谷口教授と学ぶ
税法基本判例
【第61回】
「馬券払戻金の一時所得・雑所得該当性の判断枠組み」
-大阪事件・最判平成27年3月10日刑集69巻2号434頁に対する札幌事件・東京地判平成27年5月14日訟月62巻4号628頁の「面従腹背」-
大阪学院大学法学部教授
谷口 勢津夫
Ⅰ はじめに
譲渡所得課税に関する判例の検討は前回で一先ず擱くとして、今回は、一時所得と雑所得の区分(以下では「営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得」と「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」の区分に限る)に関する判例を取り上げて検討することにする。一時所得と雑所得の区分については、近年、馬券購入方法の多様化や通信手段・IT技術等の飛躍的発展等に伴い馬券払戻金の所得区分が争われるようになり注目を集めてきた(そのような事件を以下では「競馬事件」という)。
競馬事件のうち大阪事件(最判平成27年3月10日刑集69巻2号434頁。以下「大阪事件最判」という)と札幌事件(最判平成29年12月15日民集71巻10号2235頁。以下「札幌事件最判」という)で最高裁の判断が示され、馬券払戻金の所得区分に関する判断枠組みが確立された。
その判断枠組みについて、その後の適用状況を簡単にみておくと、それは、いくつかの競馬事件における裁判所の判断で参照され(東京高判平成28年9月29日訟月63巻7号1860頁、東京高判令和2年11月4日訟月67巻8号1276頁、大阪高判令和3年9月16日税資271号順号13604、東京高判令和6年2月14日税資274号順号13941等。なお、事業所得と一時所得の区分が争われた競馬事件については東京高判平成29年9月28日税資267号順号13068参照)、また、競艇・競輪その他の賭けの払戻金の所得区分が争われた事件における裁判所の判断でも参照されてきた(大阪高判令和2年10月16日税資270号順号13468、広島地判令和3年6月23日税資271号順号13578、東京高判令和3年8月25日税資271号順号13597等)。なお、馬券払戻金の所得区分の問題については、国会(衆議院)でも、中谷一馬「競馬の払戻金に対する課税等に関する質問主意書」(令和6年4月17日提出質問第81号)が提出され、これに対する政府答弁(内閣衆質213第81号令和6年4月26日)がされたことも附記しておこう。
このように馬券払戻金の所得区分に関する最高裁の判断枠組みとその適用状況を振り返るとき法解釈方法論の観点から注目すべきは、大阪事件最判と札幌事件最判との間に示された札幌事件の第一審・東京地判平成27年5月14日訟月62巻4号628頁(以下「札幌事件東京地判」という)が、大阪事件最判が示した文理解釈重視の判断枠組みを「潜脱」し、同最判が否定した検察官の主張にみられる一種の目的論的解釈によって、同最判とは「真逆」の結論を導き出したことである。
筆者は、札幌事件東京地判について、既に本誌における別の連載(谷口教授と学ぶ「税法の基礎理論」第13回。拙著『税法の基礎理論』(清文社・2021年)第2章第5節に収録済み)で、文理解釈の「潜脱」による目的論的解釈の過形成という観点から検討し、札幌事件東京地判を大阪事件最判に対する「面従腹背判決」とみて批判したことがある。以下では、競馬事件において最高裁が示した馬券払戻金の所得区分に関する判断枠組みの意味内容を明らかにするため、本誌の転載許可を得て、上記連載第13回のⅡ以下を原則としてそのまま再掲させていただくことにする。
Ⅱ 大阪事件最判の判断枠組み
まず、大阪事件最判が馬券払戻金の所得区分について示した下記の判断枠組み(下線・太字・[]書筆者)からみておこう。
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