公開日: 2026/09/24 (掲載号:No.687)
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谷口教授と学ぶ「税法基本判例」 【第61回】「馬券払戻金の一時所得・雑所得該当性の判断枠組み」-大阪事件・最判平成27年3月10日刑集69巻2号434頁に対する札幌事件・東京地判平成27年5月14日訟月62巻4号628頁の「面従腹背」-

筆者: 谷口 勢津夫

谷口教授と学ぶ

税法基本判例

【第61回】

「馬券払戻金の一時所得・雑所得該当性の判断枠組み」

-大阪事件・最判平成27年3月10日刑集69巻2号434頁に対する札幌事件・東京地判平成27年5月14日訟月62巻4号628頁の「面従腹背」-

 

大阪学院大学法学部教授
谷口 勢津夫

 

Ⅰ はじめに

譲渡所得課税に関する判例の検討は前回で一先ず擱くとして、今回は、一時所得と雑所得の区分(以下では「営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得」と「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」の区分に限る)に関する判例を取り上げて検討することにする。一時所得と雑所得の区分については、近年、馬券購入方法の多様化や通信手段・IT技術等の飛躍的発展等に伴い馬券払戻金の所得区分が争われるようになり注目を集めてきた(そのような事件を以下では「競馬事件」という)。

競馬事件のうち大阪事件(最判平成27年3月10日刑集69巻2号434頁。以下「大阪事件最判」という)と札幌事件(最判平成29年12月15日民集71巻10号2235頁。以下「札幌事件最判」という)で最高裁の判断が示され、馬券払戻金の所得区分に関する判断枠組みが確立された。

その判断枠組みについて、その後の適用状況を簡単にみておくと、それは、いくつかの競馬事件における裁判所の判断で参照され(東京高判平成28年9月29日訟月63巻7号1860頁、東京高判令和2年11月4日訟月67巻8号1276頁、大阪高判令和3年9月16日税資271号順号13604、東京高判令和6年2月14日税資274号順号13941等。なお、事業所得と一時所得の区分が争われた競馬事件については東京高判平成29年9月28日税資267号順号13068参照)、また、競艇・競輪その他の賭けの払戻金の所得区分が争われた事件における裁判所の判断でも参照されてきた(大阪高判令和2年10月16日税資270号順号13468、広島地判令和3年6月23日税資271号順号13578、東京高判令和3年8月25日税資271号順号13597等)。なお、馬券払戻金の所得区分の問題については、国会(衆議院)でも、中谷一馬「競馬の払戻金に対する課税等に関する質問主意書」(令和6年4月17日提出質問第81号)が提出され、これに対する政府答弁(内閣衆質213第81号令和6年4月26日)がされたことも附記しておこう。

このように馬券払戻金の所得区分に関する最高裁の判断枠組みとその適用状況を振り返るとき法解釈方法論の観点から注目すべきは、大阪事件最判と札幌事件最判との間に示された札幌事件の第一審・東京地判平成27年5月14日訟月62巻4号628頁(以下「札幌事件東京地判」という)が、大阪事件最判が示した文理解釈重視の判断枠組みを「潜脱」し、同最判が否定した検察官の主張にみられる一種の目的論的解釈によって、同最判とは「真逆」の結論を導き出したことである。

筆者は、札幌事件東京地判について、既に本誌における別の連載(谷口教授と学ぶ「税法の基礎理論」第13回。拙著『税法の基礎理論』(清文社・2021年)第2章第5節に収録済み)で、文理解釈の「潜脱」による目的論的解釈の過形成という観点から検討し、札幌事件東京地判を大阪事件最判に対する「面従腹背判決」とみて批判したことがある。以下では、競馬事件において最高裁が示した馬券払戻金の所得区分に関する判断枠組みの意味内容を明らかにするため、本誌の転載許可を得て、上記連載第13回以下を原則としてそのまま再掲させていただくことにする。

 

Ⅱ 大阪事件最判の判断枠組み

まず、大阪事件最判が馬券払戻金の所得区分について示した下記の判断枠組み(下線・太字・[]書筆者)からみておこう。

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税法基本判例

【第61回】

「馬券払戻金の一時所得・雑所得該当性の判断枠組み」

-大阪事件・最判平成27年3月10日刑集69巻2号434頁に対する札幌事件・東京地判平成27年5月14日訟月62巻4号628頁の「面従腹背」-

 

大阪学院大学法学部教授
谷口 勢津夫

 

Ⅰ はじめに

譲渡所得課税に関する判例の検討は前回で一先ず擱くとして、今回は、一時所得と雑所得の区分(以下では「営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得」と「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」の区分に限る)に関する判例を取り上げて検討することにする。一時所得と雑所得の区分については、近年、馬券購入方法の多様化や通信手段・IT技術等の飛躍的発展等に伴い馬券払戻金の所得区分が争われるようになり注目を集めてきた(そのような事件を以下では「競馬事件」という)。

