〈ポイント解説〉
役員報酬の税務
【第14回】
「業績悪化改定事由に該当するか否かの判断」
税理士 中尾 隼大
【 質 問 】
前回に引き続き、業績悪化時の対応について質問させてください。
当社は新型コロナウイルス感染拡大により確実に業績が悪化する見通しであるため、役員報酬の減額を決議しているのは前回のとおりです。 一部の都市圏で緊急事態宣言が未だ解除されていないことも、業績悪化予測に拍車をかける結果となりそうです。
今回伺いたいのは、このたびの役員報酬減額決議がいわゆる定期同額給与の業績悪化改定事由に該当し、改定前と改定後の役員給与はそれぞれ損金算入できるのでしょうか。
また、役員給与に関して、業績悪化時に該当しそうな他の取扱いについても教えてください。
【 回 答 】
多くの場合は業績悪化改定事由に該当し、それぞれが定期同額給与として損金算入が可能だと思われます。
また、当該事情は、事前確定届出給与の変更においても業績悪化改定事由に当たると考えられます。
○●○● 解 説 ●○●○
(1) 業績悪化改定事由
定期同額給与が、役員の「お手盛り防止規定」として機能し、その要件充足により恣意性の排除が担保されているとして損金算入できる点は、【第11回】の通りである。この点、定時改定以外に、定期同額給与の要件を満たしながら改定が認められる事由の1つに、「業績悪化改定事由」がある。
これは、「経営の状況が著しく悪化したことその他これに類する理由」に該当する改定であれば定期同額給与とされるものである(法令69①一ハ)。そのためには、経営状況が著しく悪化した場合等、やむを得ず役員給与を減額せざるを得ない客観的事情があることが必要となり、単なる資金繰りの悪化や目標値未達成等はこれに該当しないとされている(法基通9-2-13)。したがって、株主や債権者、取引先との関係に鑑みて、役員給与を減額しなければならない等の具体的かつ客観的事情が必要となる。
また、その時点で財務状態が悪化しているとはいえなくとも、「役員給与の減額などの経営改善策を講じなければ、客観的な状況から今後著しく悪化することが不可避」である場合には、業績悪化改定事由に該当すると示されている(※1)。その他、多額の損害賠償金の発生やリコール費用の支出が不可避である場合等も業績悪化改定事由に該当すると示されているが、あくまでも客観的事情が必要となるのは同様だ。
(※1) 国税庁「役員給与に関するQ&A(平成 24 年4月改訂版)」Q1-2。
総じて、業績悪化改定事由に該当するというためには、このような客観的な事情があった、翻せば単なる利益調整目的の減額改定ではないと説明できるようにしておくことが必要であるが、その適否は個別に判断されることとなる。
(2) FAQの公表
それでは、感染拡大している新型コロナウイルスにより資金繰りや財務数値が悪化したことを受け、定時改定以外に役員給与の減額を実施した場合の取扱いはどのようになるのだろうか。
この点、国税庁は「国税における新型コロナウイルス感染症拡大防止への対応策と申告や納税などの当面の税務上の取扱いに関するFAQ」を公表しており、当該FAQは新型コロナウイルスの影響を受けたことによって役員給与の減額改定を行う法人に対する取扱いとして、2つのケースを例示している。
(※2) 当該FAQはこれまでに数回更新されているため、今後も更新される可能性がある。したがって、リンク先のFAQについては、常に更新の有無を確認していただきたい。
FAQによれば、
① イベント開催業を営む法人が、予定していたイベントがキャンセルとなったことにより人件費等の支払いに窮したため、役員給与の減額を行った場合(FAQ 問6)
② 観光客を主たる売上先とする法人が、今後のために経営改善を図る一環で役員給与の減額を行う場合(FAQ 問7)
の2ケースが示されており、①は取引銀行や株主との関係からもやむを得ず役員給与を減額しなければならない状況にある場合は業績悪化改定事由に該当することを改めて確認し、②は役員給与の減額等といった経営改善策を講じなければ、客観的な状況から判断して、急激に財務状況が悪化する可能性が高く、今後の経営状況が著しく悪化することが不可避である場合として認められるため、業績悪化改定事由に該当すると示されている。
新型コロナウイルス感染拡大や緊急事態宣言の延長により、いわゆる「巣籠もり消費」を除く大部分の経済活動が停滞し、多くの業界でその需要が回復する見通しも立っていないと思われる。このような現状に鑑みると、当該FAQは、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて業績が悪化した場合は、多くの場合に業績悪化改定事由として認められる客観的事情に当たると示したともいえそうである(※3)。
(※3) なお、期中に支給額を元に戻した場合は増額改定に当たり、改定前の金額を超える部分の金額が損金不算入となる。税務通信2020年4月27日号2頁。
少なくとも、営業自粛要請を受けて時短営業や休業を行った法人は客観的事情があるといえる他、県外からの来店を制限したり、感染拡大を要因とする収入の著しい下落がある法人にも客観的事情があると考えて然るべきだろう。
実際の判断においては、当該FAQの内容や今後の見通し等を踏まえた判断が必要となることに加え、その時点の状況や判断過程等を説明可能にしておくことが肝要であることは変わりない。
(3) 業績悪化時における事前確定届出給与の取扱い
事前確定届出給与に関する届出書を提出していた場合において、業績悪化改定事由に該当するか否かの判断においても、上記FAQが参考となる。すなわち、臨時改定事由及び業績悪化改定事由の判断は、定期同額給与と事前確定届出給与において同様の取扱いとなるからである(法令69⑤二)。
FAQでは、事前確定届出給与に関して直接は触れられていないが、新型コロナウイルス感染拡大による業績悪化を受けて事前確定届出給与の金額を変更する場合についても、弾力的に対応される余地があるだろう。
もっとも、事前確定届出給与制度を活用していて問題となるのは、届出書記載額と支給額が異なった場合であり、その支給額の全てが損金不算入とされる。ここで、事前確定届出給与制度を活用している場合、全くの無支給とすれば所得計算上の弊害はないことはよく知られるところである。
この点、事前確定届出給与制度は役員にも従業員と同じタイミングで事実上の賞与を支給するという目的から活用されることが通常であることに鑑みると、業績悪化時には定期同額給与の減額改定を行うよりも先に事前確定届出給与支給額をゼロとすることを優先する法人が多いと思われる。
したがって、事前確定届出給与額の変更は、【第7回】で触れたような、極端に事前確定届出給与額を多く、そして極端に定期同額給与を低く設定している場合等に特に検討することとなるだろう。
〔凡例〕
法法・・・法人税法
法令・・・法人税法施行令
法規・・・法人税法施行規則
法基通・・・法人税基本通達
措法・・・租税特別措置法
措令・・・租税特別措置法施行令
措規・・・租税特別措置法施行規則
措通・・・租税特別措置法関係通達
所令・・・所得税法施行令
(例)法法34①一・・・法人税法34条1項1号
(了)
「〈ポイント解説〉役員報酬の税務」は、毎月第3週に掲載されます。





















