2 連結納税の不利益を受けずに少数株主排除が可能に!
連結法人(連結納税開始前の連結法人となる法人を含む)が、ある法人を完全子法人化したいが、売却に応じない株主がいる場合に、強制的にその株主から退出してもらうために採用される手法(スクイーズアウトの手法)として、現金交付型株式交換、全部取得条項付種類株式方式、株式併合方式、株式売渡請求方式が採用されている。
しかし、従来、スクイーズアウトの手法によって完全子法人となる法人は、現金を対価に完全子法人化されているため、非特定連結子法人に該当することとなり、その完全子法人において連結納税開始又は加入時に時価評価や繰越欠損金の切り捨てが行われることになり、それが障害となって連結納税の採用や完全子法人化を断念する会社も多かった(旧法法61の11①四、61の12①二、81の9②一、2十二の十六)。(注1)(注2)
(注1) その完全子法人となる法人に100%子法人がある場合、その100%子法人についても非特定連結子人に該当する(旧法法61の11①五、61の12①三)。
(注2) 株式交付型株式交換の場合(交換対価は連結親法人株式)で、適格株式交換に該当する場合、その株式交換完全子法人は特定連結子法人に該当するが、少数株主が連結親法人の株主となるためスクイーズアウトが成立しない。
▷ケース1
スクイーズアウトよる完全子法人化
~平成29年9月30日以前~
これが、今回の改正によって、平成29年10月1日以後にスクイーズアウトの手法によって完全子法人化する場合、現金を対価に完全子法人化する場合であっても、一定の要件を満たせば、適格株式交換等に該当するため、その完全子法人は特定連結子法人に該当することになり、連結納税開始又は加入時に時価評価は不要になるとともに、繰越欠損金が連結納税に持ち込まれることになる(新法法61の11①四、61の12①二、81の9②一、2十二の十六・十二の十七)。(注3)
(注3) その完全子法人となる法人に100%子法人がある場合、その100%子法人については、「5年前の日(※)又は設立日からの完全支配関係継続要件」を満たしていれば、特定連結子人に該当する(新法法61の11①五、61の12①三)。
(※) 連結納税開始の場合は、「最初連結親法人事業年度開始の日の5年前の日」、連結納税加入の場合は、「適格株式交換等の日の5年前の日」を意味する。
▷ケース2
スクイーズアウトよる完全子法人化
~平成29年10月1日以後~
また、連結法人(連結納税開始前の連結法人となる法人を含む)が、ある法人をスクイーズアウトするために、現金交付型吸収合併を採用する場合についても、従来は、現金交付により非適格合併に該当したため、時価譲渡となり、被合併法人の繰越欠損金も切り捨てられたが、今回の改正によって、現金を交付しても他の要件を満たせば適格合併となるため、簿価譲渡となり、「5年前の日又は設立日からの支配関係継続要件」又は「みなし共同事業要件」のいずれかを満たす場合、合併法人である連結法人(連結納税開始前の連結法人となる法人を含む)で被合併法人の繰越欠損金を引き継ぐことが可能となった(旧法法81の9②二、57②③、2十二の八、新法法81の9②二、57②③、2十二の八)。(注4)(注5)
(注4) ただし、「5年前の日又は設立日からの支配関係継続要件」又は「みなし共同事業要件」のいずれも満たさない場合、被合併法人の繰越欠損金及び合併法人の繰越欠損金又は連結欠損金個別帰属額のうち、一定のものについて利用制限が生じることになる(新法法81の9②二・⑤三、57②③④)。
(注5) その被合併法人となる法人に100%子法人がある場合、その100%子法人については、「5年前の日(※)又は設立日からの完全支配関係継続要件」を満たしていれば、特定連結子人に該当する(新法法61の11①五、61の12①三)。
(※) 連結納税開始の場合は、「最初連結親法人事業年度開始の日の5年前の日」、連結納税加入の場合は、「適格合併の日の5年前の日」を意味する。
▷ケース3
スクイーズアウトよる吸収合併
~平成29年9月30日以前~
▷ケース4
スクイーズアウトよる吸収合併
~平成29年10月1日以後~
今回の改正は、「連結納税制度の採用法人を増やす」という面では、その影響は大きくないと予想される。
しかし、あるグループ法人について、スクイーズアウトにより完全子法人化をしたいが、時価評価や繰越欠損金が切り捨てられることを懸念して連結納税へ加入させることに踏み切れなかった連結納税グループにとって、連結納税の加入を後押しする改正であるといえる。
3 連結納税開始日が平成29年10月1日以後であっても、株式交換等が平成29年9月30日以前に行われた場合は旧税制が適用される!
