公開日: 2014/12/04 (掲載号:No.97)
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〔事例で使える〕中小企業会計指針・会計要領《賞与引当金》編 【第1回】「支給見込額基準」

筆者: 前原 啓二

〔事例で使える〕中小企業会計指針・会計要領

《賞与引当金》編

【第1回】

「支給見込額基準」

 

公認会計士・税理士 前原 啓二

 

本連載の趣旨

「中小企業の会計に関する指針」(以下「中小企業会計指針」とします)は、中小企業が計算書類の作成に当たり拠ることが望ましい会計処理等を示すもので、一定の水準を保ったものとされています。これに比べ簡単な会計処理をすることが適切と考えられる中小企業を対象に「中小企業の会計に関する基本要領」も公表されました。

しかし、これらは簡潔に文章で記載されており、概念的には理解できても、実際にはどのように会計処理するのかがわからないため、仕方なく法人税法の規定による決算処理を続けている中小企業が散見されます。

そこで、本連載では、実際の中小企業で行われている基本的かつ重要な会計処理の事例をテーマごとに選び出し、「中小企業会計指針」等に基づく会計処理の一例について数値例を用いて具体的に示して、実務上のモデルとなるように解説します。また、法人税法規定による処理との差異と税務調整についても紹介します。

テーマについては、「中小企業会計指針」等に基づく会計処理と法人税法規定による処理との差異が顕著なものから順次取り上げます。

連載の第3弾として、賞与引当金を取り上げます。

本連載が、「中小企業会計指針」等のより一層の普及、さらに、中小企業の経営実態の正確な把握や適切な経営管理への発展に、少しでもつながれば幸いです。

《賞与引当金》編のラインナップ

  • 【第1回】 支給見込額基準(本稿)
  • 【第2回】 支給対象期間基準
  • 【第3回】 未払賞与
  • 【第4回】 役員賞与引当金

はじめに

個別注記表の重要な会計方針において、賞与引当金の計上基準として、「従業員の賞与支給に備えるため、支給見込額の当期負担分を計上している」という記載を見ることがあります。

今回は、賞与引当金の原則的な計上方法である『支給見込額基準』についてご紹介します。

【設例1】

当社の給与規程では、従業員賞与について次のように規定されています。

(1) 当期(X1年4月1日~X2年3月31日)末決算作業時点において、次回X2年7月10日の夏季賞与支給額は、6,000,000円と見込まれます。

(2) 翌期X2年7月10日における賞与の実際支給額は、6,100,000円です。

 

1 当期末および翌期X2年7月10日の仕訳

〈当期末〉

(借方) 賞与引当金繰入額 4,000,000   (貸方) 賞与引当金    4,000,000

〈翌期X2年7月10日〉

(借方) 賞与引当金     4,000,000   (貸方) 普通預金     6,100,000

     賞与          2,100,000

賞与引当金は法的債務(条件付債務)である引当金に該当し、負債として計上しなければならないとされています(中小企業会計指針49)。具体的には、翌期に従業員に対して支給する賞与の見積額のうち、当期の負担に属する部分の金額を、賞与引当金として計上します(中小企業会計指針51)。

この設例では、翌期X2年7月10日に従業員に対して支給する賞与の見積額が6,000,000円であり、この賞与の支給対象期間は、X1年12月1日からX2年5月31日までの6ヶ月です。そこで、この賞与見積額6,000,000円のうち当期の負担に属する部分は、X1年12月1日から当期末X2年3月31日までの4ヶ月部分として、次のように算定して賞与引当金に計上します。

賞与見積額6,000,000円×4ヶ月÷6ヶ月=4,000,000円

翌期の実際支給日において、実際支給額6,100,000円と賞与引当金4,000,000円との差額2,100,000円を翌期の賞与として計上します。この結果、実際の賞与支給額6,100,000円のうち、支給対象期間がX1年12月1日から当期末X2年3月31日までの部分4,000,000円は当期の費用に、X2年4月1日から5月31日までの部分2,000,000円と見積誤差100,000円は翌期の費用に計上されます。

 

2 決算書の金額

〈当期損益計算書〉

販売費及び一般管理費(又は製造費用)

賞与引当金繰入額    4,000,000

〈当期末貸借対照表〉

流動負債

賞与引当金       4,000,000

 

3 損益計算書の当期純損益から法人税申告書の課税所得を算出する際の加算・減算調整

〈当期法人税申告書別表四〉

加算・留保

賞与引当金繰入額    4,000,000

〈当期法人税申告書別表五(一)〉

税務上、賞与引当金繰入額については、平成10年度税制改正前には損金算入が認められていましたが、平成10年度税制改正においてこの取扱いが廃止されました。したがって、当期末において計上された賞与引当金4,000,000円は損金算入されず、原則として賞与が実際に支払われた日(翌期、X2年7月10日)の属する事業年度において損金算入できることになります。

(了)

[凡例]

  • 中小企業会計指針・・・中小企業の会計に関する指針
  • 中小企業会計要領・・・中小企業の会計に関する基本要領

[参考]
中小企業の会計に関する指針・中小企業の会計に関する基本要領」(日本税理士会連合会ホームページ)

〔事例で使える〕中小企業会計指針・会計要領

《賞与引当金》編

【第1回】

「支給見込額基準」

 

公認会計士・税理士 前原 啓二

 

本連載の趣旨

「中小企業の会計に関する指針」(以下「中小企業会計指針」とします)は、中小企業が計算書類の作成に当たり拠ることが望ましい会計処理等を示すもので、一定の水準を保ったものとされています。これに比べ簡単な会計処理をすることが適切と考えられる中小企業を対象に「中小企業の会計に関する基本要領」も公表されました。

