公開日: 2026/07/30 (掲載号:No.679)
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谷口教授と学ぶ「税法基本判例」 【第59回】「「譲渡所得課税の趣旨」法理の限定的な「復権・本領発揮」」-タキゲン事件・最判令和2年3月24日訟月66巻12号1925頁-

筆者: 谷口 勢津夫

谷口教授と学ぶ

税法基本判例

【第59回】

「「譲渡所得課税の趣旨」法理の限定的な「復権・本領発揮」」

-タキゲン事件・最判令和2年3月24日訟月66巻12号1925頁-

 

大阪学院大学法学部教授
谷口 勢津夫

 

Ⅰ はじめに

第55回から前回まで4回にわたって判例法理としての「譲渡所得課税の趣旨」法理(学説では増加益清算課税説)に着目し、同法理の枠内における(譲渡所得の本質的意義(理論[包括的所得概念論]的意義)に基づく)譲渡所得課税❶と(譲渡所得の実定法的意義に基づく)譲渡所得課税❷との「競い合い」(「趣旨内競い合い」)の観点から、譲渡所得課税に関する判例を検討してきたが、その検討を通じて、譲渡所得をめぐる課税問題の司法的解決において同法理が基軸に据えられてきたことを確認した(前々回Ⅳ、前回Ⅳ参照)。

同時に、その検討を通じて、「譲渡所得課税の趣旨」法理は、適用場面によって、「趣旨内競い合い」における位置づけないし意味を異にし、同法理の適用の仕方に紆余曲折がみられることも明らかになった。筆者はそのことを、同法理の枠内における「趣旨内競い合い」の観点から、「遅れ挽回」(第55回)、「独走」(第56回)、「『牽引力』の減退と復活・遮断(『どんでん返し』)」(第57回)、「離脱」(第58回)等の言葉で、表現してきた。

ただ、今回取り上げるタキゲン事件・最判令和2年3月24日訟月66巻12号1925頁(以下「令和2年最判」という)は、「譲渡所得課税の趣旨」法理を、これを創設した最判昭和43年10月31日訟月14巻12号1442頁(以下「昭和43年最判」という。第55回参照)と同じく、みなし譲渡課税の場面で適用し、その場面に限って同法理の「復権・本領発揮」を実現したように思われる。

今回は、令和2年最判における「譲渡所得課税の趣旨」法理の「復権・本領発揮」の意味を検討することにする。まず、令和2年最判の判断内容からみておくことにしよう。

なお、令和2年最判については、既に第6回において、租税通達の「解釈」の問題を検討した。今回も、その問題に関する裁判所の判断にも言及はするが、その問題は検討の主たる対象としないことを予めお断りしておく。

 

Ⅱ 令和2年最判の判断内容

令和2年最判では、個人が法人に対して行った取引相場のない株式の譲渡に係る所得税法59条1項所定の「その時における価額」の意義が争われたが、同最判は、まず、譲渡所得に対する課税について、「譲渡所得課税の趣旨」法理に従って下記のとおり判示した(下線筆者)。

譲渡所得に対する課税は、資産の値上がりによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得として、その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会に、これを清算して課税する趣旨のものである(最高裁昭和41年(行ツ)第8号同43年10月31日第一小法廷判決・裁判集民事92号797頁、最高裁同41年(行ツ)第102号同47年12月26日第三小法廷判決・民集26巻10号2083頁等参照)。すなわち、譲渡所得に対する課税においては、資産の譲渡は課税の機会にすぎず、その時点において所有者である譲渡人の下に生じている増加益に対して課税されることとなるところ、所得税法59条1項は、同項各号に掲げる事由により譲渡所得の基因となる資産の移転があった場合に当該資産についてその時点において生じている増加益の全部又は一部に対して課税できなくなる事態を防止するため、「その時における価額」に相当する金額により資産の譲渡があったものとみなすこととしたものと解される。

令和2年最判は、このように、「譲渡所得課税の趣旨」法理に従って譲渡所得課税の対象としての「所得」を「資産の値上がりによりその資産の所有者に帰属する増加益」とし、これを「その時点において所有者である譲渡人の下に生じている増加益」として展開した上で、次に、下記のとおり、「譲渡所得課税の趣旨」に照らして所得税法59条1項所定の「その時における価額」の算定(評価)に係る所得税基本通達59-6を「少数株主に該当するか否かについても当該株式を譲渡した株主について判断すべきことをいう趣旨のもの」と解する判断を示した(下線筆者)。

所得税法59条1項所定の「その時における価額」につき、所得税基本通達59-6は、譲渡所得の基因となった資産が取引相場のない株式である場合には、同通達59-6の(1)~(4)によることを条件に評価通達の例により算定した価額とする旨を定める。評価通達は、相続税及び贈与税の課税における財産の評価に関するものであるところ、取引相場のない株式の評価方法について、原則的な評価方法を定める一方、事業経営への影響の少ない同族株主の一部や従業員株主等においては、会社への支配力が乏しく、単に配当を期待するにとどまるという実情があることから、評価手続の簡便性をも考慮して、このような少数株主が取得した株式については、例外的に配当還元方式によるものとする。そして、評価通達は、株式を取得した株主の議決権の割合により配当還元方式を用いるか否かを判定するものとするが、これは、相続税や贈与税は、相続等により財産を取得した者に対し、取得した財産の価額を課税価格として課されるものであることから、株式を取得した株主の会社への支配力に着目したものということができる。

これに対し、本件のような株式の譲渡に係る譲渡所得に対する課税においては、当該譲渡における譲受人の会社への支配力の程度は、譲渡人の下に生じている増加益の額に影響を及ぼすものではないのであって、前記の譲渡所得に対する課税の趣旨に照らせば、譲渡人の会社への支配力の程度に応じた評価方法を用いるべきものと解される。

そうすると、譲渡所得に対する課税の場面においては、相続税や贈与税の課税の場面を前提とする評価通達の前記の定めをそのまま用いることはできず、所得税法の趣旨に則し、その差異に応じた取扱いがされるべきである。所得税基本通達59-6は、取引相場のない株式の評価につき、少数株主に該当するか否かの判断の前提となる「同族株主」に該当するかどうかは株式を譲渡又は贈与した個人の当該譲渡又は贈与直前の議決権の数により判定すること等を条件に、評価通達の例により算定した価額とする旨を定めているところ、この定めは、上記のとおり、譲渡所得に対する課税と相続税等との性質の差異に応じた取扱いをすることとし、少数株主に該当するか否かについても当該株式を譲渡した株主について判断すべきことをいう趣旨のものということができる。

令和2年最判は、結論の点だけでなく以上の判断枠組みの点でも基本的には、原々審・東京地判平成29年8月30日訟月66巻12号1945頁(以下「本件第一審判決」という)と同じであるが、ただ、本件第一審判決は、同最判のように「譲渡所得課税の趣旨」から「その[譲渡所得に対する課税の場面と相続税や贈与税の課税の場面との]差異に応じた取扱い」を導出するにとどまらず、下記のとおり、「譲渡所得課税の趣旨」から通達の文言の「読み替え」まで導出する判断を示している(下線筆者)。

