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実務必須の
[重要税務判例]
【第98回】
「共有不動産に係る不動産所得と事務管理事件」
~最判平成22年1月19日(集民233号1頁)~
弁護士 菊田 雅裕
-本連載の趣旨-
本連載は、税務分野の重要判例の要旨を、できるだけ簡単な形でご紹介するものである。
税務争訟は、請求内容や主張立証等が細かく煩雑となりやすい類型の争訟であり、事件の正確な理解のためには、処分経過の把握や判決文の十分な読み込み等が必要となってくるが、若手税理士をはじめとする多忙な読者諸氏が、日常業務をこなしつつ判例研究の時間を確保することは、容易なことではないであろう。他方、これから税務重要判例を知識として蓄積していこうとする者にとっては、要点の把握すら困難な事件も数多い。
本連載では、解説のポイントを絞り、時には大胆な要約や言い換え等も行って、上記のような読者の方に、重要判例の概要を素早く把握していただこうと考えている。
このような企画趣旨から、本連載における解説は、自ずと必要最低限のものとなり、基礎知識の説明、判例の繊細なニュアンスの紹介、多角的な分析、主要な争点以外の判断事項の紹介等を省略することも多くなると思われるが、ご容赦をいただきたい。
なお、より深い内容については、できるだけ論末において他稿をご紹介するので、そちらをご参照いただきたい。
▷今回の題材
共有不動産に係る不動産所得と事務管理事件
最判平成22年1月19日(集民233号1頁)
《概要》
XとYは兄弟で、本件不動産を各自2分の1の持分割合で共有していた。Yは、本件不動産をAに賃貸し、賃料収入を得ていた。そして、Yは、当該賃料収入全額を、Yの不動産所得に係る収入金額として、B税務署長に対して所得税の確定申告をし、これに基づき所得税の納付をした。また、市県民税の納付もした。
もっとも、賃料収入の2分の1はXに帰属すべきものであったから、Xは、Yに対し、これに相当する額の不当利得返還請求権を有することとなった。そこで、Xは、Yに対し、約3,550万円の不当利得返還請求訴訟を提起した。
他方、Yは、本件不動産に係る固定資産税、修繕費を支払い、また、XYの両親の相続の際に、Xが負担すべき相続税を納付していたので、これらのうちXが負担すべき分について、事務管理に基づく費用償還請求権等として、約2,150万円の反対債権を取得していた。Yは、これをもって、XのYに対する不当利得返還請求権と相殺したため、XのYに対する不当利得返還請求権の額は、約1,400万円となった。
Xは、Yに対し、これについての不当利得返還請求訴訟を提起した。これに対し、Yは、賃料収入のうちXに帰属する部分を含めて不動産所得として所得税の確定申告をした結果、所得税・市県民税合計約230万円を過大に納付することになったが、これについても事務管理が成立するとして、これを反対債権とする相殺の主張をした。
最高裁は、Yの主張を認めなかった。
《関係図》
▷争点
共有者の1人が、共有不動産から生ずる賃料を全額自己の収入として所得税の額を過大に申告し、所得税や市県民税を過大に納付した場合、他の共有者のために事務管理は成立するか。
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