公開日: 2017/03/09 (掲載号:No.209)
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被災したクライアント企業への実務支援のポイント〔税務面(所得税)のアドバイス〕 【第3回】「源泉所得税の取扱い②」~災害見舞金等の取扱い~

筆者: 篠藤 敦子

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被災したクライアント企業への

実務支援のポイント

〔税務面(所得税)のアドバイス〕

【第3回】

「源泉所得税の取扱い②」

~災害見舞金等の取扱い~

 

公認会計士・税理士 篠藤 敦子

 

被災時には、自社の役員や従業員(以下、従業員等という)に対して、災害見舞金を支給したり、生活再建に向けた様々な支援をすることがある。このような場合における源泉所得税の取扱いについて以下に解説する。

なお、各取扱いについては、国税庁のホームページに公表されている「災害に関する法人税、消費税及び源泉所得税の取扱いFAQ」が参考になる。

 

【1】 災害見舞金の支給

(1) 被災した従業員等へ支給する災害見舞金

心身又は資産に加えられた損害について個人が支払を受ける相当の見舞金に、所得税は課されない(所法9①十七、所令30三)。

企業が被災した従業員等に対して、損害の程度に応じて金額を決める等、一定の基準で支給する災害見舞金は「相当の見舞金」に該当すると考えられる。したがって、損害の程度に応じた一定の基準で支給額を定めている場合で、基準に基づいて支給する常識的な範囲の災害見舞金であれば、給与として源泉徴収する必要はない。

(例)
自宅の被災の程度(全壊、半壊、床上浸水、床下浸水等)に応じ、金額を決めて支給する災害見舞金

(2) 従業員等の家族が被災したときに支給する災害見舞金

個人が支払を受ける葬祭料、香典又は災害等の見舞金は、その金額が受け取った人の社会的地位、支払者との関係等に照らして社会通念上相当と認められるものであれば所得税は課されない(所基通9-23)。

したがって、従業員等の親族が被災した場合に、企業から従業員等に対して災害見舞金を支給するときには、次の要件を満たしていれば給与として源泉徴収する必要はない。

 一定の基準に基づいて支給すること
   

・従業員等と親族との関係に応じた一定の基準

・親族の被災の程度に応じた一定の基準

 社会通念上相当な金額であること

(例)
慶弔見舞金規程に、従業員等と被災した親族との関係及び親族の被災の程度に応じた一定の基準を設けて支給する災害見舞金

 

【2】 生活資金の無利息貸付け

災害や疾病により臨時的に多額の生活資金を要することとなった従業員等に対し、企業が資金を無利息又は低利で貸し付けることがある。この場合、返済に要する期間として合理的と認められる期間内に従業員等が受ける経済的利益(適正な利息と無利息又は低利の利息との差額)には、課税しなくても差し支えないこととされている(所基通36-28(1))。

したがって、被災した従業員等に対して、企業が損害の程度に応じた合理的な返済期間を定め、生活に必要な資金を無利息又は低利で貸し付ける場合には、利息相当額の経済的利益について給与として源泉徴収する必要はない。

(例)
被災した従業員等の生活資金として、損害の程度に応じた返済期間を定め無利息で貸与する貸付金

 

【3】 社宅の無償貸与

心身又は資産に加えられた損害について、個人が支払を受ける相当の見舞金に所得税は課されない(所法9①十七、所令30三)。

被災した自宅を修繕し再居住できるようになるまでの期間、又は被災してから新たな住居に入居できるまでの期間、企業が従業員等に対して無償で社宅を貸与することがある。この場合、従業員等が貸与期間に受ける家賃相当額の経済的利益は、企業から受ける「相当の見舞金」に該当すると考えられる。したがって、家賃相当額の経済的利益に対して給与として源泉徴収する必要はない。

(例)
被災した従業員等が自宅を修繕して居住可能となるまでの間、社宅を無償で貸与する場合

 

【4】 他の交通手段による交通費の支給

給与所得者が、勤務する場所を離れてその職務を遂行するため旅行をした場合、その旅行のために支給される金品で、旅行について通常必要と認められるものに所得税は課されない(所法9①四)。