そのような課税の趣旨からすれば、譲渡所得の基因となる資産についての低額譲渡の判定をする場合の計算の基礎となる当該資産の価額は、当該資産を譲渡した後の譲受人にとっての価値ではなく、その譲渡直前において元の所有者が所有している状態における当該所有者(譲渡人)にとっての価値により評価するのが相当であるから、評価通達188の(1)~(4)の定めを[所得税基本通達59-6に従い]取引相場のない株式の譲渡に係る譲渡所得の収入金額の計算上当該株式のその譲渡の時における価額の算定に適用する場合には、各定め中「(株主の)取得した株式」とあるのを「(株主の)有していた株式で譲渡に供されたもの」と読み替えるのが相当であり、また、各定め中のそれぞれの議決権の数も当該株式の譲渡直前の議決権の数によることが相当であると解される。

これに対して、令和2年最判の原審・東京高判平成30年7月19日訟月66巻12号1976頁(以下「本件控訴審判決」という)は、租税通達についても「文理解釈」を重視する見地から「通達の文言を殊更に読み替えて異なる内容のものとして適用することは許されない」と判示し、さらに、下記のとおり、「譲渡所得課税の趣旨」から通達の文言の「読み替え」を導出するのは無理がある旨を判示した(下線筆者)。

被控訴人は、譲渡所得に対する課税は、資産の値上がりによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得として、その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会に、これを清算して課税するという趣旨から、評価通達188の(2)から(4)までについて、譲渡人の株式譲渡直前の議決権割合により判定する旨を主張している。しかし、そのような解釈をするためには、上記のような「読み替え」が必要となるが、所得税基本通達59-6の(1)の文言は、評価通達188の(1)の「同族株主」について述べているのであるから、評価通達188の(2)から(4)までの「同族株主」以外の部分までが上記のように読み替えられて適用される旨を読み取ることは、一般の納税者にとっては困難である。

しかも、被控訴人の主張する譲渡所得に対する課税の趣旨から、上記「読み替え」を導き出すこと自体、所得税基本通達59-6の(1)があっても無理があるといわなければならない。すなわち、所得税法59条1項にいう「その時における価額」は、譲渡の時における資産の客観的交換価値で、不特定多数の独立当事者間の自由な取引において通常成立すると認められる価額(時価)を意味するのであり、譲渡人が会社支配権を有する多数の株式を保有する場合には、当該株式は議決権行使に係る経営的支配関係を前提とした経済的価値を有するものと評価され得る一方、当該株式が分割して譲渡され、譲受人が支配権を有しない少数の株式を保有するにとどまる場合には、当該株式は配当への期待に基づく経済的価値を有するにすぎないものとして評価されることとなるから、その間の自由な取引において成立すると認められる価額は、譲渡人が譲渡前に有していた支配関係によって決定されるのか、譲渡後に譲受人が取得することになった支配関係のどちらかで決定されるのかは一概に決定することはできず、双方の会社支配の程度によって結論を異にする事柄であるというべきである。被控訴人の主張する譲渡所得課税の趣旨(所有者に帰属していた増加益を清算して課税する。)といっても、上記のように成立した価額を基準に、所有者の有していた増加益を判断して課税することになるのであるから、上記譲渡所得課税の趣旨に反するということまではできない。そのため、議決権割合の判定基準時を文理解釈で決定できない評価通達188の(1)について、上記譲渡所得課税の趣旨に基づく条件(所得税基本通達59-6(1))を定めてその解釈を明確化することには、一定の合理性が認められるものの、株式取得後の議決権割合で判定する旨を定めていることが文理上明らかな評価通達188の(2)から(4)までについてまで、明文の定めもなく、上記譲渡所得課税の趣旨によって読み替えることは、所得税基本通達59-6の(1)があっても無理があるといわなければならない(・・・・・・)。

 

Ⅲ 「譲渡所得課税の趣旨」法理とみなし譲渡課税

以上でみてきたように、本件第一審判決と本件控訴審判決では通達の文言の「読み替え」の可否が判断の直接的な「分かれ目」であったのに対して、本件控訴審判決と令和2年最判では「譲渡所得課税の趣旨」の捉え方が判断を分けたように思われる(品川芳宣「判批」TKC税研情報29巻3号(2020年)28頁、38頁は本件各判決を「三者三様の判断」と評している)。

本件控訴審判決は、前記の引用判示のとおり、「譲渡所得課税の趣旨」を「上記のように成立した価額[=不特定多数の独立当事者間の自由な取引において通常成立すると認められる価額(時価)]を基準に、所有者の有していた増加益を判断して課税することになる」と捉えていることからすると、この判決の考え方を「譲渡益説に親和的な考え方」(佐藤英明「判批」TKC税研情報29巻4号(2020年)1頁、9頁)と理解する見解は妥当であると考えられる(なお、この見解にいう「譲渡益説」(佐藤英明『スタンダード所得税法〔第4版〕』(弘文堂・2024年)95-96頁参照)は筆者のいう「譲渡益課税説」と同じく一種の純所得課税の考え方(前々回Ⅲ1、拙著『税法基本講義〔第8版〕』(弘文堂・2025年)【289】参照)であると解される)。

上記の見解は、前記の引用判示中の「譲渡所得課税の趣旨」について、「不特定多数の間で自由な交渉により成立する『時価』を、59条1項の規定する『時価』とした上で、実際にどのような価格による譲渡が成立しうるか、が検討の焦点となっている。」(佐藤・前掲「判批」9頁)と指摘した上で、「砕いて言ってしまえば、少数株主となる者(評価通達によればその場合の1株の価額は75円)が、1株に対して支配的株式(同じく2505円)の値段を払って株式を購入することはあり得ないから、現実に成立しうる価格が時価だ(それは75円と2505円の間のどこか、たとえば、300円かも知れない)という発想だと思われる。」(同頁)と述べている。

このように、本件控訴審判決は、「譲渡所得課税の趣旨」法理の枠内における「趣旨内競い合い」の観点からみると、(譲渡所得の本質的意義(理論[包括的所得概念論]的意義)に基づく)譲渡所得課税❶だけでなく(譲渡所得の実定法的意義に基づく)譲渡所得課税❷をも重視し、とりわけ後者においては「所有者に帰属していた増加益」を「不特定多数の独立当事者間の自由な取引において通常成立すると認められる価額(時価)」によって算定することにしたものと解される。

このような理解によれば、本件控訴審判決が前記の引用判示において「当該株式が分割して譲渡され、譲受人が支配権を有しない少数の株式を保有するにとどまる場合には、当該株式は配当への期待に基づく経済的価値を有するにすぎないものとして評価されることとなるから、その間の自由な取引において成立すると認められる価額は、譲渡人が譲渡前に有していた支配関係によって決定されるのか、譲渡後に譲受人が取得することになった支配関係のどちらかで決定されるのかは一概に決定することはできず、双方の会社支配の程度によって結論を異にする事柄であるというべきである。」という判断を示したことにも理由があるといえるかもしれない。