競馬事件のうち大阪事件(最判平成27年3月10日刑集69巻2号434頁。以下「大阪事件最判」という)と札幌事件(最判平成29年12月15日民集71巻10号2235頁。以下「札幌事件最判」という)で最高裁の判断が示され、馬券払戻金の所得区分に関する判断枠組みが確立された。

その判断枠組みについて、その後の適用状況を簡単にみておくと、それは、いくつかの競馬事件における裁判所の判断で参照され(東京高判平成28年9月29日訟月63巻7号1860頁、東京高判令和2年11月4日訟月67巻8号1276頁、大阪高判令和3年9月16日税資271号順号13604、東京高判令和6年2月14日税資274号順号13941等。なお、事業所得と一時所得の区分が争われた競馬事件については東京高判平成29年9月28日税資267号順号13068参照)、また、競艇・競輪その他の賭けの払戻金の所得区分が争われた事件における裁判所の判断でも参照されてきた(大阪高判令和2年10月16日税資270号順号13468、広島地判令和3年6月23日税資271号順号13578、東京高判令和3年8月25日税資271号順号13597等)。なお、馬券払戻金の所得区分の問題については、国会(衆議院)でも、中谷一馬「競馬の払戻金に対する課税等に関する質問主意書」(令和6年4月17日提出質問第81号)が提出され、これに対する政府答弁(内閣衆質213第81号令和6年4月26日)がされたことも附記しておこう。

このように馬券払戻金の所得区分に関する最高裁の判断枠組みとその適用状況を振り返るとき法解釈方法論の観点から注目すべきは、大阪事件最判と札幌事件最判との間に示された札幌事件の第一審・東京地判平成27年5月14日訟月62巻4号628頁(以下「札幌事件東京地判」という)が、大阪事件最判が示した文理解釈重視の判断枠組みを「潜脱」し、同最判が否定した検察官の主張にみられる一種の目的論的解釈によって、同最判とは「真逆」の結論を導き出したことである。

筆者は、札幌事件東京地判について、既に本誌における別の連載(谷口教授と学ぶ「税法の基礎理論」第13回。拙著『税法の基礎理論』(清文社・2021年)第2章第5節に収録済み)で、文理解釈の「潜脱」による目的論的解釈の過形成という観点から検討し、札幌事件東京地判を大阪事件最判に対する「面従腹背判決」とみて批判したことがある。以下では、競馬事件において最高裁が示した馬券払戻金の所得区分に関する判断枠組みの意味内容を明らかにするため、本誌の転載許可を得て、上記連載第13回以下を原則としてそのまま再掲させていただくことにする。

 

Ⅱ 大阪事件最判の判断枠組み

まず、大阪事件最判が馬券払戻金の所得区分について示した下記の判断枠組み(下線・太字・[]書筆者)からみておこう。

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連載目次

谷口教授と学ぶ「税法基本判例」

第1回~第20回

第21回~

筆者紹介

谷口 勢津夫

(たにぐち・せつお)

大阪学院大学法学部教授

1956年高知県生まれ。京都大学法学部卒業、同大学大学院法学研究科博士後期課程単位修得退学。甲南大学法学部教授、大阪大学大学院高等司法研究科教授を経て2022年4月より現職。大阪大学名誉教授。ほかに大阪大学大学院高等司法研究科長・大阪大学法務室長、アレクサンダー・フォン・フンボルト財団奨励研究員(Forschungsstipendiat der Alexander von Humboldt-Stiftung)・ミュンヘン大学客員研究員、日本税法学会理事長、租税法学会理事、IFA(International Fiscal Association)日本支部理事、資産評価政策学会理事、司法試験考査委員、公認会計士試験試験委員、独立行政法人造幣局契約監視委員会委員・委員長、大阪府収用委員会委員・会長、大阪府行政不服審査会委員・会長、公益財団法人日本税務研究センター評議員・同センター理事・同センター「日税研究賞」選考委員・同センター編集委員会委員、公益財団法人納税協会連合会「税に関する論文」選考委員、公益社団法人商事法務研究会「商事法務研究会賞」審査委員、近畿税理士会・近畿税務研究センター顧問など(一部現職。ほか歴任)。

主要著書は『租税条約論』(清文社・1999年)、『租税回避論』(清文社・2014年)、『租税回避研究の展開と課題〔清永敬次先生謝恩論文集〕』(共著・ミネルヴァ書房・2015年)、『税法の基礎理論』(清文社・2021年)、『税法創造論』(清文社・2022年)、『税法基本判例Ⅰ』(清文社・2023年)、『基礎から学べる租税法〔第4版〕』(共著・弘文堂・2025年)、『税法基本講義〔第8版〕』(弘文堂・2025年)、『税法基本判例Ⅱ』(清文社・2025年)など。
 
   

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