しかし、これらは簡潔に文章で記載されており、概念的には理解できても、実際にはどのように会計処理するのかがわからないため、仕方なく法人税法の規定による決算処理を続けている中小企業が散見されます。

そこで、本連載では、実際の中小企業で行われている基本的かつ重要な会計処理の事例をテーマごとに選び出し、「中小企業会計指針」等に基づく会計処理の一例について数値例を用いて具体的に示して、実務上のモデルとなるように解説します。また、法人税法規定による処理との差異と税務調整についても紹介します。

テーマについては、「中小企業会計指針」等に基づく会計処理と法人税法規定による処理との差異が顕著なものから順次取り上げます。

連載の第3弾として、賞与引当金を取り上げます。

本連載が、「中小企業会計指針」等のより一層の普及、さらに、中小企業の経営実態の正確な把握や適切な経営管理への発展に、少しでもつながれば幸いです。

《賞与引当金》編のラインナップ

  • 【第1回】 支給見込額基準(本稿)
  • 【第2回】 支給対象期間基準
  • 【第3回】 未払賞与
  • 【第4回】 役員賞与引当金

はじめに

個別注記表の重要な会計方針において、賞与引当金の計上基準として、「従業員の賞与支給に備えるため、支給見込額の当期負担分を計上している」という記載を見ることがあります。

今回は、賞与引当金の原則的な計上方法である『支給見込額基準』についてご紹介します。

【設例1】

当社の給与規程では、従業員賞与について次のように規定されています。

(1) 当期(X1年4月1日~X2年3月31日)末決算作業時点において、次回X2年7月10日の夏季賞与支給額は、6,000,000円と見込まれます。

(2) 翌期X2年7月10日における賞与の実際支給額は、6,100,000円です。

 

1 当期末および翌期X2年7月10日の仕訳

〈当期末〉

(借方) 賞与引当金繰入額 4,000,000   (貸方) 賞与引当金    4,000,000

〈翌期X2年7月10日〉

(借方) 賞与引当金     4,000,000   (貸方) 普通預金     6,100,000

     賞与          2,100,000

賞与引当金は法的債務(条件付債務)である引当金に該当し、負債として計上しなければならないとされています(中小企業会計指針49)。具体的には、翌期に従業員に対して支給する賞与の見積額のうち、当期の負担に属する部分の金額を、賞与引当金として計上します(中小企業会計指針51)。

この設例では、翌期X2年7月10日に従業員に対して支給する賞与の見積額が6,000,000円であり、この賞与の支給対象期間は、X1年12月1日からX2年5月31日までの6ヶ月です。そこで、この賞与見積額6,000,000円のうち当期の負担に属する部分は、X1年12月1日から当期末X2年3月31日までの4ヶ月部分として、次のように算定して賞与引当金に計上します。

賞与見積額6,000,000円×4ヶ月÷6ヶ月=4,000,000円

翌期の実際支給日において、実際支給額6,100,000円と賞与引当金4,000,000円との差額2,100,000円を翌期の賞与として計上します。この結果、実際の賞与支給額6,100,000円のうち、支給対象期間がX1年12月1日から当期末X2年3月31日までの部分4,000,000円は当期の費用に、X2年4月1日から5月31日までの部分2,000,000円と見積誤差100,000円は翌期の費用に計上されます。

 

2 決算書の金額

〈当期損益計算書〉

販売費及び一般管理費(又は製造費用)

賞与引当金繰入額    4,000,000

〈当期末貸借対照表〉

流動負債

賞与引当金       4,000,000

 

3 損益計算書の当期純損益から法人税申告書の課税所得を算出する際の加算・減算調整

〈当期法人税申告書別表四〉

加算・留保

賞与引当金繰入額    4,000,000

〈当期法人税申告書別表五(一)〉

税務上、賞与引当金繰入額については、平成10年度税制改正前には損金算入が認められていましたが、平成10年度税制改正においてこの取扱いが廃止されました。したがって、当期末において計上された賞与引当金4,000,000円は損金算入されず、原則として賞与が実際に支払われた日(翌期、X2年7月10日)の属する事業年度において損金算入できることになります。

(了)

[凡例]

  • 中小企業会計指針・・・中小企業の会計に関する指針
  • 中小企業会計要領・・・中小企業の会計に関する基本要領

[参考]
中小企業の会計に関する指針・中小企業の会計に関する基本要領」(日本税理士会連合会ホームページ)

連載目次

〔事例で使える〕

中小企業会計指針・会計要領

《金銭債権-手形債権・電子記録債権》 編(全2回)

《税金費用・税金債務》 編(全2回)

《金銭債務-社債》 編(全1回)

《繰延資産・資産除去債務-敷金》 編(全2回)

筆者紹介

前原 啓二

(まえはら・けいじ)

公認会計士・税理士

昭和60年 慶應義塾大学商学部卒業
昭和62年 監査法人中央会計事務所(後の中央青山監査法人)入社
平成 3 年 公認会計士登録
平成 5 年 クーパース・アンド・ライブランド(現プライスウォーターハウスクーパース)ロンドン事務所勤務
平成12年 前原会計事務所開設、米国公認会計士試験合格

現在、前原会計事務所代表
関西学院大学大学院経営戦略研究科客員教授
兵庫県社会福祉協議会経営相談室専門相談員

【著書等】
・『居住者の国外財産調書制度と外国税額控除』(清文社)
・『事例とチェックリストでよくわかる外国税額控除の申告実務』(清文社)
・『「中小企業の会計に関する指針」ガイドブック(平成20年版)』(共著)(清文社)
・『国際会計基準なるほどQ&A』(共著)(中央経済社)
・「関連会社・取引先支援をめぐる税務の問題―人的役務の提供」『月刊税理』2011年8月号(164項‐170項)(ぎょうせい)

 

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