しかしながら、本件で問題となったみなし譲渡課税の対象となる「居住者」(所税59条1項柱書)は、「譲渡所得の基因となる資産の移転があつた場合」(同)における当該資産の所有者すなわち当該資産の譲渡人を意味するのであるから、「譲渡所得課税の趣旨」法理にいう「所有者に帰属する増加益」は、当該資産の譲渡人に着目して算定すべきことになる。しかも、同法理にいう「所有者に帰属する増加益」は「所有者の意思によらない外部的条件の変化に起因する資産価値の増加」(金子宏『租税法〔第24版〕』(弘文堂・2021年)271頁)を意味するところ、当該資産の所有者の人的事情(本件では、非上場株式の所有者が少数株主に該当するか否か)も当該資産にとっては「所有者の意思によらない外部的条件」に属するので、「所有者に帰属する増加益」は、論理的にも、当該資産の譲渡人に着目して算定すべきことになろう。

これらのことを「譲渡所得課税の趣旨」法理の枠内における「趣旨内競い合い」の観点からみると、令和2年最判は、まず、「譲渡所得に対する課税においては、資産の譲渡は課税の機会にすぎ[ない]」として、同法理における譲渡所得課税❷の比重を小さくした上で、「その時点において所有者である譲渡人の下に生じている増加益に対して課税されることとなる」として、譲渡所得課税❶における「所有者である譲渡人」の意義を強調し、もって「その時点において所有者である譲渡人の下に生じている増加益」を、「所有者である譲渡人」の人的事情のうち当該資産の価額に影響を及ぼすべき事情(本件では、非上場株式の譲渡における譲渡人の会社への支配力の程度)を考慮して、算定すべきであると判断したものといえよう。

この点について、令和2年最判に対する次の評価(佐藤・前掲「判批」7頁。下線・傍点筆者)は正鵠を射たものであると考えるところである。

本判決[=令和2年最判]は、「譲渡所得に対する課税においては、資産の譲渡は課税の機会にすぎ」ない、との新たな表現を用いて[増加益]清算課税説の中核的な発想を表現した。そして、譲渡所得課税があくまでも「所有者である譲渡人の下に生じている増加益」への課税であることを根拠に、本件の事案に関する解決を導いており、判例が[増加益]清算課税説によって譲渡所得の課税関係を把握していることを、改めて、、、明らかにした。この点で、本判決は、大きな意義を有する。

以上のように考えてくると、「譲渡所得課税の趣旨」法理は、その創設以来の紆余曲折を経て(前記Ⅰ参照)、令和2年最判によって「趣旨内競い合い」において「[増加益]清算課税説の中核的な発想」(佐藤・前掲「判批」7頁)に基づく譲渡所得課税❷の軽視及びこれと同時に譲渡所得課税❶の重視という形で、いわば「復権・本領発揮」に至ったといってもよかろう。ただし、同法理の「復権・本領発揮」は、令和2年最判が同法理を、これを創設した昭和43年最判と同じく、みなし譲渡課税の場面で適用したことによるものであって、その場面に限定されたものであるとみておくべきであろう。

みなし譲渡課税は、「譲渡所得課税の趣旨」法理のまさしく「本領発揮」の場面である。すなわち、みなし譲渡課税は、「無償や低額の対価による譲渡にかこつけて資産の譲渡所得課税を回避しようとする傾向を防止する」(昭和43年最判)あるいは「同項[=所税59条1項]各号に掲げる事由により譲渡所得の基因となる資産の移転があった場合に当該資産についてその時点において生じている増加益の全部又は一部に対して課税できなくなる事態を防止する」(令和2年最判)という目的で、収入金額という実体的経済価値を伴わない「資産の譲渡」について収入金額を擬制すること(みなし譲渡課税に係る収入金額擬制説。前掲拙著【285】参照)によって、譲渡所得課税❷における「資産の譲渡」を所得の実現と切り離して単なる「課税の機会」にとどめる措置(令和2年最判参照)であると解されるが、そうであるからこそ、みなし譲渡課税の場面では、「譲渡所得課税の趣旨」法理の「本領」ともいうべき譲渡所得課税❶が前面に出てきて、譲渡所得の課税関係を基礎づけることになると考えられるのである。

令和2年最判については、「本判決は同項[=所税59条1項]による課税が[増加益]清算課税説の、いわば『直接的な適用』によって行なわれることに立脚し、譲渡直前の譲渡人の手中にある株式の時価を基礎として、同項を適用したものである。」(佐藤・前掲「判批」9頁。下線筆者)との理解が示されているが、この理解は、みなし譲渡課税に関する上記の筆者の考え方と基本的に同じ考え方に基づくものであると解される。

なお、最後に、租税通達の「解釈」の問題について若干触れておくと、令和2年最判が、本件第一審判決と本件控訴審判決とで見解の対立のみられた通達の文言の「読み替え」の議論にコミットしなかったのは、妥当である。というのも、そもそも通達は法源ではないため、その文言の「読み替え」に法規範論的意味はなく、しかも財産評価に関する通達は法令解釈通達ではなく事実認定に関する「『適用通達』ないし『認定通達』の性質をもっている」(金子宏『租税法理論の形成と解明 下巻』(有斐閣・2010年)368頁[初出・2000年])一種の取扱通達であることからすると、裁判所としては、財産評価という事実認定に当たり、通達の定める評価方法の取扱いを問題にするだけにとどめるのが相当であると考えられるからである。令和2年最判が「譲渡所得に対する課税の場面においては、相続税や贈与税の課税の場面を前提とする評価通達の前記の定めをそのまま用いることはできず、所得税法の趣旨に則し、その差異に応じた取扱いがされるべきである。」と判示したのは、そのような意味で妥当な判断であると考えられる。

 

Ⅳ おわりに

今回は、令和2年最判を「譲渡所得課税の趣旨」法理の観点から検討し同最判を、同法理の創設(昭和43年最判)後における同法理をめぐる紆余曲折を経て同法理を「復権・本領発揮」させた判決として、位置づけた。

この点に関して、「本判決[=令和2年最判]を踏まえて支払利子付随費用判決[=最判平成4年7月14日民集46巻5号492頁]以来の3件の最高裁判決[=そのほか最判平成17年2月1日訟月52巻3号1034頁、最判平成18年4月20日訟月53巻9号2692頁]を振り返ると、それらがいずれも、譲渡所得の金額の計算に関する判断であったことが、改めて注目される。」(佐藤・前掲「判批」7頁)などと述べた上で下記のとおり説く見解(同頁。佐藤・前掲書146頁も参照)は、令和2年最判に関する前記の位置づけの基礎にある筆者の認識と基本的に同様の認識に基づくものであると解される。

このような対比を基礎として考えると、判例は今後も、譲渡所得の金額の計算に関する領域では、いわゆる実現原則を踏まえた「現実に得られた所得」に焦点を充てた判断枠組みを維持しつつ、譲渡所得の意義に関わる問題については、ぶれることなく、[増加益]清算課税説に依拠した判断を示すことが予想される。

