公開日: 2017/02/02 (掲載号:No.204)
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被災したクライアント企業への実務支援のポイント〔法務面のアドバイス〕 【第3回】「被災による取引関係の法律問題」

筆者: 岨中 良太

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被災したクライアント企業への

実務支援のポイント

〔法務面のアドバイス〕

【第3回】

「被災による取引関係の法律問題」

 

弁護士 岨中 良太

 

1 賃貸借契約

(1) 賃借していた建物の被災

前回述べたとおり、賃借していた建物が災害によって被害を受けた場合、賃貸人との賃貸借契約が終了するか否かは、当該建物が「滅失」したか否かによって決まる。

(2) 建物が滅失し賃貸借契約が終了する場合

災害によって建物が滅失し、賃貸借契約が終了する場合には、賃借人は賃貸人に対して敷金の返還を請求することができる。敷金返還請求権は、本来であれば賃借人が賃貸人に目的物を返還した時に発生すると解されているが、建物が滅失した場合には目的物の返還そのものが観念できないからである。

(3) 建物が滅失せず賃貸借契約が終了しない場合

前回述べたとおり、賃貸人は、賃貸目的物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う(民法601条1項)ことから、賃借人は賃貸人に対して、建物の修繕を請求することになる。

この場合に、賃貸人が修繕義務を負うにもかかわらず修繕を行おうとせず、賃借人の業務に支障が生じた場合、賃借人は賃貸人に対し、債務不履行責任に基づく損害賠償請求をすることができる。

また、使用収益が妨げられた割合に応じて賃料の一部の支払いを拒み、あるいは賃料減額請求をすることも可能であるが、減額割合に関する紛争をできるだけ避けるため、賃貸人との事前の協議は行った方が望ましい。

さらに、賃借人自ら賃貸目的物を修繕し、その修繕費用を賃貸人に請求することも可能であるが、修繕の範囲を超えて増改築となってしまうと賃貸人から無断増改築を理由に契約解除を主張される場合もあることから、やはり賃貸人との事前の協議は行った方が望ましい。

 

2 災害によって企業が取引先に対して負う債務を履行できなくなった場合

取引先との契約に従った債務の履行ができなくなった場合(履行不能)、期日を過ぎて履行した場合(履行遅滞)、完全な履行ができなかった場合(不完全履行)には、いずれも債務不履行責任(民法415条)が問題となり、企業が取引先に対して損害賠償責任を負う可能性がある。

この点、不可抗力によって債務を履行できなくなった場合には、債務不履行責任が成立するための要件の一つである「債務者の帰責性」を満たさず、責任を負わない場合があるが、災害が原因であれば全て不可抗力になるわけではない。

債務の内容や債務不履行の態様など、事案ごとに個別に不可抗力といえるかどうかの認定が行われることになる。

 

3 災害によって取引先が債務を履行することができなくなった場合

逆に、不可抗力といえる災害によって取引先が商品の引渡等の債務を履行することができなくなった場合に、企業は商品の代金を支払う義務を負うかについては、危険負担が問題となる。

民法上の原則では、一方の債務の履行が不能となった場合には、反対債務も消滅するとされている(民法536条1項)。この場合には、企業は商品の代金を支払う義務を負わない。

例外として、契約の目的物が特定物(中古品や土地のようにその物の個性に着目したもの)の場合(民法534条1項)、契約の目的物が種類物(不特定物)(同じ種類の物のように代替性のあるもの)であっても一定数量が選び出されて「特定」している場合(同2項)には、一方の債務の履行が不能となっても反対債務も消滅しない。この場合には、企業は商品の代金を支払う義務を負うことになる。

もっとも、民法上の危険負担の定めは当事者間の特約で変更することができるため、実際には民法と異なる約定をしている場合も多い。

(了)

この連載の公開日程は、下記の連載目次をご覧ください。

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被災したクライアント企業への

実務支援のポイント

〔法務面のアドバイス〕

【第3回】

「被災による取引関係の法律問題」

 

弁護士 岨中 良太

 