従業員等が、災害により通常の交通手段で通勤することができないため、他の交通機関を利用したときに支給を受ける交通費は、次の要件を満たすものであれば上記の旅費に準じて非課税になると考えられる。したがって、要件を満たす交通費は、給与として源泉徴収する必要はない。

 実費相当額であること

 利用した交通手段が合理的なものであること

(例)
通勤に利用していた鉄道が災害により利用できないため、やむを得ずタクシーで通勤している従業員等に支給するタクシー代

また、交通手段が遮断されたため、ホテルや旅館に宿泊している従業員等に実費で支給する宿泊費用についても、同様の理由から給与として源泉徴収する必要はないと考えられる。

〔凡例〕
所法・・・所得税法
所令・・・所得税法施行令
所基通・・・所得税法基本通達
災免法・・・災害被害者に対する租税の減免、徴収猶予等に関する法律
災免法令・・・災害被害者に対する租税の減免、徴収猶予等に関する法律の施行に関する政令
通法・・・国税通則法
通法令・・・国税通則法施行令
通法基通・・・国税通則法基本通達
(例)所法9①十七・・・所得税法9条1項17号

(了)

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被災したクライアント企業への

実務支援のポイント

〔税務面(所得税)のアドバイス〕

【第3回】

「源泉所得税の取扱い②」

~災害見舞金等の取扱い~

 

公認会計士・税理士 篠藤 敦子

 

被災時には、自社の役員や従業員(以下、従業員等という)に対して、災害見舞金を支給したり、生活再建に向けた様々な支援をすることがある。このような場合における源泉所得税の取扱いについて以下に解説する。

なお、各取扱いについては、国税庁のホームページに公表されている「災害に関する法人税、消費税及び源泉所得税の取扱いFAQ」が参考になる。

 

【1】 災害見舞金の支給

(1) 被災した従業員等へ支給する災害見舞金

心身又は資産に加えられた損害について個人が支払を受ける相当の見舞金に、所得税は課されない(所法9①十七、所令30三)。

企業が被災した従業員等に対して、損害の程度に応じて金額を決める等、一定の基準で支給する災害見舞金は「相当の見舞金」に該当すると考えられる。したがって、損害の程度に応じた一定の基準で支給額を定めている場合で、基準に基づいて支給する常識的な範囲の災害見舞金であれば、給与として源泉徴収する必要はない。

(例)
自宅の被災の程度(全壊、半壊、床上浸水、床下浸水等)に応じ、金額を決めて支給する災害見舞金

(2) 従業員等の家族が被災したときに支給する災害見舞金

個人が支払を受ける葬祭料、香典又は災害等の見舞金は、その金額が受け取った人の社会的地位、支払者との関係等に照らして社会通念上相当と認められるものであれば所得税は課されない(所基通9-23)。

したがって、従業員等の親族が被災した場合に、企業から従業員等に対して災害見舞金を支給するときには、次の要件を満たしていれば給与として源泉徴収する必要はない。

 一定の基準に基づいて支給すること
   

・従業員等と親族との関係に応じた一定の基準

・親族の被災の程度に応じた一定の基準

 社会通念上相当な金額であること

(例)
慶弔見舞金規程に、従業員等と被災した親族との関係及び親族の被災の程度に応じた一定の基準を設けて支給する災害見舞金

 

【2】 生活資金の無利息貸付け

災害や疾病により臨時的に多額の生活資金を要することとなった従業員等に対し、企業が資金を無利息又は低利で貸し付けることがある。この場合、返済に要する期間として合理的と認められる期間内に従業員等が受ける経済的利益(適正な利息と無利息又は低利の利息との差額)には、課税しなくても差し支えないこととされている(所基通36-28(1))。

したがって、被災した従業員等に対して、企業が損害の程度に応じた合理的な返済期間を定め、生活に必要な資金を無利息又は低利で貸し付ける場合には、利息相当額の経済的利益について給与として源泉徴収する必要はない。