この見解にいう「[増加益]清算課税説」は筆者のいう「譲渡所得課税の趣旨」法理を意味するものと解され、しかも同見解にいう「譲渡所得の金額の計算に関する領域」は、筆者のいう「譲渡所得課税の趣旨」法理の枠内における譲渡所得課税❷に相当し、「譲渡所得の意義に関わる問題」は同法理の枠内における譲渡所得課税❶に相当すると解されるところ、「譲渡所得の意義に関わる問題」が譲渡所得課税の可否及び範囲に具体的な影響を与える問題として判断されたのは、以下で述べるように、みなし譲渡課税に関する昭和43年最判と令和2年最判だけであると考えられる。

前記の見解で令和2年最判と「対比」されている「3件の最高裁判決」のうち、親子間ゴルフ会員権贈与事件・最判平成17年2月1日訟月52巻3号1034頁(以下「平成17年最判」という)以外の2件の最高裁判決は譲渡所得課税❷における「譲渡所得の金額の計算」に関する判断であったこと(前々回、前回参照)から、その検討は措くことにして、ここでは平成17年最判について検討しておくと、同最判は、みなし譲渡課税規定(所税59条1項)と「いわば『表裏補完』の関係」(谷口勢津夫ほか『基礎から学べる租税法〔第4版〕』(弘文堂・2025年)113頁[谷口執筆])にある取得費等の引継規定(同60条1項)の適用を問題にしていることから、昭和43年最判及び令和2年最判と同列に位置づけることができそうにも思われるが、しかし、下記の判示(下線筆者)からすると、後で述べるように、そのように位置づけることはできないと考えられる。

譲渡所得の金額について、法は、総収入金額から資産の取得費及び譲渡に要した費用を控除するものとし(33条3項)、上記の資産の取得費は、別段の定めがあるものを除き、その資産の取得に要した金額並びに設備費及び改良費の額の合計額としている(38条1項)。この譲渡所得に対する課税は、資産の値上がりによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得として、その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会にこれを清算して課税する趣旨のものである(最高裁昭和41年(行ツ)第102号同47年12月26日第三小法廷判決・民集26巻10号2083頁、最高裁昭和47年(行ツ)第4号同50年5月27日第三小法廷判決・民集29巻5号641頁参照)。そして、上記「資産の取得に要した金額」には、当該資産の客観的価格を構成すべき取得代金の額のほか、当該資産を取得するための付随費用の額も含まれると解される(最高裁昭和61年(行ツ)第115号平成4年7月14日第三小法廷判決・民集46巻5号492頁参照)。

他方、法60条1項は、居住者が同項1号所定の贈与、相続(限定承認に係るものを除く。)又は遺贈(包括遺贈のうち限定承認に係るものを除く。)により取得した資産を譲渡した場合における譲渡所得の金額の計算について、その者が引き続き当該資産を所有していたものとみなす旨を定めている。上記の譲渡所得課税の趣旨からすれば、贈与、相続又は遺贈であっても、当該資産についてその時における価額に相当する金額により譲渡があったものとみなして譲渡所得課税がされるべきところ(法59条1項参照)、法60条1項1号所定の贈与等にあっては、その時点では資産の増加益が具体的に顕在化しないため、その時点における譲渡所得課税について納税者の納得を得難いことから、これを留保し、その後受贈者等が資産を譲渡することによってその増加益が具体的に顕在化した時点において、これを清算して課税することとしたものである。同項の規定により、受贈者の譲渡所得の金額の計算においては、贈与者が当該資産を取得するのに要した費用が引き継がれ、課税を繰り延べられた贈与者の資産の保有期間に係る増加益も含めて受贈者に課税されるとともに、贈与者の資産の取得の時期も引き継がれる結果、資産の保有期間(法33条3項1号、2号参照)については、贈与者と受贈者の保有期間が通算されることとなる。

このように、法60条1項の規定の本旨は、増加益に対する課税の繰延べにあるから、この規定は、受贈者の譲渡所得の金額の計算において、受贈者の資産の保有期間に係る増加益に贈与者の資産の保有期間に係る増加益を合わせたものを超えて所得として把握することを予定していないというべきである。そして、受贈者が贈与者から資産を取得するための付随費用の額は、受贈者の資産の保有期間に係る増加益の計算において、「資産の取得に要した金額」(法38条1項)として収入金額から控除されるべき性質のものである。そうすると、上記付随費用の額は、法60条1項に基づいてされる譲渡所得の金額の計算において「資産の取得に要した金額」に当たると解すべきである。

平成17年最判は、確かに、上記の引用判示のうち特に第2段落では、「譲渡所得課税の趣旨」法理に従い「譲渡所得の意義に関わる問題」(譲渡所得課税❶)について判断を示してはいるが、しかし、第3段落では、「譲渡所得の金額の計算に関する領域」(譲渡所得課税❷)すなわち本件では「法60条1項に基づいてされる譲渡所得の金額の計算」に関して、借入金利子取得費控除[三輪田]事件・最判平成4年7月14日民集46巻5号492頁(第57回)に従い取得費に付随費用を含めた上で、譲渡収入に対する純所得課税の考え方である譲渡益課税説ではなく、「増加益に対する純所得課税」ともいうべき独特の考え方を判示して「譲渡所得課税の趣旨」法理から「離脱」したものと解される。

平成17年最判については、正当にも、「ゴルフ会員権贈与事件の最高裁判決においては、所有者が取得の時に付随費用を支出すると資産の増加益がそれだけ減る、と考えられていることになるが、人が名義書換料のような支出をすることが資産の価値(増加益)そのものに影響を与えるとは考えられない。」(佐藤・前掲書145頁)と指摘して「清算課税説からの一定の乖離」(同頁)を説く見解があるが、その見解も同最判を昭和43年最判及び令和2年最判と同列に位置づけてはいないと考えられるのである。

そうすると、譲渡所得課税に関する従来の判例では、「譲渡所得課税の趣旨」法理の「本領発揮」は、やはり、みなし譲渡課税の場面においてのみ認められることになろう。令和2年最判は、その意味で、「譲渡所得課税の趣旨」法理の「本領発揮」の範囲ないし同法理の本来の射程を明らかにした判決として、意義を有すると考えるところである。

(了)

この連載の公開日程は、下記の連載目次をご覧ください。

谷口教授と学ぶ

税法基本判例

【第59回】

「「譲渡所得課税の趣旨」法理の限定的な「復権・本領発揮」」

-タキゲン事件・最判令和2年3月24日訟月66巻12号1925頁-

 

大阪学院大学法学部教授
谷口 勢津夫

 

Ⅰ はじめに

第55回から前回まで4回にわたって判例法理としての「譲渡所得課税の趣旨」法理(学説では増加益清算課税説)に着目し、同法理の枠内における(譲渡所得の本質的意義(理論[包括的所得概念論]的意義)に基づく)譲渡所得課税❶と(譲渡所得の実定法的意義に基づく)譲渡所得課税❷との「競い合い」(「趣旨内競い合い」)の観点から、譲渡所得課税に関する判例を検討してきたが、その検討を通じて、譲渡所得をめぐる課税問題の司法的解決において同法理が基軸に据えられてきたことを確認した(前々回Ⅳ、前回Ⅳ参照)。

