外部使用については、「共済的事業」及び「管理費の割増金」といった性質のものではないため、「駐車場業」として収益事業に該当することとなる。

ケース3については、C組合が行う外部使用は、そもそも積極的にC組合が外部使用を行おうとしたわけではなく、相手方(区分所有者以外の者)の申出に応じたものであり、また、区分所有者の利用の妨げにならない範囲内で、ごく短期的に行うものであるから、ケース2とは異なり、独立した事業とすべき事情も存在しない。したがって、C組合が行う外部使用は、管理業務の一環としての「共済的事業」である区分所有者に対する駐車場使用と一体的に行っているものと考えられる。C組合が行う外部使用については、管理業務の一環として行われている区分所有者に対する駐車場使用に付随して行われる行為であることから、この外部使用を含めたC組合が行う駐車場使用の全体が収益事業には該当しないものと解して差し支えないと考えたところである。

この照会についての国税庁の回答は、お定まりの「標題のことについては、ご照会に係る事実関係を前提とする限り、貴見のとおりで差し支えありません」とするものであった。

ポイント

  • マンションの管理組合は、一般的には、法人税法上「人格のない社団等」として、納税義務を負う要件を備えている。
  • ただし、区分所有者に対する駐車場の貸付による収入などについては、共済的な事業であり、管理費の割増金と考えられること、収益は修繕費用などの管理組合の運営費に充当されることから、法人税及び消費税の納税義務は生じない。
  • 一方、外部の者に対する駐車場の貸付は、収益事業である不動産貸付業に該当し、法人税及び消費税の納税義務を負う。

(了)

「租税争訟レポート」は、不定期の掲載となります。

租税争訟レポート

【第19回】

「団地の管理組合が行う収益事業(国税不服審判所裁決)」

 

税理士・公認不正検査士(CFE)
米澤 勝

 

大阪国税不服審判所平成25年10月15日裁決

[請求人]
団地の管理組合

[争点]

① 団地の管理組合の納税義務(管理組合は人格のない社団等に該当するか)

② 共用部分の賃貸料収入の帰属

③ 共用部分の賃貸は収益事業に該当するか

[裁決結果]
棄却。
原処分庁の課税処分を全面的に認める。

 

【事案の概要】

本件は、団地の管理組合である審査請求人(以下「請求人」という)が、団地共用部分の一部を無線基地局等の設置のため携帯電話会社に賃貸して得た収入を団地の修繕積立金として充当していたところ、原処分庁が、請求人は、法人税法第2条第8号に規定する人格のない社団等(以下「人格のない社団等」という)に該当し、当該賃貸収入は請求人の収益事業による収入であるとして、法人税の決定処分及び無申告加算税の賦課決定処分をしたことに対し、請求人が、当該収入は団地建物の各区分所有者の不動産収入であって請求人の収入ではないなどとして、その全部の取消しを求めた事案である。

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連載目次

租税争訟レポート

第1回~第60回

筆者紹介

米澤 勝

(よねざわ・まさる)

税理士・公認不正検査士(CFE)

1997年12月 税理士試験合格
1998年2月 富士通サポートアンドサービス株式会社(現社名:株式会社富士通エフサス)入社。経理部配属(税務、債権管理担当)
1998年6月 税理士登録(東京税理士会)
2007年4月 経理部からビジネスマネジメント本部へ異動。内部統制担当
2010年1月 株式会社富士通エフサス退職。税理士として開業(現在に至る)

【著書】

・『新版 架空循環取引─法務・会計・税務の実務対応』共著(清文社・2019)

・『企業はなぜ、会計不正に手を染めたのか-「会計不正調査報告書」を読む-』(清文社・2014)

・「企業内不正発覚後の税務」『税務弘報』(中央経済社)2011年9月号から2012年4月号まで連載(全6回)

【寄稿】

・(インタビュー)「会計監査クライシスfile.4 不正は指摘できない」『企業会計』(2016年4月号、中央経済社)

・「不正をめぐる会計処理の考え方と実務ポイント」『旬刊経理情報』(2015年4月10日号、中央経済社)

【セミナー・講演等】

一般社団法人日本公認不正検査士協会主催
「会計不正の早期発見
――不正事例における発覚の経緯から考察する効果的な対策」2016年10月

公益財団法人日本監査役協会主催
情報連絡会「不正会計の早期発見手法――監査役の視点から」2016年6月

株式会社プロフェッションネットワーク主催
「企業の会計不正を斬る!――最新事例から学ぶ,その手口と防止策」2015年11月

 

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