この改正は、平成29年10月1日以後に行われる株式交換等(株式交換、全部取得条項付種類株式割当方式、株式併合方式、株式売渡請求方式)又は合併について適用される(平成29年所法等改正法附則1三ロ、11②)。
そのため、連結納税の開始日が同日以後であっても、スクイーズアウトによる完全子法人化又は吸収合併が平成29年9月30日以前である場合は、その株式交換等又は合併は適格株式交換等又は適格合併に該当しないため、旧税制が適用される点に注意を要する。
4 全部取得条項付種類株式方式又は株式併合方式により連結納税に加入した場合、「完全支配関係を有することとなった日」はいつになるのか?
スクイーズアウトによる完全子法人化のうち、現金交付型株式交換は「株式交換の効力発生日」、株式売渡請求方式は「株式取得日」が完全支配関係発生日となると考えられる(連基通1-2-2)。
この場合の「株式取得日」とは、株券発行会社の場合、「株式の引渡しのあった日」、株券不発行会社の場合、「株式売買契約書で定めた株式譲渡の効力発生日」、上場株式の場合、「譲渡人の口座から譲受人の口座への株式の振替の記録がされた日」(注)になると考えられる。
(注) 「連結納税基本通達逐条解説」(秋元秀仁編著、税務研究会出版局)の連結納税基本通達1-2-2の解説参照。
一方、全部取得条項付種類株式方式又は株式併合方式の場合、全部取得条項付種類株式の取得又は株式併合の効力発生日と端数処理が完了した日のいずれになるのか疑問が生じるが、実態として、買収会社及び買収対象会社以外に買収対象会社の株式を所有する者が存在しないことが確定するのは、端数処理が完了した時であると考えられるため、完全支配関係発生日も端数処理が完了した日、具体的には、裁判所の許可を得て、買収会社又は買収対象会社が株式を取得した日(上記「株式取得日」参照)に完全支配関係が生じると考えられる。
この場合、裁判所の許可や買取り手続の進行状況によっては、連結納税に加入する日がわからない状態が続く可能性もあり、少なくとも、スキームの検討段階では、連結納税への加入がいつになるのか(決算をまたぐのかまたがないのか)わからない、ということになる。
いずれにせよ、完全支配関係発生日が、全部取得条項付種類株式の取得又は株式併合の効力発生日と端数処理が完了した日のいずれになるのかについて、今後、通達で明確化した方が実務上の混乱も生じないであろう。
〔追記:2017/7/26〕
平成29年6月30日付け(HP公表は7/14)、国税庁から『法人税基本通達等の一部改正について(法令解釈通達)』が公表された。
その中で、連結納税基本通達1-2-2(支配関係及び完全支配関係を有することとなった日の意義)については改正がされなかった。
ただし、連結納税基本通達1-6-1(組織再編成の日)において、株式交換等を行った日(組織再編成の日)とは、次に掲げる組織再編成の区分に応じ、それぞれ次に掲げる日をいうこととされた。
上記の規定から、全部取得条項付種類株式方式、株式併合方式、株式売渡請求方式により、連結納税に加入した場合、「完全支配関係を有することとなった日」は、「組織再編成の日」と同日になることがわかる。
つまり、全部取得条項付種類株式方式又は株式併合方式の場合の「完全支配関係を有することとなった日」は、「買収会社(買収会社と完全支配関係を有する法人を含む)に1株未満の株式の全てを売却した日」又は「買収対象会社が1株未満の株式の全てを買い取った日」となり、株式売渡請求方式の場合、株式売渡請求をするに際して「買収会社が株式を取得する日として定めた日」となる。
しかし、全部取得条項付種類株式方式又は株式併合方式について、「売却した日」又は「買い取った日」が具体的にいつになるかは、連結納税基本通達1-2-2が改正されていないことから、やはり、上記で解説したとおり、裁判所の許可を得て、買収会社又は買収対象会社が株式を取得した日(上記「株式取得日」参照)に完全支配関係が生じると考えられる。
全部取得条項付種類株式方式又は株式併合方式については、裁判所の許可を得た1株未満の端数処理をすることで完全子法人化が実現するため、今後、連結納税基本通達1-2-2において、その点について取扱いを定めることを期待する。
〔凡例〕
新法法・・・(平成29年度税制改正後の)法人税法
新法令・・・(平成29年度税制改正後の)法人税法施行令
新法規・・・(平成29年度税制改正後の)法人税法施行規則
平成29年改正法令・・・法人税法施行令等の一部を改正する政令(平成29年政令第106号)
連基通・・・連結納税基本通達
(例)新法法122の12①四・・・(平成29年度税制改正後の)法人税法122条の12第1項第4号
(了)
【参考記事】
平成29年度税制改正における『組織再編税制』改正事項の確認
この連載の公開日程は、下記の連載目次をご覧ください。