同時に、その検討を通じて、「譲渡所得課税の趣旨」法理は、適用場面によって、「趣旨内競い合い」における位置づけないし意味を異にし、同法理の適用の仕方に紆余曲折がみられることも明らかになった。筆者はそのことを、同法理の枠内における「趣旨内競い合い」の観点から、「遅れ挽回」(第55回)、「独走」(第56回)、「『牽引力』の減退と復活・遮断(『どんでん返し』)」(第57回)、「離脱」(第58回)等の言葉で、表現してきた。

ただ、今回取り上げるタキゲン事件・最判令和2年3月24日訟月66巻12号1925頁(以下「令和2年最判」という)は、「譲渡所得課税の趣旨」法理を、これを創設した最判昭和43年10月31日訟月14巻12号1442頁(以下「昭和43年最判」という。第55回参照)と同じく、みなし譲渡課税の場面で適用し、その場面に限って同法理の「復権・本領発揮」を実現したように思われる。

今回は、令和2年最判における「譲渡所得課税の趣旨」法理の「復権・本領発揮」の意味を検討することにする。まず、令和2年最判の判断内容からみておくことにしよう。

なお、令和2年最判については、既に第6回において、租税通達の「解釈」の問題を検討した。今回も、その問題に関する裁判所の判断にも言及はするが、その問題は検討の主たる対象としないことを予めお断りしておく。

 

Ⅱ 令和2年最判の判断内容

令和2年最判では、個人が法人に対して行った取引相場のない株式の譲渡に係る所得税法59条1項所定の「その時における価額」の意義が争われたが、同最判は、まず、譲渡所得に対する課税について、「譲渡所得課税の趣旨」法理に従って下記のとおり判示した(下線筆者)。

譲渡所得に対する課税は、資産の値上がりによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得として、その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会に、これを清算して課税する趣旨のものである(最高裁昭和41年(行ツ)第8号同43年10月31日第一小法廷判決・裁判集民事92号797頁、最高裁同41年(行ツ)第102号同47年12月26日第三小法廷判決・民集26巻10号2083頁等参照)。すなわち、譲渡所得に対する課税においては、資産の譲渡は課税の機会にすぎず、その時点において所有者である譲渡人の下に生じている増加益に対して課税されることとなるところ、所得税法59条1項は、同項各号に掲げる事由により譲渡所得の基因となる資産の移転があった場合に当該資産についてその時点において生じている増加益の全部又は一部に対して課税できなくなる事態を防止するため、「その時における価額」に相当する金額により資産の譲渡があったものとみなすこととしたものと解される。

令和2年最判は、このように、「譲渡所得課税の趣旨」法理に従って譲渡所得課税の対象としての「所得」を「資産の値上がりによりその資産の所有者に帰属する増加益」とし、これを「その時点において所有者である譲渡人の下に生じている増加益」として展開した上で、次に、下記のとおり、「譲渡所得課税の趣旨」に照らして所得税法59条1項所定の「その時における価額」の算定(評価)に係る所得税基本通達59-6を「少数株主に該当するか否かについても当該株式を譲渡した株主について判断すべきことをいう趣旨のもの」と解する判断を示した(下線筆者)。

所得税法59条1項所定の「その時における価額」につき、所得税基本通達59-6は、譲渡所得の基因となった資産が取引相場のない株式である場合には、同通達59-6の(1)~(4)によることを条件に評価通達の例により算定した価額とする旨を定める。評価通達は、相続税及び贈与税の課税における財産の評価に関するものであるところ、取引相場のない株式の評価方法について、原則的な評価方法を定める一方、事業経営への影響の少ない同族株主の一部や従業員株主等においては、会社への支配力が乏しく、単に配当を期待するにとどまるという実情があることから、評価手続の簡便性をも考慮して、このような少数株主が取得した株式については、例外的に配当還元方式によるものとする。そして、評価通達は、株式を取得した株主の議決権の割合により配当還元方式を用いるか否かを判定するものとするが、これは、相続税や贈与税は、相続等により財産を取得した者に対し、取得した財産の価額を課税価格として課されるものであることから、株式を取得した株主の会社への支配力に着目したものということができる。

これに対し、本件のような株式の譲渡に係る譲渡所得に対する課税においては、当該譲渡における譲受人の会社への支配力の程度は、譲渡人の下に生じている増加益の額に影響を及ぼすものではないのであって、前記の譲渡所得に対する課税の趣旨に照らせば、譲渡人の会社への支配力の程度に応じた評価方法を用いるべきものと解される。

そうすると、譲渡所得に対する課税の場面においては、相続税や贈与税の課税の場面を前提とする評価通達の前記の定めをそのまま用いることはできず、所得税法の趣旨に則し、その差異に応じた取扱いがされるべきである。所得税基本通達59-6は、取引相場のない株式の評価につき、少数株主に該当するか否かの判断の前提となる「同族株主」に該当するかどうかは株式を譲渡又は贈与した個人の当該譲渡又は贈与直前の議決権の数により判定すること等を条件に、評価通達の例により算定した価額とする旨を定めているところ、この定めは、上記のとおり、譲渡所得に対する課税と相続税等との性質の差異に応じた取扱いをすることとし、少数株主に該当するか否かについても当該株式を譲渡した株主について判断すべきことをいう趣旨のものということができる。

令和2年最判は、結論の点だけでなく以上の判断枠組みの点でも基本的には、原々審・東京地判平成29年8月30日訟月66巻12号1945頁(以下「本件第一審判決」という)と同じであるが、ただ、本件第一審判決は、同最判のように「譲渡所得課税の趣旨」から「その[譲渡所得に対する課税の場面と相続税や贈与税の課税の場面との]差異に応じた取扱い」を導出するにとどまらず、下記のとおり、「譲渡所得課税の趣旨」から通達の文言の「読み替え」まで導出する判断を示している(下線筆者)。

そのような課税の趣旨からすれば、譲渡所得の基因となる資産についての低額譲渡の判定をする場合の計算の基礎となる当該資産の価額は、当該資産を譲渡した後の譲受人にとっての価値ではなく、その譲渡直前において元の所有者が所有している状態における当該所有者(譲渡人)にとっての価値により評価するのが相当であるから、評価通達188の(1)~(4)の定めを[所得税基本通達59-6に従い]取引相場のない株式の譲渡に係る譲渡所得の収入金額の計算上当該株式のその譲渡の時における価額の算定に適用する場合には、各定め中「(株主の)取得した株式」とあるのを「(株主の)有していた株式で譲渡に供されたもの」と読み替えるのが相当であり、また、各定め中のそれぞれの議決権の数も当該株式の譲渡直前の議決権の数によることが相当であると解される。

これに対して、令和2年最判の原審・東京高判平成30年7月19日訟月66巻12号1976頁(以下「本件控訴審判決」という)は、租税通達についても「文理解釈」を重視する見地から「通達の文言を殊更に読み替えて異なる内容のものとして適用することは許されない」と判示し、さらに、下記のとおり、「譲渡所得課税の趣旨」から通達の文言の「読み替え」を導出するのは無理がある旨を判示した(下線筆者)。