1 賃貸借契約

(1) 賃借していた建物の被災

前回述べたとおり、賃借していた建物が災害によって被害を受けた場合、賃貸人との賃貸借契約が終了するか否かは、当該建物が「滅失」したか否かによって決まる。

(2) 建物が滅失し賃貸借契約が終了する場合

災害によって建物が滅失し、賃貸借契約が終了する場合には、賃借人は賃貸人に対して敷金の返還を請求することができる。敷金返還請求権は、本来であれば賃借人が賃貸人に目的物を返還した時に発生すると解されているが、建物が滅失した場合には目的物の返還そのものが観念できないからである。

(3) 建物が滅失せず賃貸借契約が終了しない場合

前回述べたとおり、賃貸人は、賃貸目的物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う(民法601条1項)ことから、賃借人は賃貸人に対して、建物の修繕を請求することになる。

この場合に、賃貸人が修繕義務を負うにもかかわらず修繕を行おうとせず、賃借人の業務に支障が生じた場合、賃借人は賃貸人に対し、債務不履行責任に基づく損害賠償請求をすることができる。

また、使用収益が妨げられた割合に応じて賃料の一部の支払いを拒み、あるいは賃料減額請求をすることも可能であるが、減額割合に関する紛争をできるだけ避けるため、賃貸人との事前の協議は行った方が望ましい。

さらに、賃借人自ら賃貸目的物を修繕し、その修繕費用を賃貸人に請求することも可能であるが、修繕の範囲を超えて増改築となってしまうと賃貸人から無断増改築を理由に契約解除を主張される場合もあることから、やはり賃貸人との事前の協議は行った方が望ましい。

 

2 災害によって企業が取引先に対して負う債務を履行できなくなった場合

取引先との契約に従った債務の履行ができなくなった場合(履行不能)、期日を過ぎて履行した場合(履行遅滞)、完全な履行ができなかった場合(不完全履行)には、いずれも債務不履行責任(民法415条)が問題となり、企業が取引先に対して損害賠償責任を負う可能性がある。

この点、不可抗力によって債務を履行できなくなった場合には、債務不履行責任が成立するための要件の一つである「債務者の帰責性」を満たさず、責任を負わない場合があるが、災害が原因であれば全て不可抗力になるわけではない。

債務の内容や債務不履行の態様など、事案ごとに個別に不可抗力といえるかどうかの認定が行われることになる。

 

3 災害によって取引先が債務を履行することができなくなった場合

逆に、不可抗力といえる災害によって取引先が商品の引渡等の債務を履行することができなくなった場合に、企業は商品の代金を支払う義務を負うかについては、危険負担が問題となる。

民法上の原則では、一方の債務の履行が不能となった場合には、反対債務も消滅するとされている(民法536条1項)。この場合には、企業は商品の代金を支払う義務を負わない。

例外として、契約の目的物が特定物(中古品や土地のようにその物の個性に着目したもの)の場合(民法534条1項)、契約の目的物が種類物(不特定物)(同じ種類の物のように代替性のあるもの)であっても一定数量が選び出されて「特定」している場合(同2項)には、一方の債務の履行が不能となっても反対債務も消滅しない。この場合には、企業は商品の代金を支払う義務を負うことになる。

もっとも、民法上の危険負担の定めは当事者間の特約で変更することができるため、実際には民法と異なる約定をしている場合も多い。

(了)

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連載目次

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被災したクライアント企業への
実務支援のポイント

【経営面のアドバイス

(公認会計士・税理士 中谷敏久)

【会計面のアドバイス

(公認会計士・税理士 篠藤敦子)
(公認会計士・税理士 新名貴則)
(公認会計士 深谷玲子)

【労務面のアドバイス

(特定社会保険労務士・中小企業診断士 小宮山敏恵)

【税務面(法人税・消費税)のアドバイス】

(公認会計士・税理士 新名貴則)

【税務面(所得税)のアドバイス】

(公認会計士・税理士 篠藤敦子)

【法務面のアドバイス】

(弁護士 岨中良太)

【ケーススタディQ&A】

(公認会計士・税理士 篠藤敦子)

(公認会計士・税理士 深谷玲子)

筆者紹介

岨中 良太

(そわなか・りょうた)

弁護士

京都大学法学部卒業
平成16年   弁護士法人関西法律特許事務所入所
平成22年   北船場法律事務所開設

平成20~28年 甲南大学大学院会計専門職専攻(会計大学院)特別講師(企業法)
平成23年~  公認不正検査士登録
平成24年~  中小企業経営革新等認定支援機関登録

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