事例でわかる[事業承継対策]
解決へのヒント
【第8回】
「事業承継税制適用中に資金調達をした場合の資産保有型会社の該当性」
-平成31年度税制改正-
太陽グラントソントン税理士法人
(事業承継対策研究会)
マネジャー 税理士 髙田 泰輔
相談内容
私Aは製造業を営む非上場会社Zの代表取締役です。Z社株式についての贈与税の納税猶予及び免除の特例(以下、「特例措置」という)を活用して、息子BにZ社株式を贈与することを検討しています。
特例措置の適用により株式を贈与した後、対象会社が資産保有型会社・資産運用型会社(以下、「資産保有型会社等」という)に該当すると納税猶予が取り消されると聞きました
当社の直近期の資産状況は下記のとおりです。
当社では取引先との関係強化のため上場・非上場問わず取引先の株式を積極的に購入しており、直近期では総資産の20%を占めています。それに加え、当社の事業用不動産(工場)は老朽化が進んでおり、将来に大規模な修繕を要することが想定されます。そのため、修繕のための借入の金額次第では資産保有型会社に該当する可能性があり、特例措置の実行に躊躇しています。
平成31年度税制改正で、納税猶予期間中に資産保有型会社・資産運用型会社に該当した場合の取扱いに改正があったと聞きました。具体的な改正の内容と、Z社の資産保有型会社の判定上の影響を教えてください。
解決へのヒント
平成31年度税制改正前は、一時的にでも資産保有型会社等に該当した場合には、その該当することとなった時点で納税猶予の取消事由(全部確定事由)となりました。
平成31年度税制改正により、一定の事由により資産保有型会社等に該当した場合において、その該当した日から6月以内に資産保有型会社等に該当しなくなったときは、納税猶予の取消事由に該当しないこととされました。
■ □ ■ □ 解 説 □ ■ □ ■
[1] 資産保有型会社等の判定
(1) 資産保有型会社とは
資産保有型会社とは、下記の要件を満たす会社をいいます。
(※1) 特定資産とは、下記の資産をいいます。
➤有価証券等
国債・地方債・株券その他の有価証券とみなされる権利
➤現に自ら使用していない不動産
遊休不動産・販売用不動産・賃貸用不動産(従業員社宅を除き、役員用住宅を含む)
➤ゴルフ会員権など
ゴルフ会員権・スポーツクラブ会員権・リゾート会員権など
➤絵画、貴金属等
絵画・彫刻・工芸品・陶磁器・骨董品などの文化的動産・金・銀などの貴金属・宝石類
➤現預金その他これらに類する資産
預貯金その他これらに類する資産、保険積立金など、代表者や代表者の同族関係者に対する貸付金や未収金その他これらに類する資産(預け金や差し入れ保証金など)
(※2) 「一定の配当等」とは、判定日以前5年以内において、対象会社が後継者とその同族関係者に対して支払った剰余金の配当の額(贈与等の日前に受けたものを除く)及び給与の額(債務免除による利益その他経済的利益を含み、贈与等の日前に支給されたものを除く)のうち法人税法上、損金不算入とされた金額の合計額をいいます。
(2) 資産運用型会社とは
資産運用型会社とは、下記の要件を満たす会社をいいます。
なお、資産保有型会社等であっても、事業実態を有するものとして一定の要件(以下、「事業実態要件」という)を満たす会社は、資産保有型会社等には該当しません。
(注) 本事例において、Z社は事業実態要件を満たす会社ではないものとします。
[2] 平成31年度税制改正前の取扱い
平成31年度税制改正前は、対象会社が納税猶予期間中のある一時点において資産保有型会社等に該当することとなった場合には、その該当することとなった時点で納税猶予の取消事由(全部確定事由)に該当しました。
Z社の直近期の資産状況でシミュレーションすると、修繕のために250の借入を行った場合には一時的に資産保有型会社に該当することとなり、納税猶予が取り消されることとなります。
【資産保有型会社の判定シミュレーション】
※その他資産には、特定資産に該当するものはないものとする。
※直近5年間において、B及びBの同族関係者に対する剰余金の配当及び法人税法上の損金不算入となる給与の支払いはないものとする。
〔資産保有型会社の判定〕
(① + ② + ③)/④
= 350/500
= 70% ≧ 70%
∴資産保有型会社に該当
[3] 平成31年度税制改正後の取扱い
平成31年度税制改正では、納税猶予期間中のある時点で資産保有型会社等に該当した場合であっても、その要因が「一定の事由」に該当し、その該当した日から6月以内にこれらの会社に該当しなくなったときは、資産保有型会社等に該当しないとする規定が創設されました(措令40の8⑲㉒)。
「一定の事由」とは、下記事由をいいます。
資産保有型会社:事業活動のために必要な資金を調達するための資金の借入、その事業の用に供していた資産の譲渡又は当該資産について生じた損害に基因した保険金の取得その他事業活動上生じた偶発的な事由でこれらに類するもの(措規23の9⑭)
資産運用型会社:事業活動のために必要な資金を調達するための特定資産の譲渡その他事業活動上生じた偶発的な事由でこれに類するもの(措規23の9⑯)
[4] 本事例へのあてはめ
Z社の工場の修繕を目的とする借入は「事業活動のために必要な資金を調達するための資金の借入」に該当するものと考えられます。
したがって、多額の借入を行い、Z社の総資産のうちに特定資産の占める割合が70%以上となった場合であっても、その該当した日から6月以内に修繕に係る支出を行い、同割合を70%未満とすることで、資産保有型会社には該当しないこととなるため、納税猶予の取消は回避できます。
(注) 継続届出書への記載等、一定の手続きが必要です。
具体的な対策については、税理士等の専門家と相談の上、実行されることをお勧めします。
〔凡例〕
所法・・・所得税法
法法・・・法人税法
相法・・・相続税法
措令・・・租税特別措置法施行令
措規・・・租税特別措置法施行規則
(例)相法9の2④・・・相続税法第9条の2第4項
(了)
「事例でわかる[事業承継対策]解決へのヒント」は、毎月第2週に掲載されます。