被控訴人は、譲渡所得に対する課税は、資産の値上がりによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得として、その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会に、これを清算して課税するという趣旨から、評価通達188の(2)から(4)までについて、譲渡人の株式譲渡直前の議決権割合により判定する旨を主張している。しかし、そのような解釈をするためには、上記のような「読み替え」が必要となるが、所得税基本通達59-6の(1)の文言は、評価通達188の(1)の「同族株主」について述べているのであるから、評価通達188の(2)から(4)までの「同族株主」以外の部分までが上記のように読み替えられて適用される旨を読み取ることは、一般の納税者にとっては困難である。

しかも、被控訴人の主張する譲渡所得に対する課税の趣旨から、上記「読み替え」を導き出すこと自体、所得税基本通達59-6の(1)があっても無理があるといわなければならない。すなわち、所得税法59条1項にいう「その時における価額」は、譲渡の時における資産の客観的交換価値で、不特定多数の独立当事者間の自由な取引において通常成立すると認められる価額(時価)を意味するのであり、譲渡人が会社支配権を有する多数の株式を保有する場合には、当該株式は議決権行使に係る経営的支配関係を前提とした経済的価値を有するものと評価され得る一方、当該株式が分割して譲渡され、譲受人が支配権を有しない少数の株式を保有するにとどまる場合には、当該株式は配当への期待に基づく経済的価値を有するにすぎないものとして評価されることとなるから、その間の自由な取引において成立すると認められる価額は、譲渡人が譲渡前に有していた支配関係によって決定されるのか、譲渡後に譲受人が取得することになった支配関係のどちらかで決定されるのかは一概に決定することはできず、双方の会社支配の程度によって結論を異にする事柄であるというべきである。被控訴人の主張する譲渡所得課税の趣旨(所有者に帰属していた増加益を清算して課税する。)といっても、上記のように成立した価額を基準に、所有者の有していた増加益を判断して課税することになるのであるから、上記譲渡所得課税の趣旨に反するということまではできない。そのため、議決権割合の判定基準時を文理解釈で決定できない評価通達188の(1)について、上記譲渡所得課税の趣旨に基づく条件(所得税基本通達59-6(1))を定めてその解釈を明確化することには、一定の合理性が認められるものの、株式取得後の議決権割合で判定する旨を定めていることが文理上明らかな評価通達188の(2)から(4)までについてまで、明文の定めもなく、上記譲渡所得課税の趣旨によって読み替えることは、所得税基本通達59-6の(1)があっても無理があるといわなければならない(・・・・・・)。

 

Ⅲ 「譲渡所得課税の趣旨」法理とみなし譲渡課税

以上でみてきたように、本件第一審判決と本件控訴審判決では通達の文言の「読み替え」の可否が判断の直接的な「分かれ目」であったのに対して、本件控訴審判決と令和2年最判では「譲渡所得課税の趣旨」の捉え方が判断を分けたように思われる(品川芳宣「判批」TKC税研情報29巻3号(2020年)28頁、38頁は本件各判決を「三者三様の判断」と評している)。

本件控訴審判決は、前記の引用判示のとおり、「譲渡所得課税の趣旨」を「上記のように成立した価額[=不特定多数の独立当事者間の自由な取引において通常成立すると認められる価額(時価)]を基準に、所有者の有していた増加益を判断して課税することになる」と捉えていることからすると、この判決の考え方を「譲渡益説に親和的な考え方」(佐藤英明「判批」TKC税研情報29巻4号(2020年)1頁、9頁)と理解する見解は妥当であると考えられる(なお、この見解にいう「譲渡益説」(佐藤英明『スタンダード所得税法〔第4版〕』(弘文堂・2024年)95-96頁参照)は筆者のいう「譲渡益課税説」と同じく一種の純所得課税の考え方(前々回Ⅲ1、拙著『税法基本講義〔第8版〕』(弘文堂・2025年)【289】参照)であると解される)。

上記の見解は、前記の引用判示中の「譲渡所得課税の趣旨」について、「不特定多数の間で自由な交渉により成立する『時価』を、59条1項の規定する『時価』とした上で、実際にどのような価格による譲渡が成立しうるか、が検討の焦点となっている。」(佐藤・前掲「判批」9頁)と指摘した上で、「砕いて言ってしまえば、少数株主となる者(評価通達によればその場合の1株の価額は75円)が、1株に対して支配的株式(同じく2505円)の値段を払って株式を購入することはあり得ないから、現実に成立しうる価格が時価だ(それは75円と2505円の間のどこか、たとえば、300円かも知れない)という発想だと思われる。」(同頁)と述べている。

このように、本件控訴審判決は、「譲渡所得課税の趣旨」法理の枠内における「趣旨内競い合い」の観点からみると、(譲渡所得の本質的意義(理論[包括的所得概念論]的意義)に基づく)譲渡所得課税❶だけでなく(譲渡所得の実定法的意義に基づく)譲渡所得課税❷をも重視し、とりわけ後者においては「所有者に帰属していた増加益」を「不特定多数の独立当事者間の自由な取引において通常成立すると認められる価額(時価)」によって算定することにしたものと解される。

このような理解によれば、本件控訴審判決が前記の引用判示において「当該株式が分割して譲渡され、譲受人が支配権を有しない少数の株式を保有するにとどまる場合には、当該株式は配当への期待に基づく経済的価値を有するにすぎないものとして評価されることとなるから、その間の自由な取引において成立すると認められる価額は、譲渡人が譲渡前に有していた支配関係によって決定されるのか、譲渡後に譲受人が取得することになった支配関係のどちらかで決定されるのかは一概に決定することはできず、双方の会社支配の程度によって結論を異にする事柄であるというべきである。」という判断を示したことにも理由があるといえるかもしれない。

しかしながら、本件で問題となったみなし譲渡課税の対象となる「居住者」(所税59条1項柱書)は、「譲渡所得の基因となる資産の移転があつた場合」(同)における当該資産の所有者すなわち当該資産の譲渡人を意味するのであるから、「譲渡所得課税の趣旨」法理にいう「所有者に帰属する増加益」は、当該資産の譲渡人に着目して算定すべきことになる。しかも、同法理にいう「所有者に帰属する増加益」は「所有者の意思によらない外部的条件の変化に起因する資産価値の増加」(金子宏『租税法〔第24版〕』(弘文堂・2021年)271頁)を意味するところ、当該資産の所有者の人的事情(本件では、非上場株式の所有者が少数株主に該当するか否か)も当該資産にとっては「所有者の意思によらない外部的条件」に属するので、「所有者に帰属する増加益」は、論理的にも、当該資産の譲渡人に着目して算定すべきことになろう。