(例)
被災した従業員等の生活資金として、損害の程度に応じた返済期間を定め無利息で貸与する貸付金

 

【3】 社宅の無償貸与

心身又は資産に加えられた損害について、個人が支払を受ける相当の見舞金に所得税は課されない(所法9①十七、所令30三)。

被災した自宅を修繕し再居住できるようになるまでの期間、又は被災してから新たな住居に入居できるまでの期間、企業が従業員等に対して無償で社宅を貸与することがある。この場合、従業員等が貸与期間に受ける家賃相当額の経済的利益は、企業から受ける「相当の見舞金」に該当すると考えられる。したがって、家賃相当額の経済的利益に対して給与として源泉徴収する必要はない。

(例)
被災した従業員等が自宅を修繕して居住可能となるまでの間、社宅を無償で貸与する場合

 

【4】 他の交通手段による交通費の支給

給与所得者が、勤務する場所を離れてその職務を遂行するため旅行をした場合、その旅行のために支給される金品で、旅行について通常必要と認められるものに所得税は課されない(所法9①四)。

従業員等が、災害により通常の交通手段で通勤することができないため、他の交通機関を利用したときに支給を受ける交通費は、次の要件を満たすものであれば上記の旅費に準じて非課税になると考えられる。したがって、要件を満たす交通費は、給与として源泉徴収する必要はない。

 実費相当額であること

 利用した交通手段が合理的なものであること

(例)
通勤に利用していた鉄道が災害により利用できないため、やむを得ずタクシーで通勤している従業員等に支給するタクシー代

また、交通手段が遮断されたため、ホテルや旅館に宿泊している従業員等に実費で支給する宿泊費用についても、同様の理由から給与として源泉徴収する必要はないと考えられる。

〔凡例〕
所法・・・所得税法
所令・・・所得税法施行令
所基通・・・所得税法基本通達
災免法・・・災害被害者に対する租税の減免、徴収猶予等に関する法律
災免法令・・・災害被害者に対する租税の減免、徴収猶予等に関する法律の施行に関する政令
通法・・・国税通則法
通法令・・・国税通則法施行令
通法基通・・・国税通則法基本通達
(例)所法9①十七・・・所得税法9条1項17号

(了)

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連載目次

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被災したクライアント企業への
実務支援のポイント

【経営面のアドバイス

(公認会計士・税理士 中谷敏久)

【会計面のアドバイス

(公認会計士・税理士 篠藤敦子)
(公認会計士・税理士 新名貴則)
(公認会計士 深谷玲子)

【労務面のアドバイス

(特定社会保険労務士・中小企業診断士 小宮山敏恵)

【税務面(法人税・消費税)のアドバイス】

(公認会計士・税理士 新名貴則)

【税務面(所得税)のアドバイス】

(公認会計士・税理士 篠藤敦子)

【法務面のアドバイス】

(弁護士 岨中良太)

【ケーススタディQ&A】

(公認会計士・税理士 篠藤敦子)

(公認会計士・税理士 深谷玲子)

筆者紹介

篠藤 敦子

(しのとう・あつこ)

公認会計士・税理士

津田塾大学卒業
1989年 公認会計士試験第二次試験合格
1994年 朝日監査法人(現 あずさ監査法人)退社後、個人事務所を開業し、会計と税務実務に従事。
2008年より甲南大学社会科学研究科会計専門職専攻教授(2016年3月まで)
2010年より大阪電気通信大学金融経済学部非常勤講師

【著書等】
・『マンガと図解/新・くらしの税金百科』共著(清文社)
・『会計学実践講義』共著
・『日商簿記1級徹底対策ドリル 商業簿記・会計学編』共著(以上、同文舘出版)
・『148の事例から見た是否認事項の判断ポイント』共著(税務経理協会)
・「不動産取引を行った場合」『税経通信』2012年3月号(103-109頁)

【過去に担当した研修、セミナー】
SMBCコンサルティング、日本経済新聞社、日本賃金研究センター
社団法人大阪府工業協会、西日本旅客鉄道株式会社、社団法人埼玉県経営者協会
大阪法務局

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