これらのことを「譲渡所得課税の趣旨」法理の枠内における「趣旨内競い合い」の観点からみると、令和2年最判は、まず、「譲渡所得に対する課税においては、資産の譲渡は課税の機会にすぎ[ない]」として、同法理における譲渡所得課税❷の比重を小さくした上で、「その時点において所有者である譲渡人の下に生じている増加益に対して課税されることとなる」として、譲渡所得課税❶における「所有者である譲渡人」の意義を強調し、もって「その時点において所有者である譲渡人の下に生じている増加益」を、「所有者である譲渡人」の人的事情のうち当該資産の価額に影響を及ぼすべき事情(本件では、非上場株式の譲渡における譲渡人の会社への支配力の程度)を考慮して、算定すべきであると判断したものといえよう。

この点について、令和2年最判に対する次の評価(佐藤・前掲「判批」7頁。下線・傍点筆者)は正鵠を射たものであると考えるところである。

本判決[=令和2年最判]は、「譲渡所得に対する課税においては、資産の譲渡は課税の機会にすぎ」ない、との新たな表現を用いて[増加益]清算課税説の中核的な発想を表現した。そして、譲渡所得課税があくまでも「所有者である譲渡人の下に生じている増加益」への課税であることを根拠に、本件の事案に関する解決を導いており、判例が[増加益]清算課税説によって譲渡所得の課税関係を把握していることを、改めて、、、明らかにした。この点で、本判決は、大きな意義を有する。

以上のように考えてくると、「譲渡所得課税の趣旨」法理は、その創設以来の紆余曲折を経て(前記Ⅰ参照)、令和2年最判によって「趣旨内競い合い」において「[増加益]清算課税説の中核的な発想」(佐藤・前掲「判批」7頁)に基づく譲渡所得課税❷の軽視及びこれと同時に譲渡所得課税❶の重視という形で、いわば「復権・本領発揮」に至ったといってもよかろう。ただし、同法理の「復権・本領発揮」は、令和2年最判が同法理を、これを創設した昭和43年最判と同じく、みなし譲渡課税の場面で適用したことによるものであって、その場面に限定されたものであるとみておくべきであろう。

みなし譲渡課税は、「譲渡所得課税の趣旨」法理のまさしく「本領発揮」の場面である。すなわち、みなし譲渡課税は、「無償や低額の対価による譲渡にかこつけて資産の譲渡所得課税を回避しようとする傾向を防止する」(昭和43年最判)あるいは「同項[=所税59条1項]各号に掲げる事由により譲渡所得の基因となる資産の移転があった場合に当該資産についてその時点において生じている増加益の全部又は一部に対して課税できなくなる事態を防止する」(令和2年最判)という目的で、収入金額という実体的経済価値を伴わない「資産の譲渡」について収入金額を擬制すること(みなし譲渡課税に係る収入金額擬制説。前掲拙著【285】参照)によって、譲渡所得課税❷における「資産の譲渡」を所得の実現と切り離して単なる「課税の機会」にとどめる措置(令和2年最判参照)であると解されるが、そうであるからこそ、みなし譲渡課税の場面では、「譲渡所得課税の趣旨」法理の「本領」ともいうべき譲渡所得課税❶が前面に出てきて、譲渡所得の課税関係を基礎づけることになると考えられるのである。

令和2年最判については、「本判決は同項[=所税59条1項]による課税が[増加益]清算課税説の、いわば『直接的な適用』によって行なわれることに立脚し、譲渡直前の譲渡人の手中にある株式の時価を基礎として、同項を適用したものである。」(佐藤・前掲「判批」9頁。下線筆者)との理解が示されているが、この理解は、みなし譲渡課税に関する上記の筆者の考え方と基本的に同じ考え方に基づくものであると解される。

なお、最後に、租税通達の「解釈」の問題について若干触れておくと、令和2年最判が、本件第一審判決と本件控訴審判決とで見解の対立のみられた通達の文言の「読み替え」の議論にコミットしなかったのは、妥当である。というのも、そもそも通達は法源ではないため、その文言の「読み替え」に法規範論的意味はなく、しかも財産評価に関する通達は法令解釈通達ではなく事実認定に関する「『適用通達』ないし『認定通達』の性質をもっている」(金子宏『租税法理論の形成と解明 下巻』(有斐閣・2010年)368頁[初出・2000年])一種の取扱通達であることからすると、裁判所としては、財産評価という事実認定に当たり、通達の定める評価方法の取扱いを問題にするだけにとどめるのが相当であると考えられるからである。令和2年最判が「譲渡所得に対する課税の場面においては、相続税や贈与税の課税の場面を前提とする評価通達の前記の定めをそのまま用いることはできず、所得税法の趣旨に則し、その差異に応じた取扱いがされるべきである。」と判示したのは、そのような意味で妥当な判断であると考えられる。

 

Ⅳ おわりに

今回は、令和2年最判を「譲渡所得課税の趣旨」法理の観点から検討し同最判を、同法理の創設(昭和43年最判)後における同法理をめぐる紆余曲折を経て同法理を「復権・本領発揮」させた判決として、位置づけた。

この点に関して、「本判決[=令和2年最判]を踏まえて支払利子付随費用判決[=最判平成4年7月14日民集46巻5号492頁]以来の3件の最高裁判決[=そのほか最判平成17年2月1日訟月52巻3号1034頁、最判平成18年4月20日訟月53巻9号2692頁]を振り返ると、それらがいずれも、譲渡所得の金額の計算に関する判断であったことが、改めて注目される。」(佐藤・前掲「判批」7頁)などと述べた上で下記のとおり説く見解(同頁。佐藤・前掲書146頁も参照)は、令和2年最判に関する前記の位置づけの基礎にある筆者の認識と基本的に同様の認識に基づくものであると解される。

このような対比を基礎として考えると、判例は今後も、譲渡所得の金額の計算に関する領域では、いわゆる実現原則を踏まえた「現実に得られた所得」に焦点を充てた判断枠組みを維持しつつ、譲渡所得の意義に関わる問題については、ぶれることなく、[増加益]清算課税説に依拠した判断を示すことが予想される。

この見解にいう「[増加益]清算課税説」は筆者のいう「譲渡所得課税の趣旨」法理を意味するものと解され、しかも同見解にいう「譲渡所得の金額の計算に関する領域」は、筆者のいう「譲渡所得課税の趣旨」法理の枠内における譲渡所得課税❷に相当し、「譲渡所得の意義に関わる問題」は同法理の枠内における譲渡所得課税❶に相当すると解されるところ、「譲渡所得の意義に関わる問題」が譲渡所得課税の可否及び範囲に具体的な影響を与える問題として判断されたのは、以下で述べるように、みなし譲渡課税に関する昭和43年最判と令和2年最判だけであると考えられる。

前記の見解で令和2年最判と「対比」されている「3件の最高裁判決」のうち、親子間ゴルフ会員権贈与事件・最判平成17年2月1日訟月52巻3号1034頁(以下「平成17年最判」という)以外の2件の最高裁判決は譲渡所得課税❷における「譲渡所得の金額の計算」に関する判断であったこと(前々回、前回参照)から、その検討は措くことにして、ここでは平成17年最判について検討しておくと、同最判は、みなし譲渡課税規定(所税59条1項)と「いわば『表裏補完』の関係」(谷口勢津夫ほか『基礎から学べる租税法〔第4版〕』(弘文堂・2025年)113頁[谷口執筆])にある取得費等の引継規定(同60条1項)の適用を問題にしていることから、昭和43年最判及び令和2年最判と同列に位置づけることができそうにも思われるが、しかし、下記の判示(下線筆者)からすると、後で述べるように、そのように位置づけることはできないと考えられる。

譲渡所得の金額について、法は、総収入金額から資産の取得費及び譲渡に要した費用を控除するものとし(33条3項)、上記の資産の取得費は、別段の定めがあるものを除き、その資産の取得に要した金額並びに設備費及び改良費の額の合計額としている(38条1項)。この譲渡所得に対する課税は、資産の値上がりによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得として、その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会にこれを清算して課税する趣旨のものである(最高裁昭和41年(行ツ)第102号同47年12月26日第三小法廷判決・民集26巻10号2083頁、最高裁昭和47年(行ツ)第4号同50年5月27日第三小法廷判決・民集29巻5号641頁参照)。そして、上記「資産の取得に要した金額」には、当該資産の客観的価格を構成すべき取得代金の額のほか、当該資産を取得するための付随費用の額も含まれると解される(最高裁昭和61年(行ツ)第115号平成4年7月14日第三小法廷判決・民集46巻5号492頁参照)。

他方、法60条1項は、居住者が同項1号所定の贈与、相続(限定承認に係るものを除く。)又は遺贈(包括遺贈のうち限定承認に係るものを除く。)により取得した資産を譲渡した場合における譲渡所得の金額の計算について、その者が引き続き当該資産を所有していたものとみなす旨を定めている。上記の譲渡所得課税の趣旨からすれば、贈与、相続又は遺贈であっても、当該資産についてその時における価額に相当する金額により譲渡があったものとみなして譲渡所得課税がされるべきところ(法59条1項参照)、法60条1項1号所定の贈与等にあっては、その時点では資産の増加益が具体的に顕在化しないため、その時点における譲渡所得課税について納税者の納得を得難いことから、これを留保し、その後受贈者等が資産を譲渡することによってその増加益が具体的に顕在化した時点において、これを清算して課税することとしたものである。同項の規定により、受贈者の譲渡所得の金額の計算においては、贈与者が当該資産を取得するのに要した費用が引き継がれ、課税を繰り延べられた贈与者の資産の保有期間に係る増加益も含めて受贈者に課税されるとともに、贈与者の資産の取得の時期も引き継がれる結果、資産の保有期間(法33条3項1号、2号参照)については、贈与者と受贈者の保有期間が通算されることとなる。

このように、法60条1項の規定の本旨は、増加益に対する課税の繰延べにあるから、この規定は、受贈者の譲渡所得の金額の計算において、受贈者の資産の保有期間に係る増加益に贈与者の資産の保有期間に係る増加益を合わせたものを超えて所得として把握することを予定していないというべきである。そして、受贈者が贈与者から資産を取得するための付随費用の額は、受贈者の資産の保有期間に係る増加益の計算において、「資産の取得に要した金額」(法38条1項)として収入金額から控除されるべき性質のものである。そうすると、上記付随費用の額は、法60条1項に基づいてされる譲渡所得の金額の計算において「資産の取得に要した金額」に当たると解すべきである。

平成17年最判は、確かに、上記の引用判示のうち特に第2段落では、「譲渡所得課税の趣旨」法理に従い「譲渡所得の意義に関わる問題」(譲渡所得課税❶)について判断を示してはいるが、しかし、第3段落では、「譲渡所得の金額の計算に関する領域」(譲渡所得課税❷)すなわち本件では「法60条1項に基づいてされる譲渡所得の金額の計算」に関して、借入金利子取得費控除[三輪田]事件・最判平成4年7月14日民集46巻5号492頁(第57回)に従い取得費に付随費用を含めた上で、譲渡収入に対する純所得課税の考え方である譲渡益課税説ではなく、「増加益に対する純所得課税」ともいうべき独特の考え方を判示して「譲渡所得課税の趣旨」法理から「離脱」したものと解される。

平成17年最判については、正当にも、「ゴルフ会員権贈与事件の最高裁判決においては、所有者が取得の時に付随費用を支出すると資産の増加益がそれだけ減る、と考えられていることになるが、人が名義書換料のような支出をすることが資産の価値(増加益)そのものに影響を与えるとは考えられない。」(佐藤・前掲書145頁)と指摘して「清算課税説からの一定の乖離」(同頁)を説く見解があるが、その見解も同最判を昭和43年最判及び令和2年最判と同列に位置づけてはいないと考えられるのである。

そうすると、譲渡所得課税に関する従来の判例では、「譲渡所得課税の趣旨」法理の「本領発揮」は、やはり、みなし譲渡課税の場面においてのみ認められることになろう。令和2年最判は、その意味で、「譲渡所得課税の趣旨」法理の「本領発揮」の範囲ないし同法理の本来の射程を明らかにした判決として、意義を有すると考えるところである。

(了)

この連載の公開日程は、下記の連載目次をご覧ください。

連載目次

谷口教授と学ぶ「税法基本判例」

第1回~第20回

第21回~

筆者紹介

谷口 勢津夫

(たにぐち・せつお)

大阪学院大学法学部教授

1956年高知県生まれ。京都大学法学部卒業、同大学大学院法学研究科博士後期課程単位修得退学。甲南大学法学部教授、大阪大学大学院高等司法研究科教授を経て2022年4月より現職。大阪大学名誉教授。ほかに大阪大学大学院高等司法研究科長・大阪大学法務室長、アレクサンダー・フォン・フンボルト財団奨励研究員(Forschungsstipendiat der Alexander von Humboldt-Stiftung)・ミュンヘン大学客員研究員、日本税法学会理事長、租税法学会理事、IFA(International Fiscal Association)日本支部理事、資産評価政策学会理事、司法試験考査委員、公認会計士試験試験委員、独立行政法人造幣局契約監視委員会委員・委員長、大阪府収用委員会委員・会長、大阪府行政不服審査会委員・会長、公益財団法人日本税務研究センター評議員・同センター理事・同センター「日税研究賞」選考委員・同センター編集委員会委員、公益財団法人納税協会連合会「税に関する論文」選考委員、公益社団法人商事法務研究会「商事法務研究会賞」審査委員、近畿税理士会・近畿税務研究センター顧問など(一部現職。ほか歴任)。

主要著書は『租税条約論』(清文社・1999年)、『租税回避論』(清文社・2014年)、『租税回避研究の展開と課題〔清永敬次先生謝恩論文集〕』(共著・ミネルヴァ書房・2015年)、『税法の基礎理論』(清文社・2021年)、『税法創造論』(清文社・2022年)、『税法基本判例Ⅰ』(清文社・2023年)、『基礎から学べる租税法〔第4版〕』(共著・弘文堂・2025年)、『税法基本講義〔第8版〕』(弘文堂・2025年)、『税法基本判例Ⅱ』(清文社・2025年)など。